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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
124/253

音楽隊の捜索

 「ウイルの居場所は分かったさ?」


 「分からないさ。」


 「鍾乳洞の深い所に入り込んだかもしれんさ。

  皆で音楽パレードを行い捜索開始するさ!」


 音楽隊はウイル捜索の為に楽器を手に演奏を行いながら来た道を戻っていく。その大演奏は鍾乳洞中に響き渡りタカヒト達の耳にもすぐに届く様になった。大演奏に気づいた笑顔のウイルはトランペッターを吹き始めた。鳴り響くトランペッターの音に共鳴するかのように大演奏の音は次第に大きく近づいてきた。


 「隊長!」


 「ぬっ?・・・・ウイル!」


 ウイルは音楽隊のもとへ走っていく。音楽隊の隊長やほかの仲間に囲まれてウイルは喜びの踊りを舞っている。隊長達がタカヒト達の存在に気がつくとウイルに語りかけた。話を聞いた隊長がタカヒト達に歩み寄る。


 「ウイルが世話になったさ。私はウィーン。この音楽隊を率いているさ。」


 ウィーンは世話になったお礼をしたいと言った。この先に音楽隊の宿舎があるらしく招待してくれる事になった。音楽隊は大演奏を再び開始すると宿舎を目指していく。

 目の前に現れた巨大な構造物にタカヒトは口をアングリと開けた。そこは周囲がドーム状に覆われ音の反響が物凄くいい。しかしそれだけではない。二階、三階と観客席が並んでいる。宿舎と聞いていたがそれは音響設備の整った音楽コンサート場と呼べるであろう。


 「ボサッとしてると置いていくぞ!」


 てんとに言われ我に返ったタカヒトは走ってミカ達の後を追っていった。歩くだけで音が響くその空間を進んでいくとドーム状に包まれた鍾乳壁に大きな扉がついていた。扉をウィーンは開けると音楽隊はずんずんと入っていった。その後をタカヒト達が入っていくとそこは噴水が中央にあるフロアが広がっていた。ウィーンの計らいによりタカヒト達は客室で休むことになった。音楽隊の隊員はそれぞれの部屋へと入っていく。各隊員は個々に食事を終えた後でパートごとに演奏をしている。タカヒトも食事を終えると独り二階の観客席に座っていた。もちろん演奏は行われてはおらず薄暗い空間にタカヒトは独り座っている。


 「こんなところに独りでどうしたさ?」


 声を掛けてきたのはウイルであった。タカヒトの隣に座るとウイルは鼻歌まじりの歌を歌い始めた。


 「ウイルはいつも明るいね。」


 「どうしたさ、いつも以上に元気がないさ。」


 「うん・・・・・」


 タカヒトは心の底にひた隠していた想いをウイルにぶつけた。今の記憶を失ったタカヒトにとってすべての出来事が全く初めての体験なのである。ミカはもちろん、てんともリナの事もまったく憶えてはいない。失った得の水筒を取り戻すとはいえ彼らと旅を続ける事に不安を抱いていた。


 「ミカやてんと達はタカヒトに笑顔で誠実に接してくれていると思うさ。」


 「うん、それは分かっているんだけど・・・。」


 「なら信じるしかないさ。」


 「でもそれだけじゃあ・・・。」


 「それだけで十分さ。ミカ達はタカヒトに心を開いてすべてを受け入れようとしているさ。ならタカヒトも心を開いて打ち解ける努力が必要さ。心配いらないさ。

 ミカもてんともリナもルサンカも、もちろん僕も音楽隊の皆もタカヒトの仲間さ。大切な友達さ。」


 タカヒトはキョトンとした表情をした。初めて仲間・友達とウイルに言われて動揺したのかもしれない。すべてに疑心暗鬼であったタカヒトにウイルの言葉がスッと心を絡めていた何かを少しずつ溶かしていった。信じる事の大切さをタカヒトはウイルに教わった。


 「何でだろう?ウイルといるとすごく話しやすい気がする。」


 「そんな事言われるとなんか照れるさ。さて、そろそろ寝るさ。」


 ウイルはタカヒトを連れて宿舎へと向かった。それから数日の間、タカヒト達は宿舎

で寝泊りして音楽隊の世話になることになった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「旧支配者の中で最も残虐な破壊者クトゥルーか。

  まさか、こんな場所で遭遇するとは!」


 ジェイドとアレスは思いもよらない生物に遭遇していた。船上にいるジェイドの見上げた先には彼らを見下ろすクトゥルーの姿が映った。蛸の顔面に無数の蝕腕を生やし、ゴム状の鱗に覆われている。手足には鉤爪を持ち背中に蝙蝠のような細長い翼を持つ。

 海の世界において最強と名高いクトゥルーは長い腕を振りかぶると鞭の様にしならせながらアレスに振り下ろした。直撃は免れたものの、砂浜はえぐれ砂埃が巻き上がる。ジェイドとアレスは闇夜の岬を目指すべく船を手配して出航する予定であった。そんな彼らはクトゥルーと遭遇するとは夢にも思わなかったであろう。数時間前、クトゥルーの眼にジェイドとアレスが乗り込む船が映った。次の瞬間、蝕腕が船に襲い掛かったが、アレスが瞬時に飛び掛ると蝕腕を斬りおとした。砂浜に数本の蝕腕が落ちるとクトゥルーは悲鳴をあげた。アレスの手には背丈を越す巨大な剣が握られていた。


 「そうはさせんぞ。先を急ぐのでな。」


 クトゥルーの表情が次第に険しくなっていく。両腕を広げると鋭い鉤爪がアレスを切刻もうと襲い掛かる。アレスはマテリアルフォースを最大に開放すると巨大な剣を振り上げ鉤爪を打落としていく。完全に主導権を握ったアレスはクトゥルーの本体を斬り付けるがゴム状の鱗は刃を弾き飛ばす。


 「斬れんか!ならばこれならどうだ!」


 剣先をクトゥルーに向けアレスは体重をたっぷりのせた突きでクトゥルーの身体を貫こうとした。剣先はゴム状の鱗を貫いたもののそれ以上剣が突き刺さることはなかった。食い込むゴム状の鱗から巨大な剣を抜いたアレスだが打つ手がなかった。しかしそれはクトゥルーも同じであった。睨み合いが続きそれを打ち壊したのはジェイドであった。


 「アレス!」


 ジェイドの声に反応したアレスが振返るとすでに船で出航していた。沖合いまでは出てはいないがクトゥルーからはかなり離れていた。アレスは腰を落とし巨大な剣を水平に振り斬るとその剣風がクトゥルーの脚を斬りおとした。断末魔にも近い声をあげながらクトゥルーはその場に倒れこんだ。アレスは船に飛び移るとジェイドは一気に船を沖合いまで念力で移動させた。


 「ふん、旧支配者とはいえ、大した事はなかったな!」


 「油断するな。月が満る時クトゥルーの能力は著しく落ちる。

  あれは本来の力ではない。」


 旧支配者のほとんどが満月の時には本来の能力を発揮できない。何故、能力を発揮できないのか、解明されてはいない。しかしジェイドとアレスにとっては幸運だった。


 「運は俺達に向いているようだ。後はスカルマスターを見つけ目的を果たすのみ!」


 ジェイドとアレスを乗せた船は一路、闇夜の岬へと進んでいく。


 てんとはルサンカに命じて鍾乳洞の先へと斥候として偵察に向かわせていた。そしてそのルサンカが戻ってきた。


 「その表情だと状況はあまりよくないようね。」


 リナは肩を落とした。もちろんリナだけではない。そこに居合わせた者すべてが最悪の知らせに誰一人言葉を発っしなかった。ルサンカの足で三日歩くと鍾乳洞を抜け海岸沿いに出られる場所がある。そこには港があり船が数隻ある。しかし今は一隻を残して休航していた。


 「クトゥルーが現れたか。出航した乗客は話からしてジェイドとアレスだろうな。

  次の満月は二十四日後か・・・。我々の出航はかなり遅れるようだな。」


 旧支配者のクトゥルーは満月の時には本来の能力を発揮できない。すでに満月から日が経っており次の満月を待たねばならない。ここに来ての遅れは致命的である。ジェイド達の目的ははっきりしてはいないが闇夜の岬に向かっていることははっきりしている。この黄泉から出る鍵であるヨグ・ソトホートをジェイドが手に入れられたらタカヒトは徳の水筒を永遠に失い、てんと達もこの地から永遠に出られなくなる。先を急ぎたい気持ちと満月を待たなければならない焦り。それらがズシンと彼らの肩に圧し掛かってきた。


 「ねぇねぇ、今度、音楽祭があるって聞いたんだけどウイルは出るのかな?」


 ドアを開けて部屋にタカヒトが入ってきた。神妙な面持ちをするてんと達の顔を見ると急に大人しくなってしょんぼりした。どうやら隣のウイルの部屋を間違えたらしくしょんぼりしながら部屋を出て行こうとするとミカが声をかけた。


 「音楽祭?何なの、タカちゃん。」


 「今度年に一度の音楽の演奏会があるんだ。

  それでウイルが出るのかなって知りたくて。」


 ボソッとした口調で話すとバツが悪そうにタカヒトはそのまま部屋から出ていった。再び静けさを取り戻した部屋では誰も口を開かない。そんな時口を開いたのはミカだった。


 「私・・・音楽祭見てみたい。今、そんな事言ってる時じゃないって分かるけどタカちゃんを見ていたら。」


 「そうね、考えても何も状況は変わらないし。私も音楽祭には興味があるわ。」


 「・・・ルサンカ、御苦労だったな。もう少しここに滞在する事になった。ゆっくり休んでくれ。」


 そうルサンカに促したてんとは対クトゥルーの戦術を練るべく部屋の隅にある机でプランを考え始めた。ウイルの部屋にいるタカヒトは心配そうな表情でウイルの演奏を聴いていた。


 「ねぇ、ウイル。うまく出来そう?」


 「心配ないさ。必ず演奏隊の枠に入ってみせるさ!」


 ウイルはトランペッターを握りしめ猛練習を始めた。今回の音楽祭は年に一度の特別な祭り。ウィーン率いる音楽隊の中でも最も優秀な者五十名が選ばれる。年に一度の音楽精鋭隊に選ばれる事がこの音楽隊で演奏する者にとって最も栄誉な事なのだ。ウイルはいままで八回もチャレンジしているがいままで選ばれた事もない。それでもウイルは諦めない。今も懸命になって練習している。


 「なんでそんなに一生懸命に練習するの?

  音楽精鋭隊に選ばれるのってそんなに凄いの?」


 「それはもちろんさ。あのステージで演奏する事は栄誉はもちろん、最高の喜びが得られるのさ。僕はまだあのステージには立った事はないけど必ず立ってみせるさ。」


 ウイルはトランペッターを布で拭きながら諦めない意志を示した。タカヒトは興奮して大声でウイルを応援した。ウイルは少しにやけて恥ずかしそうな顔をする。タカヒトはウイルの演奏を聴いて必ず音楽精鋭隊に選ばれると確信していた。それは誰よりも音楽にかける想いが一番強かったとタカヒトは感じたからだ。そしてその音楽精鋭隊の選抜試験が行われる日がきた。


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