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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
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サンギガトンの力

 ウォーリアの三十数匹に対してサンギガトンは三匹と戦力の差は歴然としていた。しかし余裕の笑みを見せるギガイーターは周囲を取り囲むウォーリアに対して冷静な口調で言った。


 「フフフ・・・戦力は数ではないわ。」


 「ギガイーター様のおっしゃる通り。戦力とは質である。」


 「わっはっははは、ならばその質とやらを見せてもらおうか!」


 大笑いした一匹のウォーリアは手にした槍を離すと足元に落とした。すると両腕の甲殻が鋭利な刃物へと変形していく。彼らにとって槍は武器とは呼べないようだ。腰を低く落とし前屈みに態勢をとると一気に距離を詰めてきた。すぐに反応したギガイーターは軽やかにバックステップをとるとイタ太郎とイタロスも左右に展開した。距離を取られたウォーリアは鋭利な刃物を振り回し威嚇している。三方に分かれたサンギガトンに対してほかのウォーリア達が取り囲んだ。ギガイーターに十数匹のウォーリアがイタロスにもイタ太郎にも十匹程度のウォーリアが取り囲んでいる。サンギガトンは一方的に劣勢に追いやられていくかに見えた。


 「ワシをなめんなや!」


 イタ太郎は取り囲んだウォーリアのうち一匹に襲い掛かると両腕を掴み取り力任せにへし折った。激痛に顔を歪めるウォーリアの頭を掴むとさらに頭突きを喰らわせた。顔の陥没したウォーリアはその場に倒れこむ。勢いの増したイタ太郎の張り手に周囲を取り囲んだウォーリアの顔は激しく歪みバタバタと倒れていく。


 「どや!ワシの張り手は痛いやろ!!」


 イタロスは細めの剣を手にウォーリアと対峙している。鋭い甲殻刃を紙一重でかわしては剣先をウォーリアの甲殻に覆われていない継目に正確に突き刺していく。ピンポイントに突き刺さった継目はウォーリアの動きを正確に伝える神経が集中していた。イタロスの軽やかなステップと正確な剣技にウォーリアは糸の切れた吊り人形のようにグニャリと崩れ落ちていく。

 イタロスとイタ太郎が交戦中、ギガイーターは十数匹のウォーリアに依然囲まれた状況だった。ギガイーターはそんな状況下でも鏡を手に身だしなみを気にしている。その姿に十数匹のウォーリアは痺れを切らしその鋭い甲殻刃を振りあげ襲い掛かってきた。


 「やっぱりいいわ、この美貌!」


 何重にも重なるように繰り返される斬撃を簡単にかわし続けながらも鏡を見つめている。当たらない斬撃に嫌気の差したウォーリアは攻撃の手を止め再び距離を取った。再び取り囲まれた状況にギガイーターはため息をつくと鏡をしまって二枚の円形のモノを取り出す。それを空にほうり投げるとまた鏡を取り出して自分の美貌を眺めていた。二枚の円形のモノはウォーリアに当たる事もなく遥か上空へと飛んでいってしまった。


 「防御だけは認めるが攻撃のほうはからっきし駄目だな。」


 勝利を確信したウォーリアは再び甲殻刃を光らせ攻撃態勢をとった。だが身体を動かそうにもどういうわけか反応がない。何度も攻撃を仕掛けようとするが脚が前に進まないのだ。少し視線が低くなったことも気になりウォーリアは足元に眼をやるとそこにあるはずの脚がなかった。再びギガイーターに眼を向けると先ほど投げた二枚の円形のモノを手にしている。


 「案外大した事もなかったわね。」


 見当違いの上空にほおり投げたギガイーターのそれはウォーリアの胴体と脚部を二分にしていた。取り囲んだ十数匹以外にイタ太郎を取り囲んだ残りのウォーリアもイタロスを取り囲んだウォーリアもすべてギガイーターにより死んだことすら理解出来ずに倒れていく。 サンギガトンの完全勝利に村長の屋敷で篭城していた女子供が飛び出してきた。


 「負傷者を屋敷に連れていくんだ。正門は閉じろ!闘える者は敵襲に備えろ!」


 部落の者総出で体制の立て直しを図る。タカヒトとヨシカも負傷者の手当てを施したり敵襲に備えて準備に追われていた。しかし昆虫人の襲撃もなく部落の復旧作業がほぼ終了した頃、久しぶりの食事が振舞われた。鍋には沢山の野菜と魚が入っておりヨシカが味付けをしている。  

 待ちきれないイタ太郎は鍋を見つめて動かない。ニッコリと笑ったヨシカはお椀に鍋の具をそそると眼を輝かせているイタ太郎に手渡した。


 「はい、イタさん。熱いから気をつけてね。」


 ヨシカに手渡されたお椀にイタ太郎はガッツクとあまりの熱さに眼を真丸くして飛び上がった。どうやら猫舌のようだ。昆虫人なのに・・・・。ヨシカが急いで水の入ったグラスを持ってくるとイタ太郎は一口でそれを飲み干した。ホッとひといきついたイタ太郎はフウフウしながらお椀の野菜を食べていく。ヨシカはお椀を取り出すと具をそそりタカヒトのもとに運んでいった。見上げるタカヒトにヨシカは優しく微笑んだ。


 「はい、タカヒトさん。熱いから気をつけてね。」


 「ありがとう。」


 お椀を手渡されたタカヒトは無言で食べていた。ジッと見つめるヨシカの存在が目に入らないほど集中していた。顔を赤くしながらヨシカはタカヒトに問い掛けた。


 「どうですか?」


 「んっ・・・?」


 あまり反応がないのに気を悪くしたのかヨシカは口を膨らませるとその場から歩いて去っていった。タカヒトはそんなヨシカを気にすることもなくイタ太郎と一緒に黙々と食べている。そこにイタロスが歩み寄ってきてタカヒトに声をかけた。


 「タカヒトは女心が分かっていないな。」


 「えっ・・・イタロスさん、何を言ってるの?」


 すっかり満腹のイタ太郎の隣でタカヒトはお椀を持ったままキョトンとした表情をしている。イタロスはタカヒトの隣に座ると女心について語り始めた。一生懸命作ってくれた料理を褒めようともせずに無視にも近い態度をとったこと。もちろんヨシカの作ってくれた料理がおいしかったから無心になって食べていたわけだが、ヨシカに必要だったのは「おいしい」という一言だった。


 「そうだったんだ・・・そういえば昔同じ事を言われたような気がする。」


 「女心を理解せねば恋のライバルであるこの私には勝てぬぞ!はっ、はははは」


 「勝てへんぞ、がっははは」


 意味が分かってないイタ太郎もイタロスと同様に笑いながらその場を去っていった。お椀を見つめながらタカヒトはしばらく考え込んでいた。


 「女心・・・・」


 何かを感じたのか、タカヒトはいきなり立ち上がると屋敷のほうへ走っていった。その姿を木々の影からギガイーターとイタロス達が見つめていた。


 「タカヒトも恋について少し理解できたようね・・・それにしても私以外の女になびくのは少し不快だわ。」


 「何をおっしゃいます。タカヒトは男としてはまだまだ半人前。恋を理解し男を磨き我らの恋のライバルになるにはまだまだ若すぎます。」


 「タカヒトを成長させて恋のライバルとして互いが切磋琢磨するってわけね。」


 「御意!」


 敵に塩を送る行動に出たイタロスの懐に広さに微笑むギガイーター。そして意味の全く理解していないイタ太郎は戦いの疲れを癒す為、屋敷へと戻っていった。それから数日の間、ウォーリアの襲撃は一切なくサンギガトン達はマッタリした暮らしをしていた。そんな中、村長がサンギガトンとタカヒトを屋敷に招待した。


 「討伐隊に加わってほしいですって?」


 村長の話にギガイーターは声をあげ驚いた。村長の話では昆虫人は朱雀により壊滅的な被害を受けたらしい。これまで昆虫人の襲撃を受け続けていたのだがこれを機に形勢を逆転させたいらしい。


 「我ら討伐隊と共に戦ってほしいと思っておる。」


 「なるほど・・・・いいわ!」


 「引き受けてくれるか。では討伐隊の編成だが・・・」


 「いいえ、討伐には私達のみで向かうわ。正直足手まといだと思うのよね。」


 この一言に部落の者は黙っていなかった。「調子に乗るな」と罵声が飛び交っていた。確かに部落を襲撃に来た昆虫人を一掃したのはサンギガトンである。その力は部落の誰もが納得している。だからこそ協力して昆虫人の討伐を村長は考えたのだ。部落の者達は反発してサンギガトンの力は必要ないと騒ぎ始めた。騒ぎ出した部落の者達を無視するかのようにギガイーターは静かに立ち上がると屋敷を出ていった。後を追うようにイタロスとイタ太郎それにタカヒトが出ていく。自室で出発の準備をするギガイーターにイタロスは声を掛けた。


 「何故あのような憎まれ口を?」


 「天涯孤独の私達にも帰る場所があったようね。それを守る為なら私は憎まれても嫌われても・・・」


 その言葉にイタロスもイタ太郎も笑みを浮かべ荷物をまとめていく。サンギガトンとタカヒトが出発する為に屋敷の外に出るがそこには誰もいなかった。あれほど仲の良かった部落の者達の失望による反発、村人達に伝わらないサンギガトンの想い。タカヒトはなんともやりきれない想いでいっぱいだった。


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