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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
113/253

ルイジアナ連峰の悪夢

 三名を集めると長老はキセルに火を入れてそれを口にくわえると頭をかき、少し困惑気味であった。


 「ふぅ~・・・スアリ族の戦士をこうも簡単に倒してしまうさな。お主達が強すぎるのさ、スアリ族戦士が弱すぎるのさか・・・。まあ、どちらにしても試験は合格したさ。目指すべき道を歩むがいいさ。今日は休み英気を養うさ。」


 そう言い残すと長老はキセルをふかしながらその場を去っていった。その晩は宴会が催された。てんと達の試験合格と旅立ちを祝しての宴会だ。


 「てんと・・・よく食べるわね。」


 「・・・この姿を保つのにかなりエネルギーが必要なのかもしれんな。」


 ミカの隣でてんとは物凄い勢いで食べ物を口に運んでいる。そこに長老が酒を注ぎにやってきた。


 「いい食いっぷりさな。お主達はルイジアナ連峰に向かうのだったさな。

  もし・・・ルイジアナ連峰を乗り越えたならばギフシ族を訪ねるとよいさ。」


 「ギフシ族って?」


 「ギフシ族の長老は世界をよく知る者。特に過去についてかなりの事まで分かるさ。

  お主達の知りたい情報も得られるかもしれんさな。」


 長老の言葉にてんとも箸を止めた。過去を知る者と言う言葉に妙に興味がそそられたからだ。ルイジアナ連峰には昆虫人とヨルムンガンドがいる。だがその先には数多くの情報が得られるかもしれないギフシ族の集落がある。てんと達の旅に一筋の光が見えてきた。ログハウスへ戻るとルサンカは顔を赤くし嬉しそうな表情をしていた。


 「愉しかった、ルサンカ?」


 「私、こういうの初めてで・・・踊ったり、皆が話しかけてくれたり・・・

  いままでずっと独りでしたから。」


 ミカにはルサンカがいままでどういう生き方をしてきたのかは解らない。しかし今のルサンカはとても嬉しそうな顔をしている。その笑顔を見れた事がミカにはとても嬉しかった。ミカはルサンカの手を取ると宴会で覚えた踊りを踊った。リナの手拍子に合わせてルサンカとミカはリズムを刻みステップ軽やかに踊っていた。それは夜遅くまで続いた。


 「いよいよ、出発さな。険しい道のりさ。気を引き締めて無理をしないようにさ。」


 「長老、大変世話になった。感謝のしようはないのだが・・・」


 「その気持ちだけで十分さ。ワシらの事はいいさ。早くタカヒトが見つかるといいさ。良き旅さ、若者達。」


 スアリ族の皆に見送られルサンカの馬車はルイジアナ連峰へと向かっていく。ルイジアナ連峰は白い雪が積もっていてその連峰は神々しさすら感じられた。


 「綺麗な景色ね・・・」


 「遠くで見るならだけならいいかもしれんな。」


 「意味深な言い方をするのね。なにかあるのかしら?」


 「手渡されたポンチョは持っているな。」


 「ええ、ここにあるわ。」


 リナはポンチョを手にした。大きな四角形の布の中心に穴が開いてそこから頭を出すと身体全身を覆う雨具となる。今回渡されたポンチョには頭を覆う布も縫い付けられてあり完全に雨などから守ることが出来る。ミカもリナもルイジアナ連峰の雪から体温の低下を防ぐ雨具だと考えていた。


 「えっ・・・・・死の灰・・・」


 ルイジアナ連峰に降ってくる白い粉は雪などではない。この黄泉の国は天道の廃棄処理場なのだ。天道の実験などで処分に困った廃棄物を粉末状にして廃棄した物がルイジアナ連峰に降ってきているのだ。昆虫人には影響はないが人型の亜人種がその皮膚に白い粉を浴びると火傷を負い、ただれることもある危険な粉なのである。


 「そんな危険な粉をどうして天道人は撒き散らすの。」


 「正直私もこの地に来る時に徳寿様から聞いたことなのだ。しかもこれらはすべてピサロが独自で行っているらしいのだ。」


 「つまりピサロを倒さない限りこの粉は止まないのね。」


 リナの言葉にてんとは首を縦に振った。ミカは堪えきれない怒りを心の奥に押し込めながらポンチョに袖を通した。そしてミカ達は死の灰の降り続けるルイジアナ連峰を目指して歩を進めていく。その頃ルイジアナ連峰を越えた先にあるギフシ族の村に悲鳴が広がった。


 「村長、大変だ!」


 「朱雀が現れたか・・・荒れるかもしれんの。」


 村長は車椅子から空を見上げた。ルイジアナ連峰の上空を激しい火炎をまといながら朱雀が飛廻っていた。飛び廻りながらも顎を開くと火炎を至る場所に放っていく。幸いギフシ族の村に放たれることこそなかったが村人達は恐怖に右往左往しながら逃げ惑っていた。村長は上空を飛び廻る朱雀をジッと見つめていた。


 「いまだ、未熟体よの・・・」


 「いかがされますか?」


 「どうすることもできん。あの朱雀の行方は誰にも分からん。

  ヨシカや、車椅子を押してくれ。部屋に戻ろうかの。」


 「村長!」


 あわてる村人を無視するかのように村長はヨシカと呼ばれる少女に車椅子を押されていった。それからも朱雀はルイジアナ連峰の上空を、楕円を描くように飛んでいた。朱雀の出現に驚いたのはギフシ族だけではない。ルイジアナ連峰に住まう昆虫人も同様だった。


 「スオウ様、朱雀の出現にウォーリア数万焼死!」


 「スオウ様、朱雀の火炎に数十のゲート破壊!死者ウォーリアを含め数千!」


 「おのれぇ~、朱雀!部隊編成を最小分隊にせよ!最小分隊は展開し朱雀の攻撃を回避するのだ!」


 ウォーリア幹部は部下に指示し最小部隊に編成しなおした。圧倒的戦力の朱雀から回避すべく展開していく。しかし朱雀の火炎は想像を絶し、この世界で最も多い種族である昆虫人は壊滅に近い状況まで追い込まれていく。それからほどなくして朱雀は忽然と姿を消した。昆虫人は全滅することなく、ギフシ族は建物の一部に火災が発生したものの犠牲者を出すことはなかった。そして今新たな勢力が現れた。


 「なんだったのかしら、アレは?」


 「わかりませんがギガイーター様の美貌に恐れをなして逃げたようです。」


 「この輝かしい美貌に平伏さない者はいないわね。ところで・・・ここはドコ?」


 「おい、イタ太郎。ここはドコだとギガイーター様がおっしゃているぞ!」


 「わいが分かる訳ないやろ。」


 「まあいいわ。それにしてもこの粉はなんなのかしらね?」


 ギガイーターが上空から降ってくる白い粉を振り払おうとした。雪のようにも見える白い粉は上空から降り続いている。薄っすらと地面を白くさせるが寒さや熱さはない。まとわりつく白い粉に嫌気がさしたギガイーターにイタロスは樹木を見つけると幹の表皮を薄く剥がし取った。表皮を樹木の枝に器用に張り付けていく。即席の傘を作り上げるとそれをギガイーターの頭上に差した。気分をよくしたギガイーターに快くしたイタロスは得意な表情を浮かべる。それが気に入らないイタ太郎は地面に降り積もっている白い粉を握り固めるとイタロスに投げつけた。粉塗れになったイタロスの姿を見て手を叩いてイタ太郎は喜んでいた。激怒したイタロスは傘をギガイーターに渡すと白い粉を握り締めお返しにとイタ太郎に投げつけた。大笑いしていたイタ太郎の口の中にそれがすっぽり入ると咳込みながら吐き出した。ケラケラと笑い出したイタロスに向けてイタ太郎は再度白い粉を投げつけた。雪合戦のように二匹の投げ合いが続いていく。いがみ合っているイタロスとイタ太郎を無視してギガイーターは傘を差しながら先を進んでいた。ギガイーターの視線の先には見た事もない光景が広がっていて冷静を保ちながらも内心ギガイーターは困惑していた。何故この地にいるのか分からなかったがひとつひとつ問題を解決するように歩いていると昆虫人らしき生物に囲まれていることに気がついた。


 「こんな辺境の地にも私のファンがいたのね。聞きたいことがあるのだけれど・・・

  ここは何処なのかしら?」


 ギガイーターを無視するかのように一匹の昆虫人は鋭い槍を手に迫ってくる。投げた槍がギガイーターの顔に直撃する寸前、イタ太郎とイタロスが槍を粉砕した。最愛の人に攻撃をした昆虫人に激怒した二匹のイーターは眼を赤くしている。


 「貴様ら、ギガイーター様に無礼を働きおって!」


 「いてこましたらあな!」


 鋭い爪を光らせ二匹のイーターは昆虫人に襲い掛かった。イタ太郎とイタロスに対して昆虫人は数十匹いた。圧倒的不利にも関わらず最愛のギガイーターを傷つけられそうになったことに我を忘れるほど怒り数十匹いた昆虫人は見るも無残な姿になりはてた。


 「イタ太郎、イタロス、先を急ぐわよ。」


 ギガイーターの言葉に赤い眼は消え元に戻るとイタ太郎とイタロスは笑顔で後を追っていった。ここに来てギガイーターにひとつ疑問が出来た。先ほど出遭った昆虫人はどことなくイーターに似ていると。そこである答えがギガイーターの脳裏に浮かんだ。


 「そうよ、ここは私達のいた世界だわ。

  理由は分からないけど別の場所に来たようね。」


 「何故、別の場所に?」


 「それは決まってるわ。私の美貌を世界に広める為よ。」


 その言葉にイタロスとイタ太郎は納得した。この旅はギガイーターの美貌を世界に広める為であると。しかしそれはギガイーターを奪う相手が増えるということになるとも考えた。なんとなく落ち込むがイタロスが自分に言い聞かせるように激を飛ばした。


 「なんの、俺達はこれまでギガイーター様にすべての愛を捧げてきた。

  その努力だけは新参者には負けまい!」


 「おっ、おう・・・その通りや!ワシら負けへんで。」


 目から炎が現れるほどの情熱からガッチリ腕を絡め友情を確認したイタロスとイタ太郎であった。傘を差しながら歩いていくサンギガトンは遠くに部落があるのを発見した。まずは腹ごしらえとその足を部落へ向けた。部落への道中、イタロスとイタ太郎は常に辺りを警戒していたがそれは襲撃を恐れての事ではない。ギガイーターの心を奪う恋泥棒を警戒しての事だった。睨みを利かす二匹をよそにギガイーターは歌を歌いながら新たなる出会いを愉しみにしている。荒野を抜ければ部落に辿り着くところまで近づいてきたサンギガトン。そんな三匹の視線に倒れている者が映った。


 「貴様、ギガイーター様のお通りだぞ!」


 「ワレ、いてまうぞ!・・・?」


 イタ太郎が走って近づくと倒れていたのは少年だった。白い粉が背中に積もり酷く衰弱しているようで動く気配はまったくない。


 「ギガイーター様、こやつは虫の息。しかし・・・・どこかで見たような?」


 ギガイーターとイタロスが近づいていくと確かに少年は意識がない。確かに虫の息なのだがイタ太郎の言うとおりギガイーターもイタロスもどこかでこの少年を見かけた事がある。だがそれがよく思い出せない・・・。


 「う~ん・・・喉まで出掛かっているけど

  ・・・誰だったかしらね?」


 「ミイも喉まで出掛かっているのですが。デノガイド様の砦にいたような

  ・・・誰だったか?」


 「そうね・・・あの砦に・・・・あっ!」


 サンギガトンは思い出した。そう、デノガイドの命令で撃破に向かったが返り討ちにあった苦い思い出。そこに同じ背丈の少年がいた。サンギガトンの三匹は顔を見合わせた。


 「タカヒトだ!ギガイーター様、怨敵タカヒトです。」


 「くそ野郎、往生せいや!」


 「待ちなさい!」


 気絶しているタカヒトの首元に鋭い爪を突き刺そうとしたイタ太郎をギガイーターは制止させた。ギガイーターの行動にイタ太郎はおろかイタロスも困惑していた。デノガイドの砦でタカヒト達に苦渋を舐めさせられたはずのギガイーターが何故?


 「なんで止めるんや!怨敵でっせ。」


 「イタ太郎、アンタ・・・恋のライバルを殺してアタシが喜ぶと思っているの?」


 この時、イタロスとイタ太郎はハッとした。そうなのだ。イタ太郎とイタロスそれにタカヒトはギガイーターの心を奪いあう恋のライバルなのだ。もちろんタカヒトにその気はないのだが・・・。


 「アタシの心を奪うのに刃はいらないわ。必要な武器は情熱と爽やかな風よ!」


 「そっ、そうや・・・ワイはデノガイド様を殺され我を忘れておったみたいや。そんな小さな事に流されて大切な恋のライバルを殺めるところやった。すまん!」


 イタ太郎は気絶しているタカヒトを優しく抱きしめた。そんなイタ太郎の肩にイタロスは軽く手を置くと涙を浮かべていた。


 「フフフ・・・ライバル達の熱い友情。言葉は必要ないわね。」


 ギガイーターが涙を流してライバル同士の友情を見つめていた。イタ太郎がタカヒトを背負うとサンギガトンは再び部落を目指して歩き始めた。荒野から草原に変わり砂利の道を歩いていると降っていた白い粉も少しずつ止んできた。傘を捨て部落へと向かうサンギガトンの前に数名の槍を持った部落の者が現れた。


 「昆虫人め!」


 「昆虫人?・・・なんなのアンタ達?」


 「とぼけるな!・・・ムッ、子供を背負い食料にでもする気か!この外道め!」


 「はあ?タカヒトはミイ達のライバル。食料であるわけがない!」


 「おのれぇ~、三匹で襲撃に来るとはいい度胸だ!」


 「アンタ達、襲撃とか、食料って何の話?アタシ達は気絶したタカヒトの介抱とちょっと腹ごしらえにね。でもアタシ達、肉は食べないわ。こう見えてもベジタリアン。」


 「そうや、わてら雑食ちゃうで!」


 いがみ合う双方に部落から少女が歩いてきた。少女はサンギガトンを取り囲む部落の者のひとりに声をかけた。最初は渋っていたがひととき考え込むと槍をおろた。


 「村長から許可が出た・・・来るがいい。」


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