飛来する亜人種
そこはどう見ても天道には見えなかった。どちらかといえば地獄道に見える。ブネの背中から眼下に広がる大地を見ながらタカヒトはこれから襲い掛かる魔の手の事など思いもしなかった。ブネは降下先を捜していると割りと広い場所を見つけそこに着地した。
「ふう・・・やはり年じゃ・・・疲れたわい。さあオーブを破壊するのじゃ。」
ブネの言葉に黄色のオーブを掴むとドレイクは地面に投げつけた。激しく割れるとオーブは消滅していく。任務が一段落したブネは痩せ細った翼をいたわるように毛づくろいを始めた。周囲を見回したてんとは敵対する者がいないことを確認するとこのブロックでの情報を得ようとしたがブネの言葉にそれが叶わないことを悟った。ブネがこのブロックで都市や町、村らしき建物を一切見つけられなかったと言ったからだ。たしかにこのブロックに降りてから周囲を見渡したが原生林らしき森が広がっているだけである。
「ちょっとその辺りをドライブ・・・じゃなかった。探索してくるぜ!」
ドレイクはリナを連れてモービルウォーカーを走らせて森へと消えていった。残されたタカヒトとミカは疲れたブネを労わる為にこの地に天幕を張る。てんとはタカヒトとミカが張った天幕に入るとゴジャル・ドエラーノから手に入れた書物を読んでいた。
「てんと、ちょっとは手伝ってよ。大変なんだよ。」
「タカちゃん、そっとしておこうよ。あんなに真剣な表情で本を読んでいるのって見た事ないよ。私達だけでがんばろ。」
「えっ?・・・うん、そうだね。」
なんとなく顔を赤らめるミカを見つめ照れながら作業をしていくタカヒトは急に作業が愉しくなってきた。近くに泉がありふたりで水を汲みに行ったり薪を探しにも出かけた。こんな愉しい思いは人道でも味わったことがない。タカヒトは、いやミカも同じ思いであったのかもしれない。常にどす黒い空をしているセカンドブロックは朝なのか、夜なのか全く分からない。ただタカヒトの腹が鳴ったところを考えると夕食が近いのかもしれない。照れるタカヒトにミカは夕食の準備を始めた。火を起こしゴジャル・ドエラーノから貰った食料を使って料理を始める。湯気がモクモクとあがり鍋が煮えてきた頃、ドレイクとリナを乗せたモービルウォーカーが戻ってきた。
「良かったわね。夕食には間に合ったようだわ。」
「丁度、腹が減っていたところだ。はやく食わせてくれ。」
テーブルに着くなりドレイクは用意されていたスープに顔を寄せガッツクように食べ始めた。その食べ方にはさすがに赤玉もひいていた。
「そんなにガッツカなくても誰も取らないぜ!」
「実はね・・・」
リナからドレイクの異常な行動が何故起こったのか?それは数時間前の事だった・・・ドレイクがここを出発してからどれくらいの時間が流れただろうか?変わらない景色に少し飽き飽きしていた時、飛行体の影がドレイクの視界に入った。モービルウォーカーを停止させ上空を見るとそこにはフクロウの顔をした亜人種がいた。鳥のような翼を持ちながらも身体は限りなく天道人と同じ姿である。灰色の身体に大きな目は赤色一色であった。ドレイクは彼らのことをバードマンと呼んだ。バードマンは周囲が暗くなった頃に現れた。獲物を見つけたバードマンは急降下して襲い掛かってきた。ドレイクの持つ茶玉は空中への攻撃は不得手でリナの持つ牡丹玉での雷撃を中心とした攻撃を展開していく。
「リナの雷撃ならさほど強敵でもなかろう。」
「いいえ、バードマンに私の雷撃は通じなかったわ。」
リナの話は続いた。牡丹玉は雷の属性を持ちその力がもっとも発揮されるのは空中である。障害物のない空中こそが雷撃を自在に操れるのだ。最大級の雷撃を放つリナに対して防御らしきことをせず直撃を受けたはずのバードマンはまったくの無傷だった。ソウルオブカラーが通用しない相手にドレイクとリナはマテリアルフォースのみで対抗しなければならない。だがここにきて致命的な欠点をさらすこととなった。ドレイクの極刀斬神刀もリナの大地の鞭も対接近戦用の武器であり、上空を浮遊するバードマンには無意味に近い。しかもバードマンは急降下してその鋭い足爪で攻撃しては急上昇していく。ヒットアンドアウェーを的確に繰り返し獲物の体力を少しずつ奪っていく。逃げることも闘うことも出来ずに防戦一方のドレイクとリナは体力を奪われるのにそう時間はかからなかった。
「どうやってここまで逃げ切れたの?」
「それはね・・・」
バードマンの攻撃は途切れる事なくしかも正確に繰り返された。鋭い足爪をドレイクの極刀斬神刀で受け止めリナの大地の鞭で迎撃を繰り出すがヒラリとかわすと上空へと逃げていく。最悪の状況にドレイクが撤退の行動を起こそうとした時、別の飛行物体の影が目に映った。状況は更に悪化したと考えたドレイクは茶玉の能力で地面にクレーターを作るとその中にリナと愛車モービルウォーカーを入れた。クレーターのまわりを覆うように土を被せていくと簡易なシェルターを築いた。
完全な避難態勢と取るドレイクは意外な光景を目の当たりにした。バードマンの仲間だと思い込んでいた別の飛行亜人種がバードマンと空中で戦闘を始めたからだ。バードマンと同じ亜人種に見えるが顔は人間の女性のように見え全体的には鷲の姿をしている。腕のある部分から翼が生え鋭い足爪が印象的だった。それは天道で伝説となっている亜人種ハーピーである。ハーピーとバードマンは鋭い足爪で互いに切り付けあっていくと次第に血が流れていく。距離を取るハーピーとバードマンの戦闘力は全くの互角。ひと時の時間が流れた頃、ハーピーとバードマンはそのまま相反した方向に飛んでいった。
「なるほど、つまりこの世界にはハーピーとバードマンと呼ばれる飛行亜人種がいる。そして彼らはなんらかの理由で対立しているというわけか。とはいえ、ドレイクとリナがここまで手こずるとは相当の使い手であることはたしかだな。」
「ふう~~、食った、食った・・・てんとの言う事は的を得ているが奴らだけがこの世界を支配しているとは思えんな。」
「どういう意味だ?」
ドレイクは水を一気に飲み干すとグラスをテーブルに置いた。飛行亜人種に劣勢を強いられながらもドレイクは戦況を冷静に分析していた。対戦中のバードマンやハーピーのほかに森の奥深くに強い気配を感じていた。それは冷酷で残忍でもある強い気質だったという。
「バードマンやハーピーとはまったく異質なものだった。恐ろしい殺気・・・警戒すべきはアンノウン(未知の生命体)の存在だ。」
ここにきて第三の亜人種の存在が明らかにされた。バードマンは単体で行動する亜人種でありハーピーは複数匹で行動する亜人種のようだ。現在分かっていることはこれだけである。天幕を張ったもののバードマンやハーピーの襲撃を警戒したドレイクは天幕の外に出て茶玉を発動させた。地面が割れるように掘り下げられていくと天幕が地中に収まっていく。そして天幕の頭上を土で覆いシェルターを築いた。先の戦いでドレイクがバードマンやハーピーから身を守ったシェルターである。
「とりあえず身の安全を確保することができた。
だがブネの身を保障が出来ないな。」
共に移動してきたブネは大型でシェルターに身を隠すことが出来ない。タカヒトとミカが心配する中でブネは意外にも冷静だった。
「大丈夫じゃ・・・実はワシ、このセカンドに以前来た事があるのじゃ。これより東の方向に亜人種のいない小さな島がある。ワシはそこで身を隠しながら独自にオーブを捜すことにする。」
闇に支配された現在、ブネは飛行することは出来ないがこの闇の世界でも明るい時間帯はあるらしい。その時間になるまでここに留まるとブネは言う。タカヒト達はブネの安全を考慮しながらこの地で夜を明かすことにした。
「なんじゃ?眠れないのかい。」
「ううん、じいちゃんのことが気になってね。」
「ホホホ、お主は優しいのじゃな。」
「えへっ!」
白タカヒトは鼻の下を指でこすりながら照れていた。シェルターの外で一夜を過ごすブネを心配してきたのだ。すでにタカヒトは深い眠りに入っていて白玉が意識を支配することは簡単なことであった。ブネは身を丸めその中に白タカヒトを入れた。不気味なほどの闇夜に何が現れても不思議はなかった。実際、白タカヒトも森の奥深いところで氷のように冷たい気配を感じ取っていた。警戒していたものの、それは近づいてくることはなかった。
暗黒の闇から薄暗い空になっていき夜明けを感じた白タカヒトは眠っているブネから離れるとシェルター内に戻っていった。夜が明けたとはいえ薄暗い空にタカヒトは目をこすりながら身体の不調を訴えた。もちろんタカヒトには白玉が夜な夜な活動していたことなど分かっていない。
「タカちゃん、どうしたの?眠れなかったの?」
「ううん・・・眠ったんだけど・・・眠った気がしないんだ。」
「眠ったけど眠った気がしない?」
「昼夜の差がないから眠った気がしないだけかも知れないね。」
確かにこのセカンドブロックには太陽のようなものはない。ブネの話ではこのブロックはほかのブロックとはかなり離れた位置にあり、天道の太陽である天光の光が届きにくい位置にあるらしい。しかも空を覆う雲が異常に厚く届きにくい光がさらに遮られる結果となっている。周囲を警戒しながら地上に出るとすでにブネの姿はなかった。タカヒト達はドレイクの愛車に乗り込むとさらなる情報を得る為に森へ向かっていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その頃、他のブロックでは次々と破壊神七十二布武達の軍勢がオーブを奪取していた。全体では三割のブロックでオーブの破壊に成功しており破壊神リディーネにその事が知らされていた。
「まあまあね。オーブ奪取破壊に失敗したブロックはどうした?」
「はっ、すでに援軍を投入済みでございます。」
アスラの報告に破壊神リディーネは納得した様子だった。だがオーブ奪取破壊に成功しつつあるとはいえ、天道軍の四天王や空は現れてはいないことを考えるとまだ余力を残していることは確かだった。
「油断は禁物よ。警戒しつつ進軍しなさい!」
激を飛ばすとアスラは一礼して本陣から出ていった。破壊神リディーネは王座に座ると激務にため息をついた。破壊神としてリディーネに対する信頼などは地獄軍の者達にとってほとんどない。リディーネについていく理由は天道への報復とあわよくば天道に成り代わり地獄道が支配した時に幹部への取り入れを期待してのことであった。破壊神七十二布武に勝利したリディーネはたしかに実力があるが七十二布武のほとんどは利権を考え敗北を受け入れたのだ。利よりも損が増したと判断した場合、七十二布武は簡単にリディーネを裏切るだろう。もちろんリディーネ自身そのことは百も承知している。七十二布武の協力を得た理由は先の大戦で地獄道の猛者を失い強力な軍事力を得るにはそれしかなかったからである。信用できる者はアスラ以外にはいない。リディーネに王座の椅子はあまりにも冷たく重く押しかかっている。そんな時にリディーネの脳裏を過ぎることはタカヒト達と過ごした愉しい日々であった。もう二度と会えない彼らとの思い出だけが今のリディーネを支えている。今の現状を彼らが知ったら助けに来てくれるはずだとリディーネは信じてそれだけを支えにその鋭い眼光は天道の頂点であり先代破壊神を殺した復讐すべき敵、ピサロに向けられていた。