争いのないブロック
「大丈夫?」
「・・・駄目だ・・・・」
ドレイクの背中をさするリナはタメ息をついた。最強の戦士がまさか列車に弱いとは・・・。車掌から酔い止めの薬をもらったがそれも効き目がない。トイレの一室を独占しているドレイクとリナ。その頃、タカヒトは独り列車内にある売店でミカに頼まれたジュースやお菓子を買っていた。天道のお菓子やジュースはタカヒトのいた人道のものと変わらないものだった。
「どれにしようかな・・・・あっ、これ!・・・あっ、すみません。」
「アラ、ごめんなさいね。」
タカヒトは隣にいる天道人と同じジュースを取ろうとして手が触れた。ジュースを天道人に譲るとタカヒトは別のものを手にした。買物を終えたタカヒトは売店を去ろうとした時、その天道人に声をかけられた。
「譲ってもらって悪かったわね。あなた・・・天道人ではなさそうね。人道・・・の人かしら?先ほどのお礼もあるし、少しお話ししませんか?」
オドオドするタカヒトの手をとると天道人は列車内にあるレストランへと入った。高級感のあるレストランではあったがウエイトレスがその天道人を見ると急に顔がひきつり個室へと案内した。何故この部屋に通されたのかはタカヒトにはわからない。ただこの天道人は少し変わって見えた。なんというか・・・男の姿をしてはいるが仕草や立ち振る舞いは女性そのものである。つまりオカマちゃんに見える・・・というよりオカマである。ある意味恐ろしい存在なのかもしれないが顔がひきつるほどではないはず。そしてその個室とは思えないほど広いその部屋にタカヒトとオカマの天道人のふたりきりとなったことがタカヒトには恐ろしく、これからどんな目に遭うのかと恐怖に強張っていた。
「あの・・・お礼って・・・別に・・・お構いなく・・・」
「フフフ、いいのよ。私はね、あなたの心配りに感激したのよ。今時珍しいわよ。見ず知らずの私に譲ってくれて・・・いままでそんな施し受けたことがなくてよ。」
「施しって・・・別にそんな大それたことじゃないんだけど・・・」
タカヒトがオドオドしているとそこにウエイトレスが料理を運んできた。テーブルの上に豪勢な料理が並べられていく。
「さあ、私の気持ちよ。沢山食べてね。」
料理を小分けした皿が次々とタカヒトの前に並べられていく。笑顔の天道人に勧められ、タカヒトは目の前にある料理を一口食べた。
「おっ、おいしい!」
「お口に合って良かったわ。遠慮なく、たくさん食べてね。」
微笑む天道人に遠慮することなくタカヒトは料理を食べ始めた。今までこんな美味しい料理をタカヒトは食べたことがなかった。次々と運ばれてくる料理にタカヒトは満面の笑みで平らげていく。
「・・・・・」
「アラ?どうしたのかしら?さっきまでの元気がなくてよ。」
「こんな美味しい料理、ポンマンにも食べさせてあげたかった・・・。」
「・・・・ポンマン?お友達かしら?」
タカヒトは見ず知らずの天道人にポンマンのことを話した。いままで話すことがなかったことを天道人に何故話したのかはタカヒト自身、説明ができない。ただ、料理を食べることであの頃を、ポンマンと競争するように食べていたあの愉しい日々を思い出したのかもしれない。
「・・・辛い事を思い出させてしまったわね。許してちょうだい。」
天道人はハンカチを取り出すと涙を拭き、その後で流れる鼻水をそのハンカチで拭き取った。ポンマンをしらないこの天道人が何故、涙を流すのかはわからなかった。そんなタカヒトも涙が流れていることに気づくと一緒になった大泣きをした。大きな個室で見ず知らずの天道人とタカヒトは大泣きした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ありがとうございました。食べたこともない料理を御馳走になったばかりが慰めてもらったりして、あとお土産まで貰って・・・本当にありがとうございました。」
「いいのよ。私も久しぶりに人の優しさに触れることが出来たわ・・・哀しいこともあるかもしれないけど、ポンマンの分もしっかりと生きてちょうだいね。」
「ありがとうございます・・・お名前を聞いてもいいですか?」
「私の名はハルワタート。ミスラ・ハルワタートよ。」
「ハルワタートさん、また会いましょう。さようなら。」
ミスラ・ハルワタートが手を振るとタカヒトも手を振りながら個室から出ていった。それと行き違えるように天道の女性が個室に入ってきた。
「ピサロ様・・・今、少年がこの部屋から出て来たようですが・・・。」
「アリシアさん、すべてを手に入れた私にも楽しみが残ってましてよ。タカヒト・・・朱雀の力を持つ者・・・・フフフ・・・。」
笑みを浮かべながらティーカップを持つピサロにアリシアは困惑していた。ピサロとアリシアはサードブロックを訪れていた。しかし目的はわかっていない。アリシアは久しぶりにふたりっきりになった旅行と喜んでいたがピサロには別の目的があったようだ。まさかピサロとアリシアが列車に乗っているとは夢にも思わず、部屋を出ていったタカヒトはミカの待つシートへと戻っていた。
「遅かったね、タカちゃん・・・アレ?何を持っているの?」
タカヒトはハルワタートと呼ばれる天道人に出会ったことを説明するとお土産に貰った料理をテーブルに広げた。ミカもマイコも料理をおいしそうに食べていた。しかし、てんとの脳裏になにやら不吉なものが浮かんだ。
「ハルワタートか・・・天道ではわりと多い名ではあるが・・・・。」
「てんと、何むずかしい顔しているの?はやく食べないとなくなっちゃうよ。」
ミカが料理をのせた小皿を手渡すとむずかしい表情をしたてんとはそれを食べ始めた。タカヒトはドレイクとミカのことを心配したが依然、トイレから戻ってこないことを考えるとドレイクの症状はなにも変わらないことだけはわかった。列車が走ること数時間ほど経ったであろうか、フォースブロックの駅に到着した。
「やっと、到着したか・・・死ぬかと思ったぜ。」
列車に酔ったドレイクは蒼ざめた表情で降りてきた。サードブロックの駅とは違い、フォースブロックの駅は活気に満ちている。たくさんの天道人がすれ違うのも大変なほど行き来している。とりあえずドレイクの酔いを醒ます為に近くのベンチに座ることにした。リナが持ってきたお茶を口に含むとしばらく瞳を閉じて俯いた。
「ここでは身体が休まらないだろう。
タカヒト、ミカと休める宿を探してきてくれ。」
てんとに言われるとミカはタカヒトを連れて宿を探しに行った。残されたマイコがジッとしているわけもなく、「ちょっと、歩いてくる。」と言い残しどこかへと消えていった。もちろん、てんともこの場にいるわけがなく、情報収集に出かけた。
「若い奴は落ち着きがねぇもんだな。」
「フフ、気を使ってるのかもよ。」
「そうか・・・そんじゃあ、お言葉に甘えるか!」
ドレイクはリナの膝に頭をのせて横になった。天道人達がすれ違う通りから少し離れたこのベンチに視線を向ける者はいなかった。久しぶりのふたりっきりにリナもドレイクも満喫している。その頃、宿を探しているタカヒトとミカはファッションフロアにいた。
「ねぇ、ミカちゃん・・・はやく宿を探そうよ。」
「ちょっと待ってて・・・」
そう言うとミカはいろいろな服を試着しては鏡を見ていた。ほかにもたくさんの女の子達が服を眺めては試着していた。なんとなく居場所を失ったタカヒトは後ずさりしながらフロアの隅にあるベンチに腰掛けた。ファッションフロアだけにベンチもお姫様の世界に出てくるような感じでタカヒトは落ち着かない。しばらくすると買物袋をたくさん持った女の子達がベンチに近づいてきた。女の子達がジロジロ見るとその視線に耐えかねて居場所をまたも失ったタカヒトはベンチを去ることにした。タカヒトのいなくなったベンチでは女の子達が買った洋服を嬉しそうに広げていた。フロアの隅でボォ~と突っ立ているとミカがやってきた。ミカはいままで着ていた洋服ではなく、新しい洋服でタカヒトの前に現れた。
「おまたせ・・・どう、タカちゃん?いままでの服だとここじゃあ、合わないような気がするんだけど・・・。」
「うん・・・・似合っていると思うよ。」
「本当?良かった。」
ミカはホッとして胸を撫で下ろした。ミカはジーンズに肩を出したピンク色のノースリーブ姿だった。フォースブロックで流行のファッションらしくミカは喜んでいたが実はタカヒトはいままでの短いスカート姿のほうが良かった。もちろんそんなことは言えないが・・・。買物を終えたタカヒトとミカはあらためて宿探しに向かった。買物をしている女の子達にミカが聞いた情報によれば、上のフロアにインフォメーションコーナーが設置されているらしい。そこにいけば宿がわかると言うのだが・・・。
「でも、不思議だよね。女の子達はこのビルに住んでいるんだよ。それなのに宿の場所を知らないなんてね。」
「自分に関係がないからわからないのかな?あっ、インフォメーションコーナーってあれのことかな?」
タカヒトが指差すとそこには数名の天道人達がならんだコーナーがあった。応対に二名の受付らしき天道人が対応している。天道人の後にタカヒトとミカは並ぶとほんの少しだけふたりで会話を楽しんだ。会話を楽しんでいると受付嬢に呼ばれた。
「大変お待たせ致しました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
丁寧な口調にタカヒトは固まって何も答えられなかったが、ミカがタカヒトに代わり宿の場所について質問した。しばらくの間、受付嬢はキーボードを操作すると一枚の紙を取り出した。フロア別に数種類の宿があるらしい。紙を受け取るとミカはタカヒトを連れて宿のフロアへと向かった。宿代はピンからキリまであるがミカはわりとリーズナブルな宿を見つけた。
「どう、リナ?」
「そうね・・・落ち着いた佇まいでいいんじゃない。」
宿にドレイク達を呼び寄せるとドレイクはすぐに眠ってしまった。離れてしまったマイコはタカヒトがある場所に向かい見つけることができた。やはりマイコも女の子である。ミカと同じファッションフロアで服を眺めていた。だが、てんとだけはどうしても見つけることができなかった。インフォメーションコーナーに行けば、てんとの居場所がわかるかもしれないと考えたタカヒトの前にてんとが現れた。
「どっ、どこに行っていたの?捜したんだよ!」
「何処?いつも通りに周囲を探索していたのだ。初めてのブロックでは情報収集が一番大切だからな。それに捜さずとも私には風で気配を読むことができる。忘れたのか?」
「・・・・・」
タカヒトを軽くあしらうとてんとは皆に集まるように伝えた。全員が集まったことを確認すると寝ているドレイクを残しててんとは仕入れてきた情報を皆に伝えた。
「ここには地獄軍の進軍がないってことかしら?」
「そうだ、このブロックは商業が発達した商業都市。オーブによるこのブロックへの侵入は・・・理由はわからないができないようだ。天道からの列車でのみこのフォースブロックへの通行が確保されている。故にここには争いと言った類はないということだ。」
「だから、ここの人達って笑顔で溢れているのね。」
「何言ってるの、ミカ?ミカだって笑顔で溢れているじゃん。」
「そう?
この前、タカちゃんに顔つきがリナに似てきたって言われたんだけど・・・。」
「えっ!ちっ、違うよ・・・・あのね・・・・僕はね・・・。」
「タカヒト・・・ちょっと、聞き捨てならないわね。
私に似てきたってどういうこと?」
「違うよ・・・あのね・・・その・・・・。」
しどろもどろのタカヒトにリナとマイコが面白がってちょっかいを出していた。てんとはタカヒト達を無視するように話を進めた。このブロックからフィフスブロックへの移動手段はわかってはいない。てんとの提案でしばらくこのブロックに留まり、フィフスブロックへの移動手段と他のブロックの情報収集に努めることになった。リナとマイコに追求されてすっかりグロッキーのタカヒトは倒れるように布団に入った。すでにドレイクはイビキをかいて寝ていたが、それも気にならないほどタカヒトはすぐに深い眠りについた。
「ミカ、明日は私のショッピングに付き合ってくれない?」
「もちろん、いいわよ。マイコちゃんはどうする?」
「私はロードギアのメンテナンスをするの。ここにはいろいろな部品もあったし。」
「そうなんだ、わかった。それじゃあ、私はリナとショッピングに行くね。」
それからしばらく、リナとミカはファッションフロアで見かけた服についてお喋りをしていた。久しぶりの愉しい会話は夜遅くまで続いた。