カラクリ仕掛けの工場
「すみません・・・どなたかいらっしゃいますか?」
リナの呼びかけに誰の反応もなく静寂な空気が流れていた。工場内には至る所に金属が放置されて天窓から薄っすらと光が内部を照らしている。リナは何度も呼びかけたが反応はまったくなかった。痺れを切らしたドレイクはズカズカと進んでいく。薄暗い方に進んでいくとドレイクの姿が急に消えた。
「ドレイク・・・・?」
リナの呼びかけにも姿を消したドレイクから反応はなかった。不思議に思ったリナは警戒しながらも暗闇に近づいていくとリナの姿も同じように姿を消した。恐怖に腰を抜かしたオセは震える身体を抑え、這い蹲りながら廃墟と化した工場から出てきた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
町外れの工場に到着したタカヒトとミカはオセとてんとの姿を見つけた。脅えているオセにタカヒトとミカはとんでもないことが起こっていると察した。てんとの話ではドレイクとリナが廃墟の工場内に入って姿を消したとのことだった。
「ここで考え込んでいてもらちもない。行くしかないだろう。」
「能力を使うドレイクとリナが姿を消したってことは用心したほうがいいわね。」
タカヒトとミカ、てんとは廃墟の工場内へと潜入を試みる。オセは腰を抜かして動けない為、この場に残すことにした。工場の戸を開けると静寂な空気が流れていた。オセの話では奥の薄暗い場所に近づいていくと姿が消えるらしい。
「オセの情報から推測するとあそこにカラクリが存在しているようだな。」
「どうするの、てんと?」
「虎穴入らずんば虎子を得ずだ。」
前に聞いたことのあるような言葉にタカヒトは覚悟を決めたらしく真剣な表情に変わる。その横顔になんとなくミカは照れているとタカヒトとてんとは薄暗い奥に向かって歩を進め、慌ててミカも着いていく。辺りを警戒しているものの床に散ばった金属以外には何もない。するとミカが声をあげた。
「もう嫌・・・静電気で髪がおかしくなるよぉ~。」
髪の毛を気にするミカにタカヒトは笑みを浮かべた。ふたりの笑顔にてんとは微笑ましく見つめていたが次の瞬間、てんとの脳裏に何かが走った。
「静電気?・・・磁気が発生している・・・・まずい!」
てんとが叫んだその直後、タカヒトの姿が一瞬にして消えた。目の前にいたタカヒトが瞬時に消えたことにミカは叫んだ。
「てんと!タカちゃんが消えちゃった!」
「ミカ、伏せろ!」
てんとの言葉にミカは床に這い蹲った。頭上を糸のような青白い電気らしきものが発生しては消えていく。恐怖に脅えるミカにてんとは冷静に対応した。てんとは以前このようなものを見た事があった。学舎にいた頃、科学の実験で同じ様な光景を見たことがある。消えては現れる青白い電気らしきものにてんとは確信した。
「這いずりながら前進していく。」
タカヒトが消えたことを心配しながらもミカはてんとについていくと頭上を覆っていた青白い電気は消えて小さな小部屋に辿り着いた。小部屋には発射台のようなものが設置されており発射台の先端部に青白い電気がバチバチと音を立てていた。てんとが発射台の操作パネルを確認するといくつかのスイッチを押した。すると青白い電気を放っていた先端部から電気が消えた。
「てんと、どういうこと?」
「この装置は電磁波によりある特定の場所への移動が出来る瞬間移動装置らしい。」
「タカちゃん達はどこか別の場所に移動したの?」
「そのようだな。外見は廃墟の工場に見えるがこの装置があるところを見るととんでもない施設であることはいえる。ほかにもまだ罠が仕掛けてある可能性がある。」
タカヒト達を捜すことも考えたがこの装置を作り出した人物の存在が気になるとてんとはミカを連れて施設の持ち主を捜すことにした。小部屋の奥にあるドアを開けると長い廊下が続いていた。窓などは一切なくコンクリートで囲まれた廊下である。逃げ場のない一本道の廊下を前にミカは一瞬前進することをためらった。
「逃げ場がないよ・・・それにどういうわけかここに入ってからソウルオブカラーが使えないみたいなの。」
「この施設は黄泉の国と同じ空気を感じる。
だがマテリアルフォースは使えそうだ。」
てんともこの施設に近づいた時からソウルオブカラーが使えないことは分かっていた。おそらくドレイクも気づいていたであろう。ならばこの施設には重要な秘密が隠されているとてんとと同様に考えるはずである。消えたドレイク達の次の行動を確信したてんとは廊下を進んでいく。廊下を進んでいくとすぐに異変が起こった。天井が砂埃と共に落ちてきたのだ。
「・・・ベタなカラクリだな。」
てんとはため息をつくとマテリアルフォースを解き放った。てんとはイメージにより万物を創造できる能力を持ち数本のコンクリート製の柱を建設すると落ちて来る天井をそれらが受け止めた。そのまま廊下を進んでいくと曲がり角が見えてきた。曲がり角に足を踏み出そうとした瞬間、無数の弓矢が壁に突き刺さった。弓矢は一定の間隔で発射されて、てんとはすぐにそれが人為的なものでないと察した。発射後、顔を出して覗くと弓矢の発射台が一台設置されていることを確認した。装置はかなり大型なもので矢の発射後、数本の矢が充填されるとギヤと滑車により引かれた弓が放たれる自動操作式弓矢発射台であった。
「今度は私の出番だね。」
ミカは笑顔でそう言うとマテリアルフォースを解放する。手にした与一の弓矢を構えると自動操作式弓矢発射台から矢が放たれ壁に刺さった次の瞬間、弓を引き、矢を放った。与一の矢は自動操作式弓矢発射台のギヤの噛合いに突き刺さり動きを止めた。矢が飛んでこないことを確認するとミカはてんとと共に先に進んでいく。それからもベタなカラクリが続くがミカとてんとはうんざりしながらもそれらを攻略していった。しばらくするとてんと達は最後の部屋に辿り着いた。そこは細かい部品や機械が所狭しと棚に並んでいた。どうやらこの部屋が施設の所有者の研究室のようだ。
「敵の懐に辿り着いたということは・・・おまえがこの施設の所有者なのか?」
「えっ?」
てんとが指さした先をミカが見つめるとそこには白髪頭で油塗れの老人が座っていた。メガネをかけた老人はてんと達に気づくこともなく一生懸命に機械のメンテナンスを行っていた。ふと顔をあげた老人が口を開いた。
「んっ、誰じゃ?・・・ここにいるということはカラクリを攻略したのじゃな。大したものじゃの・・・してワシに何か用かな?」
「ゴルドだな?瞬間移動装置の行き先と超伝導列車の在り処を教えてほしい。」
「瞬間移動装置に超伝導列車とは・・・何かの?」
「問答している暇はない。仲間と共に超伝導列車を渡してもらおうか。」
大鷲の薙刀を手にしたてんとは刃先を老人に向けた。老人は油塗れの手をタオルで拭くとタバコに火をつける。ひと息入れると老人は言った。
「やれやれ、最近の若者は自分の意見が通らないと力ずくで物事を押し通そうとする。なんでも力ずくで物事がうまくいくほどこの世は甘くはないと思わんかの?」
老人は立ちあがると部屋の隅まで歩いて壁のスイッチを押した。すると壁に埋め込まれたスクリーンにドレイクやリナそれにタカヒトの姿が映った。薄桃色の光に照らされた部屋でドレイク達は身動きが取れない様子だった。
「タカちゃん!リナ!ドレイク!」
「安心せい。あれはワシの開発した高濃度重力噴霧機じゃよ。しかしあの部屋にいるかぎり身動きは取れまいて。」
「・・・・どうやら聞き入れてはくれないようだな。」
てんとは大鷲の薙刀を振りあげた。すると老人は指を「パチッ」と鳴らした。突然部屋の壁を壊して機械人形が侵入してきた。鉄兜に鎧を身にまとい、天井に触れるくらいの大柄な機械人形は大きな斧を手にしている。いきなり斧を振り上げるとてんとに振り下ろした。間一髪でかわしたが斧はコンクリートの床を大きく切り裂いた。恐ろしい破壊力にミカは矢を握り締めた。与一の弓を引き、矢を放つが鎧に覆われた機械人形に傷ひとつ与えることは出来ない。困惑するミカに変わりてんとはガトリングガンを手にすると給弾・装填・発射・排莢のサイクルを繰り返して連続射撃した。だがガトリングガンの弾丸でさえ機械人形の硬く覆われた鎧を貫通することはできなかった。
「無駄じゃ・・・ワシの最高傑作機械人形 紅蓮に直接攻撃は効かんよ。
諦めることじゃな。」
てんと達を前に老人は余裕の笑みを浮かべていた。直接攻撃を主とするミカとてんとには紅蓮を倒す術などない。再び斧を振りあげるとそれを振り下ろす。再びかわしたものの防戦一方で勝機はない。老人は椅子に座ると紅蓮とてんと達の戦いをタバコに火をつけながら見ていた。ガトリングガンで射撃を続けるが紅蓮には歯が立たない。
「くそ・・・このままでは・・・」
「てんと、私に考えがあるの。」
そう言うとミカは精神を集中させていく。だが何か変化があるわけでもなく、ただミカはジッと動かずに精神を集中しているだけだ。老人は煙を吐きながら言った。
「ハッタリじゃな。紅蓮よ、やつらを仕留めるのじゃ!」
老人の指示を受け紅蓮は斧を振りあげながら襲い掛かる。ミカをサポートするてんとはガトリングガンを放つが斧撃を止めることしかできなかった。老人はタバコを吸い終えると灰皿にそれを押し付けた。再び視線をあげて紅蓮を見ると少し様子がおかしい。さきほどまでスムーズに動いていた紅蓮はぎこちない動きをしていたからだ。老人は部屋の異変に気づいた。やけに湿度が高く、コンクリートの壁に水滴が床には水たまりがあった。
「まっ、まさか!」
「私の本当の能力は自然をある程度操ること。土を利用して壁を作ったり、風を操ったりしてね。部屋の湿度を上げることは初めてだったけどうまくいったみたいね。」
「我々は防戦一方だったのではない。動きが鈍るのを待っていたのだ。機械人形は鉄の塊。油分が水を含めば動きは鈍り劣化もすれば金属疲労で強度も落ちる。」
てんとのガトリングガンが火を噴くと錆び付いた紅蓮の膝は簡単に貫通して重量のある身体を支えることも出来ずに床に倒れ込んだ。銃口を老人に向けると椅子から立ちあがり両腕を頭上に上げた。
「ゴルド・・・だな?」
「・・・いかにも・・・お前達の欲しいものは超伝導列車であったの。あれを使って何をするつもりじゃ?」
「私達には助けたい人がいるの。おじいさんの列車を貸してください。お願い、私達に協力して・・・助けてください。」
「助ける?助けてほしいのはワシのほうじゃが・・・。」
ガトリングガンの銃口を下げると両腕をあげているゴルドは手を下ろした。超伝導列車に乗りブロックへ行くことや徳寿を助けることをてんとは説明した。ゴルドはタバコを手にとり火をつけた。煙を口から吐くと何も言わずに部屋を出て行こうとした。困惑しているミカに振り返ると口を開いた。
「何しとるのじゃ?仲間と共に超伝導列車に乗るのじゃろ?」
「おじいさん・・・ありがとう。」