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未来のきみへ   作者: 安弘
畜生道編
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主と奴隷

 なにもない広い部屋の一番奥にとぐろを巻きタカヒトにもハッキリとわかるほど恐ろしい殺気を出してしているデノガイドがそこにいた。デノガイドもすぐにタカヒト達の姿を確認すると湿った甲殻をゆっくり動き出して鋭い牙を見せるように顎を開いた。


 「お前達がここにいると言うことはギガイーターどもはしくじったか。

  まあいい、退屈していたところだ・・・誰が主で誰が奴隷かを教えねばな!」


 フロアの天井に頭が届く体勢で威嚇しているデノガイドの姿は恐怖そのものだった。巨大なムカデが今にも自分に襲いかかろうとしている姿を見て怖気づかないわけがない。目の前にある恐怖にタカヒトは歯をガタガタと震わせて悲鳴をあげた。


 「うわぁぁああぁぁああぁああああ~~」


 恐怖に支配されたタカヒトの視界に入った者。それに怖気づく事もなく作戦を遂行しようとするグラモの姿だった。勇敢なグーモー族の長老グラモはデノガイドに向かって一直線に走っていく。この作戦がどのようなものなのか?内容を知ったのは作戦決行の二日前のことだった。作戦の準備をしていたタカヒトはデオルトが何やら加工をしているのを見かけた。手のひらに収まるくらいの小さな板をデオルトは慎重に加工している。


 「デオルト、何してるの?それ何?」


 「これは水爆弾だ。この爆弾を使ってデノガイドを倒す。」


 「爆弾?こんな小さな板でデノガイドが倒せるの?」


 「実演して見せよう。」


 不思議がるタカヒトにデオルトは笑みを浮かべ実演をすることにした。地下都市内で開発途中の何も無い場所にタカヒトを連れてくるとデオルトは板の端を切り取りそれを岩に貼り付けた。岩の大きさはタカヒトの身長より少し大きいほどだ。貼り付けた板をデオルトはドミンゴに借りたハンマーで叩くとすぐにその岩から離れた。貼り付けた白板はハンマーの衝撃を受けてから少しずつ黒くなり真っ黒になると同時に爆発した。煙が消えかけると岩は粉々に砕け散り跡形もなくなっていた。


 「びっくりしたぁ~~。あんな小さな板のカケラであの岩が粉々になるなんて!

  これならデノガイドを倒せるかもね。」


 「・・・・」


 タカヒトが希望に胸を躍らせるのとは逆にデオルトの顔は少し曇った。実はこの水爆弾には致命的な欠点がある。もともとグーモ一族が荒れ果てた荒野を開拓するために使用しているもので今のように岩に貼り付けハンマー等で衝撃を与えることで数秒後に爆発する。デノガイドに水爆弾を貼り付ける距離まで近づき衝撃を与えてから数秒後の爆発までのタイムロスが伴うのである。つまりデノガイドに気づかれず貼り付けてから衝撃を与えなければならないのだ。その上デノガイドの甲殻は異常に硬く甲殻と甲殻の間の可動部や繋ぎ目を破壊しないとデノガイドは倒せない。

 しかも水爆弾は水イモリのフンと赤土で出来ているのだがこの時期水イモリは捕獲できない。現在残っている水爆弾は二枚だけなのだ。


 「二枚かぁ~~でもどうするの?デノガイドが貼らしてくれるわけないし。」


 「無論、誘導作戦しかないだろうな!」


 デオルトの作戦はAチームが砦に辿り着いたらデオルトとてんとで砦の外から飛んで最上階へ向かう。一方タカヒトとグラモはデノガイドの正面に立ち注意を引きながらデオルト達がデノガイドの背後から近寄り水爆弾を貼り付け爆発させるというものだ。


 「そんなにうまくいくかなぁ~~。」


 「今からそんなこと言ってどうする、タカヒト!」


 恐怖に怯えフロアに座り込んでいるタカヒトの脳裏にあの時の光景が流れこんだ。勇敢に特攻していくグラモの姿を見てタカヒトはなんとか立ちあがろうとするが足が思うように動いてくれない。恐怖がタカヒトの身体を完全に支配していた。距離が近づいていくグラモはデノガイドにとっては餌が近づいて来ているという認識しかなく大きな顎を開けて餌が来るのを待っていた。


 「いくどぉ~~!いち・にい~~~の~~そぉれぇ~~~!」


 叫び声と同時にグラモはデノガイドの手前で直角に曲がって走り過ぎた。デノガイドはその行動に困惑していると窓からてんと達が砦内に侵入してきた。てんとは手に水爆弾を持ってデノガイドに気づかれないようにゆっくりと近づき分厚く硬い殻と殻の間に水爆弾を貼り付けた。


 「そんな作戦が私に通じるとでも思ったのか?やれやれ、なめられたものだ。」


 「!!!」


 次の瞬間てんとの動きが止まった。恐ろしい殺気を感じて見上げるとデノガイドの眼にてんとが映っていた。すべてお見通しだったデノガイドに対して蛇に睨まれた蛙のようなに動けなくなったてんと。てんとの瞳にデノガイドの尾がスローモーションのように近づいてくるとてんとの身体はフロアの端まで飛んでいった。


 「てんと!」


 てんとは意識が薄れていく中タカヒトの叫び声だけが聞こえた。聞こえていたその声もだんだん小さくなりてんとは完全に沈黙した。恐怖に支配されていたはずのタカヒトは我を忘れて走っていた。てんとに近づこうとしたその前にデノガイドが割り込むように立ち塞がる。


 「先ほどまで恐怖に怯えていたお前が何をするつもりだ?

  お前は何も出来ない。誰も救えない。非力で弱い存在だろ?」


 「タカヒト、逃げるだが!逃げるだが!」


 デノガイドの後でてんとは倒れている。デノガイドと対峙しているタカヒトの遥か後方からデオルトとグラモが懸命になって叫んでいた。


 「タカヒト、作戦は失敗だ!態勢の立て直しを行う。撤退をするぞ!」


 ふたりは叫んでいたがタカヒトは逃げようとはしなかった。タカヒトはフロアの天井に頭が届くほど恐ろしい相手デノガイドと対峙している。


 「ダメだ、恐怖のあまり身体が動かなくて逃げ出せないのだ。」


 「タカヒト、逃げるが!逃げるがよ!」


 デオルトとグラモの必死の叫び声にタカヒトは依然反応を示さなかった。この時、復旧活動を行っていた時のてんととの会話がタカヒトの脳裏に過ぎった。地下都市の復旧をしていた頃、その日の分の修繕工事を終えると夕食を取り疲れきったグーモー達はグッスリ眠った。疲れてはいたが眠れずにタカヒトは暗闇のビル郡を眺めていた。


 「眠れないのか?」


 そこへてんとが近づいて来た。ふたりは暗くなったビル郡を眺めている。地下都市は常に明るいわけではなく夕食を終える頃には暗くなるようになっていた。それは生物としてのバイオリズムを狂わせないようにパピオン国の技術者達が考えたシステムである。暗いビル郡を見てタカヒトはミカが入院している病院のことを思い出していた。しばらくふたりの間に沈黙が流れたが珍しくてんとからタカヒトに人道の世界の事やいじめについて問い掛けた。


 「えっ、いじめ?・・・辛いよ。皆が無視したり、殴られたり・・・

  ほんとに辛くて苦しいんだ!逃げ出したかった・・・」


 「逃げ出せば済む事ではないのか?」


 「そんな簡単には無理だよ。引っ越すわけにもいかないし

  お母さんが心配するから言うわけにはいかないし・・・」


 「言っている意味が全くわからないな。」


 逃げ出したいのに逃げ出せない。危険を回避するために何より自分の命を最優先に生きてきたてんとには理解する事など出来ない。誰かの為に自らが犠牲になる。そんな考えで生きていけるほどてんとの生きてきた世界は甘いものではなかったのである。


 「そうだけど・・・逃げてばっかりじゃあ駄目でしょ?」


 「無論だ。命を賭けて行動すべき場合もある。その時は逃げるわけにはいかないな。」


 「それってどんな時?」


 「おまえにも守りたい何かが見つかるはずだ。その時が逃げられない時だろうな。」


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