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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
144/253

チェイサー(追撃者)

 「ライス、この資料を第二研究所から取って来てくれ。」


 「はい、わかりました。」


 ジークフリードは資料の名が書かれたメモを手渡すとライスは馬に乗り第二研究所へと出発した。大都市の北に位置する第二研究所は資料庫として使われてライスはよくそこに行っていた。それから数時間が経った頃、長兄のアスベルが血相を変えてジークフリードのもとにやってくると発した言葉にジークフリードは驚愕した。サバーニアがこの地にやってきたとアスベルは言った。しかしジークフリードは天道から逃亡する際にシステムは完全に破壊してきた。


 「どうやってこの地に?プログラムは完全に破壊したはず・・・・・!サバーニアがプログラム破壊前にプログラムデータを別媒体に保存しておいたら・・・」


 それは的中した。ジークフリードの不穏な動きを察したサバーニアは研究所に潜り込みデータを抜き取っていたのだ。しかしプログラムの保存は完全ではなくデータの復旧作業にかなりの時間を費やしたのだが今こうして六道間の移動は完成した。


 「あとは創造神システムの起動と操作権を得るのみ。さあ、進軍を開始せよ!」


 兵士達は歩を合わせ進軍していく。その数は数百人と小規模ではあるがジークフリード一家を捕らえるには十分すぎる人数である。すでに領地に侵入しているサバーニアの部隊は遠くに大都市が見える距離まで進軍していた。情報を得たジークフリードは急いで大都市計画に携わっているザエルを呼び、勉強中のラグナロフとロトを連れてユイの待つ家に戻った。家にはハドムが笑顔で迎えてくれたがそのハドムを抱きかかえるとジークフリードはユイを見つめた。すべてを察したユイは万が一に備えておいた荷物を持つと馬車の荷台に積み込んだ。一家が乗り込むのを確認するとジークフリードは馬車を走らせた。


 「どこに行くの?」


 健気なハドムだけがユイに笑顔で問いかけた。ユイはハドムを抱きかかえると笑顔であやしている。しかしアスベルとザエルは険しい表情を隠せなかった。その緊迫した空気はラグナロフとロトにも伝わっていた。長い時間、馬車は移動して着いた先には船が用意されておりその船に一家は乗り込むと出航した。それと同時刻、サバーニアは大都市に到着していた。一家の捜索を開始していくが発見には至らなかった。


 「どこに隠れおった・・・」


 「陛下、港より一隻の船が出港した模様です。」


 「船・・・・! 追え、その船を追うのだ!!」


 サバーニアは血相を変えて兵士達に激を飛ばした。サバーニアは知っていた。ジークフリード一家が逃走したのではなくある場所を目指していることを。


 「阻止せねば・・・すべてが無駄になってしまうではないか!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「着いたぞ。アスベル、ザエル、私と一緒に来るんだ!」


 ジークフリードは馬車を降り石柱造りの神殿に入った。船に乗り東の大陸に到着すると馬車を走らせこの地に辿り着いた。ここは未開拓地であり六亡星達の侵略も受けていないジークフリードにとってもっとも好都合な場所であった。この地に結界を張り巡らせて六亡星達の侵入を防ぐと共に巨大な石柱を建て神殿を建設した。ジークフリードはいずれサバーニアかもしくはそれに匹敵する相手がこの地に現れて創造システムを起動させる恐れがあると懸念していた。この神殿を建設した目的は創造神システムを自ら起動させ、何人たりともシステムの操作をさせないようにする為だった。システムのパネルスイッチを押していくと四方にある石柱が光を放っていく。プログラムが完全にシステムに読み込まれるまで数日必要となる。それまでにジークフリードは決断せねばならないことがあった。


 「皆にこのような思いをさせたことは申し訳なくおもう。だがサバーニアの思惑通りに事が進めばすべての世界が破滅へと向かうのは確実・・・許してくれ!」


 「父上、何をおっしゃいます。私達はすでに覚悟を決めてます。」


 すでに成人になっていたアスベルが言った。ジークフリードは神殿内にある食堂に家族を集めた。ジークフリードは創造神システムを起動させ封印しなければならない。封印には研究のひとつであるソウルオブカラーと呼ばれる色玉を操り四匹の守護神を生み出す。守護神ともうひとつ・・・扉を開ける鍵が集まった時、創造神システムへの扉が開かれる。

 守護神を生み出すには色玉を操れる資質を持つアルカディアの血が必要だった。その資質を持つ者こそ長男のアスベル、次男のザエル、三男のラグナロフ、五男のハドムである。ソウルオブカラーから守護神を生み出す研究をすでに完了していた。必要なのはアルカディアの血でありその為に資質のある者を捜していた。その者達はすぐに見つかり子供のいなかったジークフリード達は養子としてアスベル、ザエル、ラグナロフの三人を育てた。研究を完成させる為に養子としたがどうしても研究を完成させることが出来なかった。後にジークフリードとユリアの間に子共が生まれた。四男のロトと五男のハドムである。研究を諦めたはずのジークフリードにとんでもない事がわかった。資質を調べた結果、五男のハドムが適合者だった。もちろんジークフリードは再び研究を再開することはなかった。月日が流れ、現在ジークフリードは覚悟を決め、決断しなければならない事態となってしまった。しかしここにきて思いもよらないことを四男のロトが言った。


 「父上・・・ハドムの役目を僕が代わってあげられないでしょうか?弟のハドムにこのような思いをさせたくないです。」


 ロトの言葉にジークフリードは黙り込んでしまった。ロトの気持ちもわかるが資質が適合していない以上、代わることなどできない。しかし兄としてのロトの決意もその瞳から変わるとは思えない。


 「ロト・・・おまえの気持ちはわかるが・・・・

  まてよ、色玉の同色組合せならどうだ?」


 ジークフリードはシステムに検索をかけると蒼龍に関してだけ同色組合せが可能な事がわかった。プログラムを組み替えていくと更にシステムの安定率があがることも確認できた。

 こうして長男のアスベル、次男のザエル、三男のラグナロフ、四男のロトが守護神の器としてその身を捧げることが決まった。最後の晩餐となった彼らは何も語らずにただ黙って目の前の料理を口に運んでいた。子を失う親の哀しみ、苦しみ。親を思う子の決断と恐怖。ただハドムだけが無邪気な笑顔で料理を食べていた。そして決行の日が来た・・・。四人の子供達を抱きしめユイはただ涙を流している。三男のラグナロフ、四男のロトも涙が止まらない。弟達の手を握ると長男のアスベルが言った。


 「母上と父上に出会えて私達は幸せでした。悔いはありません。」


 「母上・・・・お元気で・・・。」


 「アスベル・・・ザエル・・・・」


 ユイから離れるとアスベルとザエルはラグナロフとロトを連れて父親のジークフリードの待つ装置室内の光輝く石柱に向かっていく。


長男のアスベルは第一の石柱。石柱には玄武の印が彫られている。


次男のザエルは第二の石柱。石柱には朱雀の印が彫られている。


三男のラグナロフは第三の石柱。石柱には白虎の印が彫られている。


四男のロトは第四の石柱。石柱には蒼龍の印が彫られている。


 四人の子供達が石柱に配置されるとそこにスカルマスターの鎧を身に着けたユイがやってきた。護神ともうひとつ・・・扉を開ける鍵が集まった時、創造神システムへの扉が開かれる。その扉を開ける鍵はスカルマスターであるユイの血肉なのだった。髑髏の仮面の下でユイの頬には涙が切れることはなかった。様々な感情を押し殺しながらスカルマスターとして最後の仕事に取り掛からなければならない。ユイには歳の離れた妹がいる。万が一を考えユイはスカルマスターの後継者として彼女を大臣達に託していた。後継者の証として自らが思う場所への移動が可能となるヨグ・ソトホートも渡している。涙を堪えスカルマスターはジークフリードの前に立つと言った。


 「サバーニアが近づいています、急ぎましょう。」


 スカルマスターは四つの石柱の中心に歩を進めるとジークフリードは創造神システムの起動スイッチを押した。四つの石柱と中心に光の柱が現れ四人の子供達とスカルマスターを包み込んでいく。その光景を見たジークフリードは膝をつき、涙を流した。


 「・・・・すまない。私の研究がもっと進んでおればお前達の笑顔を絶やす事などなかっただろう。父を・・・私を許してくれ・・・・」


 光輝く柱の中にいる彼らにはジークフリードの声は聞こえなかったが誰一人としてジークフリードを恨んでいる者などいなかった。肩を落とし、涙を流しているジークフリードの傍らではハドムだけが成り行きを見つめていた。

 「バスッ!」と鈍い音が響くと同時にジークフリードはその場に倒れた。苦悶の表情を浮かべ口から血を吐き出した。キョトンとした表情のハドムが振り返るとそこには煙のあがっている銃口をこちらに向けて立っているサバーニアの姿があった。幼きハドムをかばうように上半身を起こすとジークフリードはサバーニアを凝視した。


 「ふん、見つけたと思ったら勝手なことしおって!」


 サバーニアは兵士と共に近づいてくる。弾丸が胸を貫き呼吸をすることも困難なジークフリードはかすれるような声でハドムに言った。


 「逃げろ・・・お前達だけでも逃げてくれ。」


 恐怖に混乱しているハドムは動けなかった。ジークフリードは最後の力を振り絞り立ち上がるとサバーニアに向かっていく。手足が震え立ちすくんでいるハドムの耳に激しい銃声が聞こえた。ハドムの目の前でジークフリードは地面にへばりつくと動かなくなった。


 「わああぁぁ~~ん・・・お父さん・・・わあぁぁ~~ん。いやだぁ~~・・・」


 泣きじゃくるハドムに一発の銃声が鳴り響くと鳴き声は静かになった。動かなくなったハドムには目もくれずサバーニアは倒れているジークフリードに銃口を突きつけた。


 「早くシステムを止めろ。そうすればおまえだけは助けてやろう。」


 「システムは安定状態・・・もうすぐ最後のプログラムが遂行される。安定から成熟状態に・・・必要なもの・・・それは・・・これが息子達の笑顔を・・・奪った罰・・なのかも・・・しれ・・・。」


 ジークフリードは息絶えた。次の瞬間、激しい光が辺りを包んだ。サバーニアも目を覆うほどの光に動揺した。サバーニアが再び目をあけると四方の石柱の上に守護神が現れていた。

そして中央には白と黒の渦が発生している。


 「アレが創造神システムへの扉!あの中に我が野望が待っている!」


 サバーニアが白と黒の渦に近づこうとした瞬間、四匹の守護神が雄叫びをあげて襲い掛かってきた。朱雀の烈火に兵士達は瞬時に焼き殺され、白虎の鋭い牙にサバーニアは両脚をもぎ取られた。蒼龍が神殿を氷着かせると玄武により神殿は粉々にされた。雪のように舞い落ちてくる石の粉を浴びながらサバーニアは悲鳴をあげた。


 「なっ、何なのだ・・・我はアルカディアの王ぞ!」


 顔面蒼白のサバーニアは腰から下を失った姿で這いながら神殿から逃げていく。動きを止めた四神は白と黒の渦に次々飲み込まれて渦と共に消滅した。緑豊かな神殿だったが残ったのは四つの石柱と荒れ果て砂漠化した大地だけであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「こちら、徳寿。これよりサバーニア様の輸送を開始する。」


 荒れ果てた地には数十名の捜索隊が到着していた。サバーニアを発見するとすぐに天道へ輸送を開始した。指揮をとっている徳寿は部下のアザゼルと共に現場を捜索している。


 「徳寿様・・・これは一体・・・・」


 「アザゼル、詮索は無用だ・・・深入りは命を失いかねないぞ。」


 「・・・・」


 徳寿とアザゼルが捜索を行っていると四方の柱の中心に暗黒色の石を発見した。この石が何かはわからなかったがそれを天道へと持ち帰ることにした。この石は共鳴石の一種であることがわかった。しかしその絶大なる力ゆえに天道にて厳重に保管されるようになった。その後、原因は定かではないが暗黒色の共鳴石は天道から消えてしまう。

 創造神システムが起動したことにより六道のどこへでも瞬間に移動出来るシステムが誤作動を生じるようになってしまった。天道からのみ他の世界へと移動出来たシステムが他の世界からも天道へと移動出来るようになってしまった。黄泉の六亡星の侵攻を懸念した徳寿はシステムの一部プログラムを書き換えることに成功した。その結果、黄泉の国へのルートは天道の一部のみとされ天道からの一方通行となることには成功した。だが、六道間を繋ぐ狭間と呼ばれる道が出来てしまった。繋がっては切れるこの不安定な空間を削除するべく様々なプログラムを組んでいくがいずれも失敗に終わった。


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