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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
166/253

夫婦の愛

 「攻撃力はたいしたことはないけど異常なほどの耐久力ね。このままでは分が悪いわ。ドレイクに応援をお願いするわね。」


 「でもタカちゃんが!」


 「大丈夫よ、その辺もちゃんと考えて行動するのがドレイクよ。」


 「・・・・よくわかるものだな。」


 「もちろん、だって夫婦ですもの。」


 「そのとおりだ!

  夫婦の愛はほかの何にも変えがたい強い結束から生まれるものだ!」


 「アラ、ドレイク。早かったのね。」


 斬神刀を肩に背負いドレイクは立っていた。ドレイクを取り囲んでいた機械人形はその鋭い一閃にバタバタと倒れていく。呆気にとられたのはミカ達である。リナが上空に稲妻を放ったのはほんの少し前であった。だがすでにドレイクはここにいる。どんなに急いだとしてもこうも早く辿り着けるものではなかった。


 「どうしたんだ、ミカ・・・

  ははぁ~ん、俺がこんなに早く来れた事が不思議なんだろ?」


 「うん・・・・タカちゃんと一緒だったんだよね?」


 「もちろんさ。今は赤玉が戦っているぜ。おっと、話が反れたな。俺がこんなに早くこれたのは正しく愛の力だ!」


 「愛の・・・力?」


 「そうだ!大切な若妻を失うわけにはいかないからな!」


 「ドレイク・・・嬉しいんだけど、そんなこと言っている状況じゃあなさそうよ。」


 リナの言葉にドレイクは辺りを見渡した。ドレイクの一閃を目の当たりにした機械人形らは警戒しながらも逃げ道を塞ぐように取り囲んでいる。ほんの少し笑みを浮かべるとドレイクは斬神刀の剣先を地面に押し当てた。静かな空気が辺りを包み込んでいると一斉に機械人形達がドレイクに襲い掛かる。


 「貴様らの業は俺が断ち切ってやる。次に生まれ変わるとしたら何がいい?もちろん決められはしないがな・・・抜刀術奥義庚の型、鉄山皇!」


 ドレイクが斬神刀の剣先を振り上げた。襲い掛かった機械人形達は空中でピタッと止まると接続箇所に亀裂が走り、バラバラに分解されながら地面に散ばっていく。剣先を振り、血振りすると鞘に斬神刀をおさめた。


 「ドレイク・・・今のはいったい・・・」


 「ああ、今のか?抜刀術奥義庚の型鉄山皇って言ってな。じじい・・・いや師匠に教わった技に俺がアレンジを加えたものだ。」


 「タカヒトも同じ技を習得しているのか?」


 「もちろんだ。今頃、同じ光景を眺めていると思うぜ。」


 ドレイクを先頭にミカ達はタカヒトのもとへと歩を進めた。しかし歩けど歩けどタカヒトの姿がなかなか見えないのだが足元には数体の機械人形が動かずに倒れている。それからどれくらい時間が経ったのだろうか?機械人形の山が出来上がっていた。その近くにポツンと独りタカヒトが座り込んでいた。ミカが走って近づいていくとタカヒトも立ち上がった。


 「タカちゃん、大丈夫?」


 「うん、大丈夫だよ。ミカちゃん達も無事で良かった。」


 タカヒトの話によるとこの機械人形の残骸の山は赤タカヒトが築いた。山を築いた赤玉は疲れたと言い残しタカヒトに意識を渡したらしい。てんとが残骸をひとつひとつ確認していく。たしかにドレイクと同じ斬口である。そんなてんとにドレイクが歩み寄ってきた。ドレイクはタカヒトに抜刀術奥義すべての型を伝授したと言った。庚の型鉄山皇以外に九つの型と最終奥義があると豪語してもいた。


 「敵に塩を送るにしてはやりすぎではないのか?」


 「・・・まあ、たしかにそうだな。だが、同じ四神として戦闘力は同等。抜刀術においても同等でなければ、戦って勝ったとしても嬉しくもない。だろ?」


 「・・・・」


 そんなドレイクの気持ちなど知る由もなくタカヒトはミカと愉しそうにお喋りをしている。てんとの提案で部落に戻ることにした。機械人形を失った管理者サーズも気になるが三獣士達地獄道の進軍も気になる。部落の安全を確保することが専決と考え来た道を戻っていく。


 「無事じゃったか・・・本当に良かった・・・・。」


 部落では長老達がタカヒト達の身を案じていた。ミカ達の姿を確認すると嬉しそうに杖をつきながら長老が近づいてくる。長老達は老い先短い者が生き、将来ある若者が死に近づいていく。老いた身体ではなにも出来ない。そんな自分自身に憤りを感じていた。待つことしか出来ない彼らにとってミカ達が戻ってきたことはなによりも喜ばしいことだった。


 「たいした振る舞いも出来んがワシらの気持ちを受け取ってはくれんか?」


 長老がそう言うとタカヒト達は屋敷へと招かれていく。女子供や若者達は避難しているので屋敷やその周辺には人影はなかった。残された老人達は屋敷の台所に立つと料理を作っていく。ミカとリナが手伝おうとするが老人達に拒まれてしまった。ここでは収穫の時期になると健康と実りに感謝する祭りが行われるらしい。年長者として敬われている老人達もその時ばかりは料理を作り、感謝するのだ。用意された料理は感謝祭で老人達が作るものだった。


 「感謝祭ではないがの・・・ワシらの気持ちじゃ。たんと召し上がれ。」


 笑顔の老人がタカヒトに料理を盛った椀を手渡すと嬉しそうに食べ始めた。餅のような食感でタカヒトは久しぶりに人道の世界を思い出した。笑顔で食べるタカヒトを老人達は嬉しそうに見つめていた。ドレイクは差し出された鍋ものを食べている。リナとミカは長老にレシピを聞いているとてんとが屋敷の外に気配を感じた。


 「長老・・・」


 屋敷には数名の若者達がいた。管理者サーズと三獣士率いる地獄軍の戦況の広がりを懸念した彼らは長老の命により避難していた。その避難場に長老達の作った料理の匂いが届いた。警戒しながらも美味しそうな匂いに引きつられてここまで来たのだった。若者は恐る恐る長老のもとへ近づいていく。笑顔の長老は若者らに戦況を伝えるとホッとしたようでその場にしゃがみ込んでしまった。そんな若者に老人達は笑顔で料理の入った椀を手渡した。涙を浮かべながら若者らは料理を食べ始めた。


 「ふぅ~、久しぶりにうまいもん食わせてもらったぜ

  ・・・どうやら迎えが来たようだ。」


 ドレイクは椀をテーブルに置くと立ち上がった。それと同時にてんとも屋敷の外へと出ていく。後を追うようにタカヒト達が屋敷を出るとそこには三獣士が立ち並んでいた。


 「フッ、いないと思っていたらこんなところに居たのか!機械人形を倒したあたりはさすがというべきか。だが、まだ仕事が残っているようだぞ。」


 「仕事?なんのことだ?」


 「お前達の後ろには天道の者達がいる。その者どもを血祭りにあげよ。さすれば今回のことは見逃してやろう。」


 「言っている意味がまったくわからないな。俺は戦略や戦術のアドバイスは行ったがお前達の部下になった憶えはないぜ。それにな、この部落の者は管理者サーズとは違うぜ。」


 「罪がなくとも我らは破壊神の意志を継ぎ進むしかない。この者達は天道の者。いずれ我らに牙をむくであろう。今、殺しておかねばならない。貴様はどちらの味方だ?」


 「俺か?・・・俺は正義の味方だ!」


 アロケンが俯いた瞬間、腰に吊るしてある太刀を振り上げると上段、中段、下段から袈裟斬り、逆袈裟斬りと連続して斬撃を繰り出した。それと同時にドレイクも刃を合わせるように1・2・3・4・5と斬撃を繰り出す。互いの剣先を互いの顔近くに向けた。


 「我らについてくる気はないか。ならば貴様等にはもっとも残酷な結末が待っていることになる。覚悟しておくのだな。」


 そう言い残すとアロケンはバラムとフルカスを連れてその場から飛び去っていった。これによりドレイク達は天道軍と地獄軍からの攻撃を回避しつつ反撃を行わなければならなくなった。しかも部落の者達を守るという足枷までつけられている。前にも後ろにも進む事が出来なくなったタカヒト達はこの部落で天道軍と地獄軍の出方を伺うことにした。


 「この地を手放す?」


 長老は声をあげた。長老の屋敷には長を支えてきた老人達、先人と若者達が集まっていた。彼らはてんとの提案に動揺している。その提案とは部落の置かれている地形に関係していた。この地は周囲を山地や高地で囲まれた低い平坦な地域である。その為、川や地下水といった水は常に与えられ農業を行うにはもっとも理想的な地形ではある。しかし・・・・


 「戦場においてはこの地形はあまりに不利。管理者サーズの本隊も三獣士の本陣も高地にあり、そのふたつの点と点を線で一直線に結んだ線上にこの部落がある。」


 てんとは線の書かれた地図をタカヒトに広げさせた。その地図には確かにこの部落の戦場における不利な条件が事細かく画かれている。高地から低地への攻撃は戦術上もっとも有効とされている。射撃など高射攻撃ならなおさらだ。これら不利なる条件を打破するにはやはり新たな地への移動と開拓が必要になるとてんとは説明している。これにはドレイクも同意見だった。


 「わしらこの地を先祖より受継いできておる・・・

  わかってはいるがなかなか・・・。」


 「長老達の気持ちもわかるが状況が状況だ。早めの決断を願いたい。」


 てんとはタカヒトを連れて部屋を出ていった。ドレイクも部屋を出ていくと長老らと若者らはただ黙ったまま地図をジッと見つめていた。


 「てんと、長老達はどう決断するのかな?」


 「どう決断しょうとも戦術の変更を行うだけだ。」


 「・・・この地に留まるって決断したら?」


 「相当の覚悟は必要になってくる。タカヒトも気を引き締めておくのだな。」


 その言葉にタカヒトは立ち止まってしまった。てんとはいままで間違ったことは言ったことがない。もしもこの地に留まることになればそれだけ困難な状況が迫ってくる。天道軍と地獄軍の挟み撃ちに遭うのは確実なのだ。


 「どうした、タカヒト。こんなところで独り立って。」


 ドレイクがポツンと独り立ち留まっているタカヒトに声をかけてきた。タカヒトはてんとに言われたことをドレイクに話した。


 「まあ、確かにてんとの言う通りだな。どう決断するのかは部落の者が決めることだ。俺達がシャシャリでることなどできない。」


 「でも・・・もし留まったら・・・。」


 「おいおい、何言ってんだ。おまえも男だったらドンと構えていろよ。そんなことだとミカを誰かに取られるぞ!」


 「えっ・・・・」


 「いいか、すべての事が思い通りに動くとは限らん。自分にとって不利になる、コントロールできない流れもある。その時はその流れに逆らわず、受け入れて従うことも大切だ。それがおまえにとって成長する糧となることもある。」


 「不利な事が成長する糧?」


 「大丈夫だ。

  今のおまえはミカが惚れるほどたくましく成長した。もっと自身を持て!」


 顔を真っ赤にしたタカヒトの背中を叩くと笑いながらドレイクはリナ達のいる屋敷へと歩いて行った。再び取り残されたタカヒトは青空をジッと眺めている。そんなタカヒトの意識の中では三つの色玉が会話を聞いていた。


 (おい、ここは俺様の出番だな!)(赤玉)


 (いや・・・そっとしておこう)(紫玉)


 (うん、そうだね)(白玉)


 (なっ、なんだよ!俺様の出番なしかよ!)(赤玉)


 (必要ない!)(紫玉・白玉)


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