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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
155/253

別れと出会い

 モービルウォーカーは森を抜けて草原を走っている。ドレイクや白タカヒトが感じていた森での氷のように冷たい気配はそこにはなかった。穏やかな風がミカの髪をなびかせるといい匂いがタカヒトに伝わってきた。なんとも言えない幸福感に包まれたタカヒトは鼻の下を伸ばした。


 「おい、タカヒト。何、鼻の下伸ばしてんだ?」


 「べっ、別に伸ばしてないよ。変な事言わないでよ、赤玉!」


 顔を真っ赤にするタカヒトに赤玉は面白くて口撃を続けた。しかしそんな微笑ましい光景は続かなかった。ハンドルを握るドレイクの額から汗が流れ落ちる。前方に竜巻が発生してこちらに向かってきていたのだ。


 「何なんだ、アレは?あんなのに巻き込まれたらシャレになんねぇぞ!」


 ドレイクはハンドルを回すとモービルウォーカーを旋回させた。だがすぐにモービルウォーカーを止めると蒼白した顔で前方の竜巻を見つめた。ドレイク達を乗せたモービルウォーカーを取り囲むように竜巻が急接近していたのだ。逃げ場を失ったドレイクはモービルウォーカーを降りるとリナの手を握った。


 「俺の手を離すなよ!」


 リナは黙ったままドレイクの身体に寄り添っている。その光景を見たタカヒトはどう足掻こうとも逃れられない現実を受け入れドレイクと同様にミカとてんとの手を握った。赤玉はタカヒトの意識の中へと避難していく。


 「タカちゃん・・・離さないでね。」


 ミカの不安そうな顔を見つめるとタカヒトは満面の笑みを必死でつくる。抱きつくようにミカはタカヒトにしがみつくと目を閉じた。竜巻はすでに目前に迫っている。竜巻はぶつかり合うようにひとつの巨大な竜巻へと姿を変えて上空高くにそびえ立つ。巨大な竜巻が大地のすべてを巻き上げると次第にその勢力は衰えて消えていった。そしてそこにはドレイクやタカヒト達の姿はなかった・・・。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「・・・・・・ここは・・・タカちゃん?・・・タカちゃん!」


 意識を取り戻したミカはタカヒトの姿を見つけると走って近づいていく。タカヒトは意識はなかったが命に別状はないようだった。てんとも近くに倒れていてやはり気を失っていた。しかしドレイクとリナの姿がなく周囲を捜してみたが発見はできなかった。


 「無事だといいんだけど・・・。」


 ミカはタカヒトとてんとの傍に座ると意識を取り戻すことを願いしばらく休むことにした。周囲を見渡すとゴツゴツとした岩場で囲まれていて眼下を見渡すと黒い雲で覆われていた。上空には少し明るい空が広がっている。竜巻で飛ばされたミカ達はどうやら雲を突き抜けた標高の高い高山に辿り着いたようだった。


 「水はあるのかな?タカちゃんとてんとに飲ませないと・・・・!」


 タカヒト達に水を飲ませようと川を捜しているミカは上空より降下してきた亜人種に気づかなかった。ミカの目の前に突然現れた者の顔は人道の女性のように見えるが身体は鷲の姿をしている亜人種ハーピーであった。与一の弓矢を構えたミカはハーピーと対峙する。しかしハーピーは一匹だけではなく次々と降下してミカを数十匹のハーピーが取り囲んだ。次にミカの視界に入ったのはタカヒトとてんとがハーピー達に捕らえられた光景であった。怒りのミカは桜色の輝きを放つとハーピー達は驚愕した。


 「待ってください。私達は敵対する者ではありません。」


 「そんな事を言って信じられるものですか。タカちゃん達を捕まえてどうする気?まさか食べるつもり?そんなことはさせないわ!」


 「私達は木の実などを食する草食類であり肉食類ではありません。」


 「どうして私達を捕まえようとするの?」


 「神の使者を捕らえるつもりはありません。」


 「使者・・・ちょっと意味が分からないんだけど・・・。」


 片膝をつき頭を下げたハーピーは困惑するミカに話を続けた。元々この地は飛行亜人種が支配する世界であった。その頃は現在のような厚い雲もなく少ない天光の恵みを得られていた。


 「バードマンの仕組んだ結果がこの有様です。」


 ハーピーは奥歯を噛締めて言った。数百年前ほどからハーピーの領地に厚く黒い雲が現れてそれは世界を覆った。天光の恵みを失った大地から緑は失われハーピー達草食類は生活の場を追われた。それから現在までバードマンにより生み出された黒い雲を取り除く武力紛争が続いている。


 「それでどうして私が使者なの?」


 「私達にはある言い伝えがあります。」



  栄華を誇る我が一族にいつの日か想像を絶する災いが降り掛かるであろう。

 我が一族が滅亡する時、神の使者が必ず表れよう。

 その者は同族にあらず。鋭い爪も力も持ち合わせてはいない。

 あるとすれば誰よりも気高いその意志こそが我らに折れぬ刃を与えてくれよう。



 「あのね・・・その言い伝えは分かるんだけどそこからどうして私が神の使者だって考えちゃったの?」


 「この地には我ら飛行亜人種以外には生物はおりません。それにあなた様はあのビックトーレストからも生き長らえさらにまったくの無傷。我ら一族を目の当たりにしても臆することもなくたった独りで闘おうをする強き想い。あなた様こそが我らに与えられた神の使者なのです。」


 ビックトーレストとはミカ達に襲い掛かった巨大な竜巻のことだ。たしかにあの巨大な竜巻に襲われて無傷なのはミカ自身も驚いている。タカヒトの手を離さないように必死でしがみついていたミカだが竜巻に飲み込まれた瞬間のことはほとんど憶えていない。リナ達のことも気になるがタカヒトやてんとの意識が戻らない今、ハーピーを騙す形になるかもしれないが頼るしかなかった。


 「私を神の使者と信じるのなら私の連れ達を介抱してくれますか?」


 「もちろんです。おい、お連れの方達の介抱を!」


 ハーピー達はタカヒトとてんとを担ぎあげると上空へと飛んでいった。ミカの目の前にいるハーピーは自らをハルピュイアと名乗った。手を差し伸べるとハルピュイアはミカの身体を抱きかかえ上空へと飛び去っていく。


 「ようこそ、我らが都スカイハイランドへ。」


 厚い雲を眼下にスカイハイランドと呼ばれるハーピー達の都は美しい緑に囲まれていた。大地を追われたハーピー達は空へと逃げ空中を浮遊し続けるこのスカイハイランドに移住した。何故スカイハイランドが浮遊しているのかは分かってはいない。彼らはこの地を開拓し緑豊かな都市を築きあげた。自給自足の生活をしながらバードマンとの武力紛争を続けている。広い土地には稲作を行っているハーピー達の姿もあった。


 「ハルピュイア、稲作を行っているハーピー達には翼がないけど、どうして?」


 「ハーピーの誇りを失い、生まれ出でた者達です。」


 ここ最近、ハーピーの中で翼のない者が生まれ始めた。足爪もない彼らは飛行亜人種というよりも限りなく天道人に近い。ハルピュイアは彼らをノンウイングスと呼んだ。田畑を耕し狩りしか出来ないハーピー達にとって救いとなる者達であるが一族の誇りを失う者達の出現にハルピュイアは戸惑いを隠せない。田畑を抜けると立派な建物が視界に入ってきた。やはりノンウイングス達によるもので彼らは空を飛べる能力を失ったがそれを補う手先の器用さを得ていた。彼らの築いた建物は立派な造りをしている。ミカがその建物を近くで見て驚いたことがひとつあった。


 「この建物って布で出来ているの?」


 「布?フォフィーナのことですか?」


 フォフィーナとは天道のどこにでも生息しているフォフィスと呼ばれる生物の羽毛から取れる糸を編み合わせたものである。軽く強度のあるフォフィーナはハーピーの居住スペースをわける仕切りとして使われている。客間として通された居住スペースでミカはタカヒトとてんとの看病をしている。


 「屋根がなくて、なんか落ち着かないなぁ~。雨とか降らないよね?」


 フォフィーナが仕切りになっているだけで天井や屋根といったものはない。ハーピーは飛行亜人種であり屋根や天井などがあるとそのまま居住スペースに入れない為このほうが機能的で良いらしい。仲間意識の高さも強くプライバシーといった類はないのだろう。看病を続けるミカの居住スペースにハルピュイアが入ってきた。ハルピュイアの後を続いていくつもの皿がのせられた膳をハーピー達が持って入ってきた。膳をミカの前に置くとハーピー達は一礼して出ていった。


 「さあ、神の使者殿。お口に合いますか分かりませんがこちらの供物をどうぞ。」


 「その呼び方なんとかならないかな・・・ミカでいいよ。あと何故、こんなふうになってしまったのかを聞きたいんだけど、教えてくれる?」


 「恐れながらミカ様。我らハーピー一族はノンウイングスの出現により衰退の一途を辿っております。もちろんそれも神の意向ならば受け入れましょう。

 しかしながらそれはバードマンの討伐を行ったのちの話であります。奴らを倒し黒雲を取り除いたのち我ら一族は地上に降り立ち大地を愛し、その恩恵を受けながら末永く生きとうございます。」


 「バードマンに対するあなた達の考えは分かったわ。それでも話し合いでは解決できないの?同じ飛行亜人種でしょ。」


 ハルピュイアは苦虫を噛締めるような表情をした。数年ほど前にハルピュイアは和平の使者をバードマン一族に送ったらしい。しかし返答はおろか和平の使者は消息不明となっている。使者を殺めたと考えたハルピュイアはバードマン一族の討伐にこれまで準備を重ねてきた。


 「でもまだ確認が取れたわけではないでしょ?

  一方だけの話を聞いただけじゃあ・・・。」


 「奴らが殺めたに決まってます!・・・言葉がすぎました。お許しください。本日はお疲れでしょう。ゆっくりお休みください。」


 ハルピュイアはそういうとミカの居住スペースから出ていった。残されたミカは黙ったまま隣に寝ているタカヒトを見つめていた。


 「どうやらハルピュイア達の復讐心はかなり根の深いもののようだな。」


 「えっ!・・・てんと、いつから目を覚ましていたの?」


 「ハルピュイア達にここに連れて来られた時からだ。」


 てんとはムクッと起き上がるとミカに用意された食事の皿に手を伸ばした。ハーピーとバードマンの溝はかなり深く修繕は不可能である。ハルピュイアの話では近いうちにさらに激しい紛争が勃発することはてんとにも予測できた。


 「いずれ紛争に巻き込まれるであろう。ミカは神の使者なのだしな。」


 「からかわないでよ・・・でも、哀しいけどたぶんそうなるよね。」


 「鍵はタカヒトが握ることになる。

  紛争開始の前に意識を取り戻せばよいのだが・・・。」


 てんとはタカヒトを見つめた。マテリアルフォースを解くと元のてんとう虫の姿になった。キョトンとするミカにてんとは言った。


 「スカイハイランドの全貌を見ておく必要がある。」


 そう言い残すとてんとは居住スペースを出ていく。残されたミカはタカヒトの顔に触れながら不安感をなくそうとしている。それからほどなくしてミカは眠りについた。タカヒトに寄り添うように穏やかな表情で眠っている。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「おい、俺達をこんなところに連れてきてどうするつもりだ?」


 「先の戦い、貴様等の戦闘力の高さには驚かされた。

  そこで提案がある。俺の部下になれ。」


 「・・・お前が俺の部下になるならかまわんがな。」


 ドレイクは唾を吐いた。目の前にはバードマンが岩で出来た椅子に座っていた。周囲は薄暗く岩がゴツゴツしている感じにここが洞窟であるとドレイクは察した。バードマンは目の前にいる一匹だけである。ドレイクは極刀斬神刀の柄を握るとバードマンに襲い掛かった。


 「女の居場所を知りたくないか?」


 「!・・・・貴様!」


 ドレイクは斬神刀の刃先を降ろした。辺りにリナの姿は見当たらない。バードマンの余裕の笑みにリナが捕らえられていることはすぐに分かった。


 「それでよい。俺と共にハーピーを討ち滅ぼそうではないか!」


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