輝けるステージ
「さて、あと数分で到着するはずだ。皆、準備はいいか?」
「それではドレイクとタカヒトは正面より、リナとマイコは後方より頼む。」
「ねえ、本当にいいの?こんなことして。」
「タカヒト、ミカ達の努力を無駄にする気?大丈夫よ。私のロードギアで一発よ!」
「それが一番心配なんだけど・・・・。」
「マイコは私と一緒だから大丈夫よ。」
「よし、んじゃあ、いっちょ行くか!」
ドレイクの合図と共に一斉にある施設へと入っていく。それから数十分後、ミカ率いるプロジェクトSのメンバーがその施設に到着した。緊張する彼女達ではあったが誰一人止める者はいなかった。
「なにかおかしいですね。ここは普段入れるところではないのに・・・。」
「余計なことは考えない。あなた達のするべきことだけを考えて!」
ミカが皆に気合いをいれると彼女達は気を引き締め、それぞれのフロアへとわかれていく。ミカが同行したチーム・ショートはある部屋に入った。そこには数台のカメラが設置されていた。彼女達に気づいた関係者が近づいてきた。
「ちょっと、ちょっと。ここは関係者以外立入り禁止です。」
「私はスポンサー代理人です。今回にCM撮影はスポンサーの意向により変更されました。起用したタレントです。変更内容はこのようになります。」
「失礼しました。なるほど・・・この案は実に良いですね。監督!」
関係者は監督と細かい段取りの打ち合わせを行った。すぐにチーム・ショートが呼ばれるとオロオロする彼女達にミカが言った。
「さあ、最初の仕事よ。明るく元気な姿を皆に見せてあげて!」
ニッコリと微笑むミカに落ち着きを取り戻したチーム・ショートのメンバーは笑顔で監督に挨拶をした。快くした監督も撮影を進めていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よし、これでおしまいだ。お疲れさん!いい出来だった。」
監督はカメラチェックを終えると一礼した彼女達に関係者らしき人物が近づいてきた。監督が快く撮影を終えたことに驚いたらしい。実はこの監督は出演者泣かせの異名を持つほど恐れられていた。その監督が認めた彼女達を別の仕事にも起用したいと言ってきた。ミカはすかさずチーム・シーのメンバーの一人を連れてくる。
「わかりました。彼女がチーム・ショートのマネージャーです。仕事の依頼は彼女を通してお願い致します。」
ミカが紹介するとマネージャーは名刺を関係者に手渡して頭をさげた。その後、続々と仕事の依頼が関係者を通してマネージャーに舞い降りた。マネージャーもチーム・ショートも最初は困惑した表情だったが、ミカのブイサインに皆が笑顔になる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうだい?彼女達の活躍ぶりは?」
「言葉がねぇ・・・・」
元チャンプは渡されたチケットを握り締めた。視線の先にはチーム・シャウト、チーム・シャイン、チーム・スターがステージ上をところ狭しと駆け回って歌を歌っていた。チャンプがいる場所はこのフォース・ブロックでもっとも大きな演劇場である。そこには数千席が設置されているがその席が満席で隣に座っているドレイクもさすがに驚いている。
「このデビューに関してはかなり力を入れていたがここまで反響が大きいとは俺も予想できなかったぜ。まあ、成功してよかった。」
「これは・・・・俺が・・・・」
「ああ、あんたが作ったプロジェクトを基に構成されたチームSの一部だ。ほかでも活躍しているはずだぜ。明日のニュースが楽しみだな。」
「何故こんなことを・・・俺への憐れみか?それとも女達への罪ほろぼしか?」
「あの子達が決意した結果だろうな。見てみろ、実に楽しそうだ。あの子達はどういう経緯であろうと今、生きている。」
ステージ上では楽しむように溢れんばかりの笑顔で踊り歌っている。この瞬間、彼女達は輝いている。誰もがステージ上に視線を送っている頃、舞台裏ではタカヒトとてんとがディレクターを取り押さえていた。
「タカヒト、もう離してもいいぞ。どうだ、彼女達の活躍は?」
「素晴らしい・・・芸能で生きてきた私もこれほどの感動を見たことがない。彼女達を専属でプロデュースしたい。いや、プロデュースさせてほしい。」
「それは私が決めることではない。マネージャーに聞いてみることだな。」
ディレクターはマネージャーに走って近づくと今後のスケジュールについて話を始めた。最初は拒んでいたタカヒトもこの計算されつくしたてんとの作戦?に納得した。その頃、リナはというと・・・・
「あとは頼んだわよ。もうお仕置きはいらないわよね?」
「はっ、はい!もちろんです。チーム・スカイ、スマイル、スノーは私が責任を持って預からせていただきます。」
何度も何度も頭を下げるプロデューサー達に見送られながらリナは別の現場へと歩いていった。リナが廊下を歩いているとマイコが歩み寄ってきた。
「チーム・シスターは撮影が順調よ。
あと、チーム・スペシャルの舞台も満員御礼ね。」
「お疲れ様。あとは任せても大丈夫そうね。
私達も最後の総仕上げに向かおうかしら。」
リナとマイコを乗せたエレベーターが最上階へ止まると扉が開いた。その先にはドレイクにタカヒト、ミカにてんとが立ち並んでいた。
「お待たせ!それじゃあ、総仕上げに行きましょうか。」
リナが歩いていくとその後をドレイク達もついていく。最上階には一室しか部屋がない。エレベーターを降り、廊下を突き進むと高価なドアが取り付けられた部屋がある。ネームプレートには会長室と書かれてある。リナがドアノブをまわすとその重そうなドアが開いていく。広い部屋には大きな机が置かれ、高級そうな革製の椅子には大柄な男が座っていた。その大柄の男こそ、いくつもの放送局の最高顧問であり、支配権を持つグリゴリ放送局会長のグリモワールである。ドカッと椅子に座っているグリモワール会長にリナが言った。
「明日の結果を待つまでもなく、
想定以上の出来栄えだと思うけど・・・どうかしら?」
「うむ、たしかに予想以上の成果である。よかろう、約束通りアイドル活動を認めよう。しかし、ひとつ疑問がある。あれほどのアイディアをどうやって生み出した?」
「それは企業秘密。約束だけは守ってね。」
そう言い残すとリナ達は会長室を出ていく。エレベーターを降りて放送室に向かうと人で溢れかえっていた。どうやらチーム・Sへの対応にあたっているようだ。突然、彗星の如く現れた彼女達に若者は心を奪われたらしい。そして後日、元チャンプとドレイクは誰もいない緞帳のおりたステージを見ながら一番前の客席に座っていた。
「最初はゴリ押しで売り込むつもりだったんだ。彼女達の誠意と笑顔に皆、心を奪われたみたいだぜ。」
「礼を言う。これで娘達も自立ができるだろう。」
「自立か・・・親離れするにはまだ早いようだぜ。あれを見ろ!」
突然ステージ上がライトアップされるとゆっくりと緞帳が上がっていく。そこには元チャンプが育ててきたアトリエ率いるチームS、総勢百名の美女達が並んでいた。彼女達は以前に見たオドオド感はまったくない。自ら掴んだ成功が自信となり、その表情は清々しくも晴やかに見えた。元チャンプは席を立ち上がるとゆっくりステージに歩み寄っていく。よろける身体をおさえながらステージへの階段をあがっていくとそこには見違えた姿をした娘達がいた。
「まるで別人のようだ・・・・皆、綺麗になったな。」
「全部、あなた様のおかげです。私達をここまで育ててくれて本当にありがとう。」
チームSのメンバーが一斉に頭を下げた。元チャンプは熱いものが込み上げると自然と涙が溢れてきた。
「もう私の手を離れる日が来たか・・・寂しくなるがお前達の幸せを第一に考えなければな。」
元チャンプを囲むようにチームSのメンバーが抱きついてきた。
「バカ者・・・泣く奴があるか!幸せを手にした娘が泣くでない。」
その場にいたすべての者が涙を流しながら抱き合っていた。そんな中、ドレイクがステージ上にあがると元チャンプに声をかけた。
「チャンプ・・・感動の場面で申し訳ないがお別れすることはないんだ。」
「・・・・何を言って・・・」
「実はな・・・・」
ドレイクは今後について話を進めた。確かに放送界のドンとも呼ばれているグリモワール会長の許可は得たが、すべての者がいい人というわけでもなく、必ず彼女達を騙して儲けようとする輩が出てくるはずである。
「ボディーガードが必要なのか?」
「ボディーガードというよりは責任者だな。チームSをまとめる者だ。チャンプなら彼女達の信頼もある。なによりその腕力は有効だろうな、芸能界では!」
「私達からもお願いします。育ててもらった恩返しがしたいのです。娘が父親に甘えるだけでなく、父親が娘に甘えてもいいでしょ?」
「・・・生意気言いおって・・・・」
「いい娘達をもって幸せだな、チャンプ。それじゃあ、俺は行くぜ。」
ドレイクがステージをおりていくと最愛の娘達に囲まれたチャンプは顔がグシャグシャになるほど涙を流していた。彼にとっていままで味わったことがない最高の舞台であっただろう。