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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
117/253

金色に輝く姿は・・・

 「ヨシカ・・・」


 朦朧とした意識の中、ヨシカの笑顔が浮かんだ。それともうひとり記憶にはないがヨシカと同じ年頃の少女の顔が見えた。タカヒトは震える手で水筒を掴むと蓋を回した。いままでどんなに力を込めても回らなかった蓋が簡単に回り、液体を一口飲んだ。何故飲んだのか?タカヒトにも分からない。いくら村長が言ったからといってそれが本当だと言う事はない。記憶を失ったタカヒトは徳の水筒を飲んだのはこれが初めてなのだしそれで【運】がよくなるなんて事は有り得ない。


 「やっ・・・ぱり・・・あるわけ・・・」


 徳の水筒を地面に置くとタカヒトは仰向けになった。激しい痛みに身体は動かず、しかも呼吸がうまく出来ない。


 「ハア、ハア・・・しっ、死ぬって・・・こういう事・・・」


 朦朧とする意識のタカヒトは眩しい光に瞳を細めた。あまりもの眩しさに今度は手で覆うとその手が金色に輝いていた。


 「・・・光り輝いている?あっ・・・身体の痛みがない。動くぞ。」


 むくっと起き上がったタカヒトに驚いたのはスオウである。その姿は恐怖に怯えた先ほどの姿はなく金色の輝きが神々しい。その輝きに動揺するも攻撃を仕掛けてこないタカヒトにスオウはニヤリと笑った。スオウは身体をユラリユラリと揺らしていくと瞬時にタカヒトに接近した。身体のすべてを完全に液状化させたスオウは百の距離を零に瞬時に移動できる。金色に輝くタカヒトにスオウは鋭い甲殻刃を振りあげた。


 「ふん、一瞬で決めてやる。死を感じる前に死ね!」


 鋭い甲殻刃が金色のタカヒトを貫く瞬間、タカヒトはそれをかわすとスオウの眼に金色の拳が映った。顔を歪ませ、スオウは地面を這うように転がっていく。しりもちをつくスオウは驚きしばらく座り込んでいた。


 「貴様・・・見えるのか?」


 スオウは立ち上がると桃色の唾を吐いた。金色のタカヒトを警戒しながらも攻撃を仕掛けてこないタカヒトにイライラしていた。意を決したスオウは身体を再びユラリユラリと揺らすと右腕を鞭のようにしならせ鋭い鞭打がタカヒトに襲い掛かる。しかし今の金色タカヒトにはそれらすべてがスローモーションのように見えた。それらをかわしながらその先にいるスオウに近づくと腹部に渾身の左拳をめり込ませた。苦悶の表情を浮かべるスオウの眼に金色の右拳が映るとその身体は竜巻に巻き込まれたかのように回転しながら上空へ吹っ飛んでいった。吹っ飛んだ身体が地面に落ち叩き付けられスオウはなかなか立ち上がれない。それほどのダメージを追ったのか。いやそれだけではない。スオウは生まれ出でて地面にへばりついたことなどない。初めて味わう苦い敗北の味をスオウのプライドが許さなかった。奥歯を噛み締め立ち上がると金色のタカヒトを睨み付けた。


 「貴様!」


 鞭打を繰り出すスオウに対して金色のタカヒトは難なくかわしていく。金色になったタカヒトは妙な感覚にあった。高揚感に溢れ興奮状態にあった。それ故に好戦的で恐怖感というものがまったくない。その一方で戦況を冷静に分析していて徳の水筒の効力も残り少ないと分かっている。


 「スオウ、次の攻撃で終わりだ。決まれば僕の勝ち・・・かわせば君の勝ちだ。」


 勝負は一瞬で決まる。腰を落とし斜に構えたタカヒトは右拳にすべての力を込める。それに対してスオウはユラリユラリと身体を揺らし始めた。先に動いたのはタカヒトだ。一気に飛び込むと無数の鞭打が襲い掛かる。顔や身体は皮一枚斬り付かれながらスオウに手の届く位置に辿り着いた。


 「・・・おまえの勝ちだ。」


 すべての攻撃をかわされたスオウの視界に金色の拳が映った。九の字に折れ曲がったスオウの身体は勢いよく吹っ飛んでいくと壁にめり込んでいった。スオウは遠のく意識の中、金色タカヒトの姿がその眼に映った。金色に輝くその姿は神々しくも見えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 薄っすらとした視界が少しずつ鮮明になっていくと見覚えのある部屋の天井が見えた。目を覚ましたスオウは身体中に薬草を施した痕がある事に気づいた。スオウはゆっくりと起き上がると部屋の隅でサンギガトンと共にいたタカヒトが気づいた。


 「あっ、目を覚ましたんだね。」


 「・・・どういうつもりだ?情けをかける気か。」


 「情けとかじゃなくて・・・その・・・」


 「アンタが情けをかけたからよ!」


 しどろもどろのタカヒトに変わりギガイーターが口を開いた。そうなのである。サンギガトンは怪我をしてはいるが致命傷を負ってはいないのだ。ギリギリのところで急所はすべて外されていた。イタ太郎とイタロスを部屋の隅に連れていった時にタカヒトはその事に気づいた。金色タカヒトとなり闘っていた時もギガイーターの症状も見定めることができた。


 「そうか、見透かされていたか・・・」


 スオウは痛みを堪えながらも立ち上がると外の景色が眺められる開口部に歩いていった。爽やかな風が傷口にしみた。スオウは涙こと流さなかったがなんとも悲しい表情をしていた。


 「アンタ・・・今の立場に嫌気がさしたのね。」


 ギガイーターの言葉にスオウは涙を浮かべ遠くの景色を見つめていた。同様の事をギガイーターも味わったことがある。ギガイーターも特異体質として最強の昆虫人として生きてきた。しかし、それは他の昆虫人から差別を受ける結果にもなる。イーターもウォーリアもすべての昆虫人は成長する過程で他の能力を得る場合、共食いあるいは他の生物を喰らうのである。他の生物の持つ能力を喰らうことで得るのである。しかし特異体質として生まれたギガイーターには必要がなく共食いをするイーターに嫌悪感すら抱いた。


 「アタシは同じ特異体質のイタ太郎やイタロスがいたから救われたけどアンタは孤立していた。その強さ故に王として君臨するもアンタには仲間や友と呼べる存在はなかったのね。だから同じ特異体質のアタシ達の出現に戸惑った。違う?」


 ギガイーターの言葉は図星だった。初めて出会えた同じ特異体質は敵対する相手。王として戦わなくてはならないが守る者達は嫌悪感の塊。心の葛藤がスオウの決断を鈍らせていた。


 「しかし、私は王だ。貴様らとは・・・」


 「・・・やめたらいいと思う。」


 タカヒトのポツリと言った言葉がスオウに響いた。王をやめるなど考えもしなかった。単純なタカヒトの考えに心揺れるスオウ。その時、地面が揺れ大規模な地震が発生した。地面に座り込むタカヒトは立ち上がろうにも立てない。


 「あわわわ・・・凄い地震!立てないよ。」


 「いや、違う!地震などではない。ナイアルラトホテップが現れた!」


 スオウの突然の叫び声にサンギガトンもタカヒトも動揺した。最強の昆虫人は顔をひきつらせ蒼白した表情をしている。しかしタカヒト達はそのナイアルラトホテップを知らない。地面の揺れがなくなるとタカヒトは立ち上がり開口部から辺りを見渡した。驚愕したタカヒトにスオウは震える身体を抑えながら言った。


 「あれが・・・ナイアルラトホテップだ。」


 円錐形の頭部と形の整っていない身体。三本の脚部に鋭い三本の爪を持つ腕が二本ある。地層のような色をした重量感ある身体は威圧感すらある。旧支配者達と呼ばれる旧神の中でもっとも巨大なナイアルラトホテップはスオウの砦に向かってくる。


 「何故、ヤツが!」


 スオウは両膝をつき絶望感に支配された。それほどの脅威とギガイーターはすぐに察した。王としてスオウはウォーリアに作戦指示をするがすでにウォーリアは砦から逃走していた。生物としては当然の判断だがスオウは動揺した。肩を落としたスオウにギガイーターは言った。


 「兵を失い王としてのアンタは終わったけど新しい友を得たはずだわ。」


 スオウを囲むように笑顔のサンギガトンとタカヒトがいた。皆が一斉に手を差し伸べるとスオウは立ち上がる。


 「さて、友情の取り交わしをしたところで逃げるわよ。」


 「えっ、逃げるの?」


 「タカヒト、バカなことを考えては駄目よ。あんなのと闘ってたら命がいくつあってもたりないわ。」


 スオウの案内で砦内部の通路から地下へ進んでいった。この通路はスオウが万が一に備えて自ら造ったものだ。王でありながらも信頼できる者がいなかったスオウの悲しい経緯が伺える。通路を歩いている最中も地響きがおさまる事はなかった。地上ではスオウの砦は無残にも破壊されナイアルラトホテップは無数の触角を伸ばすと次々とウォーリアを捕獲していく。背中が割れ大きく開くとそこに捕獲されたウォーリアが次々と落ちていく。割れた背中の内部は粘着力があり這い上がれない。ウォーリアはズルズルと沈んで消化液に溶かされていく。すべてを喰らい終えるとナイアルラトホテップは重量感ある身体を砂漠の中に沈ませて消えていった。


 「ここを登るとギフシ族の部落近くだ。」


 スオウの説明を聞きタカヒトは急いでハシゴを登った。ナイアルラトホテップがギフシ族を襲っているかもしれないと不安で一杯だったのだ。もし襲われていたらどうしよう。ヨシカの事が一番気になっていたタカヒトは重い扉を開けると光が差し込み目を覆った。

 目が慣れてきた頃、辺りを見渡すとギフシ族の村が見えた。いつも通り煙が立ち上がり何の変化もない。タカヒトは胸を撫で下ろした。だがナイアルラトホテップに襲われてなかったもののサンギガトンには敷居が高かった。戸惑うギガイーターにタカヒトは声をかけた。


 「どうしたの?早く行こうよ。」


 「あれだけの啖呵を切っておいて戻るのって、ちょっと・・・ねえ。」


 「そうだぞ、タカヒト。ギガイーター様はギフシ族の者達に向かい、足手まといはゴメンだとおっしゃったんだぞ。今更、どの面を下げて戻れと言うんだ!」


 「ちょっと、イタロス・・・それは言い過ぎよ。」


 戸惑いながらもタカヒトに背中を押されサンギガトンとスオウはギフシ族の村に進んでいく。サンギガトンはうつむきながら歩いていくと村の正門付近にギフシ族が集まっていた。皆、武器を手にギラギラした眼つきをして一触即発の状況だ。タカヒトの後に隠れたサンギガトンは小声で言った。


 「怒ってるで・・・ギガイーター様に対して怒ってまっせ。」


 「分かってるわよ・・・やっぱり戻るわよ。」


 タカヒトが止めようとするが後ずさりして逃げようとするサンギガトンの姿を発見した村長は皆に聞こえるような大きな声で叫んだ。


 「無事に戻ってきおったか。

  遅いんでワシらは応援に向かおうと思っておったところよ。」


 「アタシ達を追い出すんじゃないの?」


 「フォフォフォ、面白い冗談だの。さて無事に帰ってきたことだし旅の話を聞こうか・・・ひとり増えたみたいだしの。」


 村長はスオウの素性など気にする様子もなく屋敷に村人のおす車椅子で戻っていった。村の者達もサンギガトンを囲むと笑顔で屋敷へと連れて行く。スオウの存在に誰もが気づいているがそれでも村長が許可をした以上、拒む理由はない。スオウも戸惑いながらもサンギガトンと共に歩いていった。タカヒトも屋敷へと足を進めるとヨシカが目の前に立っていた。ヨシカはいきなりタカヒトに抱きつくとそのまましばらくジッとしていた。驚いたタカヒトは硬直したまま動けないでいる。


 「心配していたんだよ。無事に帰ってきて本当に良かった。」


 涙声のヨシカはタカヒトの顔を見つめて言った。驚き真っ赤な顔をしたタカヒトにヨシカは少し微笑むとタカヒトの手を取り屋敷へ一緒に歩いていった。


 「ふぅ~、やっぱり温泉はええのぉ~。疲れが一気に取れるわい。」


 「まったくだ。それよりタカヒト。ヨシカといい感じじゃないか。」


 「えっ・・・そっ、そんなんじゃないよ。」


 「ええでないか。ヨシカはええ子やで。タカヒト、頼むでほんま。」


 「頼むって・・・。」


 タカヒトとイタ太郎、イタロスは村にある温泉で闘いの疲れをとっていた。スオウとギガイーターは村長に事情を説明する為にこの場にはいない。話題はもっぱらヨシカとタカヒトの話となっていたが顔を真っ赤にしたタカヒトは二匹を残して先に湯船から出ていった。身体を拭い、用意してあった服を着ると屋敷へと歩いていく。その途中でタカヒトは村長とスオウ、ギガイーターの話を偶然に聞いてしまった。


 「話は大体分かった。だがお主を受け入れるにはちと、時間が必要だのう。」


 「無論だ。我らはこの村を襲撃してきた。そして多くの者を殺めてきた。」


 「・・・・そうじゃの。」


 「昨日の敵は今日の友ってわけにはいなかいのね。それでも彼がいれば防衛力はかなりのものになるわよ。」


 「理屈は分かっていても心が納得しないのかもしれん・・・察してくれ。」


 「合理的にはいかないのね。まあいいわ。英気を養う間はここに置かせてもらうけどいいわよね?」


 「・・・・・」


 スオウとギガイーターは黙ったまま屋敷を出てきた。タカヒトはなんとなく隠れてしまったがスオウ達の背中が妙に寂しそうに見えた。襲撃して多くの命を奪った昆虫人はナイアルラトホテップにより絶滅種となった。別にナイアルラトホテップが昆虫人へ罰を与えたわけではない。偶然の結果なのだ。罪を償うにはどうすればよいのか?昆虫人は憎くてもスオウの気持ちを分かっているだけにタカヒトは行動せずにいられなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その頃ルイジアナ連峰を越えたミカ達は目の前の光景に驚愕していた。土で出来た砦は間違いなく昆虫人の手によるものだろうがそれは巨大な何かに破壊されたように上部が粉々に砕け砦の半分は完全に消滅していた。

 周囲を見渡しても昆虫人らしき姿はどこにもなく荒れ果てた大地だけが残っている。この地は昆虫人が支配していたはず・・・しかしその余りの光景にてんとは言葉を失っていた。なにか別の勢力が動いていると察したてんとはここから少し離れた場所にあるギフシ族の村を訪れることにした。襲撃されて村人達が全滅していなければよいのだが・・・・。


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