約束
「気をつけてね。なにかあったらすぐに行くから。」
「大丈夫だ、ミカ。リナとてんとが後方支援にまわる。さすがにあれはヤバイからな。俺もタカヒトも無理はしないさ。」
「行ってくるね。」
心配するミカに手をふりながらタカヒトとドレイクは黒い物体のいる建物へと向かった。中に入った途端、異様な空気感が彼らを襲った。ドンヨリと重く背中に押し乗ってくるようなそんな感じだ。額の汗を拭いながらドレイクは階段をのぼっていくとそこには黒い物体が静かに眠っていた。
「動きがないな・・・・気配も感じられねぇ~・・・んっ?」
ドレイクが警戒しながらも近づいていく。眠っているというよりは横たわっているといったほうが正解だろう。しかも生気というものがほとんど感じられなかった。
「あっ、アレはなに?・・・卵?」
タカヒトが指差した場所には黒く四角い殻のようなものがあった。それに近づこうとすると鋭い刃がドレイクの目前で止まった。
「俺達をかなり警戒しているようだが何故殺そうとしない・・・タカヒト?」
ドレイクはタカヒトが黒い物体に近づいていることに気づいた。どうしてタカヒトが近づいたのかはわからない。だがタカヒトは恐がる様子もなく、黒い物体になにか語りかけている。黒く四角い殻を守っている鋭い刃がついている尾ヒレが退くとタカヒトはそれを手にした。
「タカヒト・・・?」
「僕にもよくわからない。ただ、声が聴こえて・・・。」
「・・・なんて言っていたんだ?」
「子を頼むって・・・・。」
「・・・むっ!」
ドレイクが斬神刀を構えると黒い物体は薄れるように無色になり、そのまま姿を完全に消していった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「結局、なんだったのか?わからなかったのね。それでその卵どうするの?」
「攻撃こそなかったけど、それが成長したら危険なことになるかもしれないわ。」
マイコとリナの言葉にタカヒトは黙ったまま、卵を抱えている。
「タカヒト、どうするのだ?私もリナとマイコと同意見だ。」
「・・・・でも・・・頼まれたから・・・子を頼むって・・・」
「俺には聴こえなかったんだがな。」
その場にいた誰もが卵を羽化させることに反対していた。全身を刃で埋め尽くし、高速移動する、しかも気配を消す事すら可能な物体。脅威になることは確実だった。
「私は・・・タカちゃんを信じる。脅威になる可能性はあると思う。でも私達は襲われなかった。理由はよくわからないけどタカちゃんに任せるって頼ってきたなら私も手助けしたい。」
ミカの素直でしかも、真っ直ぐした固い意志は曲げられそうにない。ドレイクはタメ息をつくと諦めたように言った。
「ふぅ~・・・こうなったら変えられそうにないな。タカヒト、育てるのはかまわん。だがもしそれが俺達に危害を及ぼす存在になった時は俺が始末するぜ。」
タカヒトは嬉しそうに黒く四角い卵をギュッと抱きしめた。隣で座っているミカも満面の笑顔を見せた。ドレイクは今後について語り始めた。実は黒い物体のいる場所で見つけたものは卵だけではなかった。
「扉?」
「ああ、なんの扉かわからんがあの黒い物体の下にあったんだ。どうやら扉を守っていたらしい。このまま捜索しても変化はなさそうだ。扉の先に行ってみる価値はありそうだぜ。」
こうしてタカヒト達は扉の先へと進む決断をした。薄暗いフロアには黒い物体がいた気配はまったくない。しかし黒い物体の意志だけはタカヒトがしっかりと受継いだ。どうなるかわからなく不安であることは確かだがタカヒトは生まれて初めてなにかを任せられた。任せられた喜びと育てていく不安が入り混じる中、タカヒトは卵をギュッと抱きかかえながら開かれた扉の先へと歩いていく。
「ほぉ~・・・駅みたいだが・・・まったく違う世界のようだ。」
扉の先にはいくつも列車が止まった駅ステーションだった。しかし人影もまばらで今、一台の列車が出発していった。駅構内で乗り換え情報が記載された掲示板を調べるとどうやらここからフォースブロックへ行けるようだ。
「あっ、キングダムシティへの特急もあるよ。あれ・・・あっ、これさっき出発した列車だね。次の特急は・・・・えっ?五年に一本しかないの!」
ミカは掲示版を見ながら驚いた。もう少し来るのが早かったら・・・そう考えると少し悔しくもなる。フォースブロックへの列車はすでに出発準備を終えていた。
「出発まで少し時間があるわ。お茶でもしない?」
近くにある喫茶店に入ったがやはり人影もまばらで二人の天道人がお茶を飲んでいる。ウエイトレスに用意されたお茶を飲みながらドレイクはフォースブロックの地図を確認しているがほかのブロックとは違ってかなり規模が小さい。
「規模が小さいっていうか・・・
このブロックはビルひとつだけみたいのようだな。」
「紛争といった類はないのか?」
「ああ・・・ないみたいだ。平和そのものっていうか・・・平和だ。」
タカヒト達が向かうフォースブロックは周囲が荒れ果てた砂漠地帯となっており、施設は一箇所に集中されていた。外部からの侵入を防ぐ為に超高層巨大ビルが建てられている。ウエイトレスに渡されたパンフレットにはそう書かれていた。
「戦いがないブロックって初めてだね。」
「本当ね・・・でも、地獄軍の攻撃はないのかしら?」
「行ってみなければわからないが駅長に聞いたところでは大丈夫だということだ。」
てんとの仕入れてきた情報を聞いていると列車の出発時間となった。列車に乗り込んだタカヒト達は切符に記された番号のシートに座った。タカヒトが窓から外を眺めると同じ歳くらいの少年が独りで歩いていた。
「あの人、何処にいくのかな?・・・なんか心配そうな表情しているけど・・・。」
「たぶん、地獄軍の襲撃から逃げてきたんじゃないかな。時刻表を見てるし、逃げ延びてこられてよかったね。」
タカヒトとミカがそう言っていると列車はゆっくり進んでいく。時刻表を見ている少年を通り過ぎていくと一路、フォースブロックへと向かっていく。タカヒト達を乗せた列車が見えなくなった頃、少年は辺りをキョロキョロと見渡しながらなにかを捜していた。
「あっ、あれだ!」
少年は扉を開くと白一色の世界へと入っていく。迷うことなく少年が向かった先は窓が少なく薄暗い建物のあるフロアであった。
「あれ?・・・リッピィー・・・どこに行ったんだ?ピサロのやつに連れて来られたから怒ってるのかな。お~い、リッピィー!」
少年は叫びながら周囲を捜していく。どれだけ捜したのだろうか・・・少年の言うリッピィーは見つからなかった。途方に暮れた少年はある一箇所に視線を移すとそこに歩いていった。その場にしゃがみこむと床に手を押し付けた。
「ここにリッピィーがいた・・・卵を産んだ?どこにもない・・・んっ?誰かに渡した?いや、奪われたんだ!リッピィーは卵を抱えて苦しんでいたんだ。しかもピサロのクソ野郎にこんな明るい場所に連れてこられて・・・暗闇こそがリッパー・イン・ザ・ダークが本当の力を発揮できるのに。リッピィーを苦しめたばかりか、卵まで奪いやがって・・・。」
少年は立ち上がると片手を地面に押し付けた。するとズルズルと地面に吸い込まれていくかのように白一色の建物が沈んでいく。建物が完全に沈んでいくとそこは白色のなにもない大地が広がっていた。
「なんで俺ばっかりがこんな想いをしなくちゃならないんだ。大切な家族だったのに・・・殺してやる!リッピィーの仇は必ず討つ!」