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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
186/253

アルカディアの古文書

 「わたしよ。」


 ピサロが一声かけると扉が開き部屋に入ると扉は閉じていく。ここはアルカディア人のみ入ることが許された書物庫である。キングダムシティ内にはアルカディア人しか入れないエリアが数ヶ所存在している。アルカディアの文明を伝えながらも秘密を保持していく目的に造られたのだがそのアルカディア人もピサロと徳寿の二名のみとなっていた。所狭しと並ぶ本棚に目を配るとひとつの古文書を見つけた。埃をかぶっていたその古文書を手にとり埃を振り払うと古びた椅子に座った。天光が窓から差し込むと丁度いい照明代わりになった。


 「あったわ。地獄のもっとも深い場所にある業の塊。それは燃え盛り、すべてを溶かす。自ら命を絶った者はそこに集められ逃れることはできない。その塊から生まれた者こそ・・・・朱雀。」 


 その後もピサロは書物庫にこもると古文書を読み漁っていた。その頃、そのキングダムシティに近づきつつある人物がいた。


 「ふぅ~・・・やっと着いたわい。じゃが・・・キングダムシティもすでにピサロの手中に堕ちたようじゃ。なんとしてもアレを手に入れねばの。」


 徳寿はキングダムシティ内に侵入することができたが思った以上に警備が厳しい。大広場にはバトルギアが二機と兵士数十名ほどの小隊が配置されている。中央に穿たれた穴から顔を出して着る貫頭衣を頭から覆うように身につけている徳寿の姿を不思議に思う兵士はいない。この時期のキングダムシティは冬季に入りかけていた為に気温も低い。貫頭衣を着ている者は珍しくなかった。しかしまったく安心できる状況ではない。徳寿はすでに指名手配犯としてお尋ね者になっている。徳寿は探していた場所に辿りついたがそこにもすでにバトルギアが二機と兵士が数百名ほどおり大隊が配置されていた。


 「やはり警備は厳重じゃの・・・さて、どうしたものかの・・・・。」


 徳寿のソウルオブカラーである黄玉を使えば兵士は倒せるがピサロに居場所を教えることにも繋がる。マテリアルフォースを使うにも兵士の数が多すぎた。すると徳寿はある事を思い出した。


 「そうじゃ、そうじゃ・・・・ここはピサロを出し抜いてやろうかの。」


 徳寿は笑みを浮かべるとその場から姿を消した。キングダムシティのあるセブンブロックのふたつ前のブロック、フィフスブロックの天道本部ではタカヒト達がシックスブロックへ向けて旅立つ準備をしていた。リディーネが消えてから数日が経ったがマイコのメンテナンスも終了してタカヒト達の装備も整った。カプセル内に皆が集まると緑てんとは球体を使いパネルのスイッチを押した。カプセル内に微粒子が高速で動き回ると光に包まれていく。


 「これよりシックスブロックへ向う。いきなり戦闘の可能性もある。気を引き締めるぞ。そんじゃあ、いっちょ行くぜ!」


 ドレイクの掛け声が響き渡ると光に包まれたタカヒト達はカプセル内から消えていった。タカヒト達が向かったシックスブロックではリディーネが地獄軍の残党と合流する為に歩を進めていた。


 「早く見つけないと・・・くっ・・・イタ・・・傷口が開いた?」


 包帯が血で染まっていくとリディーネは傷口を押さえながら歩いていく。シックスブロック・・・リディーネが見上げた先には巨大な塔がそびえたっていた。バベルの塔と呼ばれている塔である。ここはリディーネ率いる地獄軍が天道軍殲滅作戦のターゲットになっていたポイントのひとつである。何故ならバベルの塔にはシュレイオンと並ぶ天道の大量殺戮兵器であるプルガトーリオが存在している。プルガトーリオがどのような兵器なのかはわかっていないがシュレイオンと並ぶ天道の大量殺戮兵器であることは間違いない。


 「あの塔のどこかにあるはず・・・あれさえ手に入れればピサロにだって・・・。」


 リディーネはバベルの塔に消えた頃バベルの塔があるシックスブロックにタカヒト達は辿り着いた。緑生い茂る森が心を穏やかにさせるが眼下には恐ろしく高い塔が見えた。てんとはそれをバベルの塔と言っていた。


 「おそらくリディーネはあの塔に入ったに違いない。あそこにはシュレイオンと並ぶ天道の大量殺戮兵器プルガトーリオがあるという噂だ。地獄軍の残党も塔内にいるだろう。そしてここからバベルの塔の延長上にこのブロックを取り仕切る天道本部が設置されている。」


 てんとがフィフスブロックの天道本部で調べた結果、このブロックの天道本部はすでにバベルの塔を手放していた。プルガトーリオがある可能性は低い。地獄軍がバベルの塔に侵入することは察していた為に塔への攻撃を仕掛けてくることは間違いない。そこで作戦通りにバベルの塔に侵入したリディーネを救出するとともに天道軍の攻撃に備えるチームとまわりこんで天道本部を襲撃、さらに天道軍を後から追撃するチームに分かれることにした。


 「タカちゃん、気をつけてね。」


 「うん、ミカちゃんも無理しないでね。」


 てんとが決めたチーム分けはタカヒト、ドレイク、ジェイドのチームが天道本部への攻撃をてんと、ミカ、リナ、マイコのチームがリディーネの救出へバベルの塔へ向うことになった。笑顔のタカヒトに少し心配そうなミカだったがリナに促されバベルの塔へと歩を進めた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「おおう、ここじゃ、ここじゃ。」


 徳寿は大きな岩を動かすと現れた穴の中に入っていく。どれだけの歳月が経ったのか?今から数十年ほどさかのぼる。ピサロの陰謀を察した徳寿は重要なアルカディアの古文書のいくつかをある施設に隠しておいた。もちろんそこにはアルカディア人しか入れないのだが、徳寿は密かに隠し通路を作っておいた。忘れかけていた記憶を辿るように暗く細い通路をたいまつの灯りのみで進んでいくとはしごを発見した。はしごをのぼっていくと頭上の扉を開いた。


 「密かに作った通路の先がトイレとは・・・

  別の場所を当時のワシは考えなかったのかの。」


 鼻をつまみながら施設内に入り込んだ。埃塗れの床は歩くと靴の跡がしっかりと残る。部屋の片隅に向うと床を何枚か取り外した。床下から木箱が姿を見せるとそれを取り出す。古文書を確認していると部屋の外が騒がしくなっていく。ピサロが来たのだ。徳寿は古文書を懐に入れると来た道を戻っていく。


 「アラ?・・・・

  ここには数十年間、入ったことがないのに侵入者の形跡があるわ。」


 ピサロは片膝を床につけると足跡に触れた。その足跡はトイレのほうへと続いている。そしてトイレのドア付近には逃げ切れなかった徳寿が身を潜めていた。ピサロはさほど気にする様子もなく古文書に目を通している。身動きのとれない徳寿はピサロが去ることを願いじっと身を潜めている。


 「・・・・やはりね。古文書のページが綺麗に切り取られているわ。あなたの仕業ね、徳寿さん。」


 「やはり気づいておったか。されど捕まるわけにはいかんの!黄玉極限理力 フォティーノプレイ!」


 眩い黄色の光がピサロの身体を包み込んでいく。口元が緩んだように笑みを浮かべたピサロは指をパチンッとならすとドーム状に迫ってきた黄色い光を青白いひとすじの光が貫いていく。光は徳寿の腹部を貫くと片膝を床につけ苦悶の表情を浮かべた。笑みを浮かべるピサロの姿が完全に黄色のドームに包まれていくと施設とその周囲を取り囲む兵士達は砂に姿を変えて地面には大小さまざまな砂の山が出来上がっていた。


 「逃げたのね・・・まあ、いいわ。障害があったほうがドラマティックな展開も期待できるものね。」


 ピサロが椅子から立ち上がるとその椅子も砂のように地面に消えた。異変を感じた兵士がピサロのもとにやってきた。指名手配犯である徳寿の生死を問わない身柄確保の命令が下されると包囲網が形成されていく。腹部からの出血がとまらない徳寿は激痛に耐えながらも地下水路を歩いていた。すでにこの水路も兵士の捜索対象となっている。兵士達の声が湿った石積みの水路に鳴り響く。しかし徳寿が発見されることはなかった。ただ石畳の通路には点々と血の跡だけが小さくにじんでいる。


 「さて、情報通り天道本部に到着したぜ。

  ここからだと・・・内部の様子が伺えんな。」


 「どうするの?」


 「どうするって、タカヒト。決まってんだろ?ジェイドはすでに準備が整ってるってみたいだぜ。よ~し、そんじゃあ、いっちょやったるか!」


 「えっ?」


 ジェイドとドレイクは輝きを放ちながら天道本部へ突っ込んでいく。完全に置いてきぼりを食らったタカヒトはふたりの後を追っていく。ドレイクとジェイドの姿を確認した天道本部からは砲撃による一斉射撃が行われた。蒼ジェイドは氷の盾を作るとすべての砲弾を受け止めた。次に茶ドレイクは両手を地面に押し当てると天道本部の地面が激しく揺れていく。砲台が倒れ、立つ事もままならない兵士達はもはや射撃どころではない。


 「青玉最大理力 龍激波!」


 天道本部上空を水龍がとぐろを巻きながら飛びまわっていると一気に降下して本部を飲み込んでいく。タカヒトの目の前には茶ドレイクと青蒼ジェイドにより壊滅寸前の天道本部が映った。


 (タカヒト、あいつらだけに武功を渡すことないぜ。俺様がやってやる)(赤玉)


 (えぇ~、ずるいよ。それなら僕がやる。)(白玉)


 「お前達の言いたい事は分かる。ここは私が取り仕切ろう。」


 (てっ、てめえ!抜け駆けしやがったな!)(赤玉)


 紫タカヒトは凶刀羅刹を組み合わせると槍に変化させた。羅刹の槍を手にした紫タカヒトはアレストを出現させるとそれに乗り、天道本部へと飛行していく。すでに壊滅状態の本部内に兵士の影はなく、どうやら逃走を図ったようだ。


 「どうも引っかかる・・・大した抵抗もなく、

  こうもあっさりと撤退するとは・・・。」


 指令室に入ったドレイクはその設備の低さに驚いた。フィフスブロック天道本部ではシステムが充実して細かいデータのやりとりも簡単に行われていたが、ここはどうだ。モニターがふたつとそれに連動する端末機器が数基あるだけ。


 「ここにはセブンブロックへの移動カプセルがない。どういうことだ?」


 指令室に入ってきた紫タカヒトが言った。天道本部のわりには施設が小さく、装備品も少ない。ドレイクはキーボードに入力しながらシックスブロックの情報を得ようと試みるが細かい情報は得られなかった。するとジェイドが兵士を連れて司令室に入ってきた。


 「どうやら見当違いをしたようだ。おい、さっき言ったことをもう一度言え!」


 「こっ、ここは天道本部ではない。地獄軍の侵攻に備えた偵察部隊の施設だ。」


 「シックスブロックで得た情報とは違うようだな?本部はどこにある?」


 「本部は・・・・見てきただろう。バベルの塔こそが天道本部だ。」


 「くそったれ!どうやらはめられたのは俺達らしいぜ。リナ達が危ねぇ!」


 ドレイクが血相を変えて司令室を出ていく。ジェイドは連れてきた兵士に触れると兵士の身体が氷漬けになっていった。ドレイクの後をジェイドと紫タカヒトが追いかけていく。紫タカヒトはアレストを展開するとそれに乗った。そして前を走る二人に声をかける。


 「ドレイク、ジェイド。アレストに乗れ!急ぐぞ!」


 ドレイクとジェイドはアレストに乗ると三人はバベルの塔へと飛んでいく。すでにバベルの塔に入り込んでいたてんと達はその光景に驚いていた。バベルの塔自体は石のようにも見え、レンガのようにも見える材質が積み上げられている。そしてこの塔には修道者のような白い衣をまとった女性が多く生活していた。彼女達は掃除をしたり、洗濯をしたりと平和な生活と時間が流れていた。そして一日のうちで数回、礼拝堂を訪れて祈りを捧げていた。


 「ここって修道院だったんだ。なんか平和そうなところだね・・・気が抜けそう。」


 「うん・・・私達は戦いの連続で少しピリピリしてたみたい。」


 ミカとマイコはそんな会話をしているがリナとてんとは依然、警戒を解いてはいない。巨大な修道院に男の影はなく、マテリアルフォースを発動させていないてんとはてんとう虫の姿のままだった。リナ、ミカ、マイコは修道院でも目立つ存在ではなかった。そんな彼女達が歩いていると一人の修道者が声をかけてきた。


 「まあ、この地に来たばかりですのね。でしたら私の部屋にいらしてください。大したお構いは出来ませんが休んでいってください。」


 その修道者はマリアと言った。マリアはミカ達を自室に招くとお茶を用意する。かなり変わった味だったがそれを飲んでいくうちに心の平安というか安らぎを覚えた。


「ホロホロ茶の味はどうですか?変わった味ですけど、元気がでますでしょ?」


 「ああ・・・だが、もう結構だ。少しだけここで休ませてもらおう。」


 てんとがそう言うとミカのホロホロ茶が入ったコップを奪い、マリアに手渡した。笑顔のマリアはコップを受け取ると片付けを始めた。ミカもリナもウットリした表情でボ~っとしていた。マイコだけは平然とした表情でホロホロ茶を飲んでいるがてんとにコップを取られた。


 「それにしても平和なところよね。リディーネ達はここを通っていったのかな?」


 「さあな。ただ・・・平和というわけではなさそうだ。ミカとリナを少し休ませたらここを出るぞ。それまで警戒だけは怠るな。」


 てんとが小声でマイコに囁くように言った。その言葉にマイコはここが平安の地ではないことを察した。リナとミカをマリアに用意してもらったベッドに寝かせるとマイコはジッとしながら周囲に睨みをきかせている。マイコに監視を任せたてんとは修道院の偵察に向った。


 「これは・・・」


 てんとはその光景を見て驚愕した。祈りを捧げる教会に入り込んだてんとは修道者達が集まっている光景を見た。皆が目を潤ませウットリしている。そして教会中を覆う煙がたちこめている。それはお香の煙なのだがマリアに御馳走されたホロホロ茶と同じ匂いがした。そしてその中には数匹の魔物がいた。地獄軍の魔物らしいがすでに意識はなく、口からは涎が流れていた。


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