古代兵器
「どうやらタカヒト達はあちら側についたようだな。」
「そのようね。どうするつもり?」
本陣からタカヒト達が向かってくる姿を確認したドレイクは闘気を解放すると茶色に輝く両手を地面に押し付けた。激しく地面が揺れるとタカヒト達は立っていることも出来ずにその場に座り込んでしまう。挨拶代わりに繰り出したドレイクのアースクエイクは見事に足止めに成功した。
「これで終わるわけがないよな。だろ?」
「もちろんだ!俺様がいるんだからな!」
ドレイクの視線の先にはてんとの理力により浮遊している赤タカヒトとミカがいた。ドレイク達はもちろんミカ達も互いが生きていたことに喜びを感じていた。しかし何故このような対立になってしまったかということには疑問を感じている。
「まあ、こんな結果になってしまったが俺としてはこれで良かったと思っている。修羅道での戦い・・・負けたとは思っていない。どちらが強いか決めなくてはな!」
「別にいいんだぜ。俺様のほうが強いってことでよ。」
「口の減らねぇ~奴だ・・・行くぜ!」
ドレイクは闘気を解放すると両手を地面に押し付けた。震える地面が裂けると火山弾が赤タカヒトに放たれる。赤タカヒトも瞬時に火炎壁を築くと火山弾を受け止めていく。その直後、ドレイクは極刀斬神刀を振り被り火炎壁を斬り付けた。真っ二つに裂ける火炎壁の間から赤タカヒトの視界に映った。だが赤タカヒトの目の前で刃先は止まっていた。
「やるじゃねぇか、ドレイク。ちょっとは腕をあげたようだな!」
「準備運動はこれくらいでいいか?」
赤タカヒトは両腕に装備された狂刀羅刹で斬神刀の刃先を跳ね飛ばす。距離を取った赤タカヒトは両腕に火炎の塊を集中させると激しい火炎柱を放った。襲い掛かってくる火炎柱をドレイクは地面に両手を押し当て土の壁を築くとそれを受け止めた。次の瞬間、真っ赤になっている土の壁は真っ二つに裂けその間から羅刹の刃先がドレイクに迫ってきた。
「俺様も準備運動は終わった。そろそろ、本気でいくぜ!」
羅刹の刃先を受け止めるドレイクに赤タカヒトは笑みを浮かべると再び距離を取った。赤タカヒトとドレイクの戦いを眺めている余裕もなくデスフェルはリナを連れて先へと足を進めようとするがその足を止める者が彼らの前に現れた。
「リナ・・・」
「ミカ、久しぶりね。あなたがタカヒトの考えに従うように私はドレイクにどこまでも着いて行くわ。たとえあなたと闘う結果になろうともね。」
リナは雷撃を放つとミカの足元に火花が鳴り響いた。避けられない戦いにミカの表情は哀しく曇り始めた。その瞬間、ミカの瞳にデスフェルの鋭い足爪が映った。渾身の一撃であったがてんとは大鷲の薙刀で爪撃を防いだ。
「集中力を切らすな!ここは戦場だぞ!」
てんとの激しい言葉にミカは理力を高めるとレインボーウォールを築く。球体の防御壁に押されたデスフェルはリナのいる位置まで跳ね飛ばされる。緑色の輝きを放つてんとからカマイタチと風撃波がリナとデスフェルに襲い掛かる。鋭い風の刃をリナとデスフェルはかわしていくが風の衝撃波はかわせきれなかった。風の衝撃波はえぐるようにリナとデスフェルの腹部に直撃するとさすがのデスフェルも地面に這い蹲った。トドメを刺すべくてんとは最大理力風神を放とうとした瞬間、無数の雷獣が上空よりミカとてんとに襲い掛かった。レインボーウォールにより直撃を避けたもののミカは負傷を負い、直撃を受けたてんとは足腰の立たない状態に追い込まれた。リナの突き上げられたその両手には激しく輝く牡丹色の塊があった。
「オーバーエレメント、リ・インドラ・メガラウンド!」
上空を黒雲が包み込むと大きな雷神の腕が現れてミカとてんとの頭上に迫ってきた。ミカは直撃を受け動けないてんとの前に立ち塞がると最大級にまで高めた理力を放つ。
「桜玉最大理力エラト・アグライア!」
巨大な桜色のオーロラが現れると大きな雷神の腕を包み込んでいく。リナ、ミカ共に最大級の理力とエレメントの力は拮抗していた。ミカのエラト・アグライアが上空で消え去ると大きな雷神の腕も消滅した。それと同時に力を使い果たしたリナとミカもその場に倒れ込んでしまう。勝負の決着を見届けたデスフェルの鋭い眼光が獲物に標準を合わせた。倒れたミカと動けないてんとの姿を確認するとデスフェルはその鋭い足爪を光らせふたりに襲い掛かる。
「覚悟しろ!ぬっ、何!!!」
突然目前に鋭い閃光が走るとデスフェルは素早く身体をひねらせて回避した。閃光の放たれた方向に視線をむけると数名のノンウイングス達が助勢に向かって来る。非力な存在であるノンウイングスの攻撃は想像を絶するものでデスフェルはリナを連れて後退を余技なくされた。
「ミカ様、お怪我はございませんか?」
「私は大丈夫。でもてんとが・・・。」
即座にノンウイングスは担架を用意するとてんとをのせて戦線を離脱していく。残ったノンウイングス達は狙撃を展開していくと完全に形勢の逆転されたデスフェルは赤タカヒトと戦っているドレイクに叫んだ。
「ドレイク、撤退するぞ!」
「お仲間があんなことを言っているぜ。どうするんだ?」
赤タカヒトと鍔競り合い中のドレイクは戦況を判断すると斬神刀で羅刹を押し退け距離を取った。ノンウイングスから放たれる閃光はドレイクにも迫っており斬神刀でそれらを打ち落すと刃先を赤タカヒトに向けた。
「顔合わせもすんだことだ。今日はこれくらいにしとくぜ。じゃあな!」
斬神刀を鞘におさめるとドレイクはリナを連れてデスフェルと共に撤退していった。赤タカヒトも羅刹を腰に吊るしてある鞘におさめるとミカのもとへと歩いていく。
「大丈夫か、ミカ?」
「うん、私は平気・・・でもなんでこんなことになっちゃったんだろう。」
「さあな、いずれまた戦う時が来るだろう。その時でも聞いてみたらいいさ。」
そう言い残すと赤髪と赤い目は消え、タカヒトに戻った。座り込んでいるミカに手を貸すとタカヒトはミカを抱えながら居住スペースへと歩いていく。柱に縛られていたハーピーの子供達は泣きながらタカヒトに抱きついてきた。
「何もなくてよかった。もうこんな危険な事はしちゃあ駄目だよ。」
「うわぁ~ん・・・ごめんなさい。」
泣きじゃくる子供達を抱きしめがならタカヒトはあやしている。そんなタカヒトを見つめながら微笑んでいるミカは子供達が縛られていたリナの大地の鞭を手にした。哀しい表情をしながらも子供達を連れてハルピュイアのもとへと向かっていく。
その頃、デスフェルの撤退指示を受けたバードマン達も戦線を離脱すると地上へと撤退してハルピュイアは態勢の立て直しを図っていた。ハーピーの被害はそれほどではなく一部の負傷者を医療小屋へと運んでいく。スカイハイランドの損害も補修程度ですみそうだった。しかしハルピュイアの脳裏には疑問点が浮かんだ。このスカイハイランドはてんとの協力により鉄壁に近い護りを誇っている。数名とはいえどうやってデスフェル達はこの地に侵入できたのだろうか。ハルピュイアが地図の隅々まで細かくチェックしているところにてんとがやってきた。
「やつらがどうやってこの地に降り立ったのか、不思議に思っているみたいだな。」
「てんと殿、傷はもう完治したのですか?たしかにあなたのおっしゃるとおりです。このスカイハイランドは鉄壁の護り。それをこうも簡単に乗り込まれるとは・・・。」
「まあ、あのドレイクがバードマン側についたのだ。このスカイハイランドとて鉄壁ではなくなったとしてもいた仕方あるまい。」
「あの者達をご存知なのですか?」
「少し前までは仲間だった者達だ。どういう訳か今は敵対しているがな。少し話を整理するか。奴らとは共に戦ってきた戦友でもある。そして今現在はハーピー族の脅威となる雷撃を操るリナがバードマン側につき、バードマン族の脅威となる火炎を操るタカヒトがこちらについている。つまり互いが勝負の決着をつけるカードを手にしているということだ。だがここにきて不安要素が出てきた。先ほどノンウイングスが手にした武器の存在だ。」
語尾を強めたてんとにハルピュイアは黙り込んだ。戦術を考えるてんとにとって戦力は重要な要素のひとつである。強力な武器の存在を知らされていなかったてんとにとってこれほど致命的なことはなかった。
「隠すつもりはありませんでした。
あれは我らにとっておぞましい古代兵器なのです。」
ハルピュイアは古代兵器について話しを進めた。遥か昔よりハーピー族に伝わる古代兵器でいつ誰がなんの目的で造ったのかもわかっていない。これまでも数名のハーピーが構造を知ろうと分解を試みるが失敗している。彼らの伝記によればこの古代兵器はスマートガンと呼ばれ超古代戦争ル・ゲハ・ロドンが起こった頃には存在していたと書かれている。
「超古代戦争ル・ゲハ・ロドンにハーピー族が関わっていたのか?」
「その頃は我ら一族とバードマン一族、それにもうひとつの飛行亜人種は同じ種族だったと伝記には書かれています。」
「もうひとつの飛行亜人種とは?」
「今では絶滅した種族です。モスマン族といいました。彼らは闇を好みますが我ら一族とバードマン一族は闇を好みません。それが原因だったのかわかりませんがこの地を与えられてからまもなく飛行亜人種は分裂していったと書かれてありました。」
「なるほど・・・・スマートガンの所有数はどれくらいだ?」
「現在では四丁・・・しかし先の戦いで破損した為に三丁が使用可能です。」
ハルピュイアは棚からスマートガンを取り出した。分解できそうな部分は全くなく弾薬やエネルギーを補充する部品もない。どう機能しているのかもわからないがこれが遥か古代に造られたと考えると相当高度な技術ではある。トリガーがついていることを考えるとハーピー達には使えそうにない。そんな古代兵器が何故この地にあるのか、てんとにも想像がつかなかった。スマートガンは代々ハーピーの長が管理することになっているらしく、今ではハルピュイアが大切に保管している。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、撤退していったバードマン族は洞窟内に戻っていた。デスフェルに被害状況が報告されていくがさほど被害は受けていなかった。
「どうやら双方ともに被害はそれほどなかったようだな。それにしてもずい分潔い撤退だったな。」
「いや、今回はあれで十分だ。ドレイク達には黙っていたがスカイハイランドへの侵入が目的だった。作戦は成功だ。しかしあれほどの鉄壁の護りをいとも簡単に乗り越えられるとはさすがはドレイクだな。もっと大人数でも可能なのか?」
ドレイクは首を横に振った。スカイハイランドは上空高く位置しており周囲には雲ひとつない。身を隠す障害物はなにひとつない。ならば創ればよいと考えられたドレイクの発想はこうだ。茶玉極限闘気クル・ヌ・ギアスは大地から茶色の透明な液体のようなものが浮き上がってくる。それは以前ゴーチュッカーを包み込み断末魔をあげながら乾燥して粉と化したあの技だ。クル・ヌ・ギアスとは乾燥した塵だらけの土地「帰還する事のない土地」を意味している。
「クル・ヌ・ギアスに包まれ地上より上空に浮遊しているスカイハイランドへと向かっていく。薄っすら茶色掛かった透明のクル・ヌ・ギアスでは姿が丸見えだ。姿を完全に消すにはリナの雷撃が必要。雷属性の光の屈折で完全に姿を消すことが出来たってわけだ。だがこれを繰り出すには灰玉の部分的な能力が欠かせない。それがなければリナやお前達がクル・ヌ・ギアスによって消滅してしまうからな。」
玄武の力を手に入れたドレイクは茶玉や灰玉の能力を部分的にコントロールすることが出来るようになった。つまり灰玉のすべての能力を無効にさせる事を限定的に出来ることでリナの能力を無効にさせずに他の能力を無効にする事が出来る。
「だが残念なことに範囲が限定されてしまうんだ。クル・ヌ・ギアス内に居られる者はせいぜい十名くらいだろうな。それにこいつを繰り出すには体力の消耗が激しい。今回のような戦術では俺やリナの体力を戦う前に半分以上は使うことになるぜ。」
「そうか・・・ならば別の方法を考えなければならないのだな。」
「戦術はいくつでもある。それよりも気になることがある。おまえ、撤退する時に奴らの放った閃光にかなり動揺していたな。何故だ?」
「フッ、やはり見破られていたか。
お前達に面白いものを見せたい。明日付き合ってくれ。」
デスフェルは笑みを浮かべながらその場から去っていった。残されたリナとドレイクは部屋に戻ると戦いの疲れだろうかぐっすり眠った。