レイン対セシル
「・・・・皆、隠れていなさい。」
「師匠?」
レインの険しい表情にアレスは動揺した。いままで見た事もない険しい顔だった。レインは地下室への扉を開けるとそこに入るように言った。
「最悪のタイミングでセシルがこちらに向って、しかも神獣を引き連れている。ここは私が引き受けよう。皆は地下室に向かいなさい。」
「師匠が闘うなら俺も闘うぜ!」
「アレス・・・残念だが今のお前にはセシルは倒せない。そして今、お前を失うわけにはいかない。わかってくれ。」
そう言うとレインはアレスに歩み寄っていく。嫌がるアレスのみぞおちに一撃を浴びせるとガクッと膝を落とした。アレスを抱えながら地下室へと向っていくレインの後をてんと達もついていく。
「この先は地下水脈が続いている。小船を用意してあるからそれに乗って逃げなさい。私はセシルを少しの間だけでも止めてみましょう。さあ、早く!時間がありません。そしてアレスをお願いします。私はいつも独りでしたがアレスのおかげで父親の真似事も出来ました。本当に楽しい時間だった・・・・。」
レインは階段をあがっていくと開けた扉を閉じた。残されたてんとは小船の確認に行くと確かに一隻の小さな船があった。万が一に備えてレインが用意しておいたのだろう。アレスを船に乗せるとミカやリナ達も乗りこんだ。
「ねぇ、本当にいいの?アタシ達も闘わなくていいの?」
「レインが言っていただろう。我らでは勝ち目がない。足でまといになるだけだ。」
「・・・極限闘気を身につけたのに・・・勝てないなんて・・・。」
無力・・・その言葉だけが辺りに広がっていた。そして小船はゆっくりと進んでいった。その頃、レインはセシルが近づいてくる気配を感じ取っていた。
「記憶にある気配とは思っていたけどレインだったとはね。気配の数が減ったけど逃がしたんだね。自分を犠牲にしてまで逃がすなんてよほど大切な人だったみたいだね。」
「そう希望といってもよいだろう。今、お前にそれを潰させるわけにはいかん。」
「僕と戦うってわけか・・・四天王に匹敵する力を持ちながら十六善神に甘んじていたレインがどの程度か、確かに興味があるね。」
「おまえに問いたいことがある。何故、ピサロに従う?」
「言葉に気をつけてよ・・・従っているわけじゃない。僕は自由気ままに行動しているだけ。」
少し気を悪くした様子のセシルはインフェルノとパラディーゾに建物の破壊を命じた。すぐに地下への扉を発見すると身体を縮めた二匹は地下通路へ侵入していく。レインにとってこれは大きな誤算である。追いかけようとしたレインは恐ろしいほどの巨大な殺気を背中に感じると振り返った。
「君の相手は僕だよ・・・光栄に思ってほしいもんだね。業の神が直々に相手をしてあげるんだから。さてと・・・自分の業を受け入れる覚悟はある?」
セシルはどんよりした煙に包まれていくと小ぶりな草刈鎌を両手に持つ。黒い煙の立ち上がるその鎌をぺロリと舐めるセシルに対してレインは髪の毛を一本抜き、それを手に持った。 先に仕掛けたのは意外にもレインのほうであった。手にした髪の毛が鋭い針になるとセシルの懐に入り込み突き刺した。セシルはフワリと浮き上がると鋭い針状となった髪の毛の上に立った。笑みを浮かべるセシルは両手の草刈鎌をレインの首元に振り下ろしたが切り落とすことはできない。残像を残したままレインはすでにセシルと距離をとっていた。
「へぇ~、結構やるじゃないか。」
「ずい分長い間、身体を動かしたことがなかった・・・準備運動はこれくらいでよかろう。」
レインは深く呼吸を数回繰り返すと瞳を閉じた。様子を伺っていたセシルだったが痺れを切らすと瞬時に距離を詰めて両手の草刈鎌を水平に振り切る。これをレインは流れるようにかわすがセシルの斬撃は不規則にリズム感がなく、しかも鋭く続く。それと同じようにレインも鎌の刃が近づくごとにかわし続けた。
「鎌から生じる空気の流れを読んでかわしたか・・・やるね。でもかわすだけじゃあ、僕には勝てないよ。」
セシルの草刈鎌はさらにスピードを上げていくと鎌から生じる空気の流れと刃の時差がなくなってきた。そして空気の流れよりも草刈鎌の刃のほうが早くなるとレインに余裕が見られなくなった。残像を残しながらの草刈鎌の斬撃に対応がきかない。セシルの草刈鎌がレインの頭上と股下から迫ってくる。
「さよなら、レイン・・・・ぐぅ!」
急に腹部に違和感をおぼえたセシルはフラフラと後退すると口から大量の血を吐き出した。驚いたのはセシルである。腹部には何かに切りつけられたような跡は一切ない。レインが何かをしたのは確かだが攻撃をした様子はまったくといっていいほどない。
「貴様、何をした?」
「手品師がネタばらしすることはない。」
「この僕に・・・消えてなくなれ、レイン!」
セシルは右手をレインに差し向けると黒い塊がレインを包み込んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふり切れそうにないわね。迎撃態勢をとりましょう。」
地下水路では小船を襲撃するインフェルノとパラディーゾの姿があった。姿形やその気配から察するに高い能力を誇る魔物であることはその場の誰もがわかった。リナの雷撃に対してインフェルノは超音波を放ち相殺していく。パラディーゾの触手にはロードギアの粒子砲で応戦しているとリディーネとてんとが参戦する。
「緑玉最大理力 風神」 「紅玉最大闘気 獄熱地獄」
恐ろしく巨大な火炎輪が堕ちてくるとパラディーゾの身体を絞めこんでいく。燃え盛る炎に包まれたパラディーゾは流れる川に身を入れて火を消していく。だがリディーネの業火はそう簡単には消えない火炎。さらにてんとの鋭い風刃がパラディーゾを切裂き風撃が炎の勢いを増していく。焼け爛れていくパラディーゾは絶命にも近い声をあげるとリディーネは勝利を確信した。
「やったわね!アタシに逆らおうなんて愚かだわ。」
「いや・・・まだだ。」
てんとの言葉にリディーネがパラディーゾを見た。焼け爛れた肉を口の中の触手が引き千切ると口の中へと入れていく。てんとに切裂かれた皮膚も喰らっていくと傷跡が完全に治り再びパラディーゾは強じんな肉体を得た。
「ちょっと、アレッて反則じゃない!」
「脅威の回復力だな。」
パラディーゾとの戦闘に苦戦を強いられていたリディーネとてんとであったがインフェルノと戦闘を繰り返していたリナとマイコも同様であった。地下水路は何本にもわかれて、その度に進路を変更していくがインフェルノとパラディーゾをふり切ることはできなかった。
「このままではやられるわ。」
「私に考えがある。ミカ、時間を稼いでくれ。」
てんとの言葉にミカは理力を高めると桜玉最大理力エラト・アグライアを放った。巨大な桜の葉が小船を包み込んでいくとインフェルノの超音波もパラディーゾの触手も防いだ。しかし思った以上に強力な攻撃にミカの理力も消耗が激しい。てんとは皆を集めると戦術を伝えた。
「本当にそれでうまくいくの?疑問だわ。」
「今はてんとの戦術に頼るしかないわ。協力してちょうだい、リディーネ。」
「そのとおりよ。どちらにしてもそれしかなさそうだし、やってみましょう。」
マイコとリナの強い口調に同意したリディーネは立ち上がるとミカの作ったシールド内で闘気を高めていく。てんとも理力を高めるとリナのエレメントも高まる。マイコはロードギアのスペックを確認する。すでにミカの理力は限界に近づいていてそれほどまでにインフェルノとパラディーゾの追撃は凄まじかった。地下水路を小船が進んでいくと小さな水路へと入り込んでいく。飛行していたインフェルノはパラディーゾの後方へと降下すると一直線上に配置した。
「ミカ、シールドを解除するのだ!皆、いくぞ!緑玉極限理力 風化連撃!!」
「紅玉極限闘気ファイナル・バーニング・アタック!」
「牡丹玉マキシマムオーバーエレメント ライズ テラ アルティメスト」
「フラッシュ・バイド・ドライブ搭載 アップグレード方式 メガ粒子砲!」
雷神は両手で圧縮したものを渡すとリナはそれをインフェルノはパラディーゾに向けて投げつけた。リディーネは火炎の形をした拳銃を構えるとリナの投げつけた雷玉に火炎の弾を撃ち込んだ。さらにてんとの球体が狭い空間で速度を増していくと火炎雷玉とともに速度を増していく。強力な粒子砲とともにインフェルノとパラディーゾ目掛けて一直線に放たれた。
「緑紅牡丹玉極限複合技 風電火炎 フィールドダウン!」
緑紅牡丹色の玉がインフェルノとパラディーゾに激突すると断末魔をあげていく。燃えながらも超回復により身体は治りつつあるが雷撃に皮膚は爛れていく。さらにメガ粒子砲により身体が溶けて形成が成り立たなくなり球体が身体を破壊していく。インフェルノとパラディーゾの姿にリディーネはうかれて言った。
「ちょっと、今回はやったんじゃない?」
「安心するのはまだ早い。このままふり切るぞ!」
小船は地下水路を進んでいくとさらに小さな水路にわかれていた。一番小さな水路を選び進んでいくがインフェルノとパラディーゾの姿はなかった。水路を進んでいくと小さな扉が前方に見えてきた。
「ちょっと・・・このままだと激突するじゃない!どうすんのよ!」
リディーネが指を差して吼えた。小船の推進力ではこのまま扉にぶつかれば大破は免れない。インフェルノとパラディーゾを倒しても死んでは意味がない。リディーネは舵輪を動かそうとするが固定されてビクともしない。マイコもミカも手を貸すがそれでもビクともしない。扉は次第に大きくなり、目前に巨大な鋼鉄の門がそびえたっていた。
「うぎゃぁ~、死ぬって、死ぬってば!もうムリぃ~~!」
リディーネは舵輪にしがみつきながら叫んだ。マイコもミカも瞳を閉じて身を屈めた。恐怖は死への確信に繋がり誰もがすべてを諦めた。だが・・・彼らが死ぬことはなかった。小船は扉を通り抜けてそれまでの流れとはうって変わって穏やかな湖の上を浮かんでいた。涙を流しながらほおけていたのはリディーネである。キョトンとしていたリディーネをミカが抱きしめると我にかえったように大泣きした。
「死ぬかと思ったよぉ~・・・ちょっと、何見てんのよ!」
「リディーネ・・・泣きたいのか、怒りたいのか?はっきりさせたらどうだ。」
「どっちもよ、バカ!」
ミカに抱きつきながら泣きながら怒っているリディーネをリナやてんとが微笑みながら見つめていた。すべてはレインの仕業である。途中までは帆を広げ、舵を取り小船は進んでいたが水路が小さくなるに連れて小船は水中のレールに固定されて自由には動けないようになっていた。巨大な扉も実際には存在しておらず、扉の残像が残されているだけであった。
「すべてはレインの思惑どおりというわけか・・・」
すべてを仕組まれたようで少し気分が悪かったてんとだが湖の先には小さな明かりが見えている。小船を進ませると眩しい光とともに緑広がる大地が見えてきた。長い間、航海していたようだがバベルの塔内の水路を移動していただけのようだった。森の畔にある小屋を発見すると小船を畔に停泊させた。
「誰もいないわね。食糧もあるようだし、少し休憩しましょう。」
台所にはたくさんの食材が用意されており、リナとミカは料理を始めた。いい匂いにリディーネは腹を空かせてイスに座っていた。マイコはロードギアのメンテナンスを行い、てんとは書庫にいた。そこでてんとは思いがけない書を発見してしまった。
「やはり・・・そうだったのか・・・」