天道兵器シュレイオン
「破壊神などと名乗ってはおっても所詮は小娘よ。我らの目的など気づきもせん。」
「天道本部を落とし次なるブロックへ、いよいよ天道を我らが手におさめることもできよう。ピサロのいない天道など恐れるに足らん!」
破壊神七十二布武を束ねるベリアルが激しい口調で吼えた。すでに目前には白い布で覆われた天道本部が映る。天道にベリアルらを止める術などないと察すると総攻撃を仕掛けていく。エンジェル・ドールにより造られたシールドにより火力攻撃は完全に無効化されている。するとベリアルらはエンジェル・ドールに直接攻撃を仕掛けていく。
「シールドは完全に破壊した。このまま制圧せよ!」
ベリアルの言葉に完全勝利を確信した破壊神七十二布武は笑みを浮かべながら本部へと歩を進めるが敗北を認めた白い布の下から巨大な筒が見え隠れした。それが何なのかはまったくわからない破壊神七十二布武はさほど気にする様子もなく進軍していく。その進軍を確認できる位置にまで辿り着いたリディーネとアスラは不思議な光景を目の当たりにした。
「間に合ったようね・・・?・・・アスラ、あれは何?何か光が・・・・」
「リディーネ様!」
眩しい一閃が近づいてくるとアスラはリディーネに覆い被さり倒れ込んだ。眩しい一閃が消えた頃、荒れ果てた大地は更に酷いものになっていた。
「おい、あれを見ろ!」
ドレイクが指差した方向には上空の雲を突き破るほどキノコ雲が立ち上っていた。以前、これと同じものを見た事があるてんとはミカに指示すると最大理力エラト・アグライアを発生させる。巨大な桜の葉がタカヒト達を包み込んでいくとその直後、爆風と共に激しい火炎が辺りを包んだ。
「・・・シュレイオン。天道兵器シュレイオンか!」
「天道兵器シュレイオン?それはなんだ?」
「天道には大量殺戮兵器がふたつある。
これは対地獄道に対して開発された兵器だ。」
「恐ろしいもん持ってやがんな!ミカのシールドがなかったら確実に死んでいたぜ・・・いや、地獄軍は直撃を受けたかもしれん。」
「リディーネが・・・急がないと!」
「ミカ、我らは迂回して東より向かうことに変更はない。リディーネのことは心配だが、再び天道兵器シュレイオンが発射されれば命はないのだからな。」
てんとに促され、ミカは気持ちをおさえながら従うことにした。爆風も火炎もおさまるとミカのエラト・アグライアは消滅した。荒れ果てた大地ではあるがところどころで燃え盛る炎は熱気を帯びていた。天道兵器シュレイオンによる被害は広範囲に広がってどこまで行っても熱気がおさまることはなかった。浮遊するてんとの絨毯から大地を眺めると点々と黒い物体が倒れていた。それが地獄軍の死体だと気づくのにそう時間はいらなかった。
「この中に・・・」
ミカは口をつぐんだ。この黒焦げた物体の中にリディーネがいるとは思いたくなかった。死臭の広がる大地を通り過ぎていくとその先には天道兵器シュレイオンが配置された天道軍本部があった。天道兵器シュレイオンは巨大な筒でもなにかの発射台でもなかった。実にシンプルな形である。ただ、一本の柱が立っているだけである。
「あれが天道兵器シュレイオンかしら?」
「だな!あれは高射砲殺戮兵器だ。
近距離まで近づかねば危険は回避できないだろうな。」
タカヒト達は天道本部付近まで接近していたが天道兵器シュレイオンの砲撃が気になり、なかなか近づけなかった。砲台らしきものがあるのなら砲撃を行う向きを知ることも出来るであろうが、ただの柱では方向性が全くわからない。いつ砲撃されるかわからない天道兵器シュレイオンに近づけずその場に貼りつけられる状況は続く。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「・・・うっ・・・・ぐぐっ・・・ここは・・・・」
「お目覚めかな・・・破壊神殿。」
ぼんやりとした意識の中、両手を頭上で縛られ、ボロボロの衣服はかろうじてまとっているだけである。煤塗れの顔からは生気は見られない。捕らえられたことだけはすぐに理解したリディーネであるが周囲を見渡してもアスラの姿がない。その様子を察したのか、ビックボスが声をかけてきた。
「お連れの方が気になるのですな?
安心してくだされ。あなた様以外は皆、死にました。」
リディーネの視線の先には全身を白の軍服で覆い長めの銃剣を杖のようにしている年配の老人がいた。髪がなく、坊主頭には深いしわが刻まれている。長く伸びた白い顎ヒゲが印象的だった。その老人は自らをビックボスと名乗り、天道政府最高高官長であることを伝えた。
「貴様、白旗をあげておきながら・・・。」
「その白旗を揚げた者に攻撃を仕掛けた者は誰じゃな?」
「・・・・」
「我らはの・・・無駄な争いはしたくはなかった。平和的解決を望んだのじゃが、破壊神ともあろう者が破壊神七十二布武を抑えられなかった・・・違うかな?」
「・・・・」
「図星か。経験に差がでたようじゃの。和平を促せば、そなた達は受け入れようが、破壊神七十二布武は受け入れまい。何故なら奴らはピサロの首よりも天道を支配下におきたいのじゃからの。単純な奴らよ。ワシも天道兵器の試し撃ちができて良かったがの。」
「外道め・・・。」
「さて、破壊神七十二布武も失い、参謀を失った。小娘を生かしておく理由もない・・・どうするかの?」
「私が始末しましょう。仮にもピサロ様の首を手にしたなど・・・殺しても足りませんわ。」
拷問室に入ってきた者はアリシアであった。両手を縛られたリディーネに近づくと白く透明な右膝を腹部に突き刺した。呼吸が出来なくなり、悶絶しているリディーネにさらに平手打ちを何度も浴びせた。口から血が流れていくリディーネの姿を見ながら笑みを浮かべるアリシアは右手をそっとリディーネの頬にそえた。
「まだ死なせない・・・あなたの悲鳴は何オクターブかしら?聞かせてくださる?」
リディーネの身に危機が迫っている時、タカヒト達は天道兵器シュレイオンの猛威に近づくことも出来ずにいた。進展の無い状況に苛立ちを隠せないのはドレイクだった。
「ここに居ても進展はなさそうだ・・・一気に行くしかないぜ。」
「天道兵器シュレイオンの猛威がなくなったわけではないわ。」
「くそっ!んじゃあ、どうすんだよ・・・・何だ?あそこに何か居るぜ。」
ドレイクが指差した方向には荒れ果てた大地に身体を引きずるように天道本部へ向かっていく者の姿であった。どうやら地獄軍の生き残りらしいのだが・・・。ドレイク達が様子を伺っているとその生き残りを取り囲むように天道本部から機械人形らしきものが現れた。その見覚えのある機械人形にドレイクは驚愕した。
「あれはマスティアじゃあねぇか!しかも五体だと・・・量産できんのか!」
マスティアとは天道で造られた機械人形実験体ナンバー二十三のカイザーと実験体ナンバー二十四のジャスティスの結合により生まれた悪魔界最強の力と神の意思を受継ぎし者。それがマスティアである。黄泉の世界でマスティア一体にドレイクとタカヒトは瀕死の重傷を負いながら辛くも勝ちを得た。
「駄目だ。とても太刀打ちできねぇぜ。あの生き残りはもう助からないだろうな。」
「もしかしたらリディーネのことを知っているかもしれない。私は助けたい!」
「ミカ・・・・だが相手はあのマスティアだぞ?」
「アラ?ドレイクにしては弱気ね。私の知っているドレイクなら強気な発言がここで出てくるはずなんだけど・・・人違いかしら?」
「・・・・」
「リナの言う通りだ。私達はあのマスティアの後ろに見え隠れするピサロと戦わねばならん。私達はマスティアごときにつまづいてはいられない。それにマスティアがどれほど強かろうとも戦いは戦力ではない。」
「戦術だよね、てんと。」
「・・・・」
「大丈夫、僕達にはたくさん仲間がいる。前のような結果にはならないよ。皆で力を合わせれば負けっこない。」
「そうよ。このマイコ様もいるんだしね。」
「ふぅ~・・・・この俺が女子供にこうも言われるとはな。よし、んじゃあ、いっちょ、やったるか!」
荒れ果てた大地には倒れこむように両膝をつく地獄軍の生き残りがいた。その者は天道最強機械人形マスティアに取り囲まれている。すでに死を覚悟したその者は最後に力を振り絞りカードを手にした。すると一体のマスティアに石ころが当たった。
「ツーペアとは・・・私は運にも見放されたらしい。」
カードはパラパラと地面に落ちていく。マスティアは両腕を合わせると砲筒に変形させた。その砲口に粒子光が集められていく。すでに死を受け入れたその者は瞳を閉じた。激しい閃光が放たれたがそれはその者に対してではなかった。砲筒を一閃の光が撃ち抜くと集められた粒子光に引火して爆発を起こした。残りの四体のマスティアは光が放たれた方に視線を移した。
「天道の機械兵器ね・・・私とミゲじいのロードギアがどこまで通用するかわからないけど試してみたいわ。」
ロードギアが素早く前進するとマスティアも後方へと距離をとる。四体のマスティアは四方に分散するとロードギアを取り囲むように位置した。ロードギアから粒子砲が放たれるがマスティアに当たらない。しかも急接近したマスティアは両腕から粒子状の剣を造りだすと斬りつけてくる。バランスを失ったロードギアはひと太刀浴びて倒れ込んだ。
「きゃあ!ロードギアのバランスが悪いわ。ここの大地に適合してない?フラッシュ・バイド・ドライブも起動!ブローアップ方式にする。」
マイコはキーボードを素早く打ち込むとロードギアのバランサーを変更していく。立ち上がったロードギアに再び粒子剣を振り被ったマスティアの頭に粒子砲を撃ち込んだ。頭のないマスティアはフラフラしながらその場に倒れた。
「あと三体!」
高台に移動しながらマスティアを誘導していくロードギア。一方残された生き残りに近づく者がいた。ミカだ。桜色の輝きを放つミカは煤塗れの生き残りを見た事がある。
「あなたは・・・さあ、早くこの場から逃げましょう。」
桜色の輝きが増すとミカとその者はその場から姿を消した。依然、三体のマスティアに追われているロードギアは急な斜面を駆け上がっていくと高台に到着した。高台の平地をさらに加速してく。後を追って高台に到着した三体のマスティアが見たものは極限まで高められた闘気を身にまとっているタカヒト、ドレイクとリナの姿だった。
「次に生まれ変わるとしたら何がいい?もちろん決められはしないがな!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふぅ~・・・とりあえず終わったな。」
残骸となった三体のマスティアを見ながらドレイクは言った。マイコはダメージを受けたロードギアの修繕を行い、タカヒト達はミカのもとに歩み寄った。
「お前達・・・何故ここに・・・グハッ!」
アスラは大量の血を吐いた。ボロボロの衣服に黒焦げた皮膚・・・地獄軍の参謀であったアスラの姿はそこにはなかった。ミカもその場にいた誰もがアスラの死を覚悟している。そしてアスラ自身も・・・。
「私の最後の願いを聞いてくれまいか?捕らわれた破壊神様・・・いや、リディーネ様を救出してほしい。」
「リディーネは生きているの?」
「奴らの放った破壊兵器に我ら地獄軍は全滅した。しかしリディーネ様だけは守りぬいた。薄れる意識の中、奴らに捕らえられていくリディーネ様の姿を見たのだ。」
「助けに行きたいがあの天道兵器シュレイオンがある限りそう近づけないぜ。」
「あっ、あれを放つにはエネルギーの蓄積が必要・・・すぐに放てられるものではない。頼む。リディーネ様を我ら地獄の者に・・・とってあの方は・・希・・望な・・・の・・」
「アスラ!」
誰よりも地獄道のことを考え、リディーネに従ったアスラに敬意を払っていたのはてんとである。戦術に関しても多くの議論を交わした戦友であったアスラを失い、てんとの中でフツフツと熱い感情が込み上げてきた。
「私、リディーネを助けたい!大切な友達だもん。」
「だが天道本部にはマスティア級の兵士がいる。生き残る保障などないぞ。地獄軍の猛者を一瞬にして壊滅させた兵器がほかにないとも限らん。」
「でも・・・」
「らしくないな。どんな状況化でも生き残る戦術を立ててきた。違うかい?」
「ジェイド!」
誰もが振り向いた先には間違いなくジェイドの姿が映っていた。