ミカの決意
青空が広がり眼下には雲のじゅうたんが敷き詰められている。ドレイクの操縦するモービルウォーカーは雲のじゅうたんに突っ込んでいく。煙のようなモヤを振り払いながら降下していくと雲を突き抜け広大な大地が視界に映った。
「ドレイク、正面から何か来るわ!回避して!」
「くそったれめ!」
回避したかにみえたモービルウォーカーは機体の動力部を撃ち抜かれた。動力を失い大地に向かって落下していくモービルウォーカーを巧みに操作しながら地面への激突は最小限に抑える。
「おっ、俺の愛車が・・・・」
操縦席を飛び降りるとドレイクは大破したモービルウォーカーをジッと眺めている。上空では高射砲による長距離砲撃合戦が繰り広げられていた。いきなり戦場に招かれたタカヒト達は頭上を飛び交う砲弾に困惑していたがドレイクだけは違った。
「俺の愛車を廃車にしやがって・・・しかも楽しいはずの新婚旅行が台無しになったじゃねえか。許せねぇ!」
怒りに身を任せたドレイクは茶色の輝きを放ちながら砲弾の飛び交う上空へと浮遊していく。そのドレイクに砲弾が北南から一斉に飛んできた。
「喰らいやがれ!茶玉極限闘気 クル・ヌ・ギアス」
両手を水平に広げると大地から茶色の透明な液体のようなものが浮き上がってくる。それらは向かってくるすべての砲弾を包み込むとドレイクの身体に吸収されていく。完全に吸収されるとドレイクは両手を南の方角に向けた。その直後、その両手から茶色の粒子砲がほとばしると南の大地からの砲撃は完全に沈黙した。再び地上に降り立ったドレイクは少し気が晴れたようだった。
「クル・ヌ・ギアス・・・帰還する事のない、戻らない土地の意だったな。大地や砲弾のエネルギーを吸収して自らの力へと変換する類のようだな。」
「さすがだな。ごめいさんだ。」
そんなやりとりをしていると北の方角より未確認の生命体が飛行してきた。再びドレイクは戦闘体勢をとるがてんとがそれを制止した。
「どうやら地獄道の者達らしい。ということは南の方角には天道軍が配置されていたということか・・・しかし、ドレイク。どうやって見極めたのだ?」
「見極めた?そんなことできるわけないだろ。勘だよ勘。たまたま攻撃した方が天道軍だったってわけさ。」
これにはてんともかなり驚いた。結果的には良かったのだがドレイクの勘の鋭さは数多くの戦場を生き抜いてきた者だけが得られた能力なのだろうとてんとは自分に言い聞かせた。そうこうしていると上空を飛行してきた地獄道の戦士達が地上にいるドレイク達に気づいたらしく降下してきた。
「さきほどの攻撃はお前達の仕業か?」
「だったらどうした。サインでもほしいのか?」
「貴様、殺されたいのか?我らを三獣士と知っての事か?」
「三獣士?」
ドレイクは首を傾げたがタカヒト達はその名に覚えがある。破壊神に仕えていたアレス、ギガス、カオス。彼らが三獣士と名乗っていた。しかし目の前にいる三獣士は彼らとはまったく異質の者達である。最初に話かけてきた者はアロケンといい赤く染まった獅子の顔に甲冑をまとい馬らしき生物に跨っている。ドレイクに悪態をついてきた者はバラムである。牡羊の頭部に蛇の尾を持つ姿が印象的だがその背後にいる熊のような魔物も気になる。そして最後にアロケンは口を摘むんだまま黙りこんでいる老人を紹介した。
「この無口な老人がフルカスだ。我ら三獣士はサードブロックを治めている管理者サーズと交戦中だ。」
「管理者サーズ?」
天道はピサロを筆頭として四天王、十六善神が六道の世界で起こる紛争を抑えている。そして天道や他の世界の秩序を維持、コントロールしている者達こそが管理者なのだ。管理者は与えられたブロックの秩序を維持しながら外敵を駆除している。管理者は天道の各ブロックに配置されていて三獣士はこのブロックでかなりの歳月を足止めされていた。
「そのサーズってのはかなり強いのか?」
「サーズ自身の強さもあるが奴の優れた力は根回しといった類だな。」
「根回しって物事を行う前に関係する人達から了承を得るあれのこと?」
ミカの言葉にアロケンはうなずいた。管理者サーズはいち早く三獣士達の進撃に気づいた。自らの保身を考えた彼はファーストブロックとセカンドブロックの管理者に一報を入れるとブロックの指揮権を捨てサードブロックに終結するように伝えた。手薄なファーストとセカンドブロックを簡単に奪い取った三獣士達であったが三名の管理者と終結した兵士達のいるサードブロックで思わぬ失態を招く事になってしまった。
「我らは撤退を余技なくされ、セカンドブロックまで戻り物資の調達を急いだ。だが、奴らもそのあたりは抜かりがなかったようでセカンドブロックに残された物資はほどんどなかった。」
「なるほど・・・均衡を保っていたようにも見えたが天道軍が若干ではあるが押していたということか。ドレイクの一撃で完全に優勢になった。」
「そのとおりだ。お前達は天道軍ではなさそうだがこの地に住んでいる者達か?」
「我らはキングダムシティを目指している。セカンドブロックより辿り着いたわけだがいきなり砲撃を受けてしまったわけのだ。」
てんとはアロケンに説明を始めた。共同戦線を張ることを約束するのなら本陣に招くとの提案がアロケンからあった。断る理由もないてんとは快諾する。アロケンは大破したモービルウォーカーに乗るように促すとタカヒト達は言われたとおりに乗りこんだ。
「フルカス、頼むぞ。」
アロケンがそう言うと黙ったままフルカスは左手をモービルウォーカーにかざした。モービルウォーカーはゆっくりと浮上するとフルカスと共に本陣へと飛び去っていく。一方、ドレイクにより壊滅的な被害を受けた高射砲撃台では復旧作業が行われていた。管理者達の指示は不眠不休で繰り返された。
「さすがに奴らもやりおるわ。次なる段取りは整っておるのかえ?」
「もちろんです。高射砲は破壊されましたが、あの攻撃で敵戦力をはかることが出来ました。次なる段階にはすでに移行されていますのでご安心を。」
サーズの言葉にファーストとセカンドブロックの管理者達は安心してラスを楽しんでいた。天道はキングダムシティを中心として各ブロックが成り立っている。外側からファーストブロック、セカンドブロックと呼ばれ、タカヒト達が進んできたファースト、セカンドブロック以外にも同じ呼び名のブロックが存在している。ピサロから地獄道の進軍を止めるように指示されている管理者達ではあるがすべての者がそれに従うわけでもない。ブロックの民を守らずに、サーズに守られながら生き長らえる管理者達もいる。彼らのブロックでは三獣士の進軍に民は逃げる間もなく息絶えている。ファーストとセカンドブロックではすべての情報網を絶ち、管理者と兵士達だけが逃げ出した。
「民の命など我らと比べれば蚊ほどの命。」
「まったくじゃ・・・どれ、ワシの勝ちのようじゃぞ。」
セカンドブロックの管理者が置いたラスが勝負を決めた。悔しがるのはファーストブロックの管理者であり、もう一勝負したいと懇願している。サーズはラスを楽しむ彼らの部屋から出ていくと作戦本部へと歩を進めた。作戦本部では兵士達が情報の取りまとめを行っておりサーズの顔を見るなりそれらを伝え始めた。
「我ら高射砲に匹敵する者の出現か・・・・偵察隊はどうなっている。」
「はっ、偵察隊はすでに帰還しております。報告によりますと突然上空に出現した数名の者が砲弾を受け止め、反撃を企てた模様です。」
「ほう・・・・もしかすればそやつらがピサロ様のおっしゃっていた者どもかもしれん。よし、アレを試すいい機会かもしれんな。」
「アレをお使いになられますか!」
兵士のひとりが各部署に通達した。兵士の誰もが動揺を隠せなかったが高射砲が破壊された以上、それ以外に彼らが勝利する手段はない。作戦本部には一部の兵士が残りほかの兵士達はある施設へ向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こんな設備でよく戦えたものだな・・・・。」
ドレイクが目にした光景はいままでどのような戦場でも見た事がないほどレベルの低い装備だった。砲台といっても木の車輪で移動するシンプルなものがほとんどで原始的な兵器を駆使しながら戦果をあげていた三獣士達にドレイクは感心しているがミカは違った。
「てんと・・・私には戦えない。」
三獣士達と戦況を確認しながら作戦を立てているドレイクとは別室でミカは哀しそうな表情で言った。いままで徳寿と助けることとピサロを倒すことだけを考えてきた。しかしこの地で天道軍と地獄軍が激突するこの地では罪のない民が一番犠牲となっていた。ここにくるまでいくつもの部落を通りそこで見たものは逃げ惑うながらも力尽きた民の屍だった。
「ピサロが悪いことは私にもわかっている。でもここで三獣士達がしている事が正しいとは思えないの。戦いで無力な人達が犠牲になっている・・・・教えて、てんと。民を犠牲にしてもピサロの陰謀を止めなければならないの?それで救えるの?本当にそうなの?・・・正しいってどんなことなの?」
「・・・・」
ミカにかける言葉がてんとにはなかった。誰かを傷つけ、誰かを守る。正義と悪の違い。ピサロが悪で地獄の者が悪・・・犠牲になる者は力のない者達。ミカの言葉はてんとの心に響いた。話を聞いていたタカヒトもどう声をかけていいものかわからなかった。リナはスッとその場を去るとドレイクのもとへとむかった。サーズ襲撃作戦を立て終えたドレイクは三獣士らと別れるとリナと共にタカヒト達の待つ部屋へと歩いていく。
「なるほど・・・ミカの言う事にも一理あるな。正義か・・・たしかに俺達もこの地に暮らす民から見れば悪にしか映らないだろうな。さて、となると行動はひとつしかないな。」
「あら、ドレイクにしては珍しいわね。」
「あのな、リナ。俺だって戦争が好きってわけじゃないんだぞ。まあ、嫌いでもないが・・・これでも平和のことだって少しは考えている。」
「そんな一面もあったのね。知らなかったわ。」
「・・・まあ、いいや。ミカの言う通りに行動するということはもっとも危険な選択になるがそれでもいいかい?」
「サーズと三獣士と対立して民と共に戦うわけだな。」
「てんとの言う通り天道軍と地獄軍に挟まれながら、しかも民を守りながらの戦闘だ。心も身体もかなりキツイことになるがその覚悟はあるか、ミカ?」
ミカは悩んだ。民を守りながら戦うには自分だけでは不可能であり、タカヒト達の協力が必要不可欠だった。しかしタカヒト達を危険にさらしてまで自分の意志を貫けるのだろうか。黙り込んだままのミカはうつむいている。
「ミカちゃん、やってみよう。ぼくも協力するから。」
意外にもミカに声をかけた者はタカヒトだった。ニコニコしながら楽しそうにそう言った。これから楽しい場所に行くような表情だった。ミカは涙がこぼれるのを必死で我慢する。
「・・・いいの、タカちゃん。危険な目に遭うんだよ。」
「危険な目にはいままでも遭ってきたし、僕達の目的はとくべえさんの救出とリディーネを止めることなんだ。三獣士に協力することも天道軍に協力することもないよね。」
「言うじゃねえか、タカヒト。
お前、男をあげたな。これでミカの心はお前のもんだ。」
「べっ、別にそう言うわけで言ったんじゃないよ。ぼっ、僕はね・・・。」
「アラ、どうしたの?顔が真っ赤よ。」
真っ赤な顔をしたタカヒトをドレイクとリナがかまって遊んでいた。汗が額から流れてくるタカヒトにリナはハンカチを渡しながらもドレイクと一緒に笑っていた。少しふてくされながらタカヒトはハンカチで汗を拭いている。
「ミカ、私達は仲間なのだ。協力しないわけがなかろう。」
「うん・・・・ありがとう。」