ジークフリード
「この場を治めてくれた事には感謝します。」
「昔の事は許さない・・・そう聴こえるんだけどな。」
「あの事件がなければ・・・・私とジェイドが引き裂かれる事はなかった。」
「それも運命の歯車の一部としたらどうだ?」
「・・・・。」
「別にお前達を傷つける為に助けたわけじゃない。スカルマスターであるお前にどうしても聴きたい事がある。あのカイザーとジャスティスが来た以上、ピサロの奴も相当焦ってるみたいだしな。」
スカルマスターとして聴きたい事をドレイクはユラに問い掛けた。それは創造神への扉を開けることについてだ。ソウルオブカラーを所有する者の中である条件を満たすと四神と呼ばれる守護神を呼び出す事が出来る。西の白虎、東の蒼龍、北の玄武、南の朱雀。それら四神が黄泉の国の四方に配置され、スカルマスターの血肉を捧げると創造神への扉が開く。
「そんな伝説を聞いた事があるんだが本当か?」
「・・・・・。」
「黙秘か・・・まあ、俺を信じられないって事もあるんだろうけどな。だが俺もガキの使いでここまで来たわけじゃない。神野国の和尚を知ってるだろ?」
「神野国の和尚・・・!! まっ、まさか!」
「ご名答だ。俺は神野国の和尚の命を受けてここに着た。少しは信じたか?」
「いいえ、信じられません。」
「ならどうすれば信じてくれるんだい?」
「下のフロアの者達を助けなさい!」
「ふん、はなからそう決めてたんだろ。もちろんいいぜ!」
こうしてドレイクとユラは気を失っているてんと達を連れて神野国へと向かった。この事件によりスカルマスターが不在となったがそれは同じ黄泉の六亡星である土の支配者ツァトゥグアに統制が行われ平穏を保っていた。先の事件でアレス達の姿を完全に見失ったカイザーとジャスティスは一時撤退していたし、そのアレスとジェイドはカイザー達が撤退するのを確認すると大都市に再び戻っていた。
「・・・・うっ、う~ん・・・んっ、・・・ここは・・・・?」
ミカはゆっくり起き上がると辺りを見渡した。畳の上に布団が敷かれ隣にはリナとルサンカが眠っていた。ミカは立ち上がろうとするもなかなか身体が言う事をきいてくれない。相当身体が鈍っているようだ。壁づたいに寄り掛かりながら一歩一歩進んでいくとドアを開けて廊下をゆっくり進んでいく。それにしてもここはどこなのだろうか?畳に板の間の廊下はミカのいた人道でも地獄道でも見てきた。もしかしたら人道に戻れたのだろうか?そんな期待を心に秘めながら一歩一歩進んでいくがその望みはすぐに打ち消された。
「あっ・・・・月太陽・・・まだ黄泉の国だったのね・・・・。」
月灯りのもと、ミカは疲れきったかのようにその場にしゃがみこんでしまった。涙が溢れてくる。気丈に振舞っていてもそれは強がっていただけだった。「帰りたい」その言葉が口からでかけた時、人影が近づいてくるのが分かった。急いで涙を拭くと振り向いた。そこに立っていたのはミカと背丈の同じくらいな少女だった。少女はミカ達と同様に大都会で流行している服を着ている。
「大丈夫ですか?」
「あなたは・・・」
「私はユラといいます。それよりまだ休んでいてください。ここは安全ですから。」
ユラはミカにここを神野国と説明するとてんとやほかの者達も皆無事である事を伝えた。笑顔を見せた同じ年くらいのユラにミカはすっかり気を許した。
「私はミカ。体調は良いけど身体が鈍っちゃって。リハビリしたいの。」
ミカも笑顔を見せるとユラはミカのリハビリを手伝うと言った。ミカ達が神野国に来て七十五日ほど経っていた事は月太陽が教えてくれた。それだけミカ達は致命的なダメージを負っていたのだ。それからルサンカ、リナ、てんと、タカヒトの順に目を覚ました。タカヒトは依然記憶を戻す事もなく屋敷の近くを流れる川でひとり遊んでいる。無邪気に笑うタカヒトの姿を見てミカは安心した。縁側でタカヒトを見つめるミカの姿を見てユラが言った。
「タカヒトさんはミカさんにとって大切な人なんだね。」
「えっ・・・・べっ、別にそんな・・・」
「そうなんです。ミカさんはタカヒトさんの事が好きなんです。」
「ちょっ、ちょっと、ルサンカ!」
真っ赤な顔をして恥ずかしがるミカにユラは少し哀しそうな表情をした。ミカはすぐにそれに気づいた。
「ミカさんが羨ましい。私にも大切な人がいるの。
でもあの人とはもう会えない・・・。」
うつむき涙声のユラにミカもルサンカも声を掛けられなかった。無言の時間がしばらく流れるとそれを打ち消すかのようにてんとの声がミカに聞こえた。それはユラに対して発せられた。
「ユラ・・・・何故、ここに・・・あの時死んだはずでは・・・・?」
「てんと、久しぶりね。」
「ユラ、てんとを知っているの?」
「・・・すべてを話す時が来たのね。」
縁側から空を見上げるとユラは何かを決意したかのように言った。屋敷の大広間に皆を集めるように伝えるとユラはその場を去っていった。川でひとり遊んでいたタカヒトをミカは呼びに行くと大広間へと集まった。ユラを待っていると大広間に髑髏のマスクを被った異形の者が現れた。てんと達はスカルマスター自体見た事はなかったがそれがスカルマスターだとその異様な風貌を見てすぐに分かった。スカルマスターから距離を取るとてんと達は戦闘体勢を整えていく。マテリアルフォースを開放したてんと達を見つめ、スカルマスターは髑髏のマスクに手を添えるとそれを外した。その場にいたすべての者が驚愕して言葉を発する事すら忘れていた。
「何故・・・ユラ?」
「そう・・・私がスカルマスター。」
てんとの言葉にユラは口を開いた。それからユラは何故スカルマスターとなったのか話を進めた。それは修羅道でドレイクに殺された時にさかのぼる。あの時、ユラは殺されその後、姿は確認されていない。
「ジェイドの話では秘術によりユラを蒼玉に変えたと言っていたのだぞ。」
「それは真実ではないわ。」
ユラは話を進めた。確かに秘術により魂をソウルオブカラー(色玉)に変化させる事は可能である。しかし今回は違った。ユラはジェイドが秘術を施す前にすでにこの黄泉の国へと来ていたのだ。ジェイドが持つ蒼玉はユラが所有していた色玉だった。
「本来死んだ者は黄泉の国へ導かれる事はないはずだが・・・・。」
確かのその通りだった。黄泉の国は天道での実験体の廃棄場所であり六道で死んだ者がこの地に導かれる事はないのだ。
「それはワシから話そうかの。」
声の発せられた方向に視線を向けるとそこには小さな老人が立っていた。杖をつきながらゆっくりと歩き近づいてくるとゆっくりと腰を下ろした。
「どっこらせっと・・・・さて、なんの話だったかの?」
「・・・・・」
「おおう、そうじゃった。黄泉の国へ導かれた理由じゃったの。それはの・・・なるべくしてなったとでも言うべきかの・・・。」
「どういうことだ?」
「先代スカルマスターの意思を継ぐべき者・・・それがユラということじゃ。」
「・・・・話が見えてこない。」
「ゆっくり話そうかの・・・・時間はあるしの。」
和尚はゆっくりと語り始めた。それはまだ六道とは分かれておらず天道も地獄道もなかった頃の話であった。存在していたのは旧支配者達が君臨する平和と秩序の整った唯一の世界であった。黄泉の六亡星は旧支配者ではなく神々と呼ばれ信仰されていた。特にスカルマスターの存在は重要でありすべてを治める神々の王と呼ばれていた。しかしいつの頃からだろうか、異界から現れた支配者が旧支配者達を黄泉の国と呼ばれる廃棄された世界へと落としたのだ。
「ちょっと待ってくれ。それは私達が学んできた歴史とはかなり違うぞ。」
「情報の操作、偏った教育の植付けなどピサロには容易いことじゃぞ。」
「何故ピサロの事を知っている?」
「知らんのか?奴こそ旧支配者達を黄泉の国と呼ばれる廃棄された世界へと叩き落した異界の支配者アルカディアの末裔なのじゃ!」
アルカディアは何処からともなく現れた異界の者である。高い知能と豊富な知識を持ち肉体的にも精神的にも優れている。アルカディアの関する情報はピサロによりほぼ消去されて知っている者は数少ない。
「何故、和尚さんは知っているの?」
「それはの・・・・ワシがジークフリードの弟子じゃからじゃ。」
「ジークフリードの弟子?」
「てんと、ジークフリードって誰なのか知っているの?」
ミカに言われて、てんとは首を縦に振った。ジークフリードとは天道に生まれソウルオブカラーを創った人物とされている。創造神の創設にも関わっていると天道の学舎で学んだ。てんとの話を聞きながら和尚は苦虫を噛締めた表情をするとそれにリナが気づいた。
「和尚さんの表情を見ると少し違うみたいね。」
「そうじゃの・・・そこまで情報が操作されているとはの・・・哀しい事じゃ。」
旧支配者の世界を奪いその地に天道を構築したピサロの先祖は同じアルカディア人 ジークフリードに創造神システムの創設を任せた。ピサロの先祖はアルカディア人による世界の統合及び支配を考えていた。だが同じアルカディア人であってもジークフリードは違った。
ピサロの先祖の陰謀を知り命掛けのシステム変更を図った。それが四神キーロックシステムである。黄泉の国に四神の配置される位置を決めスカルマスターの血肉により創造神の扉が開かれるようにプログラムされた。創造神システムは基本的にはプログラムに従い調和と成長を繰り返すようになっている。そのプログラムを変更するには創造神の扉を開けるしかないのだ。最近まで四神キーロックシステムは分からなかったがアルカディア人の末裔で奇才の天才ピサロによりそのシステムが明らかとなった。当時、真相を知ったアルカディア人の逆鱗に触れたジークフリードは暗殺を免れるが黄泉の国へと逃走していく。そこで当時のスカルマスターに救われすべてを打ち明けたのだ。
「ちょっと待ってくれ。
ジークフリードは天道で創造神システムを構築してないのか?」
和尚は首を横に振った。ジークフリードは天道と黄泉の国を行き来していたらしい。その頃、黄泉の国は旧支配者達と小規模の先住民が存在しているだけの原始的な世界であった為、創造神の扉を開放させない四神キーロックシステムを構築するのに都合が良かった。
西の白虎 東の蒼龍 北の玄武 南の朱雀は定められた色玉のすべてを極限まで研磨させ呼び起こすことが可能になる。それらを定められた方位に配置させその中心にスカルマスターの生贄が必要となる。しかも四神を呼び起こすのに必要な色玉は六道の世界に散ばっていった。
「なるほど・・・・つまり四神を復活させるには散ばったソウルオブカラーを集めた上で更にそれらを極限まで高められる能力者が必要なのだな。」
「その通りじゃ。」
「だがひとつ疑問がある。創造神の扉を四神が抑制しているのは分かったのだが何故そこにスカルマスターの生贄が必要なのだ?」
確かにその通りであった。四神を呼び起こす事すら困難な事であり創造神の扉を開けるには天文学的な確率である事は理解できる。その上でスカルマスターの生贄が必要とはてんとには理解が出来なかった。
「確かに四神だけでもキーロックシステムは完璧じゃった。じゃがその頃のジークフリードには誰も信用できなかったのじゃ。」
ジークフリードは天道で孤独な戦いを強いられていた。そんな精神状態の中で四神キーロックシステムの構築を完成させたのだがプログラムの漏洩に脅え誰も信じられなかったジークフリード。
「ジークフリードさん・・・辛かっただろうね。」
「じゃが、傷心のジークフリードはこの黄泉の国で最愛の人と出会ったのじゃ。」
傷心のジークフリードがシステムを構築しているとそこにすべてを治める神々の王であるスカルマスターがやってきた。異様な姿に当初は警戒したジークフリードであったがマスクを取ったスカルマスターにかなり驚いた。
「ユラを見て分かるように代々スカルマスターは女系一族なのじゃ。初めて見たスカルマスターの素顔にジークフリードは一目惚れしたらしい。スカルマスターも同様にの。」
ジークフリードは天道でのシステムに関わるすべてのデータを消去して黄泉の国にやってきた。信じられる者はスカルマスターしかいない。ジークフリードは四神キーロックシステムにスカルマスターの血肉を生贄にするという原始的なコードを入力する事で創造神の扉が永遠に開かれないようにプログラムしたのだ。
「なるほど・・・・確かにそれではピサロの高い知識でも不可能に近いな。」
「じゃが奴は今までにない天才じゃ。すでに四神を呼び起こす四名の能力者のうち二名を配下にしておる。ジェイドとアレスじゃ。」
てんとは驚愕した。ジェイドが蒼龍を操れる事は知っている。しかしアレスもそうだとは知らなかった。和尚の話ではアレスは白虎を保有している。タカヒトが破壊神から受け継いだ色玉をアレスが奪ったのだと言う。
「無論、アレス自身も白虎を保有している事には気づいてはおらん。覚醒しているのはタカヒトの朱雀とジェイドの蒼龍だけじゃの。」
「和尚さん、あと残りの玄武は誰が持っているの?」
「それはの・・・・お主達をここへ連れてきた者じゃが今は持っておらん。」
「今持っていないのに所有者とは不思議なことをいうのね。」
「まあ、いずれ持つ時期が必ず来よう・・・・さて、ちと疲れたわい。」
和尚はゆっくりと立ち上がると「休む」と言い残しその場から去っていった。てんと達は和尚に聞いた事を話会っていた。創造神の扉を開ける五枚のカードのうち、ピサロはすでに二枚のカードを持っている。それは四神のうち蒼龍と白虎だ。てんと達も二枚のカードを持っている。タカヒトの朱雀とスカルマスターであるユラだ。残るカードは玄武なのだがそれを所有している者に助けられたという事は敵ではない事だけは分かった。
「ここで情報の収集し、次の行動計画を立てるしかないらしいな。」
てんとの言葉にその場にいた全員がうなずいた。その頃自室に戻っていた和尚は空を見上げていた。
「ワシが子供の頃、よく遊んでくれたの。成長したワシを最後の弟子と言って沢山の知識を学ばせてくれた・・・あの頃、言っていた事が現実になりそうじゃわい。ジークフリード、あの子達を守ってくれ。ワシらにとって最後の希望なのじゃ・・・・。」