パワースポット
「うわぁっ!さすがに強いや。」
「はん、当然だ。だが泣き言を言うにはまだ早いぜ!」
ドレイクは両手を大地に押し当てると大地が激しく揺れていく。白タカヒトは浮遊して回避するが大地に亀裂は走ると火山弾が襲い掛かる。衝撃波とスピードを駆使しながらかわしていく白タカヒトの視線にドレイクの斬神刀が映った。瞬時に羅刹で受け止めるも強力な斬撃に跳ね飛ばされた。再び距離をとり空中で対峙するふたり。一方リナとミカもまた睨み合ったまま距離をとっている。ミカは与一の弓を引くと矢を放つ。雷撃でそれらを撃ち落すと雷獣がミカに襲い掛かる。レインボーウォールを築くと激突した雷獣と共にそれは消滅した。
「フフ、なかなか勝負がつかないわね。」
「大地の鞭を返すわ。」
「アラ、いいのかしら?私が優勢になってしまうわよ。」
「大丈夫。だって私はハーピー族の女神様だもの。」
大地の鞭を受け取ったリナはそれを振り回すと地面に打ち付けた。激しい衝撃音にリナから笑みがこぼれる。上空ではてんとやハルピュイア率いるハーピー族とデスフェル率いるバードマン族が激突を繰り返していた。双方ともに負傷者を出してその数は次第に増えていく。飛行亜人種達が地面に落ちていく度に深い闇の中に忍びよる黒い影は歓喜を隠せなかった。
「くっ、くくく・・・互いに潰し合え!この戦いが終わった時こそこの地を支配する者が誕生する。」
黒い影が岩場で計画の成功を喜んでいる頃、紫タカヒトはドレイクとの激戦を繰り返していた。
「白玉には少し荷が重かったかもしれん。なるほど、強敵だ。」
「お前さんは割りと冷静なんだな。赤や白とは違うようだ。」
紫タカヒトは冷静に戦況を分析すると両手に装備されている凶刀羅刹が形状を変えていく。鋭い突きに特化した直刀から薄く広い刃へと変化していく。それは扇子のようにも見えて攻撃を考慮するに破壊力があるとは思えない。
「そんなヒラヒラな刃で俺の斬神刀を防げるのか?」
「・・・・・」
無言の紫タカヒトに対してドレイクは腰を落とすと斬神刀の刃先を紫タカヒトとは逆の方向に向けた。脇構えの態勢を取るドレイクの眼光は獲物を捕獲する鷹のように鋭い。左足を一気に踏み込むと重量感のある斬神刀を振り切った。距離を保っている紫タカヒトの皮膚に刃が当たることはなかった。だが斬神刀の鋭い斬風が地面を削りながら襲い掛かる。紫タカヒトは扇子のような刃を両手に持つと川が流る如くゆっくり動く。地面を削りながら襲い掛かる斬風を扇子で優しく持ち上げると斬風を防ぐこともなく自らの身体を回転させながら斬風の方向を変えて飛ばした。勢いを失うこともなく斬風は岩場に激突した。
「ふむ、川の流れを取り入れた見事なかわし方だな。だがこれならかわせまい!」
ドレイクは腰を落としたまま斬神刀を振り回すと無数の斬風が紫タカヒトに襲い掛かる。紫色の瞳で冷静に斬風の軌道を確認すると左足をあげて右足一本で立つと両手の扇子を広げて舞踊をするようにも見える。しかしその光景はまさに舞踊であった。上体を反らし斬風をかわすと両手の扇子で斬風の軌道を変化させる。地面を削りながら襲い掛かってくる斬風をフワリと浮きながらかわしていくと頭を地面に向けた逆立ちの態勢となり向かってくる斬風の軌道を扇子で変え続ける。ドレイクから放たれた斬風は隠れている黒い影に被害が及ぶ所まで近づいてきた。
「くそ、ここまで戦火が広がってきやがった。逃げねば俺の身も危なくなる。」
「危険を避け自らは安全な位置にいて
欲しいものを得ようとはずい分と都合のいい話だな。」
驚いた黒い影は振り返るとそこにはてんとが立っていた。マテリアルフォースを開放している人型のてんとはガトリングガンを構えている。
「なぜここにいる・・・といった表情だな。」
「何故だ・・・」
「気配は完全に消していたはずだと・・・・言いたげだな。」
「気配は完全に・・・・ぐっ、・・・貴様!」
「おまえの存在などこの地に降りた時からわかっていたぞ。
第三の飛行亜人種モスマン!」
「・・・・・・」
モスマンの計画はすでに失敗していた。ハーピー族とバードマン族の潰し合いによりこの地を治めようと考えていたモスマンは長きに渡る計画を実行していた。もちろんそれは緻密な計算により成功していた・・・・てんと達が来るまでは。
「邪悪な気配は感じていた。
だがその正体はなかなか突き止められなかったのは事実だ。」
「・・・・それで俺を誘き寄せる為にこの猿芝居を打ったか。」
「計画の終了を焦ったおまえのミスだ!」
モスマンの周りにはすでにドレイクや紫タカヒト、リナにミカ、上空にはデスフェル率いるバードマン族とハルピュイア率いるハーピー族が取り囲んでいた。モスマンは一匹のようで同族の姿は見えない。モスマンに勝機はなかった。
「くっ、くくくく・・・・飛行亜人種同士を潰し合わせることが俺の計画だと?このパワースポットに誘き寄せた本当の訳を、計画の最終段階を見せてやろう。」
「貴様がオーブを所有していたのか!」
モスマンは顎を大きく開くと口の中に鈍く光るオーブがてんとの視線の先に映った。そして上空を浮遊する透明だがドス黒い塊も見える。それらの塊は吸い寄せられていくようにモスマンの開いた顎の中へと入っていく。モスマンの体内に次々と塊が吸収されていくとその身体は巨大化していく。
「憎しみのエネルギーは得られた。我が最終形体を見せてやろう!」
すべてはモスマンの画いた通りに動いていた。飛行亜人種達が争っていたこの地こそセカンドブロックにおけるパワースポットと呼ばれる場所である。パワースポットとは吸収するエネルギー効率が著しく向上する位置である。つまり通常時モスマンの体内にあるオーブが得られるエネルギーを三とするとこのパワースポット上では十にも二十にもなるということである。大量のエネルギーが次々と体内のオーブに吸収されていくとモスマンは歓喜の声を堪えた。モスマンにエネルギーが供給されていることに脅威を感じたドレイクは斬神刀を振り被ると一気にモスマンの頭上に振り下ろしたがモスマンの皮膚を斬り裂くことはなく斬神刀は跳ね返された。
「そう慌てずともじきに恐怖をプレゼントしてやろう。」
ドス黒い闘気に包まれたモスマンの身体は次第に変形していく。灰色の身体に丸く赤く光った眼からは理性といったものは見えない。両腕にも両方の羽にも見えるそれを広げてもさほど大きくはない。ハーピーやバードマンに比べれば遥かに劣るその体形が失われていく。昆虫に近い姿から飛行亜人種に近づいていく。ドス黒い闘気が消えた頃、モスマンは完全体へと変化した。
「ふぅ~・・・・すばらしい。これこそが私が望んだ姿だ。さて、完全な姿となった私から下等生物であるお前達にプレゼントがある。恐怖と死だ。さあ受け取れ!」
モスマンが両腕を広げると突然の衝撃波にてんとやタカヒト達、バードマン族もハーピー族も吹き飛ばされていく。いやただの衝撃波ではない。衝撃波とともに鋭い斬撃が襲ってきたのだ。蛾人間とも呼ばれているモスマンは衝撃波とともに羽根の鱗粉を飛ばすことでそれはてんとの使うガトリングガンの弾よりも強力な威力を発揮した。ドレイクやタカヒトは完全に防ぐことができた。リナとてんとはミカの作り出したサクラリーフに守られている。だがデスフェル以外のバードマン達やハルピュイアやアエロー、オーキュペテー、ケライノー、ポダルゲー以外のハーピー族は致命傷を負いバタバタと倒れていく。
「すまないな。ちょっと羽根を伸ばしただけでこれほどとは・・・失礼した。」
「気にするな!
せっかく進化したお前にも少しは晴れ舞台を味合わせてやらんとな。」
ドレイクが斬神刀の刃先をモスマンに向ける。ニヤリと笑うモスマンは羽根を折りたたむとゆっくり歩を進める。斬神刀を構えるドレイクの前を四つの影が通りぬけた。アエロー、オーキュペテー、ケライノー、ポダルゲーのハーピー達だ。
「よくも我らを騙してくれたものだ。覚悟はできているな。」
「覚悟?・・・・知識、身体機能とも最も優れた飛行亜人種が生まれたのだぞ。お前達下等な飛行亜人種としてこれは嬉しいことではないか。この世界に王が生まれたのである。我に頭を下げ従えばよい。命だけは助けてやろう。」
「光を拒絶した飛行亜人種の末裔が何を言うか!」
四匹のハーピーは一斉にモスマンに襲い掛かる。モスマンに飛行し近づきながら上下左右に展開した四匹のハーピー達は鋭い爪を立てた。上空の爪、地上スレスレから襲い掛かる爪、左右から襲い掛かる爪にモスマンにそれらを回避する時間も場所もない。その場から動こうともしないモスマンを四匹のハーピー達は通り抜けていった。攻撃を仕掛けたアエローが声をあげた。
「我らハーピー族最強戦士の前にさすがの貴様もなす術なしと見たがどうだ?」
「なす術がない・・・?それは貴様らのほうか?」
モスマンはゆっくり右腕をあげるとそれを一気に振り下ろした。すると四匹のハーピー戦士達は動きを止めた。アエローの身体にひとすじの亀裂が発生すると鋭い刃で切裂かれたように真っ二つになっていく。オーキュペテー、ケライノー、ポダルゲーらの身体も切裂かれていった。驚くことに彼らには斬られた感覚はまったくないようで息絶えたその瞳からは死を恐怖する表情は伺えない。
「奴は何をしたんだ・・・まったく見えなかった。」
ドレイクの額から汗が流れ落ちる。ドレイクですらモスマンがどのような攻撃を仕掛けたのか全くわかっていなかった。もちろん紫タカヒトも同様だった。動揺する彼らを楽しそうな表情でモスマンは見つめていた。紫タカヒト、ドレイク、リナにミカ、てんとそれにハルピュイアとデスフェルだけが残っている。
「残った者はお前達だけのようだ。この瞬間から私はモスマンという飛行亜人種から進化した。そうだな・・・・これからはこう呼んでもらおう。プログレスと。」
プログレスはニヤリと笑うと右腕を水平に振り切った。もちろんただ振り切っただけで何も攻撃は仕掛けてはいない。だがその直後、デスフェルとハルピュイアがバタバタっと倒れた。ドレイクと紫タカヒトの後ろにいた彼らが倒れ、ふたりには何も起こってはいない。デスフェル達の後ろにいたてんと達にも異常はない。プログレスが狙った者は飛行亜人種だけだったのだ。ミカが駆け寄るがハルピュイアに意識はない。圧倒的な戦力の違いにてんとはもとよりリナも戦慄を感じている。しかしドレイクは違った。
「ふぅ~・・・完全になめられたな・・・
この挑発はさすがに怒りが込み上げてくる。」
ドレイクは闘気を極限まで高めていくとそれと同調するかのように茶色の輝きが増していく。極限茶ドレイクは斬神刀を振り下ろすと笑みを浮かべた。
「ほう、少しは楽しませてくれそうである。」
「ああ、千秋楽まで楽しんでいってくれ。次に生まれ変わるとしたら何がいい?もちろん決められはしないがな!」