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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
112/253

てんとの変貌

 「ピサロとジークフリードさん・・・」


 「まあ、今では真実を知る術はないさな。さて、飯にでもするさか。

  ミカよ、てんとを呼んできてくれな。」


 長老に言われるとミカは外で修行をしているてんとを呼びに行った。木陰に独り若い男が立っていた。身長はミカよりも大きく年齢も少し上といったところだろうか。


 「てんと、ご飯だって。最初に比べるとその姿を維持する時間が長くなったね

  ・・・でもいままでと姿が違うからなんか変な感じがする。」


 「そうか?だがまだ訓練が必要だな。」


 「天性の才能があるって長老も言ってたよ。マテリアルフォースを教わって一時間も経たないうちに覚えちゃうんだもん。凄いよ。」


 「ジェイドならもっと早く習得しているだろう。

  まだまだだ。時間が足りない位だ。」


 「焦らないの。ご飯食べてからガンバロ。」


 ミカの笑顔にてんとはうなずくと長老のログハウスの中に戻っていった。その頃、ジェイド達は昆虫人と遭遇していた。昆虫人は二足歩行の直立した姿で四本の腕を持ち鋭い槍のような武器を持っている。眼光を光らせ鋭い牙と長い触角が特徴的だ。


 「くそっ、斬っても斬ってもあとからゾロゾロきやがる。」


 「昆虫人は群れで行動するからな。」


 「何をのん気な事を言っている。」


 四方八方を取り囲んだ昆虫人はジェイド達にゆっくりと近づいてくる。昆虫人はジェイド達に比べ戦闘力こそ劣ってはいるが群れで攻撃されるとかなり厄介な相手である。しかも昆虫人は知能が低く恐怖と言ったものが一切ない。恐れを知らない昆虫人は目前の仲間が切り裂かれようとも平然と向かってくる。


 「このままだと消耗戦になる。アレス、道を切り開くからついてこい。」


 ジェイドは剣を鞘に収めると両手を前に出し合掌した。精神を集中して合掌した手のひらをゆっくり開いていくとジェイドの前方にいるおびただしい数の昆虫人が左右に割れて道を創った。昆虫人も自らの意思とは反する動きに戸惑っている。その並木道をジェイドはゆっくりと歩いていくとアレスも後を追っていく。


 「貴様・・・いつマテリアルフォースを身に付けたのだ。」


 「いつ?・・・こんなものはコツが分かれば簡単なことだろ。」


 いとも簡単にマテリアルフォースを習得したジェイドにアレスは嫉妬していた。数時間前、昆虫人の突然の襲撃にニーズヘッグは餌として捕獲されてしまった。ジェイドの念力により彼ら自体は餌にならずにすんだが徒歩での行動を余儀なくされた。歩みを進めていると数里先からひとすじの煙があがっていた。部落を発見したジェイド達はルイジアナ連峰の麓へと向かっていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「リナさん、ミカさん、マテリアルフォースを完全に習得しましたね。」


 「ありがとう、ルサンカのおかげだよ。」


 笑顔のミカが手を取ると顔を赤くさせてルサンカはうつむいた。喜んでいるミカとリナのもとにてんとと長老がやってきた。


 「えっ、習得試験?」


 黄泉の国の先住民であるスアリ族は武器を持たない温厚な種族である。しかしながら昆虫人や他の種族の襲撃から身を守る術を持っていた。それがマテリアルフォースなのである。故にこの力を失わないようにスアリ族は修行を重ね、技を習得していった。この習得試験はスアリ族にとって種族を絶滅から守る大切な試験なのだ。


 「お主らはスアリ族ではないが何かの縁でこの地におる。故に失いたくはないさな。今回の習得試験に合格すれば旅立ちを許可する。不合格なら修行を続けてもらうさ。」


 「・・・いいわ、ミカもいいわよね。」


 「うん、いいよ。てんとは?」


 「断わる理由はない。」


 「決まりね。それで試験日は?」


 「すぐに始めるさな。相手は我がスアリ族の中でも最強と呼ばれる者を用意した。

  存分に闘われさ。」


 それから程なくして試験場が設置された。試験場といってもスアリ族のテリトリー内の敷地でいつもミカ達が修行していた場所だ。最初の試験はミカから行われた。ミカの相手はスアリ族のリョウコである。試験開始の合図と共にミカは森の中に走っていった。後を追うようにリョウコも走っていくがすでにそこにはミカの姿はなかった。辺りを警戒しているといきなりリョウコに向かって飛び花の種が飛んできた。リョウコは身体を硬質化させると飛んできた種は粉々に砕け散った。リョウコのマテリアルフォースは身体を硬質化させる事で刃をもへし折る鋼の身体を造りあげるものだ。硬質化を解くとリョウコは歩を進めた。姿を見せないもののミカの攻撃は続いた。他愛もない攻撃にリョウコはミカの姿を確認した。


 「かくれんぼはおしまい?」


 無言のミカにリョウコは近づいていく。すでに勝利を確信していたリョウコは足元を注意することはなかった。いきなりつまずくと前のめりに倒れこんだリョウコ。足元を見ると草が絡まっていた。絡まっている草をほぐしとろうとした瞬間、頭上から何かが迫ってきた。瞬時に身体を硬質化させると頭上から重量感のある木の実が大量に落下してきた。この実はこの辺りに育つ木の実でその硬い殻を割ると中にはドロドロした液体が入っている。その液体を乾燥させることで強固な物質に変わりログハウスの基礎材料になる。故にかなりの強度と重量を持つこの実は一つ動かすのに大人がふたりがかりで持たなければならずマテリアルフォースの能力を使うにしても最大級の力が必要なのだ。だがリョウコは硬質化させることで重量を防いでいた。


 「あまいわ!考えは良かったけど硬質化の前には無意味よ。」


 「でもどうやって実を退かせるの?」


 「あっ・・・・」


 リョウコはハッとした。硬質化したリョウコの身体は割れた木の実から出てきたドロドロの液体に包まれている。この液体が硬化すれば動く事が出来なくなる。だが今、硬質化を解けば落下してくる木の実に確実に潰される。素直に負けを認めたリョウコにミカは攻撃を止めた。


 「ミカ、合格!次はリナさな。」


 リナは鞭を手にするとナイフを持つハツルと向かいあった。ハツルは両手にナイフを持ち前屈みで背中の曲がった姿は異様な空気をかもし出していた。そんな姿にリナはため息をついた。


 「はぁ~・・・なんで私の相手っていつもこんな感じなんだろう・・・。」


 「何をゴチャゴチャ言っている。この切り裂きハツル様が相手をしてやるんだ。光栄に思え!」


 ハツルは刃を舐めるとニヤケた。リナは異様な空気を振り払うように鞭を地面に叩きつけるとパチンッと音を鳴らした。ハツルの嫌な表情がリナの怒りを買った。ハツルは走り向かっていくと両手のナイフを投げてきた。ナイフの軌道を確認したリナはそれを回避すると鞭を振り下ろした。ハツルも鞭の軌道を読むと簡単に回避して再びナイフを投げてきた。双方ともに攻撃をかわしながら距離を詰めていく。近距離で両手のナイフを巧みに操りながら攻撃を仕掛けてくるハツルに対して防戦一方のリナ。鞭打は中長距離戦の武器であり近距離ではハツルに分があるのだ。


 「くっくっくっ、斬り刻んでやる!」


 「ほんと・・・そんな台詞聞き飽きたわ。」


 リナは近距離から斬撃を仕掛けてくるハツルの刃をユラリユラリとかわしていく。それは柳のように軽やかであった。刃が振り下ろされるとそれと同時に動く空気を敏感にリナの皮膚が察知して刃圧のかからない位置に移動していく。


 「当たらん?・・・何故だ!」


 フワリとリナの身体が舞うように距離を取ると鋭い鞭がハツルに襲い掛かった。赤く腫上った傷がいくつも刻まれるとハツルは恐怖の叫び声をあげた。再び鞭を地面に叩きつけパチンッと音を鳴らした。腰を抜かしその場から逃げることも出来ないハツルは蒼白した表情でリナに懇願した。


 「ヒィイイ~~~、たっ、助けてくれ!」


 「リナの勝ちさ。最後の試験者はてんとさな。」


 ハツルが担架で運ばれていくとマテリアルフォースの力により人型となったてんとが試験場の中央へと歩いていく。てんとの前に巨大な剣を持つゴロウが現れた。ゴロウは巨大な剣を肩に担ぎ余裕の笑みを浮かべている。


 「体格、背格好ともによく似ている。対ジェイドにはもってこいの相手だな。」


 「おおぅ~、誰に似てるって?先の奴らと俺を一緒に考えていると痛い目見るぜ。」


 巨大な剣を袈裟に構え腰を落とすゴロウに対し、てんとはマテリアルフォースにより三節混を創り上げると構えた。


 「はん!そんなきゃしゃな武器で防げるかよ!」


 ジリジリと距離を詰めてきたゴロウは腰元にそえた巨大な剣を振り上げた。ゴロウの巨大な剣先がてんとに襲い掛かるが三節混で受け止めることもせずてんとは体を反らすとそれをかわした。ズシリと重い刃が地面に突き刺さった。剣先をゴロウは必死に抜き取ろうとするがてんとは瞬時に剣の上に飛び乗ると三節混をゴロウの喉元に突きつけた。


 「くっ・・・俺の負けだ。」


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