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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
148/253

爆音のオセ

 「ここらへんのはずなんだけどなぁ~・・・まだ見えないか。」


 「もう少し先じゃないの?地形が変わっているみたいね。地図と合致していないからわからないわ。」


 ナビゲートするリナは地図を確認しながらドレイクのサポートをしている。ご機嫌なドレイクがモービルウォーカーをしばらく走らせていると小さな町らしきものが見えてきた。ドレイクは期待しながらモービルウォーカーの速度をあげた。


 「どうやらここが修理工町みたいだな。あそこに飯が食えそうな所がある。腹も減ったことだしちょっと寄ってみようぜ。」


 ドレイクが指さした先には小さなのれんがかかった建物があった。人の気配はなく寂れた町である。地獄の者達が襲撃をした後かもしれないと警戒しながら建物に近づいていく。


 「入るぜ!オヤッさん。腹が減っているんだ。飯を食わせてくれよ。」


 ドレイクが戸を開けるとそこには黒い腰掛を巻き年老いた天道人が厨房にいた。料理人は無言のまま厨房内で料理を始めた。テーブルに座ったドレイク一行以外には数人の天道人がいるが皆黙って料理を食べていた。


 「なんか、昔ながらの頑固親父って感じだね。やっぱり美味しいのかな?」


 「ミカ、無口なオヤジさんの作る飯は旨いって相場が決まってるもんだ。ここは黙って飯が出てくるのを待っていようぜ。」


 ドレイクは緊張した面持ちで料理が出てくるのを、固唾を呑んで待った。タカヒトもドレイクの表情に緊張感が増してきた。厨房内では食材と料理人の格闘とも言うべきか、激しい炎が立ちのぼっていた。料理が出来上がると料理人は黙ってドレイク達の座るテーブルに持ってきた。「さあ、食ってみろ。旨いぞ!」と言わんばかりに皿を不作法にドサッと置いた。すると何も言わずに料理人は再び厨房内に戻っていく。


 「おい、料理人の心意気を味わってみようぜ。」


 ドレイクがそう言うとリナは小皿に料理を分けて皆に手渡した。両腕を交差させ、料理人は満足そうな表情で「食ってみろ」と言わんばかりだ。ドレイクの言うとおり、料理人の心意気を大切にして食べさせてもらおうとタカヒトは思った。皿を持ちスプーンを握り締めるとタカヒトはスプーンを口に運んだ。


 「・・・・マズい。」


 タカヒトは思わず声が出そうになった。六道中でいろいろな料理を食べてきたタカヒトだったがそのどれと比べても比べられないくらいマズかった。しかし料理人の心意気をけなすわけにもいかずタカヒトは黙って食べていく。タカヒトは皆の顔を眺めると誰もが顔を蒼ざませてとても美味しそうには見えない。


 「・・・どうやら天道人の味覚と俺達とでは違うみたいだな。俺達も早くこの味にも慣れないと天道では生きていけないな。」


 ドレイクの言葉に誰もが納得した。皆がマズい料理を黙って食べていると料理を食べていたほかの天道人が立ちあがった。


 「相変わらずマズい飯を食わせやがる。こんなマズい飯はほかのどこでも食べた事がない。ごっそさん、銭は置いておくぜ。」


 数人の客達はテーブルの上に金を置いて出て行った。話を聞いたドレイクのスプーンの動きが止まった。スプーンを持つ手が小刻みに震えていく。いきなり立ちあがるとドレイクは吼えた。


 「おい、親父!どういうことだ!」


 「・・・・」


 「マズい飯食わせやがって!」


 「・・・・生きている実感が沸いたか?マズい飯を食って生を感じることが出来るなんざ幸せってもんだ。」


 料理人の気持ちの良いくらい真っ直ぐな表情にドレイクは言葉を失ってしまった。マズい飯を食わされて生を実感しろとは理不尽な話である。だが自信を持って堂々としている料理人にドレイクは完全に気持ちで負けていた。


 「辛くなったらこの味を思い出せ。さすればどんな困難でも乗り越えられるさ。」


 厳しい表情をする料理人に敗北したドレイクは奥歯を噛締めながら店を出て行った。その後をタカヒト達が着いていく。リナはテーブルの上にお金を置いていくと一礼して店を出て行った。タカヒト達が外に出るとドレイクが巨大な魔物と睨み合っていた。


 「なんじゃ、ワレは・・・ワシを誰じゃとおもっとるんや。ワシは破壊神七十二布武 五十七位の爆音のオセやど!」


 「・・・俺は機嫌が悪いんだ。ほかをあたってくれ。」


 「なんじゃと・・・・死にさらせ!」


 数分後・・・・


 「いやぁ~、すみませんでした・・・」


 「ああ、わかればいいんだ。」


 顔を赤く腫らした爆音のオセは低姿勢で頭をペコペコさせていた。ドレイクはオセにここに来た理由を聞くと破壊神七十二布武の特攻部隊としてこの地に進行してきたらしい。そしてオセは偶然ドレイク達と遭遇したのだと語った。


 「独りなのか?」


 ドレイクの問いにオセは首を縦に振った。独り行動が好きなオセはドレイク達と同様に超伝導列車に乗り込むことを考えていた。目的が同じことにドレイクは快く同行することを勝手に決めた。食堂でリナが修理工町の情報を聞いておりこの町の片隅に修理工場が集中している場所があるらしい。爆音のオセと共にドレイク達は修理工場に歩を進めた。


 「修理工場のどこかにゴルドと呼ばれる修理工がいるはずだ。手分けして捜すぞ。」


 ドレイクはそれぞれに別行動を伝えると修理工場のどこかにいるゴルドを捜す。ミカはタカヒトの手を握ると走っていった。てんとは単独行動をすると言い去っていくとドレイクはリナとオセを連れてゴルドを捜す。久しぶりのデートだと喜んだのも束の間、リナはドレイクとの間にいるオセに苛立っていた。ドレイクはオセをからかいながらも楽しそうに歩いている。オセもドレイクの事を「兄貴」と呼び楽しそうだった。


 「・・・楽しくない!」


 「なんか言ったか?」


 「・・・別に!」


 ふてくされるリナを気にすることもなくドレイクはオセを連れてゴルドを捜している。その頃二人っきりになったミカは浮かれた様子を隠しきれない。しかも今回はタカヒトの記憶も戻っており嬉しさが止まらない。


 「リナには悪いけど久しぶりに楽しもっと!」


 「何か言った、ミカちゃん?」


 「ううん・・・タカちゃん、あっちのほうを捜そうよ。」


 手を握ったままタカヒトとミカはゴルドという人物を捜索していく。近くの修理工場で聞くとゴルドの工場は町外れにあると聞いた。ただ工場の者はこうも言った。


 「ゴルドは変わり者だ。会える保障はないよ。」


 ミカは首を傾げた。変わり者なのは分かるが会える保障がないとはどういうことなのか?疑問を感じながらもタカヒトの手を握ると町外れの工場へと歩いていった。歩いている途中でタカヒトがミカを見つめながら言った。


 「ミカちゃん・・・ずっと手を握ってるね。」


 「・・・嫌なの?」


 「ううん、嫌ってわけじゃないけど・・・なんか恥ずかしくって。」


 「・・・でも記憶を失っていた頃はタカちゃんのほうから手を握ってきたんだよ!」


 「!!!・・・・そうだったんだ・・・そうか、手をいつも握っていたんだ!」


 タカヒトは真剣な表情で考え込んだ。もちろんミカの嘘である。記憶を失ったタカヒトは今のタカヒトよりも人見知りが激しくミカと手を握ることなどほとんどなかった。記憶を取り戻しても何も進展しないタカヒトにミカが仕掛けた作戦だったのかもしれない。そんな作戦に見事引っかかったタカヒトは責任を感じたらしくそれからもずっとミカの手を握り続けた。少し罪悪感を感じながらもミカは嬉しかった。


 「ずっとこのままならいいのに・・・」


 「うん?何か言った。」


 顔を赤くしたミカは首を横に振ると嬉しそうに微笑んだ。ミカとタカヒトの間で優しい時間が流れている頃、ドレイクとオセ、リナが町外れの工場に辿り着いた。


 「おい、オセ。あれがそうか?」


ドレイクとオセは興奮気味であるがリナは依然不機嫌なままだ。ゴルドのいると思われる工場は廃墟のようにも見えた。トタンの屋根が剥がれ戸が閉まらずに風で開いたり、閉まったりしている。


 「本当にここにゴルドがいるの?」


 「だが話に聞いた場所はここしかない。行こうぜ、リナ!」


 ドレイクとオセ、リナは廃墟の工場内へと入っていった。


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