繋がれた絆
「前世で繋がれた絆はいつまでも残っているのよね。」
「・・・もし貴様の言うとおりだとしたら何故ジェイドは私達の命を狙ったのだ?」
「命を狙う?・・・前世で弟だったあなたを殺すことなどありえないわ。まあ、彼なりの考えもあったのでしょう。」
「・・・・」
「でもあの時に殺した子供が輪廻転生していたとはね。」
「その言い方だと当時の事を知っているように聴こえるな。」
「私の名はピサロ・ミスラ・ハルワタート。その昔はアルカディアの王族上位サバーニア・フラワシ・ハルワタートと呼ばれていたわ。」
サバーニアは四神の攻撃を受け、生死を彷徨う状態であった。その後天道で集中治療が行われたが手術は難航を極めた。ショック死を起こしかねない大量の吐血に薬品を投入した結果、サバーニアは一命を取り留めた。しかしそれと同時に別人格であるピサロ・ミスラ・ハルワタートが生まれた。
「おかげで短命だった私は長生きすることが出来たわ。もちろんほかのアルカディア人は死んじゃっているけどね。それにしても時が経つのって本当に早いものね。当時、若造だった徳寿は今では天道を束ねる人格者になったわ。天道の反逆者となったアザゼルは地獄道に堕としたけど・・・・まあ、死んだ奴などどうでもいいわね。」
「アザゼルとは破壊神のことか?」
「ええ、そうよ・・・それにしても天道の情報流出にも困ったものよね。ジェイドごときに重要機密情報が漏れるなんて。厳しく取り締まらないといけないわ。でも、いいこともあったかしらね。彼のおかげで創造神システムに辿り着けたのだし・・・昔話も飽きたわ。」
ピサロは右腕を前に差し出した。戦慄を感じたてんとは距離を取りミカとリナも戦闘体勢をとった。するとピサロの目の前にマスティアが現れた。
「これから忙しくなるわ。あなた方の相手はマスティアさんがするから楽しんでちょうだい。」
そう言い残すとピサロは浮遊して飛行艇へと戻っていった。目の前に立つマスティアは天道で造られた最強の実験体である。タカヒトとドレイクですら苦戦した相手にてんとには戦術が浮かばない。そんな戦況の中、遥か後方から砂煙が立ちあがりツァトゥグアの軍隊が進軍を進めてきた。もはや逃げられないと察したてんとはミカとリナに激を飛ばした。
「背水の陣と思え、これを乗り越えたら生き延びる事が出来る!」
「ミカ、いくわよ。生きてドレイクとタカヒトを助けるのよ!」
「うん、もうタカちゃんを失いたくない!」
ツァトゥグアの軍隊は勢いを増しながら進軍してくる。すでにツァトゥグアにはてんと達の姿が視界に入っている。そんなツァトゥグアはご満悦の表情だ。
「ピサロはん、独り占めはあきまへんで。ワシかて儲けさせて貰いまひょ!」
行軍しているツァトゥグア軍隊が到着する前にすでにてんと達は地面に倒れていた。そう、てんと達はマスティアの攻撃になすすべもなく倒されていたのだ。到着したツァトゥグアは笑顔でマスティアに声をかけた。
「マスティアはん、終わったんでっか。」
「・・・・。」
「なっ、なにすんねんな!!」
それはまさに虐殺と言ってもいい状況だった。数百人のツァトゥグア軍隊がたった一機のマスティアに一方的に殺されていった。逃げ惑う兵士に対して無慈悲なマスティアの一撃が彼らの命を一瞬にして奪い去る。腰を抜かしてその場に座り込んだツァトゥグアが震える声で叫んだ。
「何でや?ワシは協力したんやで。
アンタはんも助けたやろ?何でや?説明せいや!」
「死ぬ者に説明は必要はない。」
「いやや・・・死にとうない。いやや・・・もっと儲けたいんや・・・ゲブッ!」
両手を合わせ嘆願するツァトゥグアの頭をマスティアは握ると草をむしり取るように胴体から引き離した。ツァトゥグアの首から大量の血が吹きあがり胴体は地面に倒れた。用済みのツァトゥグアの頭を地面に落とすとマスティアはてんと達の姿を捜した。リナとてんとは気絶して倒れていたがミカだけは這いずりながらタカヒトの元へ向かっていた。
「タカちゃん・・・タカちゃん、今行くからね・・・」
這いながらタカヒトのいる石柱に向かうミカの後ろを砂埃をあげながら近づいてくるマスティアの姿があった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「む・・・息子達よ・・・聴こ・・・えるか?」
「・・・うっ・・・ううん・・・ここは・・・・?」
タカヒトはぼんやりと辺りを見渡した。そこにはドレイクが倒れていてすぐに駆け寄ると数回呼びかけドレイクは目を覚ました。
「・・・ここはどこだ?・・・・リナ達の姿が見えないが・・・」
辺りを見渡してもミカもてんともリナもそこにはいなかった。するとまたタカヒト達を呼ぶ声が聞こえてきた。ドレイクと共に声の聞こえる方向に歩いていくと立派な神殿があった。
「こんな建物があったか?・・・タカヒト、警戒しながら行くぞ!・・・?」
ドレイクは腰に吊るしてある斬神刀を握ろうとするがどういうわけか斬神刀は消えていた。タカヒトの羅刹もなく疑問を感じていたが神殿からの声が再び聞こえると警戒しながら中に入っていく。声の聞こえる方向に足を進めると装置らしき機器の並んだ部屋が目の前に現れた。
「どういうことだ?何故貴様らがここにいる。」
ドレイクが身構えるとそこにはアレスとジェイドの姿があった。しかしアレスやジェイドからは戦いを仕掛けてくる様子はなさそうだった。警戒しながらもドレイクとタカヒトは声の聞こえるジェイド達の方に歩いていく。
「我が息子達よ・・・集まったようだな。この声を聞いているということは創造神システムが何者かの手に渡ってしまったか・・・・お前達には辛い運命を背負わせてしまった事を許してくれ。だが、お前達以外に創造神システムの暴走を止める者はいない・・・我が息子達よ、システムの暴走を食い止めてくれ!」
「・・・・何なんだ?俺は機械を親父にもった憶えはないぜ。」
「私が説明しよう。」
アレスが振り返るとそこには茶色の厚手のマントを前にかき合わせ深々とハット帽を被っている人物が立っていた。これにはドレイクもジェイド、アレスは驚愕した。彼らはその人物の気配にまったく気がつかなかったからである。
「私はレイン。
システムを生み出したジークフリードにより創られたプログラムの一部。」
「おいおい、いきなり何を言うかと思ったらプログラムの一部だと?プログラムの一部が何故歩いたり出来るんだ?お前は十六善神のレインだろ?」
アレスはバカにしたように言った。そう、たしかにその人物はアレスの知っている十六善神のレインであった。レインは自ら創造神システムが創り出した人工生命体であることを証明してみせた。レインは刃物を取り出すと左腕を切り落とした。そして地面に落ちた左腕を右手で掴むと切断面を合わせた。すると何事もなかったかのように元通りに戻った。左手の指先を動かして確認している姿は天道の科学でも出来ない事だ。
「くっ・・・貴様がもしそうだとしたら何故、十六善神なんだ?」
「私はピサロの動向を監視する為に生み出された。しかし奴を止める力はない。それはジェイドもわかっていたことだ。」
「どういうことだ?」
ドレイクの疑問にレインは答えた。天道の情報管理の甘さをつき、すべてを知ったジェイドはピサロの陰謀を阻止しようとした。何故ならすでにピサロは創造神システムの書き換えプログラムを自ら構築しかけていたからだ。それが完成するのも時間の問題だった。ピサロの持つ力はすべてを凌駕するものである。故にジェイドはピサロの能力を最小限に抑える為にこの黄泉の国を選んだ。ジェイドもソウルオブカラーを使えない状況になるのだがそれ以外に方法はなかった。そしてピサロを誘き寄せる餌が必要だったわけだがそれが創造神システムであったということである。
「だがすべてを察していた奴にシステムを奪われて・・・ユラまでも・・・」
「すべてを治める力を得たピサロに対抗出来る者はお前達しかいない。父親であるジークフリードの最後の言葉を受け入れるがいい。」
レインは両手を頭上にあげると光を放った。その光の中には初老を向かえるくらいのジークフリードの姿が映った。
「我が息子達・・・辛き日々を与えた父を許してほしい。今言える事はお前達が望む世界が存在していないということだ。創造神システムが掌握されてしまった。対抗すべき手段はお前達の持つ四神のみ。創造神システムをも超える最後の力・・・希望を与えよう。
朱雀は輝ける未来に向かう力を
青龍は失いし過去取り戻す力を
白虎は現在を安定させる力を
玄武はすべての時間を束ねる力を・・・最後に私はお前達を信じている。」
最後の言葉を伝えるとジークフリードの姿は消えた。朱雀は輝ける未来に向かう力を受継いだようだがタカヒトの外見に変化は見られない。しかし輝ける未来とはどのようなものなのか?タカヒトがしばらく考え込んでいるとアレスが声をあげた。
「何が現在を安定させる力だ!そんな力など何処にもないぞ!」
「お前は間違っている。お前はすでに白虎の力を得ているにも関わらずその力を信じずに師匠であるアザゼルを殺めた。」
「アザゼル・・・破壊神の事か?・・・師匠とはどういうことだ?」
疑問に思うアレスにレインは言った。それはアレスが驚愕する内容だった。アザゼルは天道の反逆者として地獄に堕とされたのではなかった。サバーニアの陰謀を阻止する為に徳寿とは別の方法で行動したのだ。四神の器となったジークフリードの子供達は輪廻転生を繰り返していた。アザゼルは四神のうち、白虎の器となる者を偶然にも発見した。アザゼルは事態の発覚を恐れ、反逆者の罪をわざと背負いその者を連れてまだ原始的な世界であった地獄道へ向かったのだった。
「私は破壊神の指導の下で守護神白虎として成長する為に・・・
だとしたら私のした事は・・・。」
「師を殺め、自らの欲望に生きたお前は今一度、転生する必要がある。」
レインは左手をアレスに差し向けると黒い渦が発生した。その渦に引き込まれるようにアレスの身体は吸い込まれていく。
「何!・・・ぐあっ、止めろ・・・止めてくれぇぇ~~~!!」
黒い渦に飲み込まれてアレスの姿は消えていった。その場にいたタカヒトもドレイクもそしてジェイドも驚きを隠せなかった。差し向けた左手を下ろすとレインはドレイクを見つめた。
「・・・その様子だと次は俺の番かい?」
「いや、お前は和尚の手によってすでに完了している。」
この言葉にドレイクはすべてを理解した。自分が修羅道よりこの黄泉の国に堕ちて和尚に拾われてから多くの事を学んだ。それらはドレイクが守護神玄武として成長する為だった。そして今、玄武のすべてを得たドレイクはみなぎる力に高揚している。レインは次にジェイドの前に立った。
「アレス同様に俺は多くの者を殺めてきた・・・覚悟は出来ている。」
しかしレインは首を横に振った。最後にタカヒトを見ると歩み寄ってきた。オドオドするタカヒトだったがレインは笑みを浮かべた。
「記憶を失いし朱雀よ・・・失ったものを与えよう。」
「待って!・・・失った記憶を得るってことは今の僕はいなくなるんですか?」
「いや、違う。お前は何も変わりはしない。
ただ大切な仲間達の事を思い出すだけだ。」
安心したタカヒトの額にレインは右手を差し向けると白い渦が発生した。するとタカヒトの脳裏に失った今までの記憶が風を浴びるかのように戻ってきた。レインが右手を下ろすとタカヒトはレインを見つめた。
「ありがとう・・・僕、全部を思い出した。」
「タカヒトよ。自らを信じ、大切な者を守るべく戦うことを私は望む。」