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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
111/253

友達

 「廃棄ナンバー3号って・・・」


 ミカは言葉を詰まらせた。この世界に天道での実験により失敗して廃棄された魔物がいるとは聞いていたがルサンカがそうだとは思いもよらなかった。リナもてんとも見つめると少し恥ずかしそうにうつむいた。


 「あまり見られると・・・恥ずかしいです。」


 「あっ、ごめんね。ルサンカが実験体だって信じられなくて・・・」


 謝るミカに笑みをこぼすとルサンカは自らの事を語り始めた。彼女は実験体として初期に製作された。千里眼を持つ鬼の眼を移植し肉体を強化された実験体である。しかし廃棄された理由は定かではない。


 「この世界にいるということは天道では私は必要のない者だということでしょう。」


 「必要ないなんて・・・。」


 この世界に堕ちたルサンカはツァトゥグアの奴隷となったが隙を見て逃走に成功した。昆虫人に追われながらもハデスに命を拾われたらしい。


 「私はハデス様の所有物。命令に従うのみです。」


 「所有物なんて・・・ルサンカには友達はいないの?」


 「友達?」


 「そう、友達。一緒にいて楽しいとか助け合える関係。私にはリナとてんとそれにタカちゃんがいる。ほかにもリディーネとか沢山いるよ。」


 「私には・・・・・・」


 「私がルサンカの友達になる。だから、そんな悲しい事言わないで!」


 「どうすればいいのですか?」


 「どうするって・・・こうやって手と手を取り合って笑顔でいればいいんだよ。」


 ミカはルサンカの手を取ると笑顔で笑った。ルサンカは戸惑っていたがそれでもミカは笑顔を絶やさなかった。ルサンカにとって生まれて初めて芽生えた感情。


 「あら、ミカの友達ということは私達ともよね?」


 「そうだよ!私達はルサンカの友達だよ。」


 「友達・・・・」


 「うん、友達!」


 ミカの笑顔にルサンカの芽生え始めた感情はついていかなかった。しかしなんとも言えない幸福感がルサンカの心を温かくしていったことだけは確かである。そんなほんわかした空気を消したのはてんとの一言だった。


 「友達の約束を交わし、仲良くしているところを悪いが

  昆虫人の群れが近いとは本当か?」


 「はい・・・八九%の確率です。」


 てんとは状況を判断するとルサンカに群れの場所を捜すように伝えた。ルサンカは周囲を見渡すと北の方角に昆虫人の群れを見つけた。しばらく考え込んだてんとは西に進路を変更した。馬車を進めること数時間、ルサンカが手綱を緩めると再び馬が歩を止めた。


 「ルサンカ、どうしたの?もしかしてまた昆虫人?」


 「いえ・・・違います。・・・今度は先住民のようです。」


 「先住民・・・近いのか?」


 「ここより三里ほどのところです。」


 「どうするの、てんと?また迂回する?」


 「いや、警戒してばかりではタカヒトの情報は得られん。」


 ルサンカは先住民の方角へ馬車を進めた。ルサンカの説明では先住民は人型で温厚な種族のスアリ族と判明した。この世界では珍しく武器等の武装を持たない種族である。その代わりマテリアルフォースを操る事で外敵から身を守っているらしい。馬車が近づいていくと丸太を積み重ねたログハウスが数棟建ってあった。そしてログハウスの前に数名の屈強な男達が仁王立ちしていた。


 「この地にやってきた目的を述べよ!」


 「我々は人捜しをしている。少年を見かけたことは?」


 てんとはタカヒトの情報を聞こうを男達に特徴を話した。しかし男達からは良い返事は返ってこなかった。


 「我らはそのような少年は見かけてはおらん。力になれずに申し訳ない。もうすぐ日も沈むだろうし何処にも行く当てがないのなら我らの部落で身体を休めるがよい。」


 「ありがたい。遠慮なく休ませていただく。」


 部落内に入ったルサンカは馬に餌を与えその身体を洗っている。その頃、てんと、ミカ、リナの三人は挨拶とお礼を言う為にスアリ族の長老に会っていた。長老といっても年齢はかなり若くミカがイメージしていたものとはほど遠い。キセルに火をつけるとゆっくりと煙を吐いた。


 「ぷは~・・・なに、礼には及ばん。一日一善がスアリ族のモットーだ。」


 気持ちの良い対応にてんとは出鼻を挫かれた。この世界で見返りを欲しない考えに少し懐疑心を感じながらも挨拶を済ませるとログハウスへと戻っていく。部屋に入るとルサンカが地図を広げていた。


 「ルサンカ、熱心だな。」


 「てんとさん、地図を調べて分かったことのなのですがこのスアリ族の部落の先にはガルムと昆虫人のテリトリーになります。その先にスアリ族と同じ人型先住民の部落があるのですが・・・。」


 「迂回路はないのか?」


 「ええ、情報を得るにはやはり人型先住民の部落へ向かうしかありません。しかし、それにはこの山脈を越えなければなりません。」


 ルサンカが指差した場所にはこの黄泉の国を二分する山脈が描かれてあった。この山脈はルイジアナ連峰と呼ばれている山脈で麓には昆虫人が群れをなして山頂部付近にはガルムと呼ばれる実験体廃棄ナンバー2号がいるらしい。迂回も出来ないとなればルイジアナ連峰を乗り越えなければならないのだがてんとは決断出来ずにいた。


 「遭遇した時の対抗手段が浮かばない。昆虫人に取り囲まれた時、私達はソウルオブカラー無しでどう立ち向かえばよいのだ?」


 「たしかに戦う術はないわね。」


 悩む三人にルサンカから提案があった。それは単純でかつ、対抗手段として最も確実な答であった。


 「マテリアルフォースを身に付ける?」


 「はい、スアリ族はマテリアルフォースを身につけなければ大人として認められない種族です。この地でマテリアルフォースの修行をお勧めしたいのですが・・・。」


 「・・・・」


 「すみません、てんとさん。

  でしゃばったことを言いました。今言った事は忘れてください。」


 「いや・・・ルサンカの言ったことは正しいと思う。確かに今の我々ではルイジアナ連峰を乗り越えられない。」


 「私もルサンカの考えに賛成。」


 「そうね、戦う術を身に付ける必要がありそうね。」


 こうしてミカ達のマテリアルフォース修行が開始されていくことになった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「そうです。そのまま、意識を集中して心に球体を描いていく感じです。」


 スアリ族の長老がたばこを吸っているその部屋でミカとリナはルサンカの指導を受けていた。指導を受けてからかれこれ数日が経過している。


 「少し休憩にしましょう。お二人は感性が豊かなんですね。たったの数日で心に球体を描いてしまうなんて。」


 「本当?意識を集中するのって凄く大変だね。」


 「そうね、でもなんとなくソウルオブカラーを発動させる時と少し似ているわ。」


 「お二人はソウルオブカラーを使えるのですか?」


 ミカが頷くとルサンカは驚いていた。ソウルオブカラーは黄泉の国には存在せず伝説とされていたからだ。


 「そうかい、ソウルオブカラー使いとはの。どうりで飲み込みがいいわけさな。」


 スアリ族の長老もキセルを手に持ち納得した表情をしていた。長老とルサンカの反応にミカは疑問を感じた。


 「伝説ってどんなものなの?」


 「ソウルオブカラーを持つ者は世界を制することが出来ると聞きました。」


 「世界を制する?ふふ、面白い伝説ね。」


 「・・・違うのですか?」


 「うん、確かに凄い能力ではあるけど世界は制することは出来ないと思うよ。」


 「いや、そうでもないさな。極限まで高められた色玉は世界を制す力となるであろう。元々、ソウルオブカラーは創造神への扉を開ける為の鍵なのだからさな。」


 「鍵って・・・何のこと?」


 ミカの問い掛けに長老はたばこを口にくわえると一服する。その後もミカの問い掛けに応じない長老に痺れを切らしたリナが激しい口調で言った。


 「創造神への扉を開ける鍵とはどういうことなのか教えてくれる?」


 「ソウルオブカラーはジークフリードという男により造られた。」


 長老の話は続いた。遥か昔、まだ六道の世界が生まれる以前の世界は旧支配者と呼ばれる旧神達がすべてを支配していた。破壊の限りを尽くしている旧神達に反旗を翻したのがジークフリード達であった。ジークフリードは仲間と共に旧神達を黄泉の国に封印して創造神が現れた。創造神がどのような人物なのか、誰も見た事がなく、存在自体が伝説となっている。


 「それじゃあ、ソウルオブカラーの中に扉を開ける色玉があるのね?」


 「創造神は四神によって護られている。おそらくは四神が鍵となるのだろう。」


 「朱雀、玄武は間違いなく扉を開ける鍵だと思うわ。なんとしてもアレス達よりもタカヒトを早く見つけないとね、ミカ。」


 「うん・・・

  私気になることがあるんだけどジークフリードさんって今も生きているの?」


 「いや、ジークフリードは殺されたさな。

  たしか・・・え~と、名はピサロとか言ったか。」


 「えっ、ピサロ?」


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