焔の刃
神野国の達人は頭を覆っている黒い布を取る。その見覚えのある顔にジェイドは驚愕した。心臓は鼓動を増し呼吸が出来ないほどジェイドの細胞という細胞は怒りに満ち溢れていた。奥歯を噛締めジェイドは叫び声にも近い声を発した。
「ドレイク!」
「やはりそうか・・・・あの時の少年!」
間髪入れずにジェイドは無数の鉄球を再び浮遊させるとドレイクに浴びせた。ドレイクは鉄球の球速と方向を瞬時に確認すると甲斐のくずきりを回転させそれらを撃ち落した。ニヤリと笑みを浮かべたドレイクの視界からはすでにジェイドは消えていた。気配を感じたドレイクは素早く身体を回転させるとそこには拳を固めたジェイドがすでに攻撃体勢に入っていた。かわせないと判断したドレイクは甲斐のくずきりでその拳を受け止める。
「力強い攻撃・・・・あの頃とは違うらしいな!」
「すべてを奪いし憎き相手・・・・貴様だけは殺す!」
「殺されるワケにはいかんな。俺にも大切な女がいるんだ。」
ドレイクは甲斐のくずきりを光らせると腰を落とし戦闘体勢をとる。ジェイドも腰に吊るしてある小太刀を両手に持つと瞬時にドレイクとの距離を詰める。ジェイドの右手の小太刀がドレイクに斬り付ける。ドレイクは甲斐のくずきりでそれを阻止するが今度は左手の小太刀で斬り付けた。甲斐のくずきりの柄でそれを食い止めるがそれと同時に浮遊していた球体が襲ってくる。小太刀の斬撃は回転を上げて無数の球体と同時にドレイクに襲い掛かると防戦一方に追い込まれていく。怒りに身を任せたジェイドの瞳は赤く光っていた。最後の一振りがドレイクの右肩口を斬りつけると逃げるように距離を取った。
「やるようになったな、少年・・・・いや、俺が年を取ったのかな?」
「そんな事はどうでもいい。貴様は死ぬのだから!」
右手に持つ小太刀の刃先をドレイクに向けるその瞳は冷酷な青色をしていた。ジェイドが追撃を仕掛けた時、部屋にアレスが入ってきた。
「ジェイド、逃げるぞ!体勢を立て直す。ここは危険だ!」
ジェイドにはアレスの言葉がよく聞き取れなかったがアレスはジェイドに近づくと事情を簡素に説明した。ジェイドは渋ったがアレスの強引な行動に小太刀を鞘に納めるとアレスと共に部屋の窓を打ち破り二百階のフロアから落ちていった。ドレイクが窓に近づくとジェイドとアレスは浮遊しながら東の方向へと飛んでいく姿が見えた。
「ふう・・・結構ヤバかったな・・・ユラだったかな?大丈夫か?」
ユラは黙ったままうなずいた。ユラにとってとても哀しい出会いと別れが同時に起きてしまった。ドレイクはユラの想いを察してその場を後にしょうとしたその時、部屋に二体の白い姿をした者が入って来た事に気づいた。
「どうやら奴らは逃走したようだな。」
「・・・追跡。捕獲願う。」
「もう一匹はどうする?」
「・・・。」
カイザーは割れた窓に向かって飛行していくとそのまま東の方向へと飛び立っていった。残されたジャスティスは不気味な表情を浮かべながら浮遊して近づいてくる。
「なあ、俺は無関係のようだから見逃してくれないか?」
「却下だ。貴様は俺の遊び相手!」
そう言うとジャスティスは激しい光を放った。恐ろしい力と理解したドレイクはユラの前に立つと甲斐のくずきりを扇風機のように回転させた。その激しい光は部屋中のありとあらゆる物を溶かしていく。光がおさまる頃窓ガラスもフロアを覆う壁も水あめのように溶けていた。ドレイクの機転によりユラと共に無傷であったが圧倒的な能力にドレイクの瞳が鋭くなる。
「我が光を浴びて無傷とはなかなかやる。少し本気になるか。」
「そうか・・・俺も少し本気でやってみるか。」
ドレイクは甲斐のくずきりを背中に背負うと腰の短刀を抜いた。短刀の刃は薄っすらと焔色に輝いていた。長巻の甲斐のくずきりに比べ短刀は小さく弱々しく見える。
「それがおまえの本気なのか?」
「いまに分かるさ・・・予言しておいてやる。焔の刃を眼にした時、お前は恐怖に押し潰される。」
ジャスティスは両手を差し出すと眩い閃光が発生した。閃光は形を保ったままジャスティスの手の平にある。サーベルの形状をしたそれをジャスティスは床に滑らせると溶けながら裂けていく。ドレイクも精神を集中させると焔の刃が燃え盛るように揺らいで見えた。先に攻撃を仕掛けてのはドレイクであった。突きに特化した直刀で素早い攻撃を繰り出すとジャスティスは軽やかにリズムよくかわしていく。短刀である為、近距離の攻撃にジャスティスは両手のサーベルを交差さけるように振り上げた。身体を反りバク転しながらサーベルをかわしたドレイクの短刀は小太刀ほどの大きさに変わっていた。再び距離を詰めると焔の刃の連撃を繰り出すが笑みを浮かべたジャスティスは左右のサーベルで簡単にいなす。
「フォフォフォ、誰を恐怖に押し潰す?」
両手のサーベルを頭上に交差させ余裕の表情からもその戦闘力の差は明らかだった。ところがドレイクに悲観の表情は伺えない。いやそれどころか闘争心のみなぎる気が見えるほどその姿は燃え盛っているように見えた。ここで言う燃え盛っているように見えたと言うのは正確ではない。実際に燃え盛っていたのだ。ドレイクの持つ焔の刃は短刀だったが今持っているのは刀身が120cmほどの厚みがある野太刀だ。刃からは燃え盛る焔がほとばしっている。
「待たせたな・・・さて、おまえの恐怖に歪む顔は何色だろうな?」
野太刀を肩に背負うとドレイクは走り向かっていく。ジャスティスは両手のサーベルを振り下ろすとドレイクの野太刀との間に刃の弾ける音が鳴り響いた。弾かれた野太刀により身体を回転させる事で吸収するとその回転力を生かして水平に焔の刃をジャスティスの頭部に向けた。
「甘い!我がサーベルで弾き・・・!!」
両手のサーベルは粉々に砕かれていた。先ほどの刃が弾ける音はジャスティスのサーベルが砕けた音だった。顔を反らし焔の刃はなんとかかわしたものの燃え盛る焔によりジャスティスは頬に火傷を負った。焼け爛れた頬を手で撫でる表情は怒りで溢れている。
「おっ、おのれぇ~・・・」
「おっ、いい表情になったな。その顔が恐怖に変わるのにどれ位かかるかな?」
ジャスティスは両手を合わせると砲身のように変形した。その身体が光輝くと砲身からエネルギー砲が放たれた。ドレイクは走りエネルギー砲をかわしていくが直撃した部屋の壁は溶けて大きな穴を開けた。怒りに満ちたジャスティスはエネルギー砲を間髪入れることなく砲撃し続ける。穴だらけになった部屋で怒りに我を忘れたジャスティスは分からなくなっているがここにはユラもいる。しかしユラは無傷であった。
「もう少し狙いを定めたらどうだ?」
ドレイクはジャスティスをあおる事でユラとの戦闘距離を遠くに離していく。何故そのような事をするのか?ユラには全く理解出来なかった。ただあの時とは、修羅道でジェイドと引き裂かれたあの時とは違って守ってくれていることだけは分かったユラは部屋の隅で成り行きを見守るしかなかった。そのドレイクは逃げるのを止めるとその場に立ち止まった。
「逃げるのを諦めたか!安心しろ、一瞬で消滅させてやる。」
「いや・・・焔の刃にお前の業が完全に吸収できたようだ。」
「業が吸収できただと?」
ドレイクは焔の刃を見せ付けると先ほどまで燃え盛っていた焔色の刃が黒光りした太刀に変わっていた。焔の刃は相手の持っている業を吸収する事でその刀身を変化させる。つまり業が多ければ多いほど刃は鍛えられるという事だ。業とは誰もが持っている罪に対する罰でありこれを消費するには長きに渡る歳月が必要になる。だが焔の刃は業の吸収によりその者の業を消費する。
「業を消費してくれるとは都合の良い刃だな。」
「おいおい勘違いしないでくれよ。業を吸収するが貯める事など出来ない。すぐに放出されるのがこの焔の刃だ。そして放出される時、焔の刃は黒い焔色となる。今のようにな。」
剣先をジャスティスに向けるとドレイクは腰を落とす。ジャスティスも両手の砲身をドレイクに向けた。勝負は瞬時に決まるとユラは固唾を呑んで見守った。ジャスティスからは今までにないくらい激しいエネルギー砲が放たれた。巨大なエネルギーは一直線にドレイクに向かっていくが疾風の如くそれをかわすと次の瞬間ジャスティスの砲身である両腕が床にドサッと落ちた。両腕からは青い液体が垂れ落ち床一面を染めた。
「ギャバババアァ~・・・・」
鋭い刀身はすでにジャスティスに向けられていた。ドレイクが焔の刃を振り上げるとジャスティスは眩しい光を放った。眩しさのあまりドレイクが眼を覆うと眩しい光は一時続いた。
光がおさまりドレイクが眼を開けると部屋にジャスティスの姿はなかった。焔の刃はもとの短刀に変わっておりドレイクは鞘に収めるとユラの元に歩いていった。