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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
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錆び付いた修理工町

 ミカとてんとはゴルドの後ろを歩いていく。少し広いコンクリートの廊下には失敗した機械人形であろうか、至る所に残骸が散ばっている。足の踏み場もない廊下をミカは気をつけながら歩いていくとゴルドが鉄製のドアの前に立ち止まった。ドアを開ける前に壁にあるパネルのスイッチを押すと「カチャ」とドアロックの外れる音がした。ゴルドが鉄製のドアを開けると突き刺さるような薄桃色の光にミカとてんとは目を細めた。


 「タカちゃん!」


 薄桃色の光に包まれたその部屋にはタカヒトとドレイク、リナが動けずに床に膝をつき苦しんでいた。タカヒトに近づこうとしたミカを制止するとゴルドは部屋隅に設置されていた高濃度重力噴霧機のスイッチを押した。薄桃色の光は消え、重力から解放されたタカヒト達はその場に倒れた。


 「タカちゃん!」


 「大丈夫だよ・・・ちょっと疲れただけだから。」


 笑みを浮かべるタカヒトにミカはしがみついた。ゴルドは指を「パチッ」とならすと部屋に機械人形が数体入ってきた。警戒するてんとにゴルドは落ち着いた様子でタバコに火をつける。機械人形達は倒れたドレイクとリナを抱きかかえると部屋を出ていった。タカヒトにしがみつくミカの前に機械人形は膝を曲げてしゃがむとタカヒトを抱きかかえ部屋を出ていった。独り残されてキョトンとしているミカにてんとが声を掛けた。


 「ミカ、我々も行くぞ・・・? どうしたのだ?」


 「・・・・今、人形が笑ったよ。」


 「・・・どれ、ワシらも行こうかの。」


 ゴルドはふたりに声をかけると部屋を後にした。タカヒト達の運ばれた部屋にはベッドが用意されておりそこに寝かされる。ミカはタカヒトに寄り添うようにベッドの隣に座るが疲労が蓄積されているらしくスヤスヤと眠っていた。


 「しばらくは眠っておるじゃろ。身の回りのことは機械人形 癒しに任せて・・・

どうじゃ、ワシとラスでもせんか?」


 ゴルドがラス盤を手に問いかけるとてんとは椅子に座った。ラスとは天道で古くから遊ばれているゲームで碁盤上に白と黒のピンを並べる陣取りゲームである。ゴルドは黒ピンを手に取ると碁盤上に置いた。続いて、てんとが白ピンを手にするとしばらく考え碁盤上に置く。ピンの配置が繰り返され白と黒の布陣が整っていくとゴルドが口を開いた。


 「なかなか、スジがいいのぉ~・・・じゃが勝ちを急ぎすぎじゃな。」


 「最小限の力で最大限の結果を得る事に問題があると考えか?」


 「いやいや、戦術や戦略においてそれは重要な事。じゃが急いては事を仕損ずる事もある。すべての事柄が自分の思い通りにいくとは限らんからのぉ~。」


 てんとは徳寿にも過去に同じ事を言われたことを思い出した。てんとの戦略は常の機密に計算されたものであるが戦況が著しく変化すると簡単に崩れることがある。故にてんとは常に代替の戦略を練り対応してきた。対応力の速さと素早い決断力は急展開する戦況にも常に良い戦果をあげてきた。てんと自身、出来事を急ぎすぎていると言われれば否定は出来ない。しかし徳寿の命がかかっている以上のんびりもしていられない。ピンを手にしたまま考え込んでいるてんとにゴルドが言った。


 「どうしたのじゃ?主の番じゃぞ。」


 「!・・・ところで何故このような場所に?機械人形を作らねばならないほどこの町は危うい。地獄道の襲撃にでも?」


 てんとの言葉にゴルドは眉間にしわを寄せる。ピンをテーブルに置くとゴルドは立ちあがりタバコに火をつけた。


 「地獄道の者は襲撃に来ていない・・・」


 今から数十年前の事である。この地区は天道の首都であるキングダムシティから最も遠いブロックの更に外側にある。当時この地区では農業を糧に人々は生活していた。彼らはより農業を進歩させる為にキングダムシティに数名の技術者を派遣して機械技術を学ばせた。数年が経ち派遣した技術者達が戻ってくると農機の開発が始まった。日進月歩、農業は進歩していくと未開拓地にも開発が行われ、緑の国エメラルドが創立された。修理工町は緑の国エメラルドを支える機械修理工場として技術者達が終結して創られた町である。キングダムシティで得た技術を独自の技術でさらに進化を遂げていた。瞬間移動装置・高濃度重力噴霧機・機械人形そして超伝導列車の技術。それら高い技術を快く思っていない人物がキングダムシティにいた。


 「ピサロ・・・。」


 ピサロは急成長していく緑の国エメラルドに懐疑心を持ち始めた。天道の首都であり世界の中心であるキングダムシティが片田舎である緑の国エメラルドに劣ることは許されない。ピサロはエメラルド国王を呼びつけると独自の技術を査閲させるように伝えた。そして腕のある技術者達を引抜きキングダムシティの技術強化に力を尽くすように命令した。


 「ワシにもその命令は来たがワシは拒んだ。この緑の地で皆と生活し終の棲家として最後を迎えたかったのじゃ。もちろんピサロ様は許してはくれなかった。」


 ゴルドが拒んだ事をピサロは反逆罪とした。エメラルド国王も罪人をかくまった罪で天道に収監されることになる。天道の兵士達が緑の国エメラルドを討伐したのはそれからまもなくのことであった。恐怖に脅えた修理工町の住人達は他国へと避難して残ったのは数名の老人達だけであった。罪人となったゴルドはこの廃墟の工場に潜り込み最新の技術でピサロ達の追撃から身を隠していた。機械人形は紅蓮のような戦闘モデルもあるが癒しのような家事手伝い用の機械人形がほとんどでゴルドの身の回りの世話をしてくれているらしい。人とのふれあいに飢えていたゴルドは癒しに表情を作ることで寂しさを紛らわせていた。ミカの見た機械人形の笑顔はこのことだったのだ。


 「機械のメンテナンスをしていた時にお主達が工場に侵入してきたのを知った。ピサロ様が兵士を送りつけて来たと勘違いして攻撃を仕掛けたというわけじゃ。」


 「そういうことだったのか。」


 「ドレイク・・・もう起きても大丈夫なのか?」


 「ああ、寝れば疲れなんざとれる。ところで超伝導列車はここにあるのか?」


 ゴルドはうなずいた。超伝導列車はこの工場の地下三階に今も運行可能な状態で格納してあるらしい。ドレイクはゴルド達のテーブルに歩み寄ると「ドサッ」と椅子に座った。やはり疲労感は残っているようだ。


 「超伝導列車を使いたい。貸してくれるか?」


 「お主達には迷惑をかけた。もちろん快諾しよう。じゃが、ラスの続きもある。今日はここに泊まるとよい。」


 ゴルドの約束を取り付けたドレイクは椅子から立ち上がるとベッドに戻っていった。薄暗い部屋の中、手元の明かりだけを頼りにゴルドとてんとは夜明け近くまでラスを楽しんでいた。次の朝、朝食を終えるとゴルドはタカヒト達を連れて地下への階段を降りていく。薄暗いらせん状の階段を降りていくとそこには広い駅ターミナルが広がっていた。階段を降りた先にある部屋にゴルドが入ると照明が点いた。そこに埃を被った乗物がタカヒトの視界に映った。


 「あれが・・・そうなの?」


 「そうじゃ。あれが超伝導列車スピードスターじゃ。」


 「スピードスター・・・かっこいい名前だね!」


 興奮気味のタカヒトにゴルドは満面の笑顔だった。エンジンを起動するのにクランクを使い、手動で回す事十数回・・・やっとの思いでエンジンがかかった。エンジンの回転数が安定するまでゴルドはじっくり時間をかけて機体の点検を行った。さすがは技術職人である。小さなハンマーでコツコツ叩きながら亀裂箇所の確認も同時に行っていた。電磁気関係は損傷がないようだがどうやらゴルドには気になる箇所がひとつだけあるらしい。眉間にしわをよせているゴルドにてんとが語りかけた。


 「何か気になる事でも?」


 「いやの・・・長旅じゃから持っていくお菓子を何にしようか決めかねとる。」


 「・・・・重要なのですか?」


 「無論じゃ!お菓子がなければ楽しくなかろう!」


 「それ以外に不安要素は?」


 「それだけじゃ・・・」


 「・・・ならば結構、出発を急いでください。」


 「お菓子はいらんのか?」


 ゴルドの問いかけにてんとは首を縦に振った。お菓子を諦めきれないゴルドはブツブツ言いながらエンジン回転数が安定していることを確認するとスピードスターを降りて駅ターミナルの制御室に入った。タカヒト達のいるスピードスター操縦室に無線通信機でゴルドの声が流れた。


 「いつでも出発可能じゃぞ。」


 ゴルドは無線通信機で操縦席にあるパネル操作を教えてくれた。青いボタンを押してレバーを前方に押すと動くようになっているらしい。


 「よいか、無理だけはするんじゃないぞ。かならず生きて帰ってくるのじゃ。」


 「おじいさんも身体には気をつけてね。それじゃあ、行ってきます。」


 ミカが無線通信機で挨拶した。ドレイクが青いボタンをおすと超伝導列車スピードスターの機体は数センチ浮遊したと同時にいきなり急加速した。駅ターミナルは再び静けさを取り戻し残されたゴルドは寂しい表情を浮かべた。すると一体の機械人形がゴルドのもとにやってきた。


 「老兵は死なず、ただ消え去るのみじゃ。若者に希望を託しワシは無事に帰ってくることを願うしかなかろうて・・・さて、部屋に戻ってメンテナンスでもしょうかの。」


 ゴルドは笑顔で機械人形に語りかけた。駅ターミナルの照明を消すと階段をゆっくりのぼっていく。その頃、独り残された爆音のオセは廃墟の工場をただ見つめていた。


 「独りって・・・・せつない。」


 希望を託されたタカヒト達の乗るスピードスターは高速移動を続けていた。しかしその速度を感じないほど機体内部は安定していた。ドレイクはモニターを確認すると皆に言った。


 「行き先はすでにプログラム済みだ。

  しばらくは快適な移動時間を楽しむことにしょう。」


 「快適な移動時間だってよ。紫玉、白玉、探検しょうぜ!」


 「えっ?赤玉?・・・どうして・・・」


 「おう、タカヒト!久しぶりだな。元気にしてたか?」


 赤玉がタカヒト達の前に現れた。びっくりしたタカヒトであったが赤玉の後ろに紫玉と白玉もいた。タカヒトの意識の中に存在している色玉達が目の前にいることにかなり驚いた。


 「どうして、ここにいられるの?」


 「さあ、わからん。どうしてだ、紫玉?」


 「おそらくはあの時の衝撃が原因だろうな。」


 紫玉は話を始めた。それはタカヒトが極限状態になり朱雀へと変貌した時のことだ。吸収された状態で色玉達にはほとんど記憶が残ってはいないが唯一残っている記憶は・・・


 「統合せよとの言葉だった。」


 紫玉の言葉にてんとは興味を持った。その言葉はタカヒトからではなく別の聞いたことのない者からだったらしい。その後、記憶を失ったタカヒトの意識の中で色玉達は混乱した情報をまとめ、整理する作業に追われていたらしい。タカヒトの意識はかなり混乱していて色玉達が整理しなければ精神崩壊していた可能性があったとも語った。もちろん黄泉の国では赤玉達色玉が所有者であるタカヒトに力を与えることは出来ない。整理を終えた色玉達は意識の外に出られることがわかるとタカヒト達がスピードスターにいたというわけである。


 「しかし疑問を感じる点があるな。何故タカヒトの色玉だけが出現するのか?俺の茶玉や灰玉は喋ったり、出現したりはしないぜ。」


 「それはシンクロ率の違いだよ。」


 白玉がドレイクに言った。シンクロ率とは色玉と所有者の同調化の度合いのことである。シンクロ率が高ければ、高いほど色玉の持っている特有の能力を引き出すことが出来るのだ。さらにタカヒトのようにシンクロ率が高ければ色玉は出現し会話をすることも可能となる。


 「つまりタカヒトはほかの誰よりも色玉とのシンクロ率が高いってわけか。あともう一つ疑問点がある。何故あの廃墟でソウルオブカラーが使えなかったのかだ。」


 「それは私が説明しょう。」


 てんとが言った。天道であるにも関わらずゴルドの工場ではソウルオブカラーは使えなかった。原因は共鳴亀裂である。共鳴亀裂とはソウルオブカラーと所有者の心との共鳴が通じない空間であり世界のことでどのソウルオブカラーにもそれは存在する。ゴルドは人工的に共鳴亀裂を発生させてソウルオブカラーを封印していた。それはピサロ達天道軍の所有しているソウルオブカラーを警戒しての発明だったわけだが・・・。


 「なるほど・・・

  つまり天道軍がこの装置をすでに所有しているのならば厄介な事だな。」


 「その通りだ。しかし対策もある程度ある。」


 「・・・・共鳴石のことか?」


 ドレイクの言葉にてんとはうなずいた。共鳴石とは共鳴亀裂に影響することなくソウルオブカラーの力を発揮することが出来る。タカヒトやドレイクの持つ暗黒色の共鳴石は四神を呼び出せることは出来るが共鳴亀裂に対して常に有効ではない。その点だけを取れば共鳴石のほうが共鳴亀裂に対して常に安定した色玉の力が得られるということだ。もちろん暗黒色の共鳴石は共鳴亀裂防止の為だけに造られたものではないのだから当然かもしれない。


 「よし、最初のブロックへ辿り着いたら共鳴石の探索も行うことにしょう。天道軍が石を所有している可能性は高い。奴らから奪い、戦力の安定を図らなければならないな。」


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