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未来のきみへ   作者: 安弘
天道編
147/253

失われた緑の国

 白い渦はどこまでも続いた。霧状のそれはどこまでも続き、永遠にそれが続くのか、終わるのか、わからなくなるくらい続いている。昔のタカヒトであったなら間違いなく泣き叫んでいただろう。泣き叫ぶタカヒトにミカも恐怖に襲われたかもしれない。しかし今、タカヒトは泣き叫んではいない。たしかに先の見えない事態に不安は感じている。だがタカヒトは数多くの試練を乗り越えてきた。その経験がタカヒトの心を支えていた。それから数時間は経ったのだろうか、白い渦の中を飛行艇が進んでいくと一寸の光が見えてきた。


 「渦を抜けるぞ。衝撃に備えろ!」


 ドレイクの言葉にタカヒト達は一斉に座席にしがみ付いた。上下左右に揺れる時間がどれほど続いたのだろうか、辺りを包んでいた白い霧が消えるとドス黒い空が広がっていた。窓から下を覗くと木々が燃え盛り焦げた大地が広がっている。


 「ここは・・・緑の国エメラルド・・・一体何があったというのだ。」


 てんとは驚きを隠せなかった。天道の世界で最も木々に溢れ自然豊かな国であり争いとは全く無縁な国エメラルド。その緑の国が見るも無残な姿に変わり果てていたことにてんとは想定以上にこの天道が深刻な状況に陥っていることを悟った。


 「おい、前から何か近づいて来るぜ。アレはなんだ?」


 操縦しているドレイクにてんとは近づくと飛行艇前方に無数の飛行物体が接近しつつあった。大きな翼を持ち、その身体は骨と緑色の皮膚だけで筋肉はない。大きな赤い目が異様で六本の鋭い爪と背中に生えているトゲはあきらかに天道の者ではない。


 「ゴーチュッカー・・・地獄道の悪獣が何故この天道に?」


 「おおかた、破壊神が連れてきたんだろ。強いのか?」


 「それほどではないがあの数を相手にするのは厳しいものがあるぞ。」


 それを聞くとドレイクはリナに操縦を代わるように伝えた。独りドレイクはメインデッキから出ていくと階段をあがり甲板に出た。天道は初めてであったがこのすさんだ光景はどことなくドレイクのいた修羅道に似ていた。深呼吸をすると草木の焦げた嫌な臭いがした。だがドレイクにはそれがなんとも心地良かった。そんなドレイクが精神を集中していくと身体から茶色の闘気が輝きを放っていく。


 「この感じは久しぶりだ。黄泉の国で得た力を試す手ごろな相手を探していたところだ。いくぜ!茶玉極限闘気 クル・ヌ・ギアス!」


 大地から茶色の透明な液体のようなものが浮き上がってくるとすべてのゴーチュッカーを包み込んでいく。断末魔をあげる間もなく液体に包まれたゴーチュッカーの身体は乾燥して粉と化した。風の吹かれたその粉は黄砂のように大地に降り注がれる。


 「次に生まれ変わるとしたら何がいい?もちろん決められはしないがな。」


 そう言い残すとドレイクは甲板を降りていった。再びメインデッキに戻ると誰もがドレイクに歓喜の声をかけた。しかしてんとだけは違った。


 「あの程度の魔物にやり過ぎではないか?」


 「確認したかったのさ。」


 「・・・玄武の力をか?」


 「いや・・・ソウルオブカラーは精神力と集中力に左右されるものだ。ならば黄泉の国でマテリアルフォースを得た俺達はいままで以上にソウルオブカラーを使いこなせるんじゃあねぇかってな。」


 黄泉の国ではソウルオブカラーは使えなかった。だがそのおかげでマテリアルフォースという能力を使いこなし精神力と集中力を得ることが出来た。ドレイクの言うとおりだとすればタカヒトやジェイド、ドレイクだけではなく、てんとやミカ、リナの能力もいままで以上に開花した事になる。驚くミカとリナに親指を立ててドレイクが笑った。


 「じゃあ、着陸するか。このデカい借り物を傷つけるわけにはいかないからな。」


 ゆっくりと降下しながら飛行艇は焼け焦げた森に着陸した。地上に降り立ったてんとは緑の国エメラルドのあまりもの変貌ぶりに言葉を失っていた。まだてんとがこの天道に居た頃に何度か訪れたことのある自然豊かだった面影が全くと言っていいほどなかったのだ。動揺しているてんとにミカもタカヒトも声を掛けられなかった。ドレイクが地上に降り立つと辺りを見渡した。


 「天道での情報収集と思っていたんだがここでは無理のようだな・・・別の場所に移動するか!」


 「移動って馬車はないし歩いていくしかないよね。」


 ミカの言葉にドレイクは自信満々の表情を浮かべた。ドレイクは左腕の腕輪に触れると飛行艇底部のゲートが開き小型の乗物が移動してきた。


 「驚いただろ。これが最新式の移動車両モービルウォーカーだ!」


 モービルウォーカーとは黄泉の国で最も高度な技術を誇ったツァトゥグア国の乗物だ。しかもこのモービルウォーカーは最新のモデルでドレイクはかなり気に入っていた。嬉しそうにモービルウォーカーの運転席に乗り込むドレイクにリナは言った。


 「それにしてもよく買えたわね。高かったでしょ?」


 「売り場に置いてあったのをちょっと借りてきた。」


 「・・・それって盗んできたんじゃあ・・・・」


 タカヒトの率直な疑問を気にする様子もなくドレイクはハンドルを握りしめ言った。


 「まあ、細かい事は気にするな。借りたものは返せばいいんだ。まあ、リース代は高くつくかもしれんがな。そんなことより出発するぞ。」


 「ちょっと待て、ドレイク。飛行艇はどうするのだ?ジェイドは?」


 「ジェイドなら飛行艇が着陸した時にはすでにいなくなっていたぜ。そして無人になった飛行艇はこうして・・・」


 ドレイクが左腕の腕輪に触れると巨大な飛行艇は次第に透明になってその姿は完全に消えた。これもツァトゥグア国の技術である。和尚が飛行艇を来るべき時に備えてバージョンアップを図っていたということだ。バージョンアップを行う際ドレイクが技術者を脅して加工させたのではないことを確認するとミカとタカヒトは胸を撫で下ろしてモービルウォーカーに乗り込んだ。皆が乗り込んだことを確認するとドレイクはスタータースイッチを押した。タービンが回転していくとモービルウォーカーは地上より数メートルほど浮上した。


 「振り落とされないようにしっかり掴ってろよ!」


 「ドレイク、操縦したことはあるの・・・よね?」


 「何を言ってんだ、リナ・・・初めてに決まってるじゃねえか!」


 悲鳴と共にドレイクの操縦するモービルウォーカーは飛び去っていった。一方、ゴーチュッカーが殲滅した情報はすぐに破壊神のもとに伝わった。



 「何ですって・・・相手は誰なの?十六善神?違うの?天道以外にそんな能力を持ってる奴らがいるって言うの!」


 「そのようですな・・・どちらにしても巨大すぎる能力は我らにとって脅威以外の何者でもありません。破壊神七十二布武を差し向けますか?」


 「そうね・・・いや、いいわ。とりあえず、様子を見ましょう。」


 「御衣!」


 リディーネは王座に座ると引き続きアスラから戦況報告を聞いている。破壊神となったリディーネは軍師のアスラと地獄道最強軍団破壊神七十二布武を引き連れてこの天道に乗り込んできた。この地に乗り込んで来る途中で天道軍らしき部隊と衝突したがその際緑豊かな大地を焼き消した。その勢いは留まる事を知らずに天道軍部隊を一掃するとその先に高台の地を発見し現在はこの地に城を築き戦況を見定めていた。城下には駐屯地がいくつも並び、破壊神七十二布武によって守りは固められている。

 破壊神七十二布武は地獄道で最も深い層に存在している者達である。存在と言う言い方は適切ではないかもしれない。実際には封印されていたと言っていい。先代破壊神により破壊神七十二布武達は闇の底に封印されていた。だが現破壊神であるリディーネは戦力の補強の為に破壊神七十二布武の封印を解いた。破壊神七十二布武にとって正義も友好も復讐も何もない。ただ、「弱者は強者に従う」と言う唯一のルールの下、生きている。七十二匹の悪魔将軍を相手にリディーネは紙一重で生き長らえたがその死線が彼女を育て、破壊神として成長させていった。先代にも勝る能力を得た破壊神リディーネは復讐を糧にピサロ率いる天道そのものの殲滅だけを考えている。



 「てんと、緑の国エメラルドって言ったよね。

  この国の人たちは何処に行ってしまったの?」


 「分からん。エメラルド国は天道の世界でも人口の少ない国であった。隣国へと逃げたか、あるいは消滅してしまったのか。ドレイク、行き先は決まっているのか?」


 「いいや、とりあえず走らせているだけだ。」


 「行ってもらいたいところがあるのだ。」


 てんとはドレイクに行き先を指示するとモービルウォーカーは一気に加速していく。緑の国は燃え尽きて灰と化した木々と黒い大地、黒煙の立ち上る空に囲まれ、死の国となってしまった。風と共にやってくる焦げた匂いがモービルウォーカーに乗っているタカヒト達に嫌な気分にさせた。


 「一瞬にして消えてしまったのね・・・なんか哀しいね。」


 隣に座るミカがタカヒトの手を握ると哀しそうな表情をした。タカヒトは何も答えることができなかった。ただギュッとミカの手を握ることしか出来なかった。しばらく走ると焦げた嫌な匂いも灰と化した木々もなくなり芝生が生い茂る広い敷地に出てきた。それから更に走ると平屋の家が見えてきた。家のまわりには数匹の羊が群れをなしておりドレイクは慌ててモービルウォーカーを止めた。てんとがモービルウォーカーから降りるとミカが声をあげた。


 「てんと、ここって・・・お花さんの家だよね?」


 てんとはうなずいた。お花とは天道で生活している徳寿の姉である。黄泉の国に出発する際このお花の家を訪れた。再び天道に降り立った際、偶然お花の家が近くにあることに気づいたのだった。てんとは徳寿に会い状況を聞こうと考えているが通信機の使用はピサロに知られる可能性がある為、信用できるお花に徳寿の居場所を聞こうと考えていた。てんとが家のドアを開けるがそこにはお花はいなかった。


 「お花さん、いないね・・・ここにも戦争の影響があったのかな?」


 「分からん・・・」


 てんと達は家の中を歩き回っていると突然、老婆の声が聞こえた。


 「誰じゃ!うちにはお前達の欲しがるものは何もないよ。とっとと出ておゆき!」


 「お花さん!私です。ミカです・・・無事で良かった。」


 「おおう、ミカかい・・・そっちはリナだね。どうしたんだい?」


 お花は湯を沸かしお茶を入れる準備をした。ミカとリナは家の至る所を観察したがどうやら戦争の影響を受けてはいないようだ。ミカとリナ、てんとにタカヒトはテーブルに座ると

お花はティーカップにお茶を入れた。


 「さあ、おあがり。アラ?もうひとりはまだ外にいるのかい?」


 「いいのよ、お花さん。

  モービルウォーカーを磨いているからほっといてもいいわ。」


 リナは外を眺めると嬉しそうにドレイクはモービルウォーカーを布で拭いていた。お花も納得すると椅子に腰を下ろしお茶を飲んだ。お花は家を留守にして畑仕事をしていたようだ。休憩しようと家に戻るとてんと達がいたので驚いたと言った。てんとはお花に戦争の影響や徳寿の事を聞いた。お花は少し哀しそうな表情でゆっくりと口を開いた。


 「憎しみが憎しみを生む嫌な時代が来てしまったわい。すでに創造神システムはピサロの手にある。たとえ破壊神が破壊神七十二布武を引き連れて立ち向かったとしても無駄な事なのじゃ。流れは止められん。」


 「破壊神七十二布武の事までご存知とは・・・創造神システムとは一体どのようなものなのですか?徳寿様は今何処に居られるのですか?」


 「知ってどうにかなるものではない。アレは何人たりとも触れてはならぬもの。」


 それ以上お花が創造神システムについて語ることはなかった。しかしその表情からてんとは巨大な力を想像することが出来た。重苦しい空気になるとミカは急に立ち上がった。


 「お花さん、畑仕事疲れたでしょ。私がマッサージしてあげる。」


 ミカはお花の背中にまわると両肩をマッサージしていく。かなり凝っていてミカは歯を食いしばりながらその背中をマッサージしていく。するとタカヒトがミカに変わりマッサージする。


 「ミカの言っていたタカヒトっていうのはおまえかい?」


 「えっ・・・はい、そうです。」


 「そうかい、そうかい。ミカの願いが叶って良かったわい。やはりこれからを生きる若者に未来を託すのがよいのかもしれんな。悔しいが徳寿の言うとおりだわい。」


 椅子を立ち上がると奥の部屋へと歩いていった。再び戻ってくるとお花は手紙をタカヒト達に見せた。


 「これは弟が最後に立ち寄った時に渡された手紙じゃわい。」


 お花がミカに封のしてある手紙を手渡した。ミカはお花を見つめると優しくうなずいた。封を切り手紙を取り出すとミカは目を通して読んでいく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 これを読んでいるということは無事、天道に辿り着いたようじゃな。ワシは多くの事を知りながらお主らをあざむき、騙していたことを許してほしい。巨大な力を得ていくピサロを抑えることが出来なかった。いや恐れていたのかもしれん。今、ピサロは創造神システムを完全に掌握している。唯一止める可能性があるのは四神しかおらん。しかしそれでもピサロとの戦闘力の差はまだ埋まってはおらんはずじゃ。まずは仲間を集めるのだ。お主達はいままで沢山の者達と共に苦を分かち合い友を得たはずだ。その者達は必ずや力を貸してくれるであろう。お主達にすべてを託さねばならないとはワシも年老いたのかもしれん。ワシやジークフリード、アザゼルが成し得なかったことがお主達なら成せるだろう。そう、信じている。創造神システムについてはここに記さずともいずれわかる時が来よう。すべてはくうであるということじゃ。ワシは先にキングダムシティに向かうことにする。創造神システムをなんとか奪うつもりだ。最後にジェイドとの関係を隠していたことを謝罪する。すまなかった、てんと。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 徳寿の気持ちを聞いたてんとはただ黙っている。ミカはキングダムシティの場所を聞くとお花は地図をテーブルに広げた。天道はいくつかのブロックに分かれてキングダムシティに辿り着くには各ブロックのオーブを身体に吸収していかなければならない。辿り着いたブロックでオーブは吸収しなければ、その先のブロックへは進めない。

 

 「現在のブロックは天道の四天王や管理者、破壊神七十二布武のどちらかが支配しておる。それらを乗り越えていくにはあまりにも危険すぎる。」


 「とくべえさんは独りでキングダムシティに向かったんでしょ?

  僕はとくべえさんのおかげでここまでこれたんだ。

  だから今度は僕がとくべえさんを助ける番なんだと思う。」


 「ありがとうよ、タカヒト。

  徳寿は幸せ者じゃ。こんなに想ってくれる者達がおって。」


 タカヒトの言葉にお花は涙を浮かべた。そんなお花にミカはハンカチを差し出すと笑顔を取り戻していく。お茶を飲み落ち着いたお花はこの辺りの地形について説明を始めた。この地より南に修理工町と呼ばれている小さな町があるそうだ。現在では必要の無くなった沢山の機械が積まれており、修理工町の者達はそれらを修理して他の町に販売して生計を立てている。


 「あそこには超伝導列車があるはずじゃ。それを修理して現在では使われておらん地下鉄道を使えば最初のブロック ファーストに障害となる者達と出会う事なく行けられるじゃろう。まずは修理工町にいるゴルドを捜すのじゃ。」


 ゴルドは修理工町で最も優れた技術者で超伝導列車の発案者でもある。偏屈者でかなり頑固な人物であるらしいのだが、彼の協力が得られなければ先には進めないだろう。徳寿を救出する為にタカヒト達は外に出るとすでにドレイクがモービルウォーカーに乗り込んでいた。モービルウォーカーにタカヒト達は乗り込むとミカはお花に声をかけた。


 「とくべえさんのことは心配しないで・・・

  それよりお花さんも気をつけてね。」


 「ありがとよ、ミカ。

  皆も無理をしないようにの。」


 ゆっくりとモービルウォーカーは浮上すると南の町に向かって進んでいった。


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