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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
177/253

武術大会

 「チャンプも戻ってきて本当によかったね。」


 「うん、ミカちゃんが頑張ったからだね。」


 「ううん、アトリエ達が一生懸命頑張ったからだよ。活動も忙しくなって軌道に乗ったことだし、チャンプが頑張ってくれるからおかしな依頼とかないみたいだしね。本当によかった。」


 「よし、一件落着したわけだし、そんじゃあ、いっちょ、武術大会に出るか!」


 「武術大会?」


 宿の一室でタカヒト達はドレイクの言葉に首を傾げていた。実はドレイクがかねてより計画していたことを実践することを決定した。以前、ドレイクはいい情報を手に入れたと言ったことがある。それはこのブロックからフィフスブロックへの移動手段である。


 「ここから出られる手段。ひとつはキングダムシティまで行ける高官専用列車に乗る事。まあ、これは無理だが、もうひとつは武術大会に参加して好成績を収めることだ。」


 「ドレイク、好成績を収めるとどうなるのかしら?」


 「現在、フィフスブロックでは天道軍と地獄軍の戦闘が激化しているらしい。その為には物資と共に兵士の補給が必要になってくる。」


 「なるほど、その兵士となればフィフスブロックに入れ、しかもあわよくば、リディーネとも出会える可能性があるというわけか。」


 フォースブロックでは犯罪と呼ばれる行為が行われない。何故ならここでは住民同士が監視しあう相互観察・相互監視というシステムがある。巨大なビルから成っているフォースブロックでひとたび犯罪者となれば生きてはいけない。このシステムはここではもっとも効率的な犯罪抑制システムなのである。しかしそれだけでは住民のストレスは溜まる一方である。そこでここでは武術や腕相撲のようなイベントを行うことで住民の欲求やストレスを発散させているのであった。フォースブロックの管理者はこの武術大会を利用して兵士の増産に乗り出したというわけである。


 「でも、兵士の増産ってそんなことで戦場に行くのかしら?」


 「無論、タダってわけじゃあない。上位入賞者には望むものをなんでも与えてくれるらしい。優勝者にはブロック長と呼ばれる役職も与えられるらしいぜ。」


 「ブロック長には興味がないが、それでもフィフスブロックに無傷で行けることは魅力的だな。それでその武術大会はいつ行われるのだ?」


 「ああ、一週間後だ。もちろん、登録しておいたぜ。おっと、ひとつ言い忘れたぜ。間違ってもソウルオブカラーは使うな。マテリアルフォースもなるべく使うな。相手は天道人だ。どこで俺達のことがピサロに伝わるかわからんからな。」


 「また、勝手に決めたのね・・・いつものことだけど。」


 ドレイクに呆れるリナであるがもはや是非もなかった。大会には登録済みであり、それ以外に次なるブロックへ向かう手段はない。そしてあっという間に大会当日になった。


 「おいおい、結構な人数だな。この中で選ばれる人数は・・・・おっ?おお!」


 ドレイクは声をあげた。武術大会に登録された選手は百二十名で戦士としてフィフスブロックに行ける者はわずか五十名たらずだった。百二十名といってもそのほとんどが冷やかしである。つまり五十名というのは真に選ばれた精鋭といってもいいだろう。なんとしても精鋭に選ばれなければならないがまわりを見渡してもタカヒト達よりも強い相手はいないようだった。とりあえず楽勝ムードの漂う会場であり、タカヒトもリナもミカ、てんとにドレイクもあっという間に勝ちあがっていく。


 「タカちゃん、来て!マイコちゃんが大変なの。」


 ミカがタカヒトを連れてマイコが戦うステージに向かった。ステージ上ではマイコが戦闘態勢をとっていた。そしてそのマイコの相手にタカヒトは口をアングリと開けた。マイコの身体よりも数倍大きなその巨漢がニヤリと笑みを浮かべ、見下していた。


 「小娘が相手かよ・・・ついてないぜ。」


 「小娘?あんたの相手は最強の戦士なのよ!」


 「最強の戦士?

  お嬢ちゃん、バカ言っちゃあいけないよ。はやく帰ってお乳でも飲んでな。」


 「・・・ハンター族の名を汚した愚か者め。罪は重いわよ。」


 タメ息をついた巨漢の戦士はマイコに近寄ると大木のような脚でマイコを蹴り飛ばした。枯葉が宙を舞うようにマイコの身体はフワリと浮き上がり床目掛けて落ちていく。ミカが両手で顔を押さえた。


 「ミカちゃん・・・・大丈夫みたいだよ。あれを見て!」


 タカヒトの言葉に両手で顔をおさえていたミカの視線に映ったものは何事もなかったかのようにステージに立っているマイコの姿だった。タメ息をつきながら巨漢を見上げるとマイコは言った。


 「デカいだけで能がないのね。」


 「なんだと!」


 「スピード・パワー・スタミナ・・・そのすべてが落第点。まあ、いいわ。すべてが劣っていることを私が教えてあげる。」


 「躾がなっていないようだ。この俺が躾けてやろう。」


 巨漢はマイコに近づくとその頭を片手で握り潰そうとした。しかしマイコがその手首を掴むと巨漢の表情がみるみるうちに変わっていく。蒼ざめたその顔からは大量の汗が流れてきた。苦しみ悶える巨漢は両膝をつくと身体を震わせていく。


 「スピード・パワー・スタミナ・・・これでわかったでしょ?力の差ってやつ。」


 「あっががが・・・助けてくれ・・・頼む。後生だ・・・・。」


 マイコがゆっくりと手を離すと巨漢は握り絞められた手首をおさえながら痛みに耐えていた。完全な勝利を手にしたマイコがゆっくりとタカヒト達の待つ場所に歩いていくと背後に立つ影にミカが気づいた。


 「マイコちゃん、あぶない!」


 「・・・・無駄よ!けっして私には勝てない!」


 腕を振り上げた巨漢であったが、振り返ったマイコの鋭い眼に凍りついた。まさに蛇に睨まれた蛙である。再び両膝をついた巨漢は敗北を受け止めた瞬間である。ステージをおりたマイコは満面の笑みを浮かべていた。


 「びっくりした。マイコちゃんがこんなに強かったなんて。」


 「そお?普通だけど。」


 「普通なんだ。そうだよね・・・マイコちゃんはハンター族なんだもんね。」


 マイコが小さかった頃はドライブスーツに乗って現在はロードギアに乗っているマイコが戦闘でもこれほどの力を持っているとはタカヒト自身思いもしなかった。少なくとも今後タカヒトはマイコに逆らわないように決めたことだけはたしかだった。その後、タカヒト達は順調にトーナメントをこなしていき、皆がフィフスブロックに行けるようになった。


 「予定通りに進んだな。後は上位に入ってほしいものを手に入れるだけか。んっ?なんだ、てんと。なにか心配ごとでもあるのか?」


 「心配ごとというわけではないがどうやら先の武術大会でジェイドが参加していたらしい。」


 てんとは過去の優勝者リストを見ていた時、ジェイドの名を見つけた。参加者は今回よりも多く三百名だったらしいが、その中でダントツの強さを誇っていたと当時の大会関係者から話を聞いた。


 「ジェイドは優勝賞金と共鳴石を手にしたそうだ。」


 「なるほど・・・奴がフィフスブロックか、もしくはその先のブロックに進んだことはたしからしい。てんと、お前の考えでは奴の目的はなんだと思う?」


 「もちろん、ピサロの首だろうな。だが今のジェイドがピサロに勝てるとは思えん。なにか秘策があるはずだ。」


 「秘策ねぇ・・・まあ、いい。さて、決勝トーナメントが始まるようだ。決勝で待ってるぜ、タカヒト!」


 決勝トーナメントは総勢五十名で行われた。もちろんすでにこの段階でフィフスブロックへは行けるが上位に入ればほしいものが与えられる。上位とは勝ち残った十名の戦士である。そして優勝者と準優勝者には賞金と名誉が与えられる。優勝を目指してだれもが持てる力を出し切り戦い抜いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「ふぅ~・・・本当に疲れたぜ。」


 フィフスブロックに向かう列車にドレイク達は乗っていた。隣の席ではリナがミカと一緒に買ってきた弁当を分けている。分けた弁当をドレイクに手渡すと嬉しそうにドレイクはそれを頬張っていた。ミカもドレイク達から少し離れた席に歩いていくとマイコとてんとに弁当を手渡した。てんと達とドレイク達の間にミカとタカヒトの座る席がある。そこに戻るとタカヒトに弁当を手渡した。


 「はい、タカちゃん。お疲れ様でした。」


 「ありがとう、ミカちゃん。」


 「くそっ・・・今回は負けたが次はこうはいかねえぞ!」


 「ちょっと、赤玉。もう終わったんだからいいでしょ。いつまでもグチグチ言わないの!」


 「でもよぉ~・・・・悔しいじゃねえか!」


 「僕は別に悔しくないよ。

  ドレイクはやっぱり強かった・・・僕ももっとがんばらないと。」


 (その意気だ、タカヒト。認めた強者に挑戦し、いずれその強者を越えることこそ成長が見込めるというものだ。赤玉よ、お前にもその心意気が必要だ。)(紫玉)


 (そうだよ、赤ちゃん。成長しないなぁ~。)(白玉)


 「んだよ、負けを認めやがって!俺様は認めねぇからな!クソ面白くねえ・・・」


 そう言い残すと赤玉はタカヒトの体内へと消えていった。結果から言うと優勝者はドレイクで準優勝者がタカヒト。リナとマイコが三位、四位でマイコ、てんとの順になった。しかしミカ達はフィフスブロックへの列車切符を手にした段階で目的を果たしており三位以降は誰でもいいと戦い自体はあくまでエキシビジョン的なものだった。


 「まったく、どうして本気になったのかしらね?」


 「あたりまえだろ!どっちが強いかハッキリさせておかないとな。」


 「はいはい、わかったからお茶でも飲んで落ち着きなさい。」


 リナはお茶を手渡すと武術大会で貰った賞品を眺めた。上位の者が受け取る賞品の中には共鳴石もあった。それだけは受け取ったがほかには興味を示すものもなく、受け取ることはなかった。そんなタカヒト達が乗った列車を猛スピードで追い越していく高官専用列車があった。


 「リッピーの仇は必ず討ってやる。」


 高官専用列車にはセシルが乗っていた。ピサロが関わっているとはいえ、リッパーインザダークの残された残像から死に際の映像を見る事ができた。そこには卵を手にするタカヒト達の姿が映っている。セシルは血の涙を流しながら復讐を心に刻んでいく。


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