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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
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奪われたユラ

 リナは傷ついたドレイクと共にタカヒトを荷台に乗せると馬車を走らせた。偶然にもドレイク達がマスティアと激突した部落は以前ルサンカが馬車を預けて置いた長屋が残っていた。 リナが馬車を走らせてどれくらいの時間が経ったのだろうか・・・・高台が見えてきた。そこにはミカとてんとしか居らず、リナが馬車を止めるとふたりが近づいてきた。血だらけのタカヒトを目にしたミカは涙を流し抱きつく。ドレイクとも重傷な事に激しい戦いであったことをてんとは察した。ユラがいないことをリナはてんとに問いかけるとミカはうつむいてしまった。しばらくしてからてんとが蒼色の色玉を見せた。


 「ユラがいたはずのこの地にこれが落ちていた。

  これはジェイドが所有していた蒼玉だ。」


 「彼が置いていったとでも?

  たしかにこの世界ではソウルオブカラーは無用の物だけど。」


 「いや、奴は蒼玉を置いていったのだ。私達がユラを助けに来る事を承知でな。」


 てんとは厳しい口調で言った。たしかにジェイドにとって蒼玉は命を守るべき大切な物であるがそれを置いてまでもユラを連れ去ったのが自分であると知らしめたかったのである。これが罠なのかはわからないがてんと達はユラを助けに行かなければならない。そう決意すると上空から飛行艇が高台に向かって飛行してきた。


 「ドレイクが血だらけとはの・・・厳しい戦いだったようじゃな。しかし発見が早くて良かったわい。すでにナイアルラトホテップが大都市を破壊しておるわ。」


 傷ついたドレイクとタカヒトをベッドに寝かせると和尚は言った。てんと達が地上を見るとナイアルラトホテップはランドタワー付近でビル郡を破壊していた。都市の人々の事をミカに聞かれると和尚は答えた。実はこの大都市には災害に対しての地下シェルターが存在しており今現在、人々はそこに避難をしている。そこにはナイアルラトホテップなどの大型生命体は侵入できず災害が去るのを人々は待っている。


 「ミカは優しい子じゃの。いつかその優しさが報われる日がきっと来るじゃろ。」


 「・・・・別に報われなくても私はタカちゃんが、皆が笑顔ならそれでいいの。」


 飛行艇は大都市を後にして西の都市を目指していく。だがその飛行艇を遥か上空から監視していた飛行艇があった。和尚のそれよりも巨大で重量感のある飛行艇は最新の装備を誇り和尚達の飛行艇からはその存在すら認識することは不可能であった。飛行艇の操縦のすべては自動制御装置により管理されておりメインデッキにひとつだけあるキャプテンシートにはある人物が足を組んで座っていた。ピサロである。


 「マスティアの回収にいくわ。降ろしてちょうだい。」


 飛行艇はゆっくりと降下していくと小さかった大都市がみるみるうちに近づいてきた。飛行艇が一定の高度を保つとピサロはひとり地面に降下していく。上半身と下半身が別々の場所にある見るも無残な姿をしたマスティアがそこにいた。引きちぎられた上半身からは白い液体と共に内臓物も垂れ異臭を放っていた。ピサロは無言のままマスティアの上半身と下半身を念力で持ち上げると自らも浮遊していく。そこに飛行艇の存在に気づいたナイアルラトホテップが近づいてきた。


 「あら、いやだわ・・・私の役に立たなかったくせにたてつこうってわけ?」


 ピサロは片手を前に差し向けるとゆっくりと水平に動かした。するとナイアルラトホテップの三本の脚部に切れ目が入る。叫び声とともにナイアルラトホテップの上半身が三本の脚部と離れそのまま地面に激突するように倒れこんだ。身体を支えていた三本の脚部を切り落とされ身動き取れないナイアルラトホテップはもがきあがくしかなかった。飛行艇に乗り込んだピサロはマスティアをそのまま生命維持装置室に送り込んだ。地上では相変わらずナイアルラトホテップがもがき苦しんでいる。


 「いつまでも見苦しいわね。」


 ピサロが片手をゆっくり握り締めるとナイアルラトホテップの身体がなにか巨大なものに押し潰されるとそのまま絶命した。周囲の部落ともども押し潰されたナイアルラトホテップはもはや六亡星と呼べる姿ではなかった。ピサロを乗せた飛行艇はタカヒト達の飛行艇を追うわけでもなく進路を別の方向に向けて発進していった。


 「こんなことならアリシアさんを連れてくればよかったわね。」


 それはピサロがこの黄泉の国に出発する日のことだった・・・・


 「何故、私を連れて行ってはくれないのですか?私が嫌いになったのですか?」


 涙声のアリシアはピサロの膝にすがりつくと上目づかいで訴えた。するとピサロは膝をつき涙を流すアリシアの頬をそっと撫でた。


 「一緒に居たいのは私も同じ。だがお前にはやってもらいたい事がある。私にはお前以外に信じられる者がいない・・・私を助けてくれないか?」


 「私はあなた様の忠実なるしもべ。

  あなた様の為ならこの命も惜しくはありませんわ。」


 「ありがとう・・・私のかわいいアリシア・・・」


 そう言うとピサロはアリシアを抱きしめた。涙を流しながら喜びに身を揺らすアリシアはピサロの背中に手を回した。しばらくの抱擁の後、ピサロを乗せた飛行艇は黄泉の国を目指して飛んでいった。そして今、ピサロはメインデッキで両腕を上げている。


 「さあ、ステージは整ったわ。後は駒だけ・・・それもすでに私の思惑通りに進んでいる。私の野望もすぐそこに来ているわ!」


 ピサロの飛行艇はある場所を目指して進んでいった。一方、西の都市に到着したてんと達は首相へ挨拶する為に首相官邸にいた。西の都市はエネルギー資源が豊富で他の都市にそれらを輸出している。その利益のほとんどを防衛費にまわしている為、大都市以上の防衛力と黄泉の国で最も強力な軍事力を誇っている。六亡星のクトゥルーを葬った軍事力の自慢話を永遠と語っている首相にてんと達はうんざりしていた。


 「我が最強の兵器にさすがの六亡星も手も足もでなかった。ガッ、ハハハ・・・・おっと、話がそれてしまった。六亡星に破壊されていない都市は我が最強の都市とあとは・・・・・ツァトゥグアの小国家くらいだと思うど。」


 挨拶がてら、てんとは首相にジェイドが都市に入り込んでいないかさぐりを入れた。正直言ってジェイドがどこに向かったのかはわからない。しかしジェイドの目的はわかっている。スカルマスターであるユラを連れていったということは四神を集め創造神の扉を開けようとしている。むろんその場所はわからない。わらにもすがる想いでてんとは情報を得ようとしている。西の都市でなければ情報を得られるのは六亡星のツァトゥグアの支配する小国家だけだ。当面の間はドレイクとタカヒトの体力が回復するのを待つことにした。ユラを心配するミカにてんとは言った。


 「どちらにしても四神の朱雀であるタカヒトがここにいる以上、

  ジェイドも何も出来まい。」


 てんとの考えは実に的確なものだった。その頃、ユラを連れてジェイドが辿り着いた場所は小さな孤島だった。森の奥深くにある鍾乳洞は過去に住人が生活をしていたようで生活に関するほとんどの物はそこにあった。ベッドで眠っていたユラが意識を取り戻すと辺りを見渡した。そこには火を絶やさないように薪をくべるジェイドがいた。


 「気がついたか。」


 「・・・・ここは?」


 「原住民が暮らしていた孤島だ。今は誰もいない。」


 「私を監禁する理由は・・・・扉を開けるつもりね?」


 「・・・・・」


 「あなたは・・・変わってしまった。私の知っているジェイドはもういないの?」


 「・・・動き出した歯車は誰にも止められはしない。」


 「未来は変えられるわ!」


 「未来はすでに決められている。さだめからは逃れられない!」


 涙を流すユラを無視してジェイドは鍾乳洞から外へ出て行った。涙を拭き、鍾乳洞から逃走をと考えたがジェイドがそれを許すわけがない。諦めたユラはテーブルの上に食事が用意されていることに気がついた。


 「私の知っているジェイドは必ずあの人の心にいるはず。」


 最後の希望を胸にユラに残された時間は刻々と迫ってきている・・・。


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