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未来のきみへ   作者: 安弘
畜生道編
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非力なタカヒト

 てんとは依然沈黙している。タカヒトの姿を固唾を呑んで見つめているデオルトとグラモ。そしてタカヒトの目前にはデノガイドがいる。デノガイドはとぐろを巻きながらタカヒトの頭上に鋭い牙を近づけていく。


 「逃げないのか?それとも足がすくんだか?まあ、どちらでもよい。おまえもあそこにいるのも喰らってやろう!」


 「・・・・ぼくもてんともお前に食べられはしないし逃げるつもりもない!

僕がお前を倒しててんとを助けるんだ!」


 「グァハハハ、倒す?非力なおまえがこの私をか?」

 

 「非力なぼくがお前を倒すんだ!ぼくは痛いのも怖いのも嫌いだ。でも逃げない!てんとは僕が助けるんだ!」


 「・・・世界の王に口が過ぎたな。殺してくれよう!」


 餌にすぎないタカヒトが倒すと言っていること自体がデノガイドの自尊心を傷つけた。鋭い牙見せるように顎を開けて威嚇するデノガイドの眼にタカヒトが徳の水筒を取り出して一口飲む姿が映った。徳の水筒を再び腰に吊るすとタカヒトの身体はデノガイドが眼を細めるほど眩しく金色に光りだしていく。


 「光れば強くなるのか?そのまま喰らってやろう!」


 デノガイドはその鋭い牙を光らせると地上に立っている金色タカヒト目掛けて襲い掛かった。この時の金色タカヒトには襲い掛かってくるデノガイドの動きがスローモーションように見えている。金色タカヒトはスッと身体を動かすとデノガイドの攻撃をいとも簡単にかわした。勢い余ったデノガイドはフロアに顎をブチ当てた。そのまま崩れるように甲殻に包まれた身体が倒れこんだ場所には金色タカヒトが立っていた。


 「はあああぁああ~~」


 突き出した金色タカヒトの右拳がデノガイドの硬い甲殻にヒビをいれた。デノガイドの甲殻はイーターのそれより数倍の強度を誇るが右拳の衝撃はデノガイドの内臓に伝わっていった。デノガイドがいままで味わった事のない激痛にフロア中を這いずりまわっている。そしてその姿を金色タカヒトが見下ろす。


 「ガハァァ!・・・おのれぇ~この私を見下すとは・・・小僧がぁぁああ~~!」


 体勢を立て直して顎を開くと再び金色タカヒトに襲い掛かる。しかしすべての攻撃がスローモーションに見える今の金色タカヒトにとってデノガイドは怖い存在ではない。襲い掛かってくる鋭い牙を簡単にかわした金色タカヒトは瞬時にデノガイドの懐に入り込むと甲殻部分でない腹部に力を溜めた渾身の一撃を与えた。


 「グガアァァァ・・・ガアアア~~~!!」


 デノガイドの身体はフロア端までフッ飛んで砦の壁に張り付いた。一方的にデノガイドが倒される姿を見たデオルトとグラモはその戦いの状況を理解する事が出来ない。それもそのはずである。この世界で最強のデノガイドはパピオン騎兵団を壊滅に追いやったイーターを束ねる最強肉食系昆虫種である。気の弱いタカヒトがそんなデノガイドの攻撃をかわし、しかもダメージを与えるなど夢にも思わなかった。


 「デオルト!はやく、てんとの救出を!」


 金色タカヒトの言葉に我に返ったデオルトは周囲を見渡して状況を把握した。グラモと共にてんとの救出する為フロアの端まで走りてんとの様子を確認する。意識がなかったものの鼓動は聞こえた。


 「タカヒト!てんとは大丈夫だ!」


 「てんとを連れて僕の後ろに集まって!」


 「わかったが。デオルト、行くだが!」


 てんとを抱きかかえるとデオルトとグラモは急いで金色タカヒトの後に走っていった。フロアの端に吹っ飛んでいったデノガイドは意識を取り戻すが状況を理解する事が出来ない。最強の肉食系昆虫種であるデノガイドはいままでにない強き相手に戸惑っている。それはイーターより遥かに小さく牙すら持っていない非力な存在に倒されているからだ。戸惑っているデノガイドの姿を見据えて金色タカヒトは吐き捨てるように言葉を浴びせた。


 「非力なデノガイド・・・ケリをつけようか!」


 「?・・・・こっ、小僧!・・・おのれぇ~~!!!」


 デノガイドは怒りに身体を奮わせていた。この状況が長く続かないことは金色タカヒトだけが知っている。徳の水筒の効力は一時だけ・・・効力を失えばいつもの非力なタカヒトに戻ってしまう。だがデノガイドを相手にタカヒトは冷静だった。人道のイジメっ子達より恐ろしい相手を前に冷静に状況を分析して行動している。今は恐ろしいという感情はなくタカヒトはてんとやデオルト達を守ることだけを考えていた。デノガイドの甲殻は想像以上に硬くどんなにタカヒトが徳を使っても甲殻を貫くのは無理だということは分かった。

                       

       ではどうする?どうすれば倒せる?・・・やはり水爆弾しかない!


 そう考えた金色タカヒトは周囲を見渡す。水爆弾のひとつはデオルトが持っていてもうひとつはデノガイドの分厚く硬い殻と殻の間に貼り付いている事を確認した。徳の水筒の効力は切れかけている。金色タカヒトは一か八かの勝負に出ようとしている。


 「時間はもうない・・・・一か八か勝負だ!」


 金色タカヒトはデオルトの位置を確認すると瞬時にデオルトの持っている水爆弾を奪い取り、振り返り様にデノガイドに向かって飛んでいくとデノガイドの目前で立ち止まる。デノガイドも金色タカヒトに対し頭を低くして金色タカヒトの目線の高さに身をかがめる。これがデノガイド最強の攻撃体勢だ。デノガイドは金色タカヒトを強者と認め自らの最大の攻撃体勢をとったのだ。それはデノガイドにとっても生き残りを掛けた最後の攻撃だった。

 これは双方にとって最後の攻撃であり勝負は刹那で決まる。互いが一歩も動かずに対峙している。デオルトとグラモは固唾を呑んで状況を見守っていた。


 「小僧!!」


 沈黙にシビレを切らし先に動いたのはやはりデノガイドだった。低い体勢から一気に金色タカヒトとの間合いを詰めるとその鋭い牙で襲い掛かる。


        それは刹那の出来事だった・・・


 紙一重で鋭い牙を避けた金色タカヒトはデノガイドの背中に飛びついた。デノガイドは振り払おうと懸命に身体を動かすが金色タカヒトは振り落とされないように耐える。金色タカヒトは前の攻撃でヒビの入った甲殻を見つけると割れた箇所に水爆弾を貼り付けた。


 「はあぁぁぁぁあああああ~~!」


 振上げた右拳を思いっきり振り下ろすとデノガイドの身体はまたもフロアの端まで吹っ飛んだ。デノガイドの激突で壁が破壊され粉塵があがる中、デノガイドの激怒した罵声が響き渡った。


 「ガハッ、ゴガア~~ 小僧!」 


 壁にめり込んだ身体を起こして反撃に転じようとデノガイドが立ちあがった瞬間、胴の部分が黒く光り爆発した。金色タカヒトの渾身の右拳により衝撃を受けた水爆弾が爆発したのだ。更にてんとが貼り付けた水爆弾も連鎖的に爆発すると硬度を誇った甲殻を持つデノガイドの身体は半分に引き千切られた。フロアの端で上半身だけのデノガイドが這い蹲りもがいている。


 「ゴカァ、ゲバァ、ゲバァ・・・こっ、こんな・・・はずは・・・・」

 

 デノガイドは顎から血を吐き、千切れた胴体からは内臓が飛び出してもはや戦闘不能状態だった。そして金色の輝きがなくなったタカヒトはデオルト達のもとへ走っていく。真っ先に心配したのはてんとの容態だった。


 「気絶しているが大丈夫だ・・・タカヒト、あの金色の輝きは何なんだ?」


 「うん・・・後で説明するよ。それよりこの砦を早く脱出したほうが良さそうだよ。」

 

 「そうだが、タカヒトの言う通りだがね!」


 デノガイドはすでに戦闘不能で動くことも出来ない。もはや生きることも適わないだろう。作戦を完遂したタカヒトはてんとを背負うとデオルトとグラモと共に砦の脱出を開始していく。


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