ごう慢な城
「わらわは城主である。このブロックでもっとも偉いのである。してそのわらわに逆らう輩は何処におるのじゃ?」
「はっ、ゴジャル様に逆らう・・・」
「ちょっと待て!ゴジャルとはなんぞや?」
「はっ、失礼つかまつりました。ゴジャル・ドエラーノ様に逆らう輩は城を取り囲んでおります。いかがなさいましょうか?」
「いかがもへちまもないでおじゃる。
わらわに逆らう輩は首を差し出すのが決まり。」
ゴジャル・ドエラーノの命令に兵士達は城で唯一ある正門に集結した。鉄壁の守りを誇るこの城であるが門を開けて攻撃に移ろうとしている。正門が開かれると武装した兵士達が行軍を開始してきた。
「おいおい、鉄壁の守りはどうしたんだ?
これじゃあ、入ってくれって言っているようなもんじゃねえか。」
長すぎる槍を突き上げた兵士達の後を馬らしき生物にまたがった兵士が続いてきた。数にして数百名はいるであろう軍隊はタカヒト達に向かってきた。槍を構え前進してくる兵士達を見た赤玉が声をあげた。
「あの程度で俺様に楯突こうってわけか?身の程を知らせてやるぜ!」
「おいおい、お前はさっき暴れただろ。今度は俺の番だ!」
ドレイクは赤玉を押しのけると斬神刀の柄を握り締めた。するとドレイク目掛けて一斉に槍を構えた兵士達が襲い掛かってきた。ドレイクは右拳が腰のすぐ右横におき、右足を一歩下げて腰を落とした。剣先は後ろ下方を向き、正面からみると剣が見えなくなる脇構えの体勢を取った。その体勢から斬神刀を一気に振り上げると向かってくる兵士達に振り下ろした。剣風により発生した突風は向かってくる兵士達を吹き飛ばしていく。恐ろしすぎる光景に兵士達は一瞬状況を把握できていなかったが我に返ると叫び声をあげながら撤退していった。
「ふぅ~・・・ストレス解消にはやっぱりこれだな。」
「おい、ドレイク。ストレス解消もいいが撤退した兵士に再び門を閉じられたら中に入る手段がないぞ。」
「・・・・ヤバイな・・・」
慌てて兵士達を追いかけるドレイクにてんとは冷静に対応していた。ドレイクが門に辿り着くと兵士達は撤退していったが門は開いたままであった。てんとの指示で白タカヒトがすでに閉門を阻止していたのだ。てんと達を乗せたモービルウォーカーが門に到着した。
「てんとの機転がなかったらまた足止めされるところだったわね。」
リナのキツイ一言にドレイクは黙ったままモービルウォーカーに乗り込んだ。門を通り抜け城内に入ると白タカヒトが笑顔で立っている。周りには数名の兵士達が倒れている。どうやら白タカヒトの襲撃を受けたらしい。圧倒的な力の差を見せ付けた白タカヒトは右腕を差し出すと中へ入るように促した。モービルウォーカーが中に入っていくとその後を追ってきたブネも中に入る。皆が入るのを確認した白タカヒトは正門を閉じた。王室では兵士達がゴジャル・ドエラーノに撤退を促していた。
「このわらわに城を捨てよと申すとは何事じゃ。お前らは打ち首じゃぞ、打ち首!」
「はっ、しかし我が精鋭隊はたった一人の者に敗北し城内への侵入を許してしまいました。王室への侵入も時間の問題。即刻、撤退の判断を!」
「ええぇ~いい、腑抜けどもが!わらわは城主である。
逃げるなどもってのほかじゃ!」
「あのぉ~・・・お話中のところ申し訳ないんですけど・・・。」
「タカヒト、そんな言い方じゃあ駄目だ!そこのわらわ!オーブをよこせ!」
タカヒトを押し退けてドレイクがゴジャル・ドエラーノを指さした。ドレイクとタカヒトを見た兵士達は腰を抜かし両手を震わせ、頭上に突き上げた。降参する兵士達の頭を扇子で叩いていく。
「この腑抜けどもが!わらわを侮辱したあの者どもをひっ捕らえるのじゃ!」
すでに戦意を喪失している兵士達にはゴジャル・ドエラーノの命令は届いていない。顔を真っ赤にさせ、怒りを表したゴジャル・ドエラーノは兵士の持っている剣を握ると襲い掛かってきた。しかしゴジャル・ドエラーノは扇子より重いものを持ったことがない。怒りで剣を振り上げたものの、その重みを支えきれずゴジャル・ドエラーノはよろけると後頭部から床に激突した。あまりの激痛にゴジャル・ドエラーノは転がりまわっている。
「大丈夫?」
激痛に苦しむゴジャル・ドエラーノにミカが優しく声をかけた。するとゴジャル・ドエラーノはミカをジッと見つめ、急に立ち上がるとミカの手を握った。
「おお・・・こんなところにわらわの花嫁がおったとは。いや、言わずともよい。わらわに従い着いて参ればすべての幸せを手に入れることもできよう。さあ、わらわの嫁に・・・」
ミカに近寄るゴジャル・ドエラーノに赤タカヒトの鉄拳が浴びせられた。後頭部はすでに晴れ上がっていたが赤タカヒトの鉄拳に前頭部も晴れ上がった。なんとなくバランスのとれたゴジャル・ドエラーノであったが激痛に怒りが込みあげた。
「何をするのじゃ!打ち首、打ち首にせよ!」
「けっ、何を言うかと思えばミカを花嫁にするだと!
いいか、良く聞け、このわらわ野郎!ミカはな、タカヒトの嫁になるんだよ。
てめえなんかに入り込める隙間はねぇ!」
「えっ?・・・どういうことなの?」
「どういうことってそんなもん決まってら!タカヒトがそう言ってんだからな!」
(赤ちゃん、それってタカヒトと内緒の約束だったよね?)(白玉)
「しょっ、しょうがねえだろ。言っちゃったもんはよ!
・・・タカヒト、すまねえ!」
(・・・・・・・)(タカヒト)
真っ赤な顔のミカと何も語らない意識の中のタカヒトに赤タカヒトは挙動不審になり、目の前にいるゴジャル・ドエラーノに「おまえが悪い!」とさらに頭を殴った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「花嫁のことは諦めるでおじゃる。しかし城はわらわのものじゃ。できることなら・・・とりあげないでほしいでおじゃる。」
「別に城に興味はない。ほしいのはオーブだけだ。」
真っ赤に腫らした顔のゴジャル・ドエラーノにてんとが言った。ゴジャル・ドエラーノは渋い顔をした。てんとは城と同様にオーブも渡したくないものであるとすぐに察した。出来ることなら力づくだけは避けたい。ゴジャル・ドエラーノはそれからずっと黙ったままでドレイクはてんとの顔を見つめると斬神刀の柄に触れた。仕方なくてんとは最後の言葉をゴジャル・ドエラーノにかけた。
「私達はどうしてもオーブが必要なのだ。渡してはくれないか?」
「漬物石に丁度良かったでおじゃる。手放したくはないでおじゃるなぁ~。」
ゴジャル・ドエラーノは「オーブで漬ける漬物は格別だ。」と豪語した。しかし城を明け渡さない条件を聞き入れてくれるのならば手渡す考えがあるらしい。てんとはもちろん条件を受け入れるとゴジャル・ドエラーノは兵士のひとりにオーブを持ってこさせた。鈍い黄色の光を放つオーブは少し漬物の匂いがした。オーブを手にしたタカヒトはジッと見つめているとミカが声をかけてきた。
「タカちゃん?どうかした?」
「ううん・・・
漬物の匂いがなんとなくお母さんの作ってくれた漬物と同じ匂いがしたから。」
「はやく戻って心配しているお母さんを安心させないとね。」
ニッコリ笑うミカにタカヒトも元気を貰うと次のブロックへの旅立ちに胸を膨らませた。てんとはオーブの詳細をゴジャル・ドエラーノから得ていくと不思議な事を言った。ゴジャル・ドエラーノはオーブをピサロから渡されたらしいのだが当初ゴジャル・ドエラーノは宝石と勘違いして持ち歩こうとしていたらしい。
「あなたの食へのこだわりには感服いたしましたわ。これは漬物石として調理室で使うように差し上げます。天道一の漬物を漬けてください。楽しみにしています。」
何故、ピサロは漬物石として使うように指示したのか?てんとには皆目見当がつかなかった。しかしピサロが何を考えていようともオーブを手に入れたことだけは事実である。城内で待機していたブネにオーブを得たことを伝える。
「ところでオーブを手に入れた後はどうするつもりだったのだ?」
「オーブを手に入れた後、
我らは次なるブロック セカンドに向かう予定であった。」
ブネはすべてを話した。このファーストからセカンドブロックに移動するにはオーブの力が必要らしい。移動は実に簡単なことでオーブを所有しながら上空へ飛行していけばよいのだという。ブネの協力を得てセカンドブロックへの移動を計画していく。
「行くでおじゃるか?ならば旅立ちを祝して宴でおじゃる。」
ゴジャル・ドエラーノの計らいで宴が催されることになった。ドンチャン騒ぎの宴も中盤にさしかかり、兵士達とタカヒト達は踊り始めた。兵士の踊りを真似しながらタカヒトは愉しく踊っているとほかの兵士がミカを連れてきた。笑顔の兵士はミカの背中を押すとタカヒトの前に倒れそうに歩いてきた。ミカを支えたタカヒトだったが先の赤タカヒトの失言を思い出すと急に恥ずかしくなった。真っ赤な顔をするタカヒトにつられてミカの顔も赤く染まる。流れる音楽が聞こえないようにふたりは黙ったまま動けずにいる。
「ほら、タカヒト。
ミカが困っているでしょ!ちゃんとリードしなさい。」
立ちんぼのふたりにドレイクと踊っているリナが声をかけた。タカヒトがリナに目を向けるとドレイクが右手の親指を立てた。震える手でミカの手を握るとぎこちないフォームではあったが少しずつ動き始めた。しかしあまりにも下手なリードにしびれを切らした赤玉が声をかけた。
(かぁ~、下手にもほどがあるぜ。
ここはひとつ俺様が見本を・・・何しやがる?)(赤玉)
(いいんだよ、赤ちゃん。邪魔しなくて!)(白玉)
(その通りだ。ふたりに任せておけばいい)(紫玉)
(でもよぉ~・・・)(赤玉)
心配する赤玉を無視して白玉と紫玉はふたりを見守るように見ている。最初はぎこちない踊りをしていたタカヒトだったが少しずつ慣れていくと愉しそうに踊っている。ドレイクが、リナが、ミカが、そしてタカヒトが愉しく踊っている最中、てんとはオーブの配置されていた厨房にいた。鈍い黄色の光を放つオーブを持ち厨房に入るとその光は更に強いものになっていった。
「なるほど、そういうことか。ピサロの考えが少し分かってきたぞ。」
てんとは何かに気づいたようで厨房を後にすると城内の書庫に入っていった。書庫には数多くの書物が所狭しと本棚に詰め込まれて、てんとが知りたい情報のほとんどがそこにあった。探究心をくすぐられたてんとは書物を読みあさっては知識を得ようとしていた。遠くから宴を楽しむ音楽や声が聞こえてくるとそれをBGM代わりに明け方までてんとの探求心は続いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の朝、眠い目をこすりながらタカヒトは城内の庭にいた。すでに皆の準備も整っておりブネの背にはタカヒト達が乗り込む巨大な籠が取り付けられていた。足元にはドレイクの愛車が置かれブネが愛車を足で文字通りわしづかみして持っていくらしい。このことにドレイクは激怒したがそれ以外にセカンドブロックへモービルウォーカーを持っていく手段もなく、仕方なくドレイクは承諾した。
「寂しくなるでおじゃるな。また近くに来る事があったらよるでおじゃるよ。」
涙を必死で堪えるゴジャル・ドエラーノや兵士達に手を振るとタカヒト達を乗せたブネが大きな翼を広げ浮遊していく。更に翼を羽ばたかせると上昇して天高く飛んでいく。風が速度を上げる度に強く頬に当たってくるとタカヒト達は籠の中に身を隠した。
「さあ、速度も十分達したようじゃ。オーブを我が頭上に向けて照らすのじゃ!」
てんとが風圧に耐えながら立ち上がりオーブを天高くあげると黄色の輝きが増してブネを包み込んだ。黄色の輝きは風圧をかき分けて新たなる扉を開けていった。風圧は消えどす黒い空に包まれた空間はまるで地獄道とも思えてきた。速度を落としたブネはゆっくりと高度を下げていくと言った。
「どうやら辿り着いたようじゃ・・・ここが次なるブロック セカンドじゃ。」