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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
146/253

それぞれの想い

 最高の力を手に入れたタカヒト、ジェイド、ドレイクにレインはこれから起ころうとしている現実を語り始めた。


 「創造神システムを手に入れたピサロは最悪最強と言ってもいい。そしてそのピサロに戦いを挑む者たちが出現した。」


 「それって誰?」


 「お前もよく知っている者・・・地獄道の者と言えば分かるだろう。」


 地獄道の者・・・それはリディーネのことだとすぐに分かった。たしかに先の大戦では天道と地獄道との死闘が繰り広げられてその時にリディーネは父親である破壊神を失っている。

 復讐を糧にリディーネは想像を絶する修行をしてきた。そして現在では彼女は破壊神を名乗っているとレインは言った。


 「どうすれば止められるの?」


 「止めるのは不可能だ。動き出した流れを止めることは誰にも出来はしない。」


 「止められない・・・僕はまた誰かを失う・・・。」


 「お前ならば・・・輝ける未来に向かう力を得たお前と玄武、蒼龍、白虎の力そしてお前の仲間が力を合わせれば・・・」


 「止められる?」


 「いや・・・・流れをほんの少し変えられるかもしれん。」


 「止められなくても流れを変えられるのかもしれないんだね。なら僕やってみる。皆と力を合わせてやってみる。」


 「おいおい、タカヒト。勝手に決めても従わない奴もいるかもしれないぜ。このジェイドみたいに・・・・。」


 ドレイクはジェイドを指さした。たしかにジェイドはこれまで敵対していた人物でありたとえ四神であっても協力は得られそうにない。タカヒトが不安な表情をするといままで黙っていたジェイドが口を開いた。


 「貴様に言われたくはないな。おまえこそ人の指図など聞き入れるとは思えない。修羅道のドレイクが何故、てんと達の協力をしている?お前も創造神システムを手に入れたかったのではないか?」


 「ふう~・・・やっと口を開いたかと思えば俺のバッシングかよ!まあいいや、創造神システムなどいらないとは否定できないしな。だがな・・・あれは個人が所有するものじゃないぜ。あれは戦う武器や兵器なんてシロモノじゃあねえ。あれは生きていくモノすべてに影響を及ぼすもんだ。いくら俺でもすべての世界を操ろうなんておこがましくはないぜ。俺はな、好きな女とこいつ等と楽しくやっていければそれでいいんだ。おまえみたいにいつまでもウジウジしている奴とは違うんだよ。」


 「何だと!」


 「おっ、やるか。玄武の力を得た俺とおまえとでは能力に差はねぇぞ。喧嘩ならいつでもやってやるぜ!」


 「ちょ、ちょっと止めてよ!ふたりがいがみ合ってどうするの!!」


 牽制しあうドレイクとジェイドを必死になってタカヒトは止めようとする。かなり時間はかかったが説得に応じたジェイドとドレイクは一時休戦ということで納得した。その光景を見ながらレインは口を開いた。


 「ではこの空間から現実の世界へと向かおう。」


 レインは右手を頭上にあげると周囲が薄っすらとボヤケて砂で覆われた世界が辺りに広がった。そこは創造神の扉を開ける石柱が並んだ解放区であった。タカヒトは辺りを見渡すとミカが倒れていた。


 「ミカちゃん!」


 急ぎ走っていくとミカの身体を起こした。かなり衰弱しているが命には別状はないようだ。視線を移すとリナとてんとも倒れていた。ドレイクが走り近づいていくとリナとてんともかなり衰弱していたが無事なようだった。タカヒトはマテリアルフォースで治癒を施しながら名を呼び続けるとゆっくりミカは意識を取り戻していく。


 「・・・・タカちゃん?・・・良かった・・・無事だったんだね。」


 「ミカちゃん。何があったの?」


 「マスティアの襲撃に遭って・・・でも急に攻撃を止めると何処かに行った・・・アレ・・・タカちゃん・・・?」


 「記憶が戻ったんだ。もう大丈夫だよ。」


 「・・・・良かった・・・・」


 涙を流しながらミカはタカヒトの首に両腕を回した。だがその直後に気を失ってしまった。タカヒトはミカを抱きかかえるとレインが歩み寄ってきた。


 「どうやらピサロも地獄道の者に気づいたようだ。奴の飛行艇もこの地にはいない。しばらくはこの地に留まり休息を取るのがよかろう。準備が出来次第、これを使い天道へ向かうといい。」


 「コレはなんなんだ?」


 「ヨグ・ソトホートと呼ばれるものだ。天道へも移動が可能になる。」


 「ほう、これがヨグ・ソトホートってやつか・・・

  結構気持ち悪い生き物なんだな。」


 ヨグ・ソトホートとは旧支配者達の創造物で時間や空間に干渉されず自由に移動が出来る生命体である。ドレイクが両手で持てるほどの大きさではあるがグロテスクな形をしている。生命体とは言っても貝のようなモノで動くことはない。


 「私は先に天道へ向っている。ピサロ率いる天道軍は注意せねばならん相手だ。準備を怠らぬようにな。」


 そう言い残すとレインは左手を頭上にあげた。そして黒い渦が発生するとその姿が消えた。しばらくしてからドレイクが発光弾を打ち上げると和尚とルサンカの乗った飛行艇が近づいてきた。タカヒト達は気を失ったミカ達と飛行艇に乗り込むとハデスの城へと向かった。その道中、タカヒトはミカの看病に動き回っていた。そういえば昔タカヒトもミカに看病を受けていた事があった。


 「ミカちゃんはこんな大変なことをしていたんだ。」


 ミカの額に水を絞ったタオルをのせる。スヤスヤと眠っているミカの手を握るとタカヒトは微笑んだ。甘えてばかりの自分がミカの力になっている実感にほんの少し自信がついたのかもしれない。ドアをノックする音が聞こえるとルサンカがドアを開けた。


 「タカヒトさん、お邪魔ですか?」


 「ううん、そんなことないよ。」


 握っていた手を離すとタカヒトは真っ赤な顔でルサンカを見た。彼女の話ではドレイクの看病を受けていたリナは意識を取り戻し、てんとも完全に回復したらしい。しかしジェイドはいまでも自室に入ったまま出てこないと寂しそうに言った。


 「大丈夫だよ。ジェイドもすぐに出てくると思うよ。だってお腹空くと思うし。」


 「フフ、タカヒトさんって面白い事を言うんですね。

  ミカさんの気持ち少し理解出来ました。」


 「えっ、ミカちゃんの気持ち?」


 そう言い残すとルサンカは笑顔で部屋を去っていった。その言葉に疑問を感じながらもタカヒトは額のタオルを取ると水を入れた桶にタオルを入れた。タオルを絞る音に眠っていたミカが意識を取り戻した。その瞳は吸い込まれそうなくらい綺麗でタカヒトはなんとなく恥ずかしくなる。意識を取り戻したミカは布団で顔を半分くらい隠した。


 「タカちゃん・・・ずっと看病してくれてたの?」


 「・・・・うん。」


 「・・・・ありがとう」


 顔を布団で半分隠したまま恥ずかしそうに嬉しそうにミカは言った。タカヒトは真っ赤な顔をしながらタオルを絞るとミカの額にのせた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「何故、貴様がここにいる?」


 「・・・・」


 てんとの問いかけにジェイドは黙ったまま何も答えようとはしない。ジェイドがいることをドレイクから聞いたてんとが押しかけてきた。


 「何も答えないのか。二度も同じ過ちを繰り返せばさすがの貴様も落ち込んだようだな。ユラを失ってまでも手に入れたかったものはなんだ?」


 「・・・・」


 沈黙を保っているジェイドにてんとは感情を抑えることが出来ずに部屋から去っていった。再び独りとなったジェイドの部屋にルサンカが入ってきた。


 「てんとさん、怒ってましたね。」


 「・・・そうだな・・・」


 「謝ったらいいのに・・・。」


 「前世では奴と俺は兄弟だったらしい。俺が頭を下げられないのは兄貴としての前世の記憶が残っているのかもな。」


 「お兄さんだからって謝らなくていいってわけではないと思います。悪い事をしたから謝るんですよ。まあ、でも時間が経てば元通り仲良くなれますよ。あっ、これスープとパンです。よかったら食べてください。」


 ルサンカは用意したスープとパンをテーブルに置くと笑顔で部屋を出ていった。独り外を眺めているジェイドは涙を浮かべていた。


 「俺は・・・・何処に行けばいいんだ・・・・。」


 生命を維持する為に生きる為に食べる。今のジェイドに・・・・最愛のユラを失ってまで生きようとする自身の身体とは対象的に精神は死を選ぼうとしている。肉体と精神のバランスを失いながらジェイドは何処に向かおうとしているのだろうか・・・。

 飛行艇はハデスの城に到着するとハデス二世自ら出向かえに来た。ご機嫌な表情でタカヒト達を豪華な王室に招きいれた。


 「お前らのおかげで旧支配者達をこの世界から一掃できただら。これで俺は黄泉の王として君臨することができるだら。」


 結果オーライと言わんばかりにハデス二世は満面の笑みを浮かべた。その日はハデスの城で休むことにして翌日天道に向かうことにした。最後の夜にタカヒトは石畳の廊下を歩いているとルサンカが寂しそうに独り夜空を眺めていた。


 「どうしたの?」


 「あっ・・・・なんでもないです。」


 タカヒトに気がつくと涙を拭き笑顔を見せるルサンカだった。明日には天道へ旅立つタカヒト達と別れなければならないルサンカの寂しい気持ちは十分わかっていた。だがタカヒトは言葉に詰まった。なにを言えばいいのか思いつかなかった。沈黙が流れてしばらくするとルサンカが口を開いた。


 「私・・・もう行きますね。」


 ルサンカは一礼すると石畳の廊下を歩いていった。寂しいくらい小さな背中を眺めていると黙りこんでいたタカヒトは急に走りだしルサンカの後を追った。


 「ルサンカ!」


 「・・・・どうしたんですか?そんなに息を切らせて・・・」


 「ハァハァハァ・・・あのね、ルサンカ・・・難しいことわからないけど僕達はいままでがんばってきたんだ!だから、あると思うんだ。」


 「何が・・・ですか?」


 「それは・・・・ルサンカにしか出来ないこと!必ずあると思うんだ!僕が四神の朱雀であるようにルサンカにだって生きていく意味があると思うんだ!だから・・・えっと・・・アレ?僕・・・何を言いたいんだろう・・・・?」


 額に汗をかきながらあたふたするタカヒトの姿にルサンカはクスッと笑った。その笑顔を見たタカヒトも照れくさそうに笑った。


 「ありがとう、タカヒトさん。私も私にしか出来ない事を見つけます。生きていく意味は誰にでもあるものですものね。」


 タカヒトは笑顔でうなずいた。その笑顔にルサンカも笑顔で返した。何かを見つけたような表情でルサンカは先ほどとは違い、石畳の廊下を嬉しそうに歩いて部屋へと戻っていった。

 額の汗を拭いたタカヒトもなんとなく笑顔で部屋に戻るとフカフカのベッドに入り深い眠りについた。日が変わりタカヒト達の旅立ちの日となった。城の前にはすでに飛行艇が用意されていてタカヒト達の出発の準備は整っていた。


 「和尚、本当にいいのか。飛行艇を借りていっても?」


 「珍しいこともあるものじゃな。お主に気を遣う心があったとはの。」


 「けっ、別にそんなんじゃねえよ。」


 「まあ、借りるってことは返してくれるのじゃな?傷をつけたら高くつくぞい。」


 「借りてやるが・・・返す頃まで生きているといいな。」


 「この若造が!」


 「んじゃあ、借りていくぜ!」


 ドレイクはリナを連れて飛行艇内に入っていった。すでにジェイド内部に入り込んでいる様子でリナの後をルサンカ達との別れを済ませたミカが歩いていった。タカヒトもルサンカに別れを告げると笑顔で見送ってくれた。


 「タカヒトさん、昨日のこと覚えてますか?」


 「昨日言った事・・・ルサンカにしか出来ない事のこと?」


 「はい、私・・・

  ここで和尚さんやお身体の不自由な方のお世話をさせて頂たいと思っています。私は誰かに喜ばれる事をしていきたいんです。だから、そう決めました。」


 「うん、ルサンカに合っていると思う。元気でね、ルサンカ。」


 手を振るルサンカにタカヒトは大きく両手を振った。その姿を見たリナがミカに言った。


 「ちょっといい感じね、あのふたり。

  どうする、ミカ?タカヒトが心変わりしたら?」


 「大丈夫よ、タカちゃんは!」


 「男を自由にさせて手綱だけは握っているってわけね。」


 タカヒトはミカの後を追って飛行艇内に入っていくと動力装置が動き始めた。最後にてんとはハデス二世に挨拶をした。


 「どうやって天道に行くつもりだら?」


 「レインよりヨグ・ソトホートを得ている。

  天道の何処に行くのかは分からないが問題はないだろう。」


 「武運を祈っているだら。

  お前達の動向が六道の今後を左右する。必ず生き抜くだら!」


 一礼するとてんとも飛行艇に乗り込んだ。動力装置の回転数が上がりゆっくりと上昇していくと飛行艇はだんだん小さくなっていった。飛行艇の窓から見た黄泉の国も小さくなって高度を確保した飛行艇は前進していく。


 「てんと、ヨグ・ソトホートは動力にセットしたな?」


 「完了してある。」


 「よぉーし、天道のピサロんとこに行かなきゃいいがな!んじゃあ、行ったるか!」


 ヨグ・ソトホートが動力と同調すると飛行艇は白い渦に包まれていく。そしてそのまま黄泉の国から姿を消していった。その光景を見た和尚は少し寂しそうな表情を浮かべた。


 「ふう・・・手を焼かしていた息子が旅立つと少し寂しくなるのぉ~。」


 「フフ、そんなことはありませんよ。私がいるじゃないですか。私もタカヒトさんに負けないくらい努力して次に会う時はもっと笑顔になれるようにがんばります。」


 「フォフォフォ・・・若いっていうのはええもんじゃのぉ~。しかし長生きしてよかったわい。あの時、ジークフリードに頼まれて資料を取りに行かなかったらここにはおらんかったのぉ~。ワシも役目が終わり少し肩の荷がおりたようじゃわい。これからは隠居生活を楽しむとするかの。」


 「そうですね、これからはゆっくり楽しみながら日々を送りたいですね。ところでいままで聞いた事がなかったけど和尚さんの名前はなんていうんですか?」


 「ワシか?ワシはライスじゃ。ライス・モンチュ・イムホテプじゃよ。」


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