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未来のきみへ   作者: 安弘
畜生道編
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戦いの終わりと旅立の朝

 「うっ、う~ん・・・ここは・・・?」


 「目を覚ましたか?安心しろ。ここは地下都市だ。」


 「・・・てんと?・・・良かった・・・怪我はなかったんだね。」


 砦を脱出したデオルト達は意識の無いタカヒトを連れて地下都市に戻っていた。砦で意識を取り戻したてんとは簡単な手当てで回復したがタカヒトは意識の無いまま五日間も眠っていた。紫玉を使うということはタカヒトの精神力と体力を相当奪い取るということだろうか。意識を取り戻したタカヒトにてんとは紫玉の事を問い掛けてみた。


 「紫玉のこと知ってるの?」


 「ああ、しかしなぜタカヒトが紫玉を・・・いつ得たのだ?」


 困惑気味のてんとにどうやって紫玉を手に入れたのか?タカヒトはデオルトの深い意識の底に紫玉が封印されていた事などすべてを話した。てんとは話を聞きながら考え込んでいると部屋のドアを開けてグラモが入ってきた。看病しているてんとに飯の仕度が出来たことを伝えに来たのだがタカヒトが目覚めていたことに驚いた。


 「おう?タカヒトぉ~!起きだか?腹減ったが?飯作ってあるからはやく来るだが!」


 「うん、わかった。てんと、ご飯食べに行こ。僕、お腹空いちゃったよ。」

 

 タカヒトはお腹をさすった。さすがに五日間も何も食べていないとかなりゲッソリしている。ベッドから降りる足取りもフラフラしていてタカヒトはグラモに寄り添いながら部屋を出た。この時、腰に着いている業の水筒が赤く色着いていることにタカヒトは気付いていない。食堂に到着するとデオルトとグーモ達がタカヒトの登場を喜んだ。デオルトは立ちあがるとグーモ達にタカヒトとてんとを紹介した。


 「さあ、英雄達の登場だ!」


 デオルトはタカヒトを椅子に座らせるとグーモ達にデノガイドとの死闘や複数匹のイーターとの戦いについて熱く語り今回の作戦成功はタカヒトとてんとのおかげだと称えた。しかしテーブルの上のご馳走を前にしてデオルトの話が止まらない事にイライラしていたグラモは立ちあがると声を荒げた。


 「硬い話は後にするだが。タカヒトも腹減ってるし、はやく食わしてやるだが!」


 「・・・オホン!でっ、では、今回の作戦の成功と皆の勝利に乾杯!」


 「乾杯だが!!!」


 グーモ達は奪い合うようにテーブルの上のご馳走を食べていく。デノガイドとイーターがいなくなったお陰でグーモ達は山で山菜を取ったり川に行って魚を釣って来たりすることが出来るようになった。 ご馳走も今まで以上に豪華になったのはそのためだ。ご馳走を食べるデオルトもグーモ達も楽しそうでタカヒトも久しぶりの食事を楽しんだ。宴会も中盤に差し掛かった頃デオルトはタカヒトとてんとに今後の事について話を始めた。


 「タカヒト殿、てんと殿。今回は本当にありがとう。デノガイドとイーターの討伐に成功してやっと平和を手に入れる事が出来た。国王や騎兵団の皆も浮かばれる・・・。私はこの地下都市でグラモ達と一緒に暮らすことにした。私も国を失ったし、それにデノガイドを倒したとはいえ、またいつ外敵が現われるか分からない。そのためにこの地下都市をひとつの国として創りあげていかなくてはならない。これはグラモ達と相談して決めたことだ!」


 「ふ~~ん、じゃあデオルトは国王?」


 「いや、私は国王の器ではない。ただもう二度と国を失いたくないだけだ。」


 「いいでねえが!デオルトが国王で。みんなもいいって言ってるだがよ。」


 デオルトの話にグラモが割って入ってきた。グラモはグーモ一族を率いている長老だが一族と国とでは規模が違いすぎて自分の力量では無理があると考えていた。その点、デオルトなら皆をまとめてこの地下都市をひとつの国として創り上げる事が出来ると思っている。その考えをグーモ一族に問い掛けてみると誰ひとり反対する者はいなかった。


 「デオルト国王、デオルト国王!」


 それを聞いたデオルトは涙を浮かべ椅子から立ちあがると話を始めた。


 「ありがとう。この国が立派に立ち上がり、国王が必要になったら・・・

  私も国王に立候補しよう。今はそれより国創りが先決だ!」


 「国王に立候補だがぁ~・・・なんかデオルトらしいだがね。」


 デオルトの謙虚ながらも国を想う前向きな考えにグーモ達は心を打たれた。楽しい時間は続き、歓喜をあげてワイワイしながらテーブルの食べ物を争うようにグーモ達は食べていた。するとデオルトは食事をしているタカヒトとてんとのもとに近づいてきた。


 「タカヒト殿、てんと殿、ここに残り一緒に国創りを手伝ってはくれないか?」


 突然の呼び掛けにタカヒトは食べるのを止めた。国創りという大きな目的に少し戸惑っていると今まで何も語らずに沈黙していたてんとが口を開いた。


 「デオルト、それは無理だ。我々がここにいられる時間はそう長くないのだ。」


 デオルトもタカヒトもてんとが何を言っているのかわからなかった。てんとはタカヒトの腰に吊るさっている赤く色付いている業の水筒を指した。


 「この業の水筒が真紅に染まった時、私達はどこか別の世界へ飛ばされてしまう。

  この色付きだと明日には飛ばされそうだ。」


 そんな事があるとは全く知らずに赤くなっている業の水筒を手に取り眺めていた。


 「そうなんだ。どこに行くんだろう・・・アレ?業の水の量、少し減ってない?」


 「様々な困難に遭遇した為に業が消費されたのだろう。」


 何処に行くのかもいつ行くのかも曖昧だがこの世界からいなくなる事だけは確かだった。てんとの話を聞いてそれまでの愉しかった雰囲気が一瞬にして寂しさに包まれた。グーモ達はいつまでもここにいるようにタカヒトとてんとを引き止めるように言葉をかけていた。タカヒトが困った顔をしているとデオルトがグーモ達をたしなめた。


 「致し方あるまい!それより皆でふたりの新たなる旅立ちを祝福しようではないか!

  タカヒトとてんとの良き旅立ちと我々の国創りに乾杯!」


 「乾杯だが!!」


 その後も最後の宴会は続いて愉しい時間を皆で過ごした。タカヒトとてんとが部屋に戻った時にはグーモ達は酔い潰れていたる所で寝ていた。部屋に入りベッドに腰掛けたタカヒトはニコニコしてかなり嬉しそうだった。


 「楽しかったね。僕あんなに楽しいの初めてだった。ねぇ・・・てんとってばぁ~。」


 「タカヒト・・・おまえに言っておかなければならない事がある。今後についての事だからよく聞くのだ。徳の水筒と業の水筒・・・つまり徳と業はバランスによって成り立っている。得の使いすぎは業の嵐を生みだす事がある。デノガイドとの戦いでは最悪の事態は免れたが、徳の急激な使用はタカヒトの身体に想像以上の負担をかけるのだ。これからはソウルオブカラーである紫玉を使っての戦い方を中心にすることだ。それと六道の世界にはいくつかのソウルオブカラーが存在する。それらを見つけ今度の戦いに活かしていくのだ。」


 「ちょっ、ちょっと待ってよ!戦いって・・・ほかの世界でもあるの?」


 六道は天道・人道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道から成り立っている。これから向かう世界は畜生道より深い位置にある。つまりデノガイドやイーターなどとは比べものにならない強力な魔物達がほかの世界にはゴロゴロいる。どちらにしても業を消費しないかぎり人道へ戻れる可能性はないのだからこの世界以外の修羅道・餓鬼道・地獄道へは確実に向かうであろう。てんとの話を聞いてデノガイド以上の強力な魔物に遭遇するかと思うとタカヒトは急に気分が重くなった。


 「尚更ソウルオブカラーの力が必要になる。さて、明日は早い。もう寝よう。」


 「うん・・・分かった。はぁ~~・・・先は長いなぁ~~。」


 暗い部屋でタカヒトはなかなか寝付けなかった。隣のベッドではてんとが熟睡している。ベッドから起きあがり窓から外を眺めると暗いビル郡にいくつかの灯りが灯っていた。夜中になっても一生懸命働いているグーモがいてしばらくの間タカヒトはビル郡の灯りを見つめていた。

 母親に、そしてミカに逢うために歩き始めた道のりではあるのだがデオルトやグラモ達と別れなくてはならないことがタカヒトの心にわだかまりを残していた。タカヒトにとってミカ以外で初めて友達と思える仲間達に出会うことできた。大切な友達を失うことはタカヒトが二度目に味わう悲しい別れとなる。ビル郡の灯りが消える頃、タカヒトの頬から涙が流れていた。眠っているてんとに心配させないように布団の中に潜り込むと声を殺しながら涙を流した。


 「いい朝だが。旅立ちにはもってこいの朝だが。」


 朝を迎えると業の水筒は真紅に近づいていよいよ旅立ちの日となった。デオルトやグラモそれにグーモ達がタカヒト達の見送りに仕事の手を止めて来てくれた。グラモは涙ながらにタカヒトの手を握り締めるとグラモの家族が作ってくれた弁当を渡してくれた。


 「ありがとう。グラモ達も身体を大切にね。国創りがんばってね。」


 グラモが涙を拭いているとデオルトが近づいてきた。これからの旅に必要であろうとてんとに数種類の薬草を渡した。そして次にタカヒトのもとへ来たデオルトが首にかけていたペンダントを外すとタカヒトに渡した。それはデオルトがパピオン国王から授かった物で黒い石がついているペンダントだった。


 「えっ!・・・大切な物でしょ?貰うわけにはいかないよ!」


 「私の大切なペンダントを大切な親友に受け取ってほしいのだ!」


 「でも・・・・」


 「タカヒト・・・おまえがデオルトの親友なら受け取るんだ。」


 「・・・わかった。デオルト、ありがとう。大切にするよ。」


 親友から受け取ったペンダントをタカヒトは首に着けると腰についている業の水筒が真紅に輝きだした。その場にいた誰もが眩しさに眼を塞ぐ。真紅の輝きはタカヒトとてんとを包み込むように球体を創り始めていく。


 「タカヒト、時間だ!」


 「うん、デオルト、グラモ、それにグーモの皆!ありがとう・・・皆、元気でね!」


 真紅の輝きが更に増すと球体はタカヒト達の身体を包み込んだ。真紅の球体に包まれたタカヒト達にデオルトやグラモ達の言葉は聞こえなかったが別れと感謝の言葉を叫んでいることだけはわかった。真紅の球体の輝きはデオルト達が目を覆うほど強烈なものになり、それが収まるとタカヒトとてんとはその場から消えていた。


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