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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
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昆虫人討伐

 ギフシ族の村から歩くこと数十里、昆虫人の砦近くまで来ていた。砦には数匹のウォーリアがいるものの手に負えないほどではない。村長の情報では昆虫人は数ではもっとも多い種族ではあるが最強の種族ではない。それ故、他の種族の食料になることもあるらしい。朱雀の襲撃に分散したと聞いたがそれらのすべてが無事にこの砦に戻ってきたとは考えられない。


 「ギガイーター様、どう攻略しますか?」


 「雑魚は無視。やはり筆頭のスオウの首を取ることに専念する必要があるわね。」


 狙うはスオウの首のみ。サンギガトンとタカヒトはウォーリアに気づかれないように砦へと近づいていく。昆虫人の砦は周囲を小さな塚に囲まれていた。塚はウォーリアの棲み処らしい。しかしウォーリアの姿は確認できない。


 「ギガイーター様、村長の言ったことは本当のようです。ウォーリアは一匹も見当たりません。」


 「そのようね。このまま、砦の最上階へ向かうわ。でも、この感じってどこかで経験したような・・・デジャブかしら?」


 首を傾げながらギガイーター達サンギガトンとタカヒトは内部に潜入した。外見からは想像できないほど内部は入り組んでいた。細長い通路が無数に広がり蟻の巣のようになっている。


 「どこに行けばええんや?」


 「いや、それだけではない。この細長い通路でウォーリアに遭遇したら逃げ場がないぞ。どうしますか?ギガイーター様。」


 「行くしかないわ。虎穴に入らずんば、虎子を得ずよ!」


 「でも一寸先は闇って言葉もあるよ。僕にいい考えがあるんだ。」


 タカヒトの考えにイタ太郎が食いついた。タカヒトの考えは実にシンプルな事でギガイーターは戸惑いを感じながらもイタロスに説得されて渋々従った。細長い通路から出てきたサンギガトンとタカヒトは砦の外観を見渡した。土から出来ているらしく風化も激しいが登れないほどではない。


 「大丈夫みたいだよ。」


 そう言うとタカヒトはくぼみに手足を入れてゆっくりと登り始めた。タカヒトの登っている場所は砦の裏側でウォーリアからは発見されにくい。実際タカヒトの後を追ってサンギガトンも登っていくと砦の入り口から数匹のウォーリアが出てきた。


 「危なかったわ。もしあのまま入っていたら戦闘は避けられなかったわね。」


 「よくやったぞ、タカヒト。」


 「ありがとう、役に立てて嬉しいよ。」


 顔を赤らめながらタカヒトは登っていく。この作戦は無駄な戦闘を避けるてんとの手法であるが記憶を失ったタカヒトはそんな事は覚えてはいない。ただ身体がそれを覚えていたのだ。

 登る事数十分、最上部付近まで辿り着いた。開口部に手を置くと最後の力を振り絞ってタカヒトは内部に落ちるように入り込んだ。


 「あれ?なんか・・・」


 広い空間が広がり、上に昇る階段があるが下に降りる階段がない。ウォーリアはいないようで音がヤケに響く。辺りを見渡しているタカヒトの後で次々とサンギガトンが重なり落ちるように入ってきた。


 「おい、イタ太郎。重いぞ、退きやがれ。」


 「なんじゃと!ワレこそヒョロヒョロしてないでもっと鍛えんかい!」


 「やるか!」


 「おおう?」


 「・・・お前達、一体誰の上に乗っているんだい?」


 イタ太郎とイタロスの言い合っている足元でギガイーターがふて腐れた表情をしている。ハッと我に帰った二匹は飛び跳ねると土下座をしてギガイーターに詫びた。タカヒトが手を差し伸べるとギガイーターは手を借りて立ちあがった。二匹の土下座を無視してギガイーターは辺りを見渡した。


 「下に降る道はなく上に登る道のみ。決戦の時、行くわよ!」


 サンギガトンとタカヒトは雄叫びをあげながら階段を登っていく。最上階に辿り着いたサンギガトンはギラリと光る眼が視界に入った。


 「誰だ・・・貴様らは?」


 「最上階で独り偉そうにしているって事はアンタがスオウね。」


 「名を聞く前に自分が名乗ったらどうだ。」


 「アラ、私としたことが失礼したわ。我ら正義の戦士 サンギガトンよ」


 「正義の戦士とは・・・まあいい。お前達の言うとおり俺がスオウだ。」


 昆虫人の頂点に立つスオウはウォーリアに比べるとかなり小柄な体形をしている。見た目も細く青白い身体からは強者というイメージはわかない。武器を持たないスオウは辺りを見渡すと首をかしげた。


 「お前達だけか?ほかの戦士はどうした。」


 「何をいってんねん。おるわけないやろ!」


 「お前達だけでこの俺を倒そうとしているのか?だとすると笑えない冗談だな。」


 「なんやと、ワレェ~!」


 激怒したイタ太郎は瞬時にスオウとの距離を詰めると得意の張り手を突き出した。だがスオウの目前で張り手が止まるとイタ太郎はその場に倒れこんだ。何が起こったのか全く状況が理解できないイタロスとタカヒト。もちろんギガイーターですらスオウの攻撃が見えていない。


 「次は誰だ?」


 冷静な表情を浮かべスオウは言った。どのような攻撃をしたのか分からなければ防ぎようもない。戦慄が背筋に流れたギガイーターにイタロスが語りかけた。ギガイーターはうなずくとイタロスは前に進んだ。


 「私が相手になろう。」


 イタロスとスオウの間に静けさが走っている。ギガイーターは倒れているイタ太郎の身体を気にしながらもスオウをジッと観察している。イタロスは細い剣を手にすると腰を落とした。細い剣を水平に肩の位置に持ってくると剣先をスオウに向けた。持てる力のすべてをこの一撃にかけている。気合と共に渾身の一撃がスオウに襲い掛かった瞬間、イタロスの身体は羽毛のように舞った。無事に着地したものの、その額からは体液が流れている。タカヒトとギガイーターの見守る中、流れ出る体液を拭いイタロスは言った。


 「ギガイーター様、やはりそうでした。」


 「分かったわ。後は任せなさい。」


 それを聞いたイタロスは笑みを浮かべながらその場に倒れた。ギガイーターはタカヒトにイタロスとイタ太郎を部屋の隅に連れていくように伝えるとタカヒトは引きずりながら二匹を部屋の隅に連れていった。それを確認したギガイーターはスオウを視線の中に入れた。


 「アラ、待っていてくれたの?悪いわね。」


 「やはりそうだとは何の事だ?」


 「フフ、気になる?」


 そういい残すといきなりギガイーターはスオウとの距離を詰めた。スオウは驚く事もなくギガイーターの攻撃をかわすと鋭い甲殻刃で斬りつける。寸でのところで斬撃をかわすと再び距離をとった。この攻防の瞬間はタカヒトには見えていない。距離をとり対峙するギガイーターとスオウ。


 「どう、分かったかしら?」


 「貴様も・・・特異体質らしいな。」


 特異体質と確かにタカヒトには聞こえたがどういうものかは分からない。ただ「貴様も」とスオウは言った。ということは今、ギガイーターとスオウの力は均衡を保っているのだとタカヒトは理解した。実際、タカヒトの目に見えない速度で攻防は繰り返されたが勝負は着かなかった。


 「特異体質同士では決着は着かないようね。」


 「そうだな・・・特異体質同士ならそうかもしれん。」


 スオウは身体をユラリユラリと揺らすと右腕を鞭のようにしならせた。鋭い鞭打がギガイーターの身体を切り刻む。距離を取るギガイーターの身体は赤く腫上がり無数の傷跡から桃色の体液が流れていた。


 「確かに特異体質の発生率は少ない。だがそれだけではこのスオウには勝てんぞ!」


 昆虫人は高度な知能を持ち独自の文明を築き上げてきた。それはタカヒト達人道の者と変わらない。ただ変わる点をあげるとその身体能力であろう。昆虫人には骨格と呼ばれるものはない。硬い甲殻の中には液体だけが入っている。その液体が想像も出来ない瞬発力を生み出す。特異体質とは昆虫人の中で稀に出現する桃色の液体を持つ者の事である。桃色の液体を持つギガイーターはずば抜けた身体能力でサンギガトンまで登りつめた。スオウもまた同じである。だがここで二匹の均衡が破られる力をスオウは身につけていた。


 「超軟化・・・これが俺のマテリアルフォースだ。」


 桃色の液体を持つ特異体質の身体に超軟化マテリアルフォースを身につけたスオウは甲殻までも軟らかくできる。これによりより速くより鋭い攻撃が可能となるのだ。特異体質を超える能力に防戦一方のギガイーターは両手にクナイを取り出すとスオウに投げつけた。それと同時に自らも突進して二段攻撃を仕掛けた。閃光が走った次の瞬間、スオウの後にギガイーターが立っていた。


 「アイデアは良かった・・・だが相手が悪かったな。」


 投げつけたクナイは粉々になりギガイーターの身体から体液がほとばしる。桃色の体液に染まるギガイーターに怯えるタカヒトの姿が映った。


 「・・・げなさい・・・逃げ・・ゴフッ」


 口から大量の体液を吐き震える腕はタカヒトに向けられていた。イタ太郎は胸部が陥没してイタロスは意識がない。恐怖がタカヒトを支配して動く事すらできない。恐怖に怯えるタカヒトにスオウは近づいていく。タカヒトが顔をあげた瞬間、その瞳にスオウの脚が近づいてきた。

 スオウの蹴りが顔面に直撃するとタカヒトは地べたを這うように飛ばされた。鼻から血を流し頬は擦り切れ青く腫れ上がっている。頭を強打して立ち上がれないタカヒトは震える腕でなんとか立ち上がろうとした。背中にスオウの気配を感じるといきなり腹部に違和感を感じた。


 「プッ、ごほっ、ううう・・・苦しい・・・。」


 腹部を蹴り上げられたタカヒトは宙に舞い地面に落下した。背中を強打して息が出来ない苦しみに涙を浮かべ苦悶の表情を浮かべる。痛みと恐怖に完全に支配されたタカヒトは指を立て地面を這うように逃げようとする。それは死にかけた者が生を求める行動であるがスオウには無様な姿にしか見えなかった。


 「貴様は戦士にはほど遠い・・・引導を渡そう。」


 スオウはタカヒトを簡単に持ち上げると壁に向けて投げつけた。激しく激突したタカヒトはズルズルと地面に落ちていく。口から血が流れ意識も朦朧としているタカヒトの瞳に薄っすら腰に吊るしてある水筒が映った。タカヒトの脳裏に村長に言われた事が流れた。それは屋敷で篭城している時の事だ。


 「タカヒト、その腰の水筒は?」


 「これ?僕にもよく分からないんだけど腰に吊るしてあったんだよ。」


 それはタカヒトの持つ徳の水筒と業の水筒であった。記憶のないタカヒトにはそれが何なのか分からないが村長は知っていた。


 「それは徳と業の水筒だ。徳を自由に使う事ができる天道の道具なのだが・・・。」


 村長も記憶のないタカヒトにそれ以上の事は聞けなかった。何かの役に立つかもしれないと村長はタカヒトに徳と業の水筒の使い方を教えた。独りタカヒトは水筒を見ながら座っているとヨシカが歩み寄ってきた。


 「タカヒトさん、水筒の事を気にしているの?」


 「村長の言った事が本当なら僕もこれを使って皆を守れるかなと思って・・・。」


 「うん、出来ると思うよ。でも無理しないでね・・・私心配だから。」


 真っ赤な顔をしながらヨシカは笑った。その表情にタカヒトは見惚れていた。


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