消滅 スカイハイランド
「キリがないや。あとどれくらい残っているの?」
「まだ百名は残っているだろうな。気を抜くなよ、白タカヒト。」
「はぁ~い!」
白タカヒトは両手に数名のノンウイングス達を抱えると一気に降下していく。緑てんとも三つの球体にノンウイングスを乗せると西の大地を目指していく。西の大地ではバードマンの襲撃を警戒したミカがレインボーウォールでノンウイングス達を守っていた。何十回大地とスカイハイランドを往復したのだろうか・・・最後のノンウイングスを西の大地に連れてくるとすでにスカイハイランドは東の大地に迫っていた。
「衝撃に備えるのだ!ミカ、最大級の防御を頼む。」
ミカは理力を高めていくとレインボーウォールの外側に桜玉最大理力エラト・アグライアを創りだした。これにはミカ自身が一番驚いた。いままでもエラト・アグライアを創り出すことは出来たのだが今回のように桜玉中級理力レインボーウォールを創り更にその外側に桜玉最大理力エラト・アグライアを創り出すことは出来なかった。黄泉の国でマテリアルフォースを得たことが理力の幅を広げたことを確信した。スカイハイランドが地上に落下した瞬間、爆音と共に激しい衝撃がハーピー族にも襲い掛かった。衝撃に怯えるハーピーやノンウイングスに対してミカは自分の理力を信じていた。衝撃が収まった頃、巨大な桜の葉の形をしたエラト・アグライアは消滅していたがレインボーウォールは原形を留めていた。
「やはりミカ様は神の使者だ。我らは助かったぞ!」
ハーピーやノンウイングスから歓喜の声が鳴り響いた。少し照れているミカに白タカヒトは笑みを浮かべている。周囲を見渡したてんとはその光景に驚愕した。ミカのレインボーウォールに包み込まれた大地には木々が生い茂っているがその外側は茶色い土だけの世界になってしまった。その先にはスカイハイランドが激突した時に出来上がった巨大なクレーターが形成されている。最悪の事態は免れたもののバードマン族からの閃光第二波が発射させる恐れはまだ残っていた。しかしそれが発射されることはなかった。
「大量のエネルギーが必要なのか、あるいは破損したのか、わからない以上、不用意に動くことは危険だ。私とタカヒトで斥候を行う。」
てんとはタカヒトを連れて閃光の放たれた場所の状況を把握する準備に取り掛かった。ふたりだけでは心配だとミカも同行するとハルピュイアに伝えるとオーキュペテーとアエローを護衛にと同行させる。
「ミカ様を危険な場所にお連れすることは不本意ではあるが致し方あるまい。我らは残された者達とこの地で襲撃に対する準備を行います。オーキュペテー、アエロー、頼んだぞ。」
オーキュペテーとアエローはうなずくとミカを囲むように歩いていく。その頃、デスフェル率いるバードマン族はドレイクの築いた土のシェルター内にいた。衝撃がおさまったことを確認したドレイクがシェルターから地上へと出ていくと次々とバードマンが上空へと飛びあがってきた。上空より彼らが見た凄まじい光景に言葉を失った。分厚い黒雲によりいつも通りに薄暗い大地であるがいままでとはまったく異質の世界に変貌していた。見渡す限り土色の大地が続きその中心には陥没した巨大なクレーターが現れた。どれくらいの深さなのか見当もつかないそれは恐怖感すら与えた。再び地上に降りたデスフェルは黙りこんだままであった。そんなデスフェルにドレイクが言った。
「自らが引き起こした惨劇に恐くなったのか?」
「そんなことはない!これでハーピーどもを殲滅できた。我らは悲願を達成した。実に喜ばしいこと・・・・」
そう、彼らバードマン族はハーピー族との戦争に勝利できたのである。しかしその勝利を誰も喜んではいない。デスフェルは砦の様子を見てくるように兵士に斥候を命じていた。その兵士の報告によると砦は衝撃により壊滅状態であるらしい。全体の三割が砦に残され彼らの生きている可能性は全くない。ハーピー族は倒したものの自らが生活する砦も仲間も食物を与えてくれる大地も失った。戦争に参加しているバードマン達は途方に暮れながら唯一残された緑がある西の大地へと向かった。乾燥した茶色の土だけがひろがる大地でバードマン族を見つけたのはてんと達であった。
「おい、どうする?俺様の火炎で焼き消してやろうか?」
「待て、赤タカヒト・・・
様子が少しおかしい。ここは和平の交渉を行うことにする。」
「はぁ?・・・なんだよ、交渉って・・・」
考えこむ赤タカヒトにニヤリと笑みを浮かべるてんとをミカやオーキュペテー、アエローらが見つめた。そして今、赤タカヒトの視線の先には西の大地へと歩を進めているバードマン族が映っている。
「くそ、交渉なんてもったいぶらないでこのまま一気にケリをつけようぜ!」
(そういうわけにもいくまい、赤玉。)(紫玉)
(そうだよ。
なんでも暴力で解決しようとするところが赤ちゃんの悪いとこ。)(白玉)
(てんとに考えがあるはずなんだ。ミカちゃんもそういっているし。)(タカヒト)
(賛成意見が過半数を超えている。わかったな、赤玉。)(紫玉)
「へいへい、わかりましたよ。」
赤タカヒトからは反論はなく紫玉に主格を移されると紫タカヒトはアレストの出力をあげると推進力が増していく。バードマン族からも紫タカヒトの姿が確認できる位置にまで到達するとアレストを解除して大地に降り立った。紫タカヒトの姿を見て警戒感を強めたデスフェルはバードマン達に戦闘体勢をとるように促がした。
「貴様は何者だ!」
「ハーピー族の使者だ。話合いにきた。」
「話合い?降参の間違いではないのか?」
「降参はしない。共に手を取り合い、陰謀を阻止しなくてはならない。ドレイク、お前ならわかっているだろう?」
「・・・大地の鞭の意味がわかったようだな。」
「ドレイク、どういうことだ?」
紫タカヒトとドレイクの話を理解できないデスフェルは懐疑の表情を浮かべている。ドレイクはデスフェル達バードマンを集めるとある陰謀について話を始めた。それは長きに渡るある種族の策略である。
「まさか・・・そんなことはありえん。だっ、だが・・・だとしたら我らは仲間同士潰し合いをしてきたことになる。」
「まあ、結果的にはそうなってしまったがな。しかしすべてが奴らの思い通りに進んでいったわけではないな。奴らは自ら墓穴を掘ったことを後悔させてやるぜ。」
ドレイクはある作戦を立てるとデスフェルは渋々納得した。紫タカヒトも作戦を了承すると再びてんと達の待つ場所まで戻った。そしてその後ハルピュイア達のいる西の大地に戻ったてんと達はドレイクの立てた作戦を話した。
「そんな話は到底受け入れられない。罠としか思えない。オーキュペテー、アエロー。お前達がいながらこの失態はなんだ。何故奴らと戦わなかったんだ!」
「オーキュペテーとアエローは悪くないわ。私が止めたんだから。」
「ミカ様・・・・しっ、しかし今回の件について私は納得致しかねます。」
そう言い残すとハルピュイアはその場を去った。その後をオーキュペテーとアエローもついていく。ミカは少し寂しそうな表情をしていた。ハルピュイアが納得しなければこの作戦は成り立たない。
「うまくいかなかったね・・・・
どうしたらハルピュイアは受け入れてくれるのかな?」
「仕方ない・・・あれをやるか・・・・」
「あれって・・・なんのこと?」
困惑するミカとタカヒトにてんとはある行動に出る。それから数日が経ち、西の大地ではハーピー達が懸命に復興に力を注いでいた。疲れが蓄積されていたせいか、皆が寝静まった頃、ハルピュイアの寝室に緑の輝きを放つ女神が現れた。
「起きなさい・・・・」
「・・・・ミカ様?このような時刻にいかがなされました?」
ハルピュイアの目前には三つの緑色の球体に囲まれ浮遊しているミカの姿があった。薄い布を身体に巻きつけ緑色に光るミカはまさに女神そのものであった。何も言わずにその場を去るとハルピュイアも後をついていく。緑の残る大地を眼下に浮遊している女神はクリリと身体を回すとハルピュイアを見下した。
「飛行亜人種ハーピー族の長ハルピュイアよ。私はあなた方を絶滅から守る為にこの地に降り立ちました。しかしあなた方は同じ飛行亜人種であるバードマン族を受け入れようとはしない。このままではあなた方の滅亡は免れないでしょう。」
「しっ、しかしミカ様!我らは誇りを持ち・・・」
「話を受け入れない以上、あなた方を守ることはできません。」
女神はそう言い残すと右手を上空へ突き出した。火炎玉が創られている右手を振り下ろすと大地の残っている数少ない木々に引火した。燃え盛る木々にハルピュイアは動揺した。騒動を聞いたほかのハーピー達も大地に出てくると燃え盛る木々をただ見つめるしかなかった。すると女神は懐から種を取り出すとそれを土の中に埋める。そして左手を大地に押し当てた瞬間、埋めたはずの種が芽を出しみるみる育って燃えて灰となった木々よりも大きな樹木へと成長した。
「私の右手は破壊を、左腕は愛を生み出します。それでもまだ私の話を受け入れることはできませんか?」
その光景を目の当たりにしたハルピュイア率いるハーピー達は一斉に大地に膝をつくと頭を地面に押し付けた。誰もが女神ミカを受け入れた瞬間である。それからは今まで以上に女神として崇められるようになった。
「女神ミカ様、準備は整いました。いつでも出立はできます。」
「わかりました。それでは出立いたします。」
女神ミカの合図のもと、ハルピュイア率いるハーピー族は一斉に行軍を開始していく。それと同じ頃、デスフェル率いるバードマン族も行軍を開始した。ふたつの飛行亜人種が激突する瞬間が近づいていく。