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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
184/253

仲間との決裂

 「お前達との別れは悲しいことだ。短い間であったが、お前達の王として君臨してきたこの日々を俺様は決して忘れない!」


 涙を浮かべながら赤タカヒトは虫達と語り、王と認めた虫達は別れを悲しんでいた。ここに来て数時間ではあるが、強者に従うという法則に基づき、虫達は赤タカヒトを王と認めた。その王がいなくなると宣言しているのである。虫達は王にしがみつき、別れを拒否した。そしてそれはミカにも・・・。


 「ごめんね、私達行かなきゃならないの。わかってほしい。」


 しがみつく虫達にミカは困惑していた。王国で王と王妃がいなくなる。虫達にとってこの先どうすればよいのかわからなくなったことの不安。どんよりした空気が流れる王国で王の一言が発せられた。


 「お前ら、もし何か困ったことがあれば、何を差し置いても助けにくる。だから、心配すんな。」


 王の言葉を聞いた虫達はしばらく黙りこんだ後・・・歓喜の雄叫びをあげた。赤タカヒトが右手を頭上高く挙げると並んだ虫達は王の旅立ちを祝福した。虫達に見送られながら赤タカヒトとミカは飛行系草食類の虫の背に乗り落ちてきた穴へと飛んだ。


 「ふ~ん・・・穴に落ちて心配してたけど、そんなことがあったんだね。」


 「ごめんね、心配かけて。でも、リディーネが無事で良かった。すぐに傷の手当しないと。」


 「これくらいの傷は平気よ。あんな奴ら、私だけでも大丈夫だったけどね!」


 「捕らえられていた奴がよく言うぜ!」


 「アンタ、いい度胸ね。なんなら殺してやろうか?」


 「けっ、吹けば消えるような火炎で俺様に勝てるわけがねえだろ!」


 リディーネの身体が紅色に輝くと赤タカヒトも闘気を高めていく。一触即発の状況化であったがミカの一言でそれはおさまった。なんとなく気まずくなった赤玉は意識をタカヒトに委ねた。それでも気のおさまらないリディーネはタカヒトにちょっかいを出し続けているとそこにドレイクとリナが合流した。


 「おちゃらけるのもそれくらいにして、リディーネと言ったか。地獄軍は壊滅状態にあるのはたしかなことか?」


 「あんた誰?っていうか、リナがいるってことは・・・」


 「久しぶりね、彼がドレイク。私の夫よ。」


 「けっ、結婚したんだ!おめでとう。」


 「ありがとう。それよりも怪我の手当てが先ね。」


 リディーネをミカとリナが肩を貸すと医務室へと歩いていく。傷の手当ても施したところで再びドレイクが地獄軍の戦況についてリディーネに語りかけた。イスに座ったまま、リディーネは黙り込んでしまった。リディーネは破壊神として七十二布武をまとめて天道への進軍していた。このブロックまで進軍に成功したのだが、ある破壊兵器がそれを食い止めた。


 「天道兵器シュレイオン・・・」


 リナの言葉にリディーネは頷いた。薄れる意識の中、リディーネの瞳のぼんやり映った者は身を盾にしてリディーネを守ったアスラの姿であった。地面に倒れたアスラの身体は陶器が割れるように粉々になってしまった。その後、再び意識を失ったリディーネが気づいた時には捕らわれの身となっていた。


 「デュポンはどこにいったの?」


 「デュポンはね・・・・」


 リディーネは霞色の色玉を取り出した。そしてリディーネの口から語られた言葉にタカヒトやミカは驚いた。リディーネが取り出した霞玉ことがデュポンの現在の姿なのだ。それは先の大戦でのことだ・・・・リディーネ率いる地獄軍はケインを除いた四天王の襲撃に遭っていた。四天王のルルド、アリシア、セシルが破壊神七十二布武と交戦している。


 「なんで、僕がこんなことしなくちゃならないんだ。クソピサロめ!」


 「ピサロ様への無礼は許しませんわよ!」


 「まあ、いいじゃないの。それよりも来るわよ。」


 ルルドの言葉の通り、破壊神七十二布武は怒涛の勢いで迫ってきた。ルルドが前に出ようとした時、それを押し退けるようにセシルが前に出てきた。


 「いいよ、面倒くさいし僕がやるから。インフェルノ、パラディーゾ、行くよ!」


 二匹の神獣を引き連れてセシルは向え討つ。セシルの力は破壊神七十二布武のそれを遥かに越えていた。セシルの神獣であるインフェルノ、パラディーゾも例外ではない。全長二十メートルはある翼を広げるとインフェルノは大空へと飛び立った。インフェルノは上空より迫ってくる地獄軍を視野に入れるとクチバシを開き、超音波を放った。飛行してきた地獄軍の兵士は身体が石化していくと地面に向って落下していく。地上では破壊神七十二布武が進軍してくる。彼らが踏みしめる大地に突然、穴が出現するとなすすべもなく穴に落ちていく。抵抗空しく、穴に吸い込まれた彼らが大地を踏みしめることは二度となかった。だが突然現れた穴だと思っていたようだが、それがパラディーゾと気づくのに相当時間がかかった。パラディーゾは大きな口を開くと次々と七十二布武や兵士達が落ちていく。逃げ惑う地獄軍の兵士達を大地から現れたパラディーゾの腕が次々と捕獲しては口に入れていく。


 「姉さん、ここは引きやしょう!」


 「アンタ、何言ってんの!」


 リディーネをデュポンが押さえ込む。前方では次々と地獄軍の猛者達が駆逐されていく。デュポンにはわかっていた。駆逐されている地獄道の猛者達よりさらに前方に恐ろしい力を持つ者達がいることに・・・。


 「勝てないっすよ。いままで数多くの化け物を見てきやしたがアレは桁違いっすよ。逃げましょう!」


 「アタシは破壊神よ。逃げるわけないでしょ!」


 「誰も姉さんを破壊神だとは思ってないっすよ・・・すみません。」


 「・・・・」


 「あいつ等は・・・破壊神七十二布武は姉さんを利用してあわよくば天道を乗っ取ろうとしてやす。姉さんに従う気なんてこれっぽっちもないんでやすよ。」


 「わかってる・・・・そんなことは始めからわかっていたこと。それでも天道軍を、ピサロを倒すには必要な力なんだ!」


 リディーネは拳を握り締めると怒鳴るように言った。破壊神七十二布武がリディーネに力を貸してくれた理由などすでにわかっていた。破壊神七十二布武はリディーネとの戦いに敗れ、指示に従ったようにはなっている。もちろんそれは破壊神七十二布武が天道乗っ取りを考え、仕組まれた戦いだったのだ。


 「姉さん、ピサロを倒す力はほかにもありやす。タカヒトです。彼らの力を借りれば可能性がありやす。」


 「そんなこと・・・頼めるわけないでしょ。危険なことに巻き込みたくない。」


 「姉さん! 危ねぇ!」


 デュポンはリディーネに覆いかぶさると地面に倒れ込んだ。激しい超音波に鼓膜が破れるとリディーネの耳から血が流れ落ちる。上空にはインフェルノが飛来して次々と地獄軍の猛者達が落下してきた。デュポンは起き上がるとリディーネを抱きかかえ低空飛行で撤退していく。


 「デュポン、離せ!離しなさい!」


 「グフッ・・・・いっ、いやでさ!」


 黒い塊に見える地獄軍からひとつの点が撤退していく姿はインフェルノからセシルに知らされた。


 「いいよ、インフェルノ。そんなの相手にしないで戻っておいで。」


 インフェルノとパラディーゾにより被害を被った地獄軍であるが彼らの目前にひとりの美しい少年が歩いてきた。セシルである。地獄の猛者達はあまりの美しさにしばらく見とれていた。そして彼らはその身体を汚したいと望んだ。セシルに迫る地獄の猛者達はまさに御馳走を目の前にした腹ペコの猛獣である。


 「フフフ・・・我は業を司る神。自らが持つ業の重さを知るがいい。」


 セシルが右手を欲望のままに迫ってくる地獄軍の猛者達に差し出すと水風船が破裂するかのように猛者達の身体が膨張していくと破裂しだしていく。パンパンと破裂する姿は実に芸術的だったとその後セシルは語っている。演奏者をまとめる指揮者のように両手でリズムをとりながらタクトをふると次々と破裂していく。その破裂音がそれぞれ違い、奇妙な音をかもしだしていた。


 「いいね、いいね。実に素晴らしい。指揮者としてこれほどの魂を感じたことに感謝している。死を演出する音楽・・・ピサロやアリシアだってこんな音楽は聞いた事ないだろうな。」


 優越感に浸るセシルの眼下に破裂を免れた魔物が這いずり近づいてきた。下半身は完全に破裂して両腕のみで這うように近づいてきたのだが、セシルは魔物を睨みつけるとその頭を踏み潰した。


 「音楽はね、音と音の調和が大事なんだ。乱す者は排除する。」


 セシルの指揮が終わる頃、乾いた大地に湖が現れた。地獄軍の猛者達が作り上げた血の湖である。自らの指揮に満足したセシルはインフェルノの背に乗るとどこかへと飛び去っていった。パラディーゾも同時に地中に沈んでいくとアリシアとルルドだけがその場に残された。


 「私達の出番はなかったようね。どうかしら、アリシアさん。ティータイムに付き合ってくださる?」


 「私はピサロ様のもとへ戻らねばならぬ身。あしからず。」


 「あら、そう。残念だわ。」


 アリシアとルルドもその場から姿を消す。地獄軍が壊滅したことなど知ることもなくリディーネはある島に辿り着いていた。そして今、もうひとつの命が消えようとしていた。


 「ちょっと、デュポン。しっかりしなさいよ!」


 重傷を追ったデュポンは残りの力を振り絞りリディーネをこの島に連れてきた。デュポンには残された力などなく、瀕死の状態だった。リディーネの言葉にも頷くこともできずかすれるような声で言った。


 「姉さん。い・・意地を張るのは・・・やめましょ。タカヒトならかな・・・らず力を貸して・・・れやす。ゴフッ!・・・最・・後でや・・す・・力を・・・合わせ・・・てピ・・を倒して・・・い。・・・及ばず・・・なが・・・ら力・・を・・・」


 「ちょっと!アタシを独りにしないでよ!デュポン!」


 デュポンの身体が薄っすら消えていくと残された物は霞玉だけだった。たった独り残されたリディーネは止めどなく涙が溢れてきた。ポタリポタリと落ちた涙は乾いた地面に吸い込まれていく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「この霞玉だけが残された。デュポンの魂よ。」


 リディーネの手には霞色の玉が握られていた。【切裂く力を持つ者】である霞玉を得たリディーネは少し黙りこんだ後、口を開いた。


 「デュポンの遺言もある・・・タカヒト、ピサロを倒すわよ!」


 「それは許可できないな!」


 誰もが振り向いた先にはジェイドとてんとが立っていた。タカヒトとミカはてんとの無事を喜び近寄るがてんとはそれを無視するとリディーネに歩み寄った。


 「許可できないってどういうこと?」


 「言葉の通りだ。タカヒトは私の許可なしに行動は許されない。何故なら私がタカヒトの案内人であるからだ。そしてそのタカヒトを危険な目に遭わせるわけにはいかない。」


 「デュポンの遺言があるのよ。ねぇ、タカヒトだってデュポンのこと憶えているでしょ。そのデュポンが言ったんだ。闘ってくれるよね?」


 「僕は・・・・」


 リディーネの鋭いまなざしにオドオドしたタカヒトだった。そこに後で話を聞いていたジェイドがふたりの間に割って出た。ジェイドの冷たいまなざしにさすがのリディーネも動揺したようで声を出すのに少しの沈黙がながれた。


 「なっ、なんなのよ・・・アンタ、誰?」


 「おまえの言葉には嘘がある。」


 「はぁ?何言っちゃってんの・・・アタシはね」


 「デュポンとか言ったか・・・おまえにこう言ったんじゃあないのか。逃げてくれと・・・」


 「そんなわけないでしょ!デュポンは戦士よ。そんなこと・・・。」


 「戦士だからわかったのだろう。ピサロどころか四天王すら勝てないことに。おまえのことを本当に想っていたのだろうな。デュポンは心の底からおまえのことを案じていたんだ。おまえとて気づかなかったわけではないだろう。」


 「・・・何、知ったふうな口きいてんだよ!デュポンのこと知らないくせに!」


 「ああ、知らない。だが感じ取ることは出来る。お前の表情と言葉からすべてを知ることはできる。ここにいるだれもがそれに気づいている。」


 リディーネの顔がサアァ~と青色めいていく。リディーネは自分を取り囲むすべての者がその嘘に気づいていることを悟った。もちろん、タカヒトだけは気づいていなかったわけだが・・・。


 「だったら何?嘘ついたら閻魔様に舌抜かれる?冗談じゃないわよ。こんなアマちゃんを相手にしたこのアタシが悪かったってことね。いいわ、アタシだけでピサロを倒してやる。

あんた達の力なんか借りなくたってアタシだけで十分よ!」


 タカヒトを押し退けるとリディーネは独りその場を去ろうと歩いていく。それまで沈黙していたドレイクがリディーネの前に立ち塞がるといきなり頬に平手打ちした。


 「まだ、わからんのか!皆がおまえのことを心配していることに!」


 叩かれたリディーネの頬は赤く腫れていた。腫れた頬を手で触れたリディーネはドレイクの顔を見ながらただ呆然としていた。


 「リディーネよ。先代破壊神は戦争を避けていた。何故かわかるか?それは必ず負けるからだ。破壊神七十二布武の協力を得たとしても勝てる相手ではない。私達の目的はたった独りで闘うお前と徳寿様の救出だ。」


 「・・・何よ・・・誰も助けてくれないの?・・・・もういいわよ!バカ!」


 リディーネは涙を流しながら走るとその場を去っていった。それから数日間、リディーネは部屋から出てくることはなかった。ビックボスが拠点としていたこの本部は装備や機械の部品も実に充実していた。マイコはタカヒトとミカに手伝ってもらいながらロードギアのメンテナンスと改良を施している。


 「バトルギアの能力の高さがうかがえるわ。

  さすがに天道の技術はズバ抜けている。」


 「そんなに凄いの?ロードギアでも無理っぽい?」


 「タカヒト、誰に口をきいてるの?ミゲじいのロードギアが負けるわけないじゃない。ただ・・・・ちょっとここの部品を使おうかなぁ~ってカンジ。文句ある?」


 マイコの鋭い眼光にタカヒトは黙って指示にしたがった。マイコが行っていることはあまりよくわからなかったが、天道本部のコンピュータにコードらしきものを接続させてもう一方はロードギアに接続されていた。ロードギアのコクピット内ではマイコがキーボードを素早く打ち込んでいる。マイコの顔にはパネルに映し出された文字らしきものが映っている。するとミカが食事を持ってやってきた。


 「タカヒトって本当によく食べるね。けっこうビックリする。」


 マイコが呆然としながらタカヒトを見つめるがそれを無視するように懸命に食べ続ける。そんなタカヒトをミカはニコニコしながら見ていた。


 「ミカも大変ね。食いしん坊がいてさ。」


 「そんなことないよ。

  よく食べるってことは生きているってことだもん。私は嬉しいよ。」


 「はいはい、御馳走様・・・さて、そろそろ始めようかな。タカヒト、いくわよ。」


 口をモグモグさせながらタカヒトはマイコの後を追っていく。マイコとタカヒトの姿を笑顔でミカは見つめていた。


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