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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
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失われた国

 「ちょっと、タカちゃん!」


 「ごっ、ごめんなさい、ミカさん・・・。」


 「どうしたの、ミカ。」


 ミカが口を膨らませて怒っていた。食事の準備をしているとタカヒトがこっそりとつまみ食いしていたらしい。ミカがリナとユラに説明しているとそお~っと手を伸ばしたタカヒトが更につまみ食いをした。それを見たリナがクスッと笑うとミカが激怒した。しゃもじを手に逃げるタカヒトを追い駆けていく。その光景がリナとユラには微笑ましかった。


 「あの二人を見ていると深刻な状況に身を置いていることを忘れそうだわ。」


 「そうですね、本当に穏やかな時間が流れていますものね。」


 「それにしてもこれだけ広い敷地に和尚だけなんておかしいわね。」


 「実は・・・・」


 遥か昔、この神野国は他国を圧倒する大国であった。特に武芸に長けており軍事力に力を入れていた。その為、他国との争いは常に行われていたがその軍事力に他国は次々と破綻していく。周囲の国を占領下に置き拡大を続けていくがそれも長くは続かなかった。


 「疫病・・・飢饉・・・

  他国の恨みを買い続けた神野国はそういう形で罰を受けたのです。」


 今の神野国は和尚ただ一人を残して衰退の一途を辿っている。そんな和尚を不憫に思ったのかルサンカが和尚の身の回りの世話をここに来てからずっとしている。てんとは軍事力を誇っていた神野国の武器庫を視察して構造や武器を物色していた。


 「なるほど・・・・神野国の軍事力の高さが伝わってくるな。」


 神野国の戦績や戦術、戦略に関する古文書を読み漁っていると興味深い古文書が見つかった。それはマテリアルフォースとソウルオブカラーについての文書とソウルオブカラーと古代兵器に関する文書であった。マテリアルフォースは本来、誰もが持ちえる能力であるがそれを具現化するには相当の訓練が必要となる。ソウルオブカラーの能力を自在に扱うのもマテリアルフォースの能力を扱うのも能力者の精神力というカテゴリーで考えれば同質となる。


 「つまりマテリアルフォースを高めれば

  ソウルオブカラーの能力も上がるということか。」


 それよりも興味深い文章がてんとの目を引き付けた。それはソウルオブカラーと古代兵器に関する記述だ。てんとはソウルオブカラーとは能力者の精神と同調する事で色玉の持つ能力を引き出すものであると解釈していた。しかし異質な能力があるとこの時理解した。


 「古代兵器・・・そんなものがあるのか?もしあるのなら・・・・。」


 それから数日、てんとは古文書の情報収集に明け暮れていた。ルサンカは和尚の身のまわりの世話に明け暮れてタカヒトとミカはユラと共に釣りを楽しむ毎日を送っていた。そしてリナは独り小川の斜面に座って川の流れる音に耳を傾けていると人影が近づいてきた。


 「どうしたの、ミカ?またタカヒトが・・・・」


 ミカの不満がまた爆発したのかと笑みを浮かべながらリナが振り向いた先には見覚えのある人物が立っていた。大柄の姿はリナがずっと捜していた人物でありその人物は白い歯を見せながら笑っていた。リナから言葉はなく頬をひと筋の涙が流れている。


 「リナ、久しぶりだな。元気そうでなによりだ。」


 「・・・・会いたかった。」


 涙が止めどなく溢れ立ち上がれないリナにドレイクはゆっくり歩み寄るとその身体を包み込むように抱きしめた。リナは両手をまわすと大きな背中に触れた。あの頃と同じ背中、同じ匂い。リナがそう感じたようにドレイクも感じていた。引き離されたふたりが再び出会えるその日を夢見て今その想いが叶った。リナはずっと抱きしめられていたかった。もちろんドレイクもである。


 「リナ・・・・和尚に伝える事がある。」


 リナの身体をそっと離すとドレイクはキスをした。この時、リナはユラの言っていた神野国の達人がドレイクであると知った。そのドレイクはリナ達をこの地に連れてくるとそのままある場所へと偵察に向かっていたのだ。和尚の屋敷にいたミカとてんとは驚愕したのはいうまでもない。


 「ドレイク、貴様が何故ここにいるのだ?」


 「おいおい、酷い言い草だな。ここまで連れて来てやったのに。」


 「お前が和尚の言っていた人物なのか?」


 「和尚のおしゃべりにも困ったものだな。まあ、昔の事は忘れて協力していこうぜ。俺もタカヒトには痛い目に遭わされたからな。なあ、タカヒト・・・・?」


 声を掛けられたタカヒトはうつむいてミカの後ろに隠れた。不思議に思ったドレイクにミカが説明した。記憶を失っている事を聞いたドレイクは納得すると真剣な表情で和尚を見つめた。


 「和尚・・・・やはり現実となった。もはやこの地も危ういぞ。」


 「そうか・・・・利権が絡むと誰もが闇に落ちていくもの。哀しいことじゃ。」


 哀しい表情で和尚は呟いた。これから起こる黄泉の国始まって以来の戦争の始まりだった。


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