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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
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知識を得る事と生きる事

 「なにやら不穏な空気は感じるがジェイドとユラの姿は見えないな。馬車での移動はここまでにしよう。」


 ドレイクは馬車を止める。砂埃が舞いゴツゴツとした石柱らしきものが至る所に建っていた。それ以外は砂で覆われた土地である。身を隠す所がなくかなり遠くからでも発見され易い事を考えるとドレイクの案に従ったほうが良いだろう。てんと達も荷台から降りると砂漠の大地を踏んだ。足を捕られる地形だけに高射攻撃の対処と地形の対応が勝機を握っているとてんとは考えた。


 「やはり足場の対応が必要になるな。ミカの防御力とてんとの高射攻撃への迎撃が鍵になるな。俺とタカヒトは敵を見つけ次第攻撃に移る。リナはミカの守りを頼む。」


 この言葉を聞き「さすがはドレイク」とてんとは感心した。地形に応じた戦術を立てたドレイクに従い行動していく。なるべくゆっくりと歩を進めるがそれでも砂埃は舞い辺りにタカヒト達の位置を知らせる結果となってしまう。しかしそれは誰しも同じことが言える。ドレイクは周囲の変化に目を配りながら慎重に進んでいくとある異常を発見した。


 「待て!・・・あれはなんだ?」


 ドレイクが停止の指示をすると前方に異常に舞上がる砂埃を見つけた。それはツァトゥグアの軍隊が解放区を撤退する光景だった。一時はその場で待機を命じたものの、変化がないことに苛立ちを隠せなかったツァトゥグアは数名で構成されている偵察部隊を残し野営施設へと向かう事にした。この撤退はタカヒト達には好都合であった。ツァトゥグアの目的は儲け以外にはありえない。無駄な混戦を避けるという意味ではとりあえずは良しと考えた。ドレイクは偵察部隊の編成を注意深く観察している。二班が一定の距離を保ち異変があればすぐに照明弾を打ち上げる段取りとなっている。一班は五・六名といったところか。


 「どちらにしても偵察部隊を倒さねば先には進めん。

  二手に分かれ一気にかたをつける。」


 ジリジリと偵察部隊に気づかれないようにタカヒト達は近づいていく。倒れた石柱の影に隠れたタカヒト達は偵察部隊の通信を聞くことが出来た。


 「こちら第一歩兵部隊・・・異常なし・・・・・了解、監視継続します。」


 第一歩兵部隊は離れた場所にいる第二歩兵部隊に合図を送った。どうやら通信機を持っているのは第一歩兵部隊だけのようだ。照明弾は第二歩兵部隊が所有している。どちらかが襲撃に遭遇しても本隊へ知らせる事が可能なようになっている。ドレイクは合図を送るとミカは精神を集中させた。すると強風が吹き荒れ砂埃に歩兵達は目を覆った。


 「よし、いくぞ!」


 合図と共にマテリアルフォースを高めていたタカヒトは第二歩兵部隊に飛び掛った。タカヒトの狙いは照明弾だ。砂埃で目を覆う歩兵達に気づかれないように着地すると照明弾のケースを奪いミカ達のもとに戻ってきた。ドレイクは斬神刀を振り上げると斬撃を飛ばして通信機を破壊した。強風も止み砂埃が落ち着いた頃、第一・二歩兵部隊の前にタカヒト達が立ち塞がった。


 「無益な戦はしたくない。そうそうに立ち去れ!」


 ドレイクの言葉に歩兵達からは笑い声が鳴り響いた。タカヒト達の人数と戦力を考え本隊への連絡の必要性もないと判断した第一・二歩兵部隊は小銃を手にタカヒト達を囲むように配置していく。その行動にため息をついたドレイク。


 「・・・俺がやる。皆はその場にしゃがみ込んでくれ。

  いくぜ!抜刀術奥義 瞬殺!」


 斬神刀を水平に振り抜くと囲んでいた歩兵達に斬風が襲い掛かった。次の瞬間、歩兵達は一歩も動くこともなくその場に倒れ込んだ。斬神刀を鞘に入れたドレイクは無言のまま解放区の中心部へと歩を進めていくとタカヒト達も後をついていく。てんとはドレイクが敵でないことを今ほど感謝したことはない。しかし疑問もある。ドレイクが何故、行動を共にするかだ?やはりジェイドと同様に創造神の扉を開けてその力を得たいのか?ドレイクの背中を見つめながらてんとの脳裏にはいろいろな思いが浮かんでは消えていく。


 「ここが解放区の中心部か・・・倒れた石柱と砂しかないな。

  てんと、本当にここがそうなのか?」


 「そうだ。」


 「ふむ・・・俺達以外には誰もいないようだ。周囲の地形を確認しておこう。」


 ドレイクはタカヒト達を残して地形の確認する為に離れていく。てんとの計算では明日、月太陽が現れる日だと言うとミカとリナは野営できる場所を探すと言って離れていく。てんとはさらに細かい箇所を書き記したメモを手に確認している。独りその場に残されたタカヒトは急にオドオドすると確認作業を行っているてんとの方に走っていった。


 「どうかしたのか?」


 「うっ、ううん・・・・僕も知っておいたほうがいいかなぁ~って思って。」


 「・・・たしかにそうだな。」


 まさか取り残されて寂しかったとも言えずタカヒトは行動を共にする。ビッシリと書き記されたメモには何が書いてあるのかタカヒトにはわからなかった。


 「てんとさんは難しいこともわかるんですね。すごいなぁ~。」


 「記憶を失っても同じような事を聞くのだな。」


 「えっ・・・ごめんなさい。」


 「別に誤らなくてもいい。

  私の場合は多くの知識を得ていなければ命を失いかねないのだ。」


 タカヒトはドキッとした。知識を得ていない事と命を失う事にどのような関係があるのか?自分の知らないてんとの世界に興味があったが真剣に確認作業を行っているてんとの邪魔をしてはならないとタカヒトは黙っていた。そんなタカヒトの気持ちを察したのか、てんとは確認作業を行いながら話を始めた。てんとはジェイドと共に天道の学舎で多くのことを学んだ。ユラの事件後、てんとは消息を絶ったジェイドを捜す為に特殊な任務に自ら志願した。それがタカヒトやミカのように狭間に堕ちた者達をサポートしながら六道の世界に導く水先案内人としてのてんとの仕事だ。

 学舎では頭脳明晰と謳われていたてんとだが当時のてんとは見た事もない世界に自分の無力を嫌というほど味わっていた。狭間に堕ちた者はてんとの思い通りには行動はせず命を落とし、てんとも命を落としかけた事もあった。天道以外の未知の世界では殺戮・暴動・裏切り・・・それらを乗り越えられたのはすべて生き抜くための知識であり行動だった。それ故にてんとは常に学びそれらを実践している。


 「生きる事は学ぶ事・・・難しそう・・・・・」


 「まずは出来る事から始めればいい・・・ゆっくりな。」


 それからもてんとは細かい情報をタカヒトにわかりやすく説明していった。四神の配置位置はタカヒトも知っておかなければならない事だ。八像と回転時間の法則からいくと明日の月太陽の照らされる順序は南・西・北・東である。四神の順序は常に決まっており上から朱雀・蒼龍・玄武・白虎となる。つまり朱雀は南、蒼龍は西、玄武は北、白虎は東に配置されその中央にスカルマスターの生贄により創造神の扉が開かれる。


 「配置が違うと扉は開かれないの?」


 「開かれないことはないらしい。ただ配置が違うことで身体にたいする影響がかなり違うとはいえるだろうな。」


 月太陽を原住民が浴びる事で身体能力が著しく向上し昆虫人との戦闘を互角のものにしてきた。しかし周期ごとに照らす順番もずれていく為、月太陽に照らされる順番を間違えると身体能力は著しく低下する。最悪、死も免れない。つまり四神として配置されるタカヒト達も位置を間違えると同じ結果になるということだ。今回は朱雀のタカヒトは南、玄武のドレイクは北、蒼龍であるジェイドは東、白虎のアレスは西に配置する。違う位置に配置することで身体能力を低下させてユラを救出するというものだった。


 「配置確認は完了した。あとはこの事をドレイクに伝えるだけだ。そろそろミカ達の野営も整っている頃だろう。戻るか。」


 「うん」


 確認作業を終えるとタカヒト達は野営地へと歩いていく。天幕が張られ、すでに食事の準備をミカとリナはしていた。ドレイクも戻っており地図を眺めていた。食事を終えるとてんとは配置についてドレイクに話を始めた。ひと時目を閉じたドレイクは地図と配置を頭の中に叩き込んでいる。


 「なるほどな・・・・ジェイドとアレスの動きを止めユラの救出をする。いい作戦じゃないか。リナ達には救出を頼むのか?」


 「配置されるとタカヒトとドレイク達の動きは完全に取れなくなる。自由に動ける私達がユラを助け出す。」


 すべての段取りを終えたタカヒト達は早めの就寝を取った。皆の寝静まった頃てんとだけは暗闇をずっと見続けていた。しばらくして野営地の明かりが消えた頃、暗闇を一隻の小船が漂着した。


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