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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
193/253

バベルの塔

 「セシルさんの様子はいかがかしら。」


 「あのレイン相手ですぞ。無論苦戦は強いられているでしょうな。」


 「それもそうね・・・ならあなたがセシルさんに手を差し伸べてくださる?」


 「セシルが嫌がるでしょうな。まあいいでしょう。ここなら全力を期待できる。」


 バベルの塔の最上部でピサロはビックボスにレイン殲滅を命じた。老体のビックボスはこのバベルの塔に入るやいなや若々しさを取り戻しつつあった。今のビックボスは現役時代の肉体を完全に取り戻していた。ビックボスは最上部の窓から飛び降りると上層エリアへと落ちていく。


 「てんと、ご飯に・・・どうしたの?」


 「ミカ、この塔はただの修道院ではなさそうだ。」


 てんとは書物を持つと皆の待つ食堂へミカと向った。この小屋に来てからいままでと何かが違うことには誰もが気づいていた。食事をとりながらてんとは皆にあることを伝えた。


 「皆も気づいていると思うがここはレインが所有している建物だ。そしてこの地は上層エリアと中層エリアの中間に位置しているエリアでもある。」


 てんとはバベルの塔の地図を広げた。最上部エリアから下へ上層エリア、中層エリア、下層エリアと続くがその中間に小さなエリアがいくつか存在している。そのひとつがこのレインのエリアであった。このエリアの詳細地図を見ると小屋を中心に四方八方に結界が施されてある。それにより魔物からは盲目のエリアとなっている。


 「なるほどね。だから食糧とか豊富にあったんだ。ねぇ、てんと。さっき言ってたただの修道院じゃないってどういうこと?」


 「レインの書物庫に入った時にこの地図とある書物を見つけた。これだ。」


 てんとが地図の上にある書物を広げた。細かい製図が多く書かれていてミカにはまったく理解できなかった。マイコがジッとそれを見つめるとそれがバベルの塔の計画図書であることがわかった。


 「マイコの言う通り、これは塔の竣工図・・・完成書類といっていいだろう。この塔が作られた理由はエネルギー製造が本来の目的なのだ。」


 「エネルギー製造所?」


 「皆も憶えがあるだろう。地獄道でも同じような製造所があったことを。」


 リナもミカもリディーネもそれに憶えがあった。蒸気の国は地獄道のエネルギーを一括して製造していた。親方やルキア、ノエルが懐かしく思えた。地獄道では蒸気をエネルギーとして利用していたが天道ではバベルの塔からエネルギーを製造している。


 「てんと、バベルの塔には蒸気の配管とかなにもないのよ。何をエネルギーにしているの?」


 「何をエネルギーにしているかはまだ不明だ。それはこれから調べる。レインの書庫にも詳しい書物は見つからなかった。だが必ずそれはあるはずだ。」


 しばらくはこの地にとどまりバベルの塔について調べることをてんとは勧めた。マイコもロードギアのメンテナンスを行いたいと言い、ミカ達に異論はなかった。そしてその夜、ミカは小屋の窓から外を眺めていた。そんなミカをリナは心配そうに言った。


 「どうしたの、ミカ?」


 「タカちゃん達のことが気になって。

  セシル達に遭遇していなければいいんだけど。」


 「大丈夫よ。ドレイクもジェイドもいるんだし・・・心配ないわ。」


 この時、リナもミカもタカヒト達がセシルに倒されていたことに気づいてはいなかった。そして今、そのセシルとレインの戦いに決着がつこうとしていた。黒い塊に包まれたレインは身動きが取れず、セシルは勝利を確信していた。


 「さて、暗くなったことだし僕もそろそろ帰るとするか。」


 「帰る?勝利の余韻に浸っているところを申し訳ないがそうはいかない。」


 その声にセシルは振り返ると黒い塊を破りレインが中から出てきた。有得ない光景にセシルは目を見開く。誰もが持っている業を膨張させて死に至らしめるこの技から逃れた者など誰一人としていなかった。業を具現化させた黒い塊から逃れることなどできるわけがなかった。その黒い塊からレインは出てきた。セシル最大の攻撃をこうもあっさりと破ったレインに屈辱ともいえる感情が込み上げてきたがそれと同時に恐怖も込み上げてきた。


 「何故だ・・・どうして業から逃れることができた?おまえ・・・なんなんだ?何者なんだよぉ~!」


 「私はレイン。それ以外の何者でもない。そろそろケリをつけよう。弟子を待たせている。」


 後ずさりするセシルにレインは近づいていく。すると上空より降下してくる物体の存在に気づいた。地面をえぐるように落下してきたそれはムクリと立ち上がると強じんな肉体を誇らしげに見せ付ける。


 「セシルよ、どうやら手を焼いているようだな。ここはワシが引き受けよう。」


 「じじい・・・ずい分若くなったようだけどエステでもいったのか?」


 「栄養剤が効いたか?では任せてくれるか?」


 「ピサロ野郎の命令か?」


 「ふむ・・・まあ、そういうことにはなるか。お主にはこのエリアは分が悪いことはわかっておるじゃろ?逆にワシにはいいエリアなのじゃな。」


 セシルはしばらく黙り込んだ。するとインフェルノとパラディーゾが瀕死の身体を引きずって戻ってきた。小さく怯えた表情の二匹の神獣を抱きかかえると何も言わずにセシルはその場から去っていく。


 「ではワシが相手をしょうかの

  ・・・っと言いたいところだが今はまだ止めておこう。」


 「その強じんな力を拝見させてくれるのではないのかな。」


 「ほっ、ほほほ。言ってくれるわい・・・まあ、それもいいのじゃがな。ワシは生来へそ曲がりでな。なんでもピサロの思い通りにいくのはちとつまらん・・・まあそんなところじゃ。」


 ビックボスはそう言い残すと膝を曲げて一気に上空へと飛んでいく。周囲を警戒しつつ水路を進んでいくとてんと達の待つ小屋へとレインは辿りついた。もちろん怒っていたのはアレスであった。


 「師匠!今度こんなことしたら怒るからな!」


 「すまなかった・・・許してくれ、アレス。」


 「いいけどさ!師匠に何かあったら俺は・・・困るんだからな!」


 「ああ、悪かった。」


 「レインがここにいるということはセシルを撃破したということだな。」


 てんとの問いかけにレインは首を横に振った。セシルの事やビックボスに出会ったことをレインは紅茶を飲みながら説明した。てんとが最も知りたかったバベルの塔の秘密もこの後話してくれた。


 「天道のエネルギー製造所ではなかったのか。」


 「製造だけではない。

  各ブロックからエネルギーを集める収集所としての役割もある。」


 レインは細かい説明に入った。バベルの塔は上空に向かいポッカリと内部が空いた円柱状をしている。そこには様々なエネルギー体が吸収されては貯蔵されていく。その目的はただひとつ・・・。


 「創造神システムをピサロが完全に掌握するため。」


 「ピサロは創造神システムを掌握していないのか?」


 レインは話を続けた。創造神システムはある種の人工生命体であり意志もある。そのシステムを完全に掌握するには大量のエネルギーが必要になってくるのだ。そこでピサロは各ブロックにあるオーブに目をつけた。


 「オーブならアタシがこの手で破壊してきたわよ!」


 「オーブは器のようなもの。その器が割れれば蓄積されていたエネルギーはこの塔に吸収されるだろう。」


 「ちょ、ちょっと!それじゃあ、アタシ達のしたことって・・・。」


 「すべてはピサロの思惑通りということだな。」


 ズバリてんとに言われてすっかり落ち込んでしまったリディーネをミカが慰めていた。紅茶をもう一口飲むとレインが笑みを浮かべた。


 「しかし、すべてがピサロの思惑通りというわけでもなさそうだ。この塔にエネルギーが吸収されるということは私達もその恩恵を受ける事になる。」


 エネルギーは塔内にいるすべての者にも影響されるらしい。すべての世界に生きる者は陰陽とふたつの種類に分けられる。エネルギーは陽のタイプにはプラスに働き、陰のタイプにはマイナスに働くらしい。その結果セシルは能力を発揮できずにビックボスは若さを取り戻したのだ。


 「しばらくは皆ここに留まることを勧める。能力の向上を兼ねて必要な休息だと私は考えている。」


 「へん!そんな心配必要ないわね。アタシ達が力を合わせればセシルの連れた魔物だって倒せるんだからね!」


 「いや、残念ながら神獣は倒されてはいない。瀕死のダメージは受けたが、すでに回復している頃だろう。彼らを侮らないほうがよい。」


 「・・・・」


 「レインに従うほうがいいようだな。今の我々では到底ピサロには及ばない。」


 「レインさん、タカちゃん達は?会ってはいないの?」


 「セシルが私のもとに来た。彼らが先にセシルに遭遇していたとすれば・・・。」


 「それは私も感じていた・・・

  以前まで感じていたタカヒト達の気配を感じなくなった。」


 「てんと・・・それって・・・」


 ミカの頬に涙が流れていく。リナも真っ蒼な顔をしていた。薄々ふたりとも感ずいてはいた。タカヒトもドレイクもジェイドもこの地にはいないことに・・・落ち込むふたりに声をかけたのはレインであった。


 「確かに彼らはセシルの業により死んだ。業に取り込まれた者はそれから逃れる術がない。だが、タカヒト達が向かった先は六道のどこでもない。」


 「タカちゃんはどこに行ったの?」


 「おそらくは・・・」


 レインにはわかっていた。四神の力を持つ彼らがどこに行ったのかを。アレスがレインのもとに来たようにタカヒトも師を求めてある場所へと向かったはずである。


 「もう一度言おう。アレスとともにこの地で修行を勧める。タカヒト達も修行を始めている頃だ。もう一段階能力を高め、ピサロを倒してほしい。」


 てんと達に断る意志はなかった。それから数ヶ月ほど経っただろうか?彼らは見違えるほど成長していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「ドレイク、お前さんはほんまにええ奴やな。」


 「何言ってんだよ。照れるじゃねぇか。」


 茂作と幽霊とともに畑を耕すドレイクは額の汗を拭った。日は少しずつ傾き沈もうとしていた。幽霊の言葉はわからないがなんとなくわかるような気もしていた。そんな茂作と幽霊がドレイクに神妙な面持ちで言った。


 「多くの命を殺め、傷つけた者がこうも変わるとは・・・やはり女の影響やな。」


 「何言ってやがる。どうしたんだ、茂作さん?」


 「隠す必要もないかもしれんな・・・ころあいやな。」


 茂作はおもむろに幽霊に近づくと何かコソコソ会話を始めた。何を話しているのかドレイクにはわからなかったが深刻な表情だった。それから茂作と幽霊は向かい合うと融合していく。これにはさすがのドレイクもしりもちをついて驚いた。茂作と幽霊が融合していくと眩しい光にドレイクは目を細めた。光が消えるとドレイクの目の前には玄武の姿をした魔物がいた。


 「我は玄武。お前に力を貸す者なり・・・ちょっと、カッコつけすぎやな。」


 「茂作さん・・・なのか?」


 「ワシは玄武やん・・・これはな、試験やったんや。」


 「試験?」


 「そうや。ドレイクが玄武を使いこなせる者かどうかのな。正直ムリやと思っておったんやで。せやけど幽霊の奴がどうしてもっていいよってな。」


 「それで試験は不合格なのかい?」


 「あほか!不合格やったらこないな姿見せるかいな!合格や、合格!玄武のすべての力を使いこなせるように今から過酷な修行が待ってるさかいな。覚悟しいや!」


 「修行・・・俺はリナのもとに戻れるのか?」


 「当たり前やろ。死んでへんのやし。どうするんや?やんのか?やらへんのか?」


 「はっ、ははは!茂作・・・いや玄武よ。覚悟しろよ!俺に過酷な修行を受けされるのは相当骨が折れる作業だぜ!」


 「・・・ぬかしよるんやな。ええやろ、死にたくなるほどの修行を味合わせるで。せやけどそれを乗り越えたら・・・。」


 「最強やな!」


 「せや!四神でもっとも最強と謳われたこの玄武様や!」


 それからドレイクの修行が始まった。


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