カウンターアタック
「おい、タカヒト起きろ!タカヒト!!」
「ん?・・・あれ?ミカちゃんは?」
「何を寝ぼけている!はやく用意をしろ!」
「用意って・・・なんのこと?」
寝ぼけているタカヒトにはてんとの言っている事が理解出来なかった。目を擦りながらてんとの後をテクテクと歩いていくとデオルト達がテーブルを囲んで話し合いをしていた。タカヒトがテーブルに着くとなにやら作戦らしき話が聞こえてきた。デオルトが作戦の役割分担について話を進めるとタカヒトとてんとの名前が出てきた。何の事か分からないタカヒトは慌ててデオルトに問い掛けた。
「ちょっと待って!作戦ってなんなの? 役割って?」
「作戦とはもちろんデノガイドへの反撃作戦のことだ。皆で話し合った結果、我々が生きていくにはどうしてもデノガイド、イーターの殲滅が必要不可欠なのだ。その後で王国の復興を行うと皆で話し合って決めたのだ。しかし我が騎兵団は壊滅して膨大な数のイーターを相手に到底勝ち目はない。
そこで少数での奇襲攻撃を行うことになったのだ。もちろんグラモ達グーモ一族が協力をしてくれる。てんとは協力してくれると言ったのだが・・・」
「僕、知らないよ!・・・あっ、もしかして夜遅くまでてんとがしてた仕事って。」
「その通りだ!確かにこれは危険な任務だ。
彼らを見捨てこの場を去ることも我々は出来る。どうする?」
「どうするって・・・見捨てることなんて出来っこないよ。」
「さすがタカヒトだが!頼りになる男だが!」
グラモが喝采をあげるとグーモー達も大声を上げて喜んだ。それだけ皆が不安な想いをしているのはタカヒトにも伝わってきた。巨大なデノガイドと膨大な数のイーターを相手にするのだからそれも仕方のないことなのかもしれない。彼らは勝算のほぼないと等しい戦いをすることを強いられるのだ。
「いかに恐怖に打ち勝つかがこの戦いのポイントだ。」
てんとはこの時そんな事を言った。いままでのタカヒトにはそんな経験は無い。恐怖に打ち勝とうともせずいつも逃げてばっかりだった。タカヒトだけなら逃げられる事も出来るがデオルトやグーモー達は逃げる事は出来ない。戦いに勝利して平和な生活を勝ち取るしか道がないのだ。
デオルトはタカヒトとてんと、それにドミンゴやグーモー達に役割を次々と伝えていった。てんとはデオルトの考えた作戦を分析しながら再度役割について皆に事細かく説明していた。てんとの説明を聞いている最中、デオルトは先の戦いでのパピオン騎兵団の壊滅が頭を余儀っていた。
(もしかしてまた私は同じ事を繰り返そうとしているのではないか?)
復興、復讐、逃避・・・いろいろな思いがデオルトの心を苦しめた。正直この場から一番逃げ出したいのはデオルト自身なのかもしれない。苦悩に歪む表情をしているデオルトに説明を終えたてんとが近づくとボソボソと何か喋った。その言葉を聞いたデオルトはハッとするとてんとを見て笑顔を浮かべた。デオルトが作戦を練り皆で準備を行うその作戦はいたってシンプルだった。作戦の標的はデノガイドのみ・・・。
作戦を遂行する前日の夜、グーモー達が戦いの準備をしている頃タカヒトはひとり地上に立って夜空を見ていた。ドゴルの言う通り地上にはイーターは一匹もいない。辺り一面、緑に覆われていた森も今では茶色の地表面だけの姿になっていた。夜空に輝く星を見ながらタカヒトは夢で見たミカのことを考えていた。
「あれはなんだったんだろ?ただの夢?ううん、違う!あれはたしかにミカちゃんだった。ミカちゃんが何処かにいるんだ。きっとそうだ。僕に助けてって言っていたし。」
何処にいるかも分からないミカの事をタカヒトは心配している。デノガイドとの戦いを前に自分が生きて戻れるかどうか分からないにも関わらずミカの事を心配している。タカヒトは心のどこかでミカが近くにいるのではないかと感じていた。この戦いが終わればミカに会えるかもしれないと・・・。
翌朝になると予定通りに作戦は決行された。デオルト率いるタカヒト・てんと・グラモの特攻野郎アルファ・チーム、ドゴル達イーター行動偵察部隊のベータ・チーム、先発隊としてドミンゴと工事作業員のサイクロン・チームはすでに作戦を実行していた。
「それぞれの任務を遂行して打倒デノガイドだ。諸君の健闘を祈る。いざ出陣だ!」
デオルトの出陣の号令と共に特攻野郎Aチームとイーター行動偵察Bチームはデノガイドの砦がある荒れ果てた地ルインズへと歩を進めた。ルインズの遥か手前でふたつのチームは別れ互いが作戦準備入った。その日は準備に追われる為に突撃は夜明けとともに行う事となっていた。
荒れ果てた荒野ルインズの中心に高くそびえ立つ砦がある。外部からの侵入は容易でいつでも入れるのだがそれは入ってくる者がデノガイドやイーターにとって餌でしかないからである。つまり自分達が襲われるとはデノガイドもイーターも考えたこともないということになる。しかし今イーター達は襲われている。大量の石の雨が砦目掛けて降ってきたからだ。突然の襲撃に砦のイーター達はパニック・パニック・パニック。その攻撃はドゴル達イーター行動偵察Bチームによるデオルトの作戦の一部であった。
よくしなる二本の木に枝を網の目を張り巡らせて大量の石を敷き並べる。木をしならせてから一気に開放することで大量の石を飛ばす原始的なものだ。しかし効果てきめんで飛んできた大量の投石が砦を守っているイーターの身体に深く突き刺さっていくと悶絶しながら次々と力尽き倒れていった。
「何事だ!」
「デノガイド様、何者かに攻撃されてます!」
「何だと!世界の王と知っての無礼か・・・砲台の準備をしろ!殲滅してくれるわ!」
デノガイドに指示された通りにイーターは砲台席に座ると標準を合わせて砲撃を開始した。轟音と共に砲弾が射ち込まれると直撃はしなかったものの爆風で数匹のグーモー達が吹っ飛ばされた。
「しっかりするが。起きるが!」
倒れて動かなくなったグーモーを救出しよう別のグーモーが声を掛ける。しかし続けて砲弾が射ち込まれると恐怖におののき右往左往しては逃げ回っていた。
「ギッギッギッ、死ね、死ね、死ね・・・??なんだ、これは?」
砲台席で砲撃操作を繰り返しているイーターは目の前のパネルにオーバーヒート警告ランプが点滅していることに気づいた。イーターはそれが何か理解できずオーバーヒートを気にすることなく砲撃を続けた。投石を繰り返していたBチームであったが今では砲撃に逃げ惑うのが精一杯だった。イーターの砲撃が続く度に砲台の温度はあがっていく。
「ギッギッギッ、死ね、死ね、死ね・・・なんだ?ヤケに熱いゾ???・・・!!!」
爆音と共に砲台が大爆発を起こした。砲撃していたイーターは原形をとどめることもなく灰と化す。最強の矛と呼ばれていても撃ち続ければ高熱が発生する為クールダウンが必要になる。しかしイーターにはそれを理解するだけの学習能力はなかったようだ。砦内での爆音はデノガイドにも伝わった。
「何事だ?」
「ギッ、ギッ、砲台爆発!砲台爆発!」
「バカが!砲台ひとつも使いこなせないのか!」
デノガイドはイーターの無能さに落胆しながらも次の作戦に取り掛かった。砲撃がなくなるとグーモー達は再び投石を開始する。その結果、砦の被害が増して戦況はデノガイド側が劣勢となっていく。それと同調するかのようにデノガイドの怒りも増していく。砦から戦況を確認したデノガイドは襲撃に対して意外にも冷静な判断を下した。イーター達に大量の石が飛んでくる方向を確認させると同時に反撃するように命令する。そしてイーター達は大量の石を避けながらその先にいたドゴル率いるイーター行動偵察Bチームを発見した。
怒り狂ったようにドゴル達に攻撃を仕掛けるべく向かっていくイーター達。ドゴル達は投石を続けるが石の軌道を読んだイーター達に当たる事はなかった。接近するイーター達とドゴル達との距離がどんどん縮むがドゴル達は逃げようとしない。立ちすくんだ?諦めた?それとも・・・ドゴル達は近づいてくるイーター達に懸命に投石攻撃を続ける。
「ギー、ギー、ギー、喰ってやる!」
「ムダだ!投石はあきらめろ! 軌道はすでに読めている。お前らの負けだ!」
投石をかわしイーター達が次々と近づいていく。怒りに目を赤くさせた数百いや数千匹のイーターの群れはドゴル達との距離を縮ませていく。先頭を走るイーターとの距離が100m・・・50m・・・30mと近づき先頭の一匹のイーターが顎を開き鋭い牙を見せて飛び掛かかった次の瞬間、地面が激しく揺れ落ちた。地面が落ちるというありえない現象にその地面を走ってきた数千匹のイーターは成す術もなく落ちていく。
「ゴギャァァアアア~~~」
「ウガアァァァ~~~~」
ドゴル達に飛び掛ろうとしていたイーターさえも足場を失いドゴル達を見上げながら深い穴に落ちていった。どれくらい落ちていったのか?落ちていくイーターの視界に地面が迫ってくるとグシャッと激突した。強固なイーターの甲殻は粉々に砕け、ドロドロした体液を辺りに撒き散らしていた。粉々になったイーターの上に運良く着地したイーターが数百匹いた。落下の衝撃にヨロヨロになりながら少しずつ震える手足で動こうとしたイーターは頭上を見上げると落ちてくる岩石にグシャッと押し潰された。すべての岩石が落ちると岩の間からイーターのドロドロした体液と残骸が見えてきた。
その穴の大きさはドゴル達のいる所を中心として半径がデノガイドの砦まで扇を描くように広がっていて深さは底が見えないほど恐ろしく深い。向かってきたイーターは数千匹・・・もちろん一匹も生きてはいないだろう。ドゴル達が喜び喝采をあげていると近くの地面からドミンゴの工事作業Cチームが這い出てきた。
「やっただが!やっただが!」
この勝利はてんとの考えた作戦が与えた。作戦決行の数日前からドミンゴと工事作業Cチームは地面に空洞を掘り続けるという大掛かりな土木工事を行っていた。彼らの掘削量は想像を絶するものだった。エッサラホッサラ、エッサラホッサラと地上から深さ1mくらいのところに巨大な穴を堀り更にその下に何層も同じように空洞を掘っていた。
勢いよく襲い掛かってきた数千匹のイーター達が薄い地面の上に到達した瞬間、重みに耐え切れなくなった地面が陥没して掘りあがっていた空洞に落ち薄い地盤の上に落ちた。更に下の空洞へと何層も陥没を繰り返しながら巨大な穴をイーター達自ら造り上げた。イーター達は巨大な穴に落ちて一番下層の地面激突した瞬間、頭上から大小さまざまな岩が覆い被さり自ら圧迫死に導いていった。BチームとCチームは巨大な穴を造りあげた事に喜びいつまでも歓喜の声を上げていた。
「何事だ!この大揺れは?」
「デノガイド様!我がイーター軍は壊滅状態です!その数は数千!!」
「何だと?おのれぇ~~おい、ギガイーターにやつらの殲滅を命じろ。殺せ!」