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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
140/253

解放区

 「話には聞いていたがこれほどの武装を備えていたとはな。」


 ドレイクは驚愕した。体力の回復したタカヒト達は飛行艇で東方に位置する小国家に来ていた。六亡星であるツァトゥグアが支配するにはあまりに小さすぎる国家であるが防衛力と貿易力だけでいえば黄泉の国随一であろう。しかし大都市や西の都市のような鉄壁な護りはなく他の都市に対して開放的な構造となっている。それだけ軍事力に自信があるのだろう。

 入国の手続きを行おうと施設に入ると商人達でごった返していた。順番を待つこと二時間、タカヒト達の番が来た。所定の手続きを終えるとてんとがジェイドらしき人物が入国したかを問いかけた。めがねを下げて上目づかいにてんとを見上げると役人が言った。


 「ここは商人が行き来する儲けがすべての国やで。

  そない細かいことまで知るかいな!」


 役人はてんとを無視すると後に並んでいる商人に入国手続きを行っていく。タカヒト達は入国手続きを終えて歩いているがてんとは常に辺りを気にしながら歩いていく。儲けがすべてというだけにこの国では商人が値段の交渉などを至る所でしていた。特に西の都市の商人との交渉は盛んに行われている。西の都市のエネルギー資源とこの国の軍事力は互いに興味があるのだろう。


 「エネルギーと軍事か・・・どこの世界でもほしがるのは変わらないもんだな。」


 ドレイクの表情が曇る。入国を済ませたタカヒト達とは行動を別々にすることにした。和尚とルサンカは飛行艇の燃料補給と物資の調達をリナとドレイク、タカヒトとミカはユラとジェイドの情報収集を、てんとは気になるところがあるらしく単独行動となった。タカヒトと久しぶりの二人きりにミカは内心ドキドキしている。記憶のないタカヒトには分からないがタカヒトとの平穏な日々は何回目だろうか?


 「どうかしたんですか、ミカさん?」


 「えっ!・・・・うっ、ううん・・・なんでもないよ。」


 顔を赤らめたミカを不思議に思いながらもタカヒトはユラとジェイドの姿を捜している。ミカも情報を得ようと商人に声を掛けるがいい返事は期待できなかった。するとタカヒトが棒状の飴を両手に持っていた。ミカが問いかけると近寄ってきた子供に売りつけられたらしい。ミカが周囲を見渡すとたしかに子供達が商人相手に棒状の飴を売っていた。さすがは商人の国だと感心しながらもなんともいえない気持ちにもなった。


 「タカちゃん、ちょっと休憩しよ。」


 タカヒトに手渡された長飴をなめながら行き交う商人を眺めている。背中に大きな荷物を背負いながら額に汗をかき急いで商談を進めようと努力している姿はミカが人道の世界で見たそれに良く似ている。無意識にミカの頬に涙が流れていることにタカヒトは気がついた。


 「ミカさん・・・悲しいことでもあるんですか?」


 心配するタカヒトの表情がさらにミカを哀しませた。タカヒトも同じ境遇ではあるのだがその記憶が今はない。哀しみを共有できないミカは涙が溢れて止まらなかった。そんなミカを見て動揺するタカヒトはオロオロするばかり。挙動不審にも近いタカヒトの脳裏に浮かんだのはドレイクに教わった事・・・それは修行中での出来事だった。


 「いいか、タカヒト。女ってやつは急に不安になったり、悲しがったりするもんだ。そんなときはな・・・・。」


 「・・・そんな事で治るんですか?」


 「バカ野郎!それが甲斐性ってもんよ。

  お前も男ならやる時はバシッと決めれる男になれ!」


 タカヒトは戸惑ったが今はそれ以外に方法がないと悟った。目の血走ったタカヒトは震える両腕でミカをギュッと抱き寄せた。その行動にミカはビックリとして涙が止まってしまった。そしてあまりにも突然の出来事に頭が真っ白になった。しかしタカヒトの両腕にしっかりと抱きしめられていくうちにミカの両腕も自然にタカヒトの背中に手を回していた。小柄なタカヒトの背中がとても大きく感じる。


 「・・・・僕がいるから・・・・・大丈夫です。」


 「・・・・うん。」


 ポツリと言ったタカヒトの言葉にミカはただ黙ってうなずいた。しばらくふたりだけの時間が過ぎていくとミカは商人達の視線に気がついた。


 「!・・・・タカちゃん、行こ。」


 急に恥ずかしくなったミカはタカヒトの手を握るとその場から走り去っていく。ミカは嬉しかった。キョトンとするタカヒトの手を引っ張りながら走る風景はなんとも心地良く幸せなひと時だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「そうか、わかったぞ!ここに存在していたのか。」


 てんとはある場所で書物を読んでいた。そこはツァトゥグアの所有するこの国唯一の書物館であった。商人の行き交う国だけに書物も豊富に揃えられていた。それらの書物の中に気になる箇所があり、てんとはそれらを繋ぎ合わせる事で答えを導き出した。書き記したメモを手にてんとはタカヒト達のいる飛行艇へと戻っていった。その姿を見つめるふたつの影があった。


 「あれを教えてよかったんかいな。」


 「ええ、宜しくてよ。わかってもらわないことには何も始まらないもの。」


 「まあ、ええんやけどな。ワシは商売さえさせてもらえばいいんやし。」


 「フフフ・・・。」


 「お互い笑いが止まりまへんなぁ~~。」


 てんとが飛行艇に戻る頃には辺りも暗くなっており皆がすでに戻っていた。ドレイクの話に皆が笑っていた。てんとが戻った事を確認したドレイクは話を続けた。


 「まったく、この国の商売っ気には恐れ入るぜ。俺とリナが歩いていたらいきなり家を買えだのなんなのってうるさくて堪らなかったぜ。」


 「そうだったのかしら?豪邸を一緒に見にいったじゃない。」


 「まっ、まあ・・・あれは今後の俺達の事を考えてだな・・・・」


 「フォフォフォ、ドレイク。どうしたのじゃ?顔が赤いぞい。」


 「うっ、うるせえ!」


 和尚に罵声を浴びせるドレイクに皆が笑っていた。リナはタカヒト達にも情報の提供を促すがミカは特に収穫はなかったと答えた。しかしそのミカの耳が赤くなっている事にリナは気づくと笑みを浮かべた。ルサンカも飛行艇の整備と補給を終了した事を伝えると最後に残ったのはてんとの情報だけだった。


 「その様子だとかなりいい情報が手に入ったようじゃな?」


 和尚の言葉にてんとはうなずくと地図を広げた。黄泉の国はいくつかの大陸からなっている。大都市を中心として東西南北に都市が存在する。そのほかにツァトゥグアの小国家やギフシ族などの小規模な村が大陸の至る所にあり、黄泉の国王であるハデスがいる大陸は最も離れた僻地に存在している。そのどこかに創造神の扉があるらしいのだが・・・・。


 「おい、もったいぶらないで教えろよ。」


 「書物館で見つけた書物を分析していくうちにある法則が見つかったのだ。たぶんジークフリードもこの法則を利用して扉を開けるシステムを構築したはずだ。」


 てんとが熱く語る法則は天文学的な方程式が並び正直タカヒト達には何を言っているのか理解できなかった。もちろんそれはその場にいた誰もが同じでありドレイクは顔をしかめながら言った。


 「つまり定位置に四神が配置されればいいってことだろ?」


 「いや・・・・配置にも順番がある。しかも月太陽がもっとも高く頭上にあがる瞬間にスカルマスターを生贄に捧げなければならない。」


 「月太陽もスカルマスターであるユラも重要なのね。」


 「その通りだ。配置の順番さえ狂わせれば創造神の扉が開く事はない。ユラを取り返すことも出来るだろう・・・ジェイドとの戦闘は避けられそうにはないのだがな。」


 「やつとの戦いは覚悟の上だ。準備も済んだ事だ。明日には出発をしよう。」


 朝早くに飛行艇はツァトゥグアの小国家を飛び立った。朝早くとはいえ、さすがは商売の国である。すでに市場は活気があり沢山の商人が行き来している姿が眼下に映った。ドレイクは飛行艇の自動操縦システムに行き先をプログラムしているてんとに問いかけた。


 「行き先はどこだい?」


 「私達の進む先は解放区と呼ばれる場所だ。」


 「解放区?」


 解放区とは昆虫人の奴隷として働いていた原住民が戦争で勝利して勝ち取った大陸である。戦闘力ひとつとっても原住民が昆虫人に勝てる要素はなにひとつない。しかしある法則を使うことで原住民の戦闘力は著しく向上したのだ。その法則とは八像と回転時間の法則という。


 「八像と回転時間の法則?」


 原住民は力が弱く戦闘力などないに等しい。しかし彼らは占星術や信仰心にとても熱心であった。奴隷生活から抜け出す為に必死に勉学に励み得たものがある。それが八像と回転時間の法則である。この地では七十五日に一度、月太陽が現れる。月太陽はある規則性をもち照らしていく。不思議なことに月太陽の規則性にそって照らされた位置に植物の種を移動させていくと水や栄養がなくとも成長していった。そしてその順番に月太陽を原住民が浴びると身体能力が著しく向上していった。その事を知った原住民は昆虫人から解放されると希望を持った。しかし七十五日の周期ごとに照らす順番もずれていく。月太陽に照らされる順番を間違えると身体能力は著しく低下する。最悪、死も免れない。多くの犠牲を出して原住民は法則を学んだ。それが八像と回転時間の法則なのである。


 「ユラを助ける為に俺やタカヒトの身体能力が

  低下する可能性もあるってわけだな。」


 「?・・・ドレイク、何を言っている。たしかにタカヒトは四神の朱雀・・・!

  もしやドレイク・・・おまえもそうなのか?」


 「ああ、俺もガーディアンを、玄武を所有している。」


 「四神を呼び起こすには暗黒色の共鳴石が必要なはずだ・・・どこにある?」


 「俺の場合は暗黒色の共鳴石ではなく共鳴剣だ。」


 ドレイクは極刀斬神刀の柄を撫でた。たしかに柄の部分には鈍い光を放つ暗黒色の共鳴石があった。玄武と朱雀はすでにこちらにある。八像と回転時間の法則もジェイドは知らない。うまくいけばタカヒトやドレイクが負傷することなくユラの救出も可能だとてんとは確信した。


 「本人は気づいていないだろうが白虎を持つアレスの動向も気になるところだな。」


 破壊神の白虎を持つアレスはランドタワーで姿を見たのが最後だ。ジェイドと同行していた以上必ず現れるだろうとドレイクもてんとも同意見だった。解放区はツァトゥグアの小国家よりさらに東方に位置している。飛行艇は進度をあげると一気に突き進んでいった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 解放区付近の孤島にいるジェイドはソトホートで何か話しをしていた。話を終えたジェイドはユラに歩み寄ったがユラは黙ったまま椅子に座っている。ジェイドも向かい合うように椅子に座ると沈黙の時間が流れていく。押し殺していた感情をユラは突然爆発させた。


 「創造神の扉を開放させて何をするつもりなの?あなたの手に入れたいものは何?」


 「そうだな、俺が何を得たいのか

  ・・・おまえだけに教えよう。俺が得たいのは・・・」


 ジェイドは静かに話しを始めた。それはあまりにも壮絶なことでユラはただ黙って聞いていた。話を終えたジェイドにユラは涙を浮かべながら言った。


 「・・・・どうしてそんな・・・・どうしてもっと早く言ってくれなかったの?・・・・あなたの事がずっと心配だった。いつも危なっかしくて・・・今だってそう・・・でも逃れられないのね。」


 「定められた運命からは逃れられない。俺も出来ることなら知りたくなかった。」


 ジェイドは哀しみを堪えるようにユラから視線を外した。やはり運命からは逃れられないのか?哀しいふたりの運命の歯車は破滅へと向かっていく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「飛行艇を着陸させる。解放区にはすでにジェイドがいるはずだ。」


 てんとは自動操縦を解除すると飛行艇を着陸させた。解放区よりかなり離れた場所は周囲に岩石がゴツゴツと隆起しており飛行艇を隠すにはもってこいの地形であった。和尚とルサンカには飛行艇で待機してタカヒト、ドレイク、ミカ、リナ、てんとのメンバーで解放区に向かう事にした。装備品を身につけ食料を積み込むと馬車に乗り込む。


 「ユラの救出を最優先させる。いくぞ!」


 ドレイクが馬に鞭を打つとゆっくりと馬車は進んで行った。解放区の空はどす黒い雲に覆われている。それはこれからの行く末を知らせているかのようだった。タカヒトは恐怖感に襲われたがそれはミカも同様であった。恐怖を紛らわすようにタカヒトはミカの手を握る。恥ずかしそうにミカを見つめると不思議と恐怖感は薄れてタカヒトからは笑顔がこぼれた。だがてんとは依然険しい表情をしながら地図を見つめている。その頃、孤島にいるジェイドが何かを感じたかのように立ち上がった。


 「ジェイド・・・・行くの?」


 「ああ、こうして話が出来るのもこれが最後になるかもしれない

  ・・・最後に言っておきたい事がある。」


 「何?」


 「ユラ、俺は自らの使命の為にお前を危険な世界に巻き込んでいる・・・だが今も俺の想いはあの頃となにも変わっていない。」


 「・・・私もだよ。」


 涙を浮かべるユラに歩み寄ると静かにジェイドは抱きしめた。これが最後になると思うとジェイドは優しく力強くユラを抱きしめていく。時間が過ぎるのを忘れるくらい抱き合うふたりにはこれから起こる哀しい出来事を受け入れているように見えた。

 ふたりは孤島から用意してあった小船に乗り込むと解放区へ帆を向けた。いくつもの想いが交差する中、すべての動きを察している人物がひとりだけいた。ピサロである。


 「駒は動き始めたわ。はぁ~~、長きに渡り想い願っていたことが叶う瞬間を早く味わいたいわ。」


 ピサロの行艇はすでに解放区に着陸していた。もちろん飛行艇は地中深くに沈ませピサロは単身解放区に立っている。この解放区はツァトゥグアに護らせていた場所でもある。もちろんここがどのような場所なのかはツァトゥグアにはわからない。金品さえ与えておけばツァトゥグアに拒む理由などないからだ。その点ではツァトゥグアはかなり利用価値があり解放区への立入りを完全に禁止するように命じた。それはこの地にあるすべてのものが創造神の扉を開放するのに必要なものだからである。金品を受け取ったツァトゥグアは命令を守り以前にピサロが来た時と現在とでは時間が止まっていたかのように変化はなかった。目を閉じていたピサロは自らが記憶していた光景と寸分にズレもない事を確認するとニヤリと笑みをこぼした。するとピサロは傾きかけた石柱に何かを刻みこんでいく。それは八箇所にあり手にした古文書を見ながら刻んでいく。


 「あとはマスティアさんが来るのを待つだけね。

  ティータイムにしましょうかしら。」


 ピサロはそういい残すと姿を消した。それから数時間後、解放区に辿り着いたのは意外な人物だった。


 「ぜぇぜぇぜぇ・・・ピサロめ。ワシに黙って儲けるつもりやな。ワシが黙っておると思っておるなら間違いがな。」


 ツァトゥグアはこの地に財宝が眠っていると勘違いしていた。いままでは金品を受け取っていただけのツァトゥグアだったが解放区を守るという契約が切れた以上自らの欲望を満たす時がきた。最高の兵器とすべての戦力を投入してツァトゥグアは解放区に到着した。しかしツァトゥグアはピサロの姿を確認することが出来ず兵士達と共に一時撤退すると待機して様子を伺うことにした。


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