破壊神七十二布武
「破壊神様、四天王アリシア、ルルド率いる天道軍がこちらに進軍中とのことです!」
「いよいよ重い腰をあげたようね。いいわ、受けて立つ!アスラ、残っている破壊神七十二布武全軍で迎え討つ指示をしてちょうだい!」
シックスブロックに向かって進軍中の地獄軍に思いもよらない攻撃が仕掛けてこられた。部隊の規模や戦力は一切確認されてはいないが天道最高武力である四天王を投じてくるとはピサロに焦りの色が伺える。そう判断した破壊神リディーネは最高の武力をぶつけることを決断した。
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「私だけでことは足りるのにどうしてアリシアさんまでいるのかしらね?」
「ピサロ様はお前のことなど信用していませんわ。ピサロ様を裏切る行為を確認した段階で即座に抹殺します。」
「アラ、恐い事・・・裏切るもなにも私は天道の平和を考えて行動するだけ。」
おどけるルルドにアリシアはプイッとソッポを向くとその場を去った。ここはフィフスブロックから唯一、シックスブロックに行くことができる高濃度オーブ施設が設置されている場所である。天道ではオーブにより各ブロックへの移動が可能なのだがシックスブロックから先にはセキュリティーの関係で高濃度オーブでなければ行けないようになっている。そしていままで手にしたオーブを高濃度圧縮技術により高濃度オーブに仕上げる必要がある。その高濃度オーブ施設を守るようにルルドとアリシアが防衛戦線を張っている。天道で最も重要な施設でもあり、ルルドやアリシア以外にも天道が誇る破壊兵器と戦力が終結している。そしてこの者もそのひとりである。
「本当に仲が悪い。せめて戦いの最中くらいは協力できんもんかの?」
指令室に残ったルルドの前に高官の制服に身を包んだ老人がやってきた。制服の胸には数多くの徽章がつけられ、この者こそ天道政府最高高官長ビックボスである。六道すべてにおいて最高権力者はピサロであるが天道自体の政府運営や武力介入においてはこのビックボスが専任している。
「アリシアさんには本当に困ったものだわ。」
「お前達の仲を取り持つことはできんが地獄軍の進撃は食い止めることはできよう。ここはワシが引き受けた。お前達はゆっくりとティータイムでも楽しんだらどうじゃ?そこで仲直りができるかもしれんからの。」
「そうね、まあ、仲直りができるかどうかはともかく、ティータイムを楽しもうかしら。このところ殺伐としたことばっかりでウンザリしているのよね。お言葉に甘えるわ。」
ルルドは白い椅子に腰掛けティーカップの香りを楽しんでいると小刻みに振動が伝わってきた。窓から外を眺めると遠くの方にポツポツと丸い明かりが点々とついては消えていた。それと同時にいくつもの閃光が天道防衛戦線本部に激突した。それらは本部周辺に設置されたシールド装置エンジェル・ドールにより張り巡らせた光のカーテンにより防がれている。長距離火力攻撃を繰り出す地獄軍ではあるがその効果はほとんど期待できないと考えた破壊神リディーネは全軍前進を指示。一斉火力攻撃を続けながら本部へと前進していく。
「ほう、玉砕覚悟と見た。ならば次の一手、これならどうじゃな?」
前進を続ける地獄軍の前に白い霧が立ち込めた。煙を振り払うように地獄軍は進軍を進めるが視界ゼロにも近い状況で完全に方向感覚を失っていた。それらは火力を使おうとも衝撃波を撃ち込もうとも、一時は消えてなくなるがまた現れてくる。すると霧の中から囁くような声が聞こえてきた。
「さすがは破壊神七十二布武である。その強じんな強さには感服した。私はビックボス。天道政府最高高官長にしてこのブロックを最高責任者である。君達の強さに私は白旗をあげねばならん。だが、私にも立場というものがあるのだ。そこで提案なのだが・・・。」
敗北を認めたビックボスが提案してきた内容は破壊神七十二布武との和平である。武力による進軍を止めることでビックボス自らが交渉にあたる。無条件ですべてを受け入れるというものだった。従わなければ霧の発生をやめないとも言った。霧がなくならなければ進軍もなにも出来ない地獄軍と攻撃手段のない天道軍は次の一手が双方に見つからない。
「私は天道人であり、しかもそれなりのポストにもおる。このおおやけな場にて公然と嘘をつくほど卑劣ではない。私は互いが有益な関係でおりたいのじゃがな。」
霧が少しずつ薄れていくと天道軍の本陣が見えてきた。そこには本陣を覆い隠すほどの巨大な白い布がかぶされていた。敗北を認めた証である。それと同時に破壊神リディーネのもとに使者を名乗る天道人がやってきた。
「我らとて天道を傷つける気などない。ほしいものはピサロの首だけだ。」
アスラに使者は和平の条件の書かれた書を手渡すと一礼して天道本部へと使者は戻っていく。休戦状態の双方の間を天道の使者は何度も行き来を繰り返すとその行動がアリシアの目に止まった。
「ビックボス!まさかとは思うけど条件を受け入れたりはしないわよね?」
「何故じゃ?ピサロ様の首だけで戦争が終わるならそれが一番よかろうて。」
「なっ、なんですって!貴様、ピサロ様に受けた恩を忘れたか!」
激怒したアリシアは鋭い眼光でビックボスの懐に瞬時に入り込み、手にしたスティレットと呼ばれる先端が鋭く尖っている短剣をビックボスの腹部に突き刺した。
「物騒なモノはしまえ。天道政府最高高官長への無礼は見逃してやろうぞ。」
「グッ・・・・」
短剣の刃はビックボスの腹に突き刺さることもなく、スティレットを手にしたアリシアの手首をビックボスが握り絞めていた。激痛にスティレットを床に落とすとビックボスは手首を離した。
「案ずる出ない・・・お前もルルドと共にティータイムでも楽しんでおれ。」
ビックボスの部下に取り囲まれたアリシアはそのまま指令室を出ていった。そしてそれから数日が経った頃、破壊神リディーネの前に黄金で作られた神輿が使者に担がれてきた。神輿を地面に置くと使者のひとりが小さくかたどられた神殿の扉を開けるとそこには首だけのピサロの姿があった。使者は白い布で首を掴むと震える手でそれを破壊神リディーネの前に置いた。
「・・・・ご覧の通り・・・お約束は守りました。我らは平和だけを求めておりますれば撤退を願います。」
そう言い残すと使者達は神輿を担ぎその場を去った。残されたのはピサロの首だけである。アスラが近づきその首を観察している。
「・・・・どうやら本当のようです。これからいかがいたしましょう。」
こうも呆気なくピサロの首を手に入れた破壊神リディーネにはその後のことなど考えられなかった。
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「こいつは・・・・いったい・・・・。」
フィフスブロックの大地を踏んだドレイクは固唾を呑んだ。草ひとつない荒れ果てたその大地はまさに死の世界。天道とは思えない世界だった。
「これほど戦火が進んでいたとは・・・・」
しばらくすると雨が降ってきた。近くにある小さな小屋に入ったが誰も居ず、雨風をしのぐ為にこの小屋でほんの少しの間、身体を休めることにした。
「情報が得られないからどこにリディーネがいるかわからないね。ほかの人達はどうしたんだろう?」
「まだ、列車に残っているみたいよ。」
ミカとリナが会話をしているとドレイクとてんとが小屋に入ってきた。布で髪の毛をゴシゴシと拭くドレイクはリナに手渡されたコーヒーを一口飲んだ。彼らが仕入れてきた情報によると地獄軍はここより南に位置する天道軍総本部へ進軍を行ったらしい。理由はわからないが現在は休戦中とのことだ。
「ほかの戦士は夜明けと共に南に向かうらしい。挟み討ちが目的らしいが少し人手が足りないと思うんだけどな。まあ、奴らの行動はどうでもいいとして俺達はどうするかだ?」
「ドレイクと話してみたのだが、我々は東から回り込もうと考えている。」
「どうして、東からなの?」
まわりこむ理由は天道軍と地獄軍を点としてその直線上にいたくないというのが理由であった。ドレイク達はほかの戦士と違い、地獄軍に攻撃を仕掛けるわけではない。逆に天道本部からの攻撃を受ける可能性もある。
「もうひとつの理由は風向きだな。」
このブロックでは常に西から東に風が吹いていた。移動する際に出る砂煙やにおいにより天道軍や地獄軍に位置を知らせてしまう恐れがあったからである。まわり道ではあるがそれがリディーネに出会えるもっとも有効な行動だとドレイクもてんとも考えが一致した。食糧を確保し、雨が止むのを待つこと二日間・・・・やっと天光が見える晴れた日になった。他の戦士はすでに出発しており、駅にはタカヒト達以外は誰もいなかった。
「準備は整った。皆、この布の上に乗るのだ。」
タカヒト達六名が乗っても余るほど大きな絨毯らしきその布がフワリと浮き上がると東南の方向へ進んだ。砂煙が上がらないほどの低空飛行で緑てんとの操る絨毯は飛んでいた。辺りを見渡しても砂だけの荒れた大地があるだけで進んでいる気にはなれない。そんなタカヒトはふとミカを見ると風に髪をなびかせた姿が映った。その髪からほんの少しだけいい匂いがするとなんとなく照れてしまった。ミカがタカヒトの視線に気づくと微笑んで言った。
「空飛ぶ絨毯なんておとぎ話みたいだね。」
「そうだね・・・今、僕もそんな気がしてた。お姫様を助ける為に魔人の協力を得て戦うんだよね。」
「うん、私もそんなふうに思われたいな。」
「魔人がてんとで戦士がタカヒトならお姫様のミカがここにいたんじゃあ、話が終わっちゃうもんね。」
「ちょっと、マイコちゃん・・・・そんなつもりで言ったんじゃあ・・・・。」
「そうね。悪者を倒してお姫様を取り返した戦士って設定でいいんじゃないかしら?」
「それいいね。うん、それでいこうよ、ミカ。それでは・・・・アクション!」
「アクションって・・・・。」
話は盛り上がっているが場違いな感じがしたタカヒトはドレイクの方に歩いていった。緑てんとの邪魔をするわけにもいかず、独り正面を見つめているドレイクの隣に座った。
「何か見える?」
「いや・・・だが、不穏な動きを感じる。大きな動きはないようだが、小さな気配が双方に動いているようだ。」
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「仕方ないわ。引き上げるわよ。」
破壊神リディーネは目的を果した以上、この地に留まる理由はない。撤退を指示した破壊神リディーネに対して破壊神七十二布武は従う意思を示さなかった。アスラの説得にも応じず破壊神七十二布武は天道本部へと進軍を続けた。
「何故従わない?私は破壊神よ。」
「お言葉ながら・・・奴ら破壊神七十二布武は元々先代破壊神様に幽閉された者ども。最初から我らに従うつもりなどなかったのです。奴らは幽閉される前の自由で束縛されない世界を望んでいたのです。」
「分かっていた・・・それでも裏切られるって辛いわね、アスラ・・・」
「・・・・リディーネ様」
落ち込むリディーネにアスラは言葉が見つからなかった。すでに破壊神七十二布武は地獄軍を引き連れて進軍している。残された者はリディーネとアスラのみである。だが破壊神リディーネにとって天道軍との約束は果さなければならない。破壊神七十二布武の暴走を止める為にアスラを連れて後を追った。