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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
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ガンバル タカヒト

 「おはよう!皆、起きてよ。」


 「・・・何、タカヒト。早起きは肌にわるいのよ。」


 「いいから、いいから。」


 タカヒトはギガイーターやスオウ達を次々と起こしていくと広場に集めた。眠い目を擦りながらギガイーターが辺りを見渡すとギフシ族の人々がマテリアルフォースの訓練をしている。ギフシ族では毎朝、マテリアルフォースの訓練をする事が日課となっている。


 「まさかとは思うけど・・・」


 「皆で一緒に訓練するんだ。僕も訓練する。村の人達と心の距離を縮めるんだ。」


 「タカヒトも物好きだな。我々はもうすぐ旅立つのだぞ。」


 「だからするんだよ。立つ鳥後を濁さずってことわざがあるんだよ。せっかく皆仲良くなったのに遺恨を残すのは嫌なんだ。」


 タカヒトは広場の中央に立つと腰を落として精神を集中していく。マテリアルフォースは黄泉の国の住人すべてがもつ精神力の強さを開放する事で得られる力である。主に肉体強化や治癒の能力が一般的だ。まだ能力を得ていないタカヒトは真剣に取り組んでいる。するとスオウが近づいてきてタカヒトの隣で腰を落とした。


 「・・・ありがとう。」


 あまりの眠気に帰ろうとしたギガイーターの背中を押しながらイタ太郎とイタロスもギガイーターと共に訓練に加わった。そんな彼らを警戒するように村の者達が距離を取る中、スオウとの心の距離を縮めるタカヒト達の挑戦が始まった。そんな姿を遠く屋敷で村長が眺めていた。

 それからしばらくの間、タカヒト達は毎朝訓練を実施していたが村の人達との心の距離は縮まる事はなくかえって悪化しているように見えた。成果の見えない努力にギガイーターが抜けイタロスが消え、イタ太郎がいなくなった。残ったスオウとタカヒトだけが毎朝訓練をしている。しかし一向に成果のでない行動にタカヒトはションボリしていた。


 「タカヒト、どうした?」


 「僕のやっている事って間違っているのかな?」


 「・・・どうだろうな。ただこうしてタカヒトは一緒にいてくれている。俺にはそれだけで十分だ。」


 スオウは笑顔で答えた。訓練は毎朝行われているのだがスオウ自身はすでにマテリアルフォースを得ておりタカヒトに教えている。タカヒトもマテリアルフォースを習得しつつあった。


 「そうだ、球体を描くようにゆっくりと・・・。」


 タカヒトは両手を合わせると球体を作り出すようにゆっくりと動かしていく。出来た球体を自らの身体に近づけるとスウッと球体が身体の中に入った。


 「すごいよ・・・力が湧き上がるみたい。」


 「よく出来た。それがタカヒトの持つマテリアルフォース 治癒力だ。」


 能力の覚醒に喜んでいるタカヒトのもとにヨシカが歩み寄ってきた。


 「おめでとう。それがタカヒトさんの能力なのね。

  治癒力・・・なんからしいわね。」


 「ありがとう。それもこれもスオウさんの丁寧な教えのおかげだよ。」


 「実は私・・・スオウさんにお願いがあるの?」


 「俺に?」


 ヨシカの後には数名の子供達がいた。ヨシカの話ではギフシ族の者達はすべてマテリアルフォースを使えるはずなのだがなかなか開花しない子供達もいるらしい。スオウの教え方がうまかったらしく村長たっての希望らしいのだが・・・・。


 「お願いできますか?ほら、あなた達からもご挨拶しなさい。」


 「せんせい、おねがいします。」


 「・・・・先生か。」


 タカヒトは満面の笑みでスオウを見ていた。スオウも首を縦に振ると子供達がキャッキャッ喜んでいる。そんな姿をサンギガトンと村長は屋敷の部屋から見つめていた。


 「私の思惑通りね。」


 「ほう、そうだったのか?」


 「もちろんよ。心の距離が縮まるようにあえて私達は離れたのよ!」


 「まあ、そういうことにしておこうかの。」


 サンギガトンとタカヒトそれにスオウはギフシ族での生活を楽しんでいた。スオウはマテリアルフォースの先生としてすっかり子供達に慕われていた。穏やかに時間は流れ、数週間ほど経っていた。そこに新たな敵が鋭い眼つきで獲物を狙っていた。


 「やっと見つけたぞ。さて、どう捕獲するべきか?昆虫の王スオウはかなり厄介な相手だぞ。どうする、ジェイド?」


 「こちらも仲間を得るしかないな。」


 仲間などいない事はアレスにも分かっていた。ニーズヘッグを失い、どうやって仲間を得るのかを問い質すとジェイドは黙ったままその場を後にした。それから更に数日が経った。その日はやけに風が強く暴風警戒の対策準備をしていた。


 「いやな風だ・・・」


 スオウは渋い表情で言った。黄泉の国にはイタカと呼ばれる風の住人がいる。穏やかな性格をしているが反面激怒した時は暴風を呼ぶ恐ろしさをもっている。暴風が来る時はどこかでイタカが激怒しているとこの地方で言い伝えがあるほどだ。


 「案外近いかもしれんな。」


 「ちょっと!怖いこと言わないでくれる。」


 ギガイーターが恐れを感じるほど危険な生物にタカヒトは身の毛が弥立つ思いをした。不安がるギガイーターの顔を見ながらタカヒトは言った。


 「そんなに恐ろしい存在なんだね・・・」


 「恐ろしいも何も乾燥は肌に一番良くないのよ。暴風が来る前に保湿液を手に入れないとまずいわ。」


 ギガイーターはイタロスとイタ太郎に保湿液を手に入れるように命ずると勢いよく二匹は走っていった。ギガイーター自身も「乾燥は良くない」と言って屋敷に戻っていく。


 「・・・タカヒト、とりあえずここの物を片付けよう。」


 「うっ、うん・・・」


 サンギガトンに振り回されたスオウとタカヒトは暴風で物が飛ばされないように落ちている物を片付け戸を釘で打ちつけていた。


 「でも、なんでイタカは怒っているの?」


 「さあな・・・だがこれほどの暴風は俺も経験した事がない。」


 暴風対策が終わるとタカヒト達は屋敷に入っていった。村長の屋敷は万が一に備えて食料品などが地下に蓄えられてある。そこには村のすべての者が避難できる部屋も確保されており、暴風が去るのをジッと待っていた。だが、暴風の去る気配はなく数日が経過していた。不審を感じたスオウはある仮説を立てた。それには村長も納得して屋敷の外に出る許可を与えた。


 「しかしスオウだけでは危険だ。」


 「アタシは嫌よ。お肌が乾燥するから。」


 「僕が行く・・・大丈夫だよ。スオウさんもいるし。それに僕も何かの役には立てるとおもう。」


 不安がるヨシカに笑顔でタカヒトは答えた。もしもスオウの仮説が当たっていたのなら確かに外は危険である。タカヒトの能力が手助けになると考えた村長はタカヒトにも外に出る許可を与えた。装備を整えたタカヒトとスオウは地下室の階段をのぼり、扉を開けた。いつも明るい屋敷の内部は薄暗く冷たい空気が流れていた。締め切った戸がガタガタと震えて暴風の凄さが見てわかる。スオウは小声でその場にしゃがむようにタカヒトに伝えると外に出る扉付近で待機する。暴風の弱まる気配を感じたスオウはゆっくりと扉を開けて外に出た。暴風により砂埃が舞って視界が悪いが遠くの方で確かに何かが動いていた。


 「やはり・・・タカヒト、用心しろ。」


 タカヒトが目を細めながら砂埃の先に見たものは人間のようにも見える巨大な亜人種であった。姿形こそ人間そのものだがそのギラギラと開いた眼光は人間とはかけ離れていた。骨と皮膚だけの細い身体をしてはいるが骨格はしっかりしている。歯を剥き出しに暴風を撒き散らしながら辺りを見渡している。目的は分からないがイタカがいる以上この状況は変わらない。スオウはタカヒトに後方支援を命じ、自らはイタカ向かっていく。体長十メートルはあるであろうイタカの繰り出す暴風に近づくこともままならないスオウは右腕を液状化させて鞭打を放った。


 「サンギガトンさん達はタカヒトさん達の事が気にならないのですか?」


 「あら、ヨシカちゃん。どうしたのかしら?怖い顔をして。」


 「ですから、タカヒトさん達の事が・・・!」


 ヨシカは冷静さを失っていた。外の様子が分からない以上、下手に動くわけにはいかない。ヨシカにもそんな事は十分分かっていた。それでもなおタカヒトの事が気になり居ても立ってもいられないヨシカだった。


 「そんなに気になるんだったらヨシカちゃんが行ったら?」


 鏡を見ながらギガイーターは挑発するように言った。ギガイーターはヨシカが外に出て行くとは思っていない。力の無いヨシカが自分にものを言ってくるのが気に入らなかったのか、それとも・・・。下をうつむいたままのヨシカはそのまま走って地下の部屋から出ていった。

ギガイーターは何も語らずにイタロスは沈黙を保った。しばらくの沈黙後、ギガイーターは鏡を化粧箱に入れるとイタロスに言った。


 「まったく、しょうがない子だわ。行くわよ!」


 「はっ・・・しかしギガイーター様が嫉妬なされるとは初めてですな。」


 「減らず口を・・・イタ太郎もついてらっしゃい。」


 口をモゴモゴさせているイタ太郎を連れてギガイーターとイタロスは階段を駆け上がっていく。その頃、外に出たヨシカはあまりの砂埃に布で鼻と口を覆った。生活感のあった風景は一変して砂漠地帯が広がっていた。草木に砂が覆い被さり砂の世界と言えた。ヨシカは注意深く辺りを見渡すとかすかに人影らしき物が見えた。それがタカヒトなのか分からないがヨシカはそこに向かって走っていく。


 「スオウさん、大丈夫?」


 タカヒトとスオウはイタカから逃げて距離をとり様子を伺っていた。スオウは液状化した右腕でイタカに攻撃を仕掛けたものの返り討ちに遭いその腕はボロボロになっていた。イタカは風の精霊である。風の精霊ウンディーネは穏やかな性格をしているが風の精霊の中にも凶暴な精霊はいる。自らの種を守る為に攻撃性を高めた精霊・・・それがイタカなのである。故にイタカは風の精霊としての能力に攻撃性がプラスされた戦闘タイプの精霊なのだ。イタカは瞬時にスオウの攻撃軌道を風によりそらすと真空を造りスオウの腕を切刻んだのだ。


 「あの攻撃は厄介だな。さて、どうしたものか・・・」


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