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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
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予期せぬ遭遇

 「はあ~あ・・・よく寝た。」


 ミカが部屋の窓を開けると日の光が差込めてきた。遠くまで草原が広がって涼しげな風が草を揺らしていた。爽やかな風にリナも目を覚ます。


 「黄泉の国だと忘れさせてくれそうな風ね。」


 「そうね、本当におとぎの国のようだわ。」


 爽やかな風を楽しんでいると部屋をノックする音が聞こえた。ドアを開けるとハデス二世の執事が立っていた。


 「お客人、朝食の準備が整いました。ハデス様も同席されますのでくれぐれも粗相のないように願います。」


 ミカはてんとを起こすと身支度を整える。朝食をハデス二世も同席するという事でてんとは「武器類は置いていく」とふたりに告げた。部屋を出ると執事が待機していてミカ達の姿をジッと観察していた。しばらくして無言のまま廊下を歩いていく執事の後を三人は歩いていった。


 「こちらです、どうぞ。」


 執事が廊下の端に立ち止まるとドアを開けた。三人は中に入ると豪華なシャンデリアに二十名は座れるであろう長いテーブルとイスがあった。テーブルの上には見たこともない優雅で綺麗な花が添えられている。テーブルの上座にはハデス二世がすでに座っており、てんと達も執事に招かれイスに座ろうとした瞬間、目の前に別の客がいることに気がついた。


 「ジェイド!」


 「なんだ、知り合いか?こいつらは夜分遅くにここに辿り着いたらしい。ピサロの使いの者らしいんだが俺にはどうでもいいことだら。説明すんの面倒くせえから一緒に済ますだら。」


 てんと達は動揺を隠しイスに座った。しかし動揺したのはジェイドとアレスも同じようだ。てんとは確信したことがひとつある。この黄泉の国では今までのように相手の気配を感じることが一切出来ないことを。


 「ジイ、腹減っただら。早く食わせろ!」


 執事が呼び鈴を鳴らすと次々と皿がテーブルに並べられていく。ハデス二世は何も言わずにガツガツ食べ始めるとミカ達もフォークとナイフを手に食べ始めた。てんとは異常なほどジェイドを警戒しているがそのジェイドは気にする様子もなくフォークとナイフを動かしていた。


 「ハデス二世に気づかれるわ。」


 リナの言葉にてんとは警戒しながらも食べ始めた。食事も終えた頃、紅茶が皆に振舞われた。ゴクゴクと飲み干すとハデス二世は満足そうな表情を浮かべた。


 「ふぃ~~、食っただら、食っただら。ジイ、食後の睡眠だら!」


 「ハデス様・・・お客人へのご説明をお願い致します。」


 「んっ、説明?おう、そうだったら。

  すっかり忘れてただら。説明面倒くせえなぁ~。」


 黄泉の国は現在、黄泉の六亡星と呼ばれる旧支配者達の末裔と先住民、それに天道からの実験体、そしてハデスが勢力を拡大させようと鎬を削っている。最大勢力としてはやはり黄泉の六亡星であろう。旧支配者達の末裔にして強力な力を持つ彼らが集結すればハデスとて太刀打ち出来ない。


 「アイツらは協力性が全くないだら。基本的には破壊のみを楽しむ旧神。そのお蔭で俺はこの辺境の地で今の地位をなんとか保ってるってわけだら。」


 黄泉の六亡星は六名の旧神からなる。


 闇夜を支配するスカルマスター


 海を支配するクトゥールー


 砂漠を支配するナイアルラトホテップ


 空を支配するアザトホース


 風を支配するハスター


 土を支配するツァトゥグア


 「なかでもクトゥールーとハスターは最大級の警戒が必要だら。こいつらは群れたりしないしいつも単独行動だ。遭遇さえしなければ死ぬことはないだら。」


 「もし遭遇したら?」


 「綺麗な姉ちゃん、いい事聞くじゃねえか。遭遇したら死ぬこと以外に選択がないだら!この地の数万里は結界が張り巡らせてあるから大丈夫だら。草木が無くなった所はもう結界の外だと思っていいだら。」


 黄泉の六亡星のほかにも先住民で凶暴なのが昆虫人や実験体ヨルムンガンド、ガルムがいる。てんと達は黙り込んでしまった。今まで遭遇した環境をさほど変わりはしないがソウルオブカラーが使えない事が痛手だった。能力なしで旧支配者達や実験体にどう対抗していけばよいのか?検討もつかなかった。


 「おいおい、時化た面してんな。お前等は目標があってここに着たんだら?今からそんなんでどうすんだら・・・まあ、確かに少し脅しすぎだら。よっしゃ、俺がいい事を教えてやるだら。マテリアルフォースって知ってんか?」


 「マテリアルフォース?」


 聞いた事のない言葉にミカは問い掛けた。マテリアルフォースとは精神力の強さを意味する。身体の内面にある気を集中させそれを一気に開放させる。気の質はそれぞれ異なる為、肉体強化系や衝撃波系、治癒系といくつかに分かれる。


 「んっ?・・・信じてない顔だら?」


 ハデス二世を懐疑の眼で見つめるアレスであった。


 「正直言って・・・」


 「よし、論より証拠だら。」


 そういうとハデス二世は一呼吸おいて意識を集中させた。するとイスに座っていたアレスの身体が急に浮かび上がると何も出来ずに空中でもがいている。


 「あはっ、あはははは、よせ!やめろ!」


 空中でひとりアレスは笑いながら身体をくねらせていた。目には見えないがどうやらくすぐられているようだ。息切れをしてゆっくりイスに腰を降ろすとアレスはグッタリした表情をしていた。


 「これで分かっただら。

  マテリアルフォースなめんな。さて、移動手段だらね・・・・」


 「我らはニーズヘッグを所有いたしておりますので気使いは無用にて願います。」


 「ほう、あのニーズヘッグを手なづけるとは大したものだら。

  おまえ達はどうなんだ?」


 「私達に移動手段はないわ。」


 「おおう、そうか、そうか。よし、分かっただら。

  俺がとびっきりのを用意しておいてやろう。」


 「ありがとうございます。」


 てんとが一礼するとミカとリナも同様に一礼した。ご機嫌で部屋を後にするハデス二世の姿を見送るとてんとはジェイドを睨みつけた。しかしそんなこと気にすることもなくジェイドはアレスと共に部屋を出ていった。


 「てんと、私達も部屋に戻りましょう。」


 ミカの一言にてんとは頷くと三人は部屋へと向かった。部屋に戻るとてんとは窓の外をずっと眺めていた。ミカが窓に近づくと丁度ジェイドとアレスが出発するようでニーズヘッグの背に飛び乗っていた。ゆっくりと歩を進めるニーズヘッグの背に揺られ出発していく。


 「てんと・・・ジェイドの事・・・」


 「奴らとの遭遇には驚いたが確信したことがある。やはり徳寿様の言われた通り四神を狙っているようだな。我々も急ぐぞ!」


 「うん、そうだね。」


 笑顔で答えるとミカは張り切って部屋を出ていった。部屋に残ったリナがてんとに言った。


 「あんな事言っていいの?ミカに聞いたけどジェイドとは親友だったらしいわね。今回はアレスも絡んでいるようだし・・・親友と闘えるのかしら?」


 「昔の話だ。それにタカヒトを捕獲されればすべての世界が変革に堕ちていく。

  それだけは阻止しなくてはならない。」


 「そう・・・ならいいんだけど。」


 部屋を後にしたてんととリナはミカの後を追って正門に降りていった。するとミカがいてその前には立派な馬車が用意されていた。馬を手なづけている少女らしき人物がひとりいた。ミカと同じ位の身長で肩まで伸びた黒い髪に布服を着ている。背中には弓を背負い、腰に矢袋をぶら下げていた。


 「皆さん集まりましたか?」


 「ミカ、この子は?」


 「私はルサンカといいます。」


 ルサンカの説明によると移動手段のないミカ達に手を貸してほしいとハデス二世に頼まれたらしい。馬車はルサンカが用意したものらしく道案内も兼ねて同行するようだ。


 「護衛係兼案内役を頼まれました。どうぞ、宜しくお願いします。」


 ルサンカは頭を下げた。こうしてミカにてんと、リナそれにルサンカの四人はタカヒトを捜すべく出発していった。ミカ達の出発を執事とともにハデス二世は見つめていた。


 「ハデス様・・・四神は彼らが手にすると良いですな。」


 「ふん、誰が手に入れようと俺には関係ないだら。四方を強敵に囲まれたこの国は親父同様にごまをすって生きていくしかねえんだからよ。」


 「どうしてルサンカを同行させたので?」


 「ジイ、おまえの言い回しはクドいんだよ。分かってんだら?」


 「フォフォフォ、ハデス様もお父上様に似てらしてきましたの。」


 笑顔の執事にいらつきながらもジッと馬車を眺めていた。馬車はゆっくりと進んで行くとジェイド達とは逆の方角へ向かっていく。黄泉の国ではソウルオブカラーは使えない。つまりてんとにジェイド達を確認する術は無いという事になる。ジェイドとの遭遇を視野に入れながら対応策を考えていた。


 「なんか・・・てんと、難しい顔してるね、リナ。」


 「いろいろあるのよ、てんとも・・・あぁ~、馬車に乗るなんて久しぶりだわ。」


 「ふぅ~ん・・・前は誰と乗ってたの?」


 「ウフフ・・・内緒。」


 小さな馬車に揺られながらミカとリナは互いの恋愛話に夢中になっていた。するといきなり馬車が止まった。ミカが小窓から顔を出してルサンカに問い掛けた。


 「どうしたの?」


 「数里ほど先に昆虫人がいます。」


 ルサンカは弓を引くと矢を射った。一直線に放たれた矢はミカからは全く見えなくなっていった。ほどなくしてルサンカは再び手綱を握ると馬車を進めていく。不思議に思ったミカが声を掛けた。


 「ルサンカ・・・・」


 「もう大丈夫です。」


 正直リナもてんともルサンカの言葉を信じていなかった。しかしほどなくしてルサンカは嘘をついていないことが分かった。数時間が経ち、数里ほど馬車が移動した頃、そこに3メートルほどの巨大な蟷螂が一匹死んでいた。蟷螂の頭部はルサンカの放った矢が刺さっていた。ルサンカはこの蟷螂を昆虫人と言った。黄泉の国で旧神に比べ、力こそないものの圧倒的な数を誇る昆虫人は群れをなして行動する。どうやらこの一匹の蟷螂は斥候のようで近くに群れをなしているとのことだった。


 「ルサンカ

  その細身の身体で数里も離れた昆虫人を仕留めることがどうしてできたのだ?」


 「それだけではないわ。数里も離れた昆虫人をどうやって見つけたの?」


 リナとてんとの質問にルサンカは小声で答えた。


 「私は実験体・・・天道の実験に失敗した廃棄ナンバー3号です。」


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