色玉達の力
完全な勝利を手にした赤タカヒトはグラシャラボラスから視線を離すと残りの魔物を見た。だが残った魔物のシュトリもブネも驚いた表情はまったくない。
「弱いくせにシャシャリでるからこういう結果になるんです。次は私が行ってもよろしいかしら?」
ブネは何も言わずシュトリはそのまま赤タカヒトに歩み寄っていく。荒々しい豹顔にグリフォンの翼が神々しくスラッとした長身からは優雅ささえ見える。その姿を見た紫玉が口を開いた。
(どうやら私の出番のようだな。)(紫玉)
「ちぇっ、しょうがねえな。変わってやるか。」
(アレ?赤玉にしては聞き分けがいいね。
いつもと違うけどどうしたの?)(タカヒト)
(どうやら私の能力がどの程度向上したのかを見極めたいようだな。)(紫玉)
「そういうことだ。」
(へぇ~、おバカな赤ちゃんでもそういうとこあるんだ。)(白玉)
「うるせえ!バカは余計だ。ったくよ~・・・んじゃあ、変わるぜ。」
赤髪と赤い瞳を持つ赤タカヒトから紫色の髪に瞳を持つ紫タカヒトに変わっていく。紫タカヒトは腰に吊るしてある狂刀羅刹を手にするとそれは薙刀に姿を変えていく。軽く薙刀羅刹を振り回すと刃先をシュトリとは逆の方向に向けた。シュトリからは刃先が見えない構えである脇固めだ。この構えにはシュトリは失笑した。
「フフフ、隙だらけですわ。倒してほしいと言わんばかりですわね。」
「そう思うなら攻撃してきたらどうだ?」
「・・・そういたしましょう。」
ジリジリと距離が縮んでいくとシュトリは鋭い両手の爪を上下左右に振りまわした。鋭い爪から生み出された真空の刃が紫タカヒトに襲い掛かる。しかし紫タカヒトはその場から動こうともせずにジッとカマイタチを受け続けた。頬を切りつけられ、手足にもカマイタチの刃が切りつける。それでも紫タカヒトは微動だにしない。
「ホッホッホッ、この程度の攻撃でもう降参かしら?
案外大したことはなかったわね。」
「・・・・そうだな。大したことはなかった。」
紫タカヒトは薙刀羅刹の刃を背面に向けている。つまり柄がシュトリに向いているということだ。一瞬、薙刀羅刹の柄が紫色に輝くとシュトリは腹部に痛みを感じた。腹部に目を向けると紫タカヒトの持つ薙刀羅刹の柄から発せられた紫色の光が突き刺さっていた。
「ターゲット・ロックオン!」
突き刺さった紫色の光に身動きが取れないシュトリに紫タカヒトは背面に向けていた薙刀羅刹の刃を上段から振り下ろした。紫色の刃圧が突き刺さる紫光に沿ってシュトリに向かっていく。両腕で防御するシュトリに紫色の刃が襲い掛かった。だがシュトリにはダメージはなく、防御した両腕も負傷を負ってはいない。
「そのまましばらく動かずにいることだ。
そうすれば切れた細胞も元通りに戻るだろう。」
「細胞?戻る?ワケのわからないことを。勝った気かしら?」
シュトリは両腕を下ろし紫タカヒトに襲い掛かった。次の瞬間その場に倒れこんだシュトリ自身、何が起こったのか理解できていない。足元を見ると両脚がシュトリとは離れた位置にあった。いや、両脚だけではない。両腕も翼も地面に落ちている。首だけになったシュトリは歩み寄ってくる紫タカヒトに言った。
「何もわかっていなかったのは私のようでしたわね・・・完敗だわ。」
そういい残すとシュトリは目を閉じた。紫タカヒトは何も言わずに意識を白玉へと移すと白髪に白い輝きを放つ白タカヒトが現れた。久しぶりの肉体に白玉は嬉しくてスキップしている。その様子をジッと見つめる魔物が一匹残っていた。ブネである。ブネは人と犬とグリフォンの三つの顔を持ち、ドラゴンの身体を持つ魔物である。巨大で強靭なドラゴンの身体を持つブネは高度な頭脳も持ち合わせている。破壊神七十二布武二十六位に甘んじてはいるがそれは実力とはかけ離れていた。
「さあ、じいちゃんの相手は僕だよ。大丈夫?闘える?」
「ホホホ、ワシのことを心配してくれるとは嬉しいの。じゃが心配するのは主のほうじゃぞ。さあ、かかってくるがよいわ。」
白タカヒトよりも数十倍も大きな身体のブネは巨大な脚で踏み潰そうとした。紙一重でかわした白タカヒトはブネの頭上へと浮遊した。
「じいちゃんのくせにいきなり酷いことをするんだね。」
「ホホホ、挨拶がわりじゃ。なかなか良い動きをしておる。」
「でしょ!結構スピードには自信があるんだ。」
「ほう・・・ならばこれならどうじゃな?」
ブネは重量感ある身体を回転させると大木よりも太い尻尾を振り回した。白タカヒトはスルリとそれをかわすと笑みを浮かべた。だがその視界に青緑の物体が入ると体勢を崩しながらもなんとかそれらをかわした。尻尾を振り回しながら鱗までも飛ばしてきた二段構えの攻撃に白タカヒトは翻弄されていく。
(なにやってんだ!はやく攻撃しろよ。)(赤玉)
「簡単に言うよね。尻尾の攻撃に鱗まで飛ばしてきてさ。しかもあの鱗、ブーメランみたいに戻ってくるんだよ。かわす度に数が増えてきてかわしきれないよ。」
白タカヒトの防戦は続く。尻尾の直接攻撃に飛ばした鱗はかわしてもかわしてもまるで意思を持っているかのように襲い掛かってくる。ブネは飛ばした鱗の軌道を確認しながらそれが白タカヒトに襲い掛かるように計算して飛ばしていた。つまりかわした数だけ襲い掛かってくるのだ。焦る白タカヒトに紫玉がアドバイスをした。
「さすが紫玉だね。わかった、それでいくよ!」
白タカヒトは上空高く飛び上がると襲い掛かってくる鱗が一直線状に白タカヒト目掛けて飛び上がっていく。それを確認すると白タカヒトは上昇を止めて、一気にブネ目掛けて急降下していった。やはり鱗もそれに合わせるように急降下していくと地上にいるブネに向かっていく。白タカヒトはニヤリと笑いながらブネに向かっていく。
「そうじゃろうな。それしか手はあるまいて。じゃが、鱗をワシにぶつける作戦は失敗するじゃろうな。」
ブネは急降下する白タカヒトに向かって鱗を飛ばした。すると白タカヒトは急降下を止め、ブネから放たれた鱗を回避する。ブネから放たれた鱗と急降下してきた鱗が激突すると木っ端微塵に砕け散った。したり顔をする白タカヒトにブネは言った。
「なるほどのぉ~。そうきたか。じゃが、その程度ではワシの次なる攻撃をかわせはせんぞい。」
「じいちゃん、次の攻撃は何をするつもり?」
「ホホホ、敵に手の内を見せる者はおらんじゃろ?ワシには三つの頭脳があるのじゃ。どのような攻撃手段も瞬時に判断し、行動に移せるのじゃよ。」
「三つって、じいちゃん以外もういないよ。ほかのは・・・意識ないみたいだし。」
「?・・・なっ、なんじゃと!」
「えへへ、びっくりした?トップスピードを少し見せちゃった。」
一指し指で鼻の下を擦る白タカヒトにブネは驚愕した。人と犬とグリフォンと三つの頭脳を持つブネであるがすでに犬顔とグリフォン顔は意識を失っていた。白タカヒトは鱗同士を激突させる事が目的ではなかった。ブネに鱗だけに注意がいくように引き付けると残像だけをその場に残し、瞬時に移動するとブネの犬顔とグリフォン顔に衝撃波を浴びせ、再び何事もなかったかのように空中へと戻っていた。犬顔とグリフォン顔が意識を失ったことにすら気づかないブネは圧倒的な戦力の差に身を震わせていた。完全に戦意を喪失したブネは攻撃姿勢を解いた。
「なんと!これほどの差があろうとは。やつの力は破壊神七十二布武の上位にも匹敵するわい・・・ワシから提案がある。ここは共同戦線を張ろうではないか?」
「えっ、共同戦線?」
ブネはそう提案してきた。ブネ達の目的は城の内部にあるオーブを身体に吸収してセカンドへと進軍していく予定であった。そこにタカヒト達が現れたというわけだ。白玉はタカヒトへ意識を戻すとミカ達のもとへ戻る。ブネはタカヒト達の前に膝をつくと自らの目的を語りだした。
「もしワシを見逃してくれれば城の宝はお主達に渡そう。ワシはセカンドへと進軍することが目的なのじゃからな。」
「宝って僕達は盗賊とかじゃないよ。それに僕達もオーブを身体に吸収してセカンドへ行くつもりだったんだ。」
「なんじゃと!ワシと目的は同じではないか。ならば話は早い。早速城を破壊してオーブを手に入れようではないか。」
「ちょっと待て、ジジイ!てめえ、何をそんなに急いでんだ!」
「ジジイ・・・若者は言葉を知らんの。まあ、いいわい。」
ドレイクの言葉に少し苛立ちながらもブネはセカンドへと急ぐ理由を説明した。それは各ブロックのオーブに関係する。タカヒト達がブロックを移動するにはオーブを身体に吸収しなければならない。だがオーブには本来の目的がある。それはオーブ自体が各ブロックのエネルギーを吸収するものだということだ。
「つまり各ブロックのエネルギーをオーブが吸収を終了すればそれはキングダムシティに転送されるということなのか?」
「そうじゃ。各ブロックのエネルギーが集まり創造神システムの完全起動が完了する。それを阻止すべく、我ら破壊神七十二布武はオーブを破壊しながら次のブロックへと移動していくことが今回の作戦の中枢となっておる。」
キングダムシティを取り囲むブロックは無数にある。すべてのエネルギーを吸収することにより創造神システムが完全起動されるとはてんと自身知らなかった。だが希望も見えた。完全起動されなければタカヒト達の四神でも十分に闘えると確信できた。ブネは城を見つめると言った。
「まずはあの城のオーブを奪取することじゃ。」