地下都市の壊滅
「いいだが、その調子だが!」
ドミンゴの歓喜の声が響き渡るほど地下都市は急激に発展していった。建設途中だったビル郡もそうだがてんとが水理計算と図面をタカヒトに書かせた事で作業がスマートになり上下水道などのライフラインも施工速度が以前よりもグンと速くなった。
地下都市の工事工程が改善されて工事も終盤に差し掛かろうとしていた頃、一匹のグーモーが血相を変えてグラモの元へ走ってきた。そのグーモーは以前タカヒト達が出逢ったイーターの行動偵察隊の一匹であった。
「グラモ、大変だで!デノガイドの砦から砲撃が始まるだが!」
「ドゴル!それはホントだが?」
グラモの前まで来ると両膝をつき息を切らせながらドゴルは話を始めた。ドゴルはイーターの行動偵察隊の一員であり、おもにデノガイドの砦付近の偵察にあたっていた。最近イーターの行動が妙に静かであったためにドゴルは危険を冒しながらもデノガイドの砦へと近づいていった。そこでドゴルは巨大な砲台を見てしまった。
「ドゴル、それはおかしいだが!
いくらデノガイドの知能が高まったとしても砲台を造れるわけがないだが!」
「ちょっと待ってくれ、グラモ。もしかすると・・・いや、やはりそうだ!」
デオルトはドゴルが見た砲台は実在する可能性があると語った。デノガイドやイーターに対抗する為にパピオン国の技術者達が巨大な砲台を造る計画を立案していた。最強の攻撃力を誇る砲台を造るその計画は最強の矛計画と呼ばれていたがそれらはまだ砲台の部品の一部と図面があるだけで完成には至ってはいないはずである。なぜ砲台が完成しているのか?また誰が完成させたのか?分からずにデオルトは考え込んでいた。
「デノガイドが技術者を捕獲していたらどうなる?」
「てんと殿・・・まさか!」
「ありえない事ではない。パピオン国の技術者捕獲そして砲台の部品と図面の略奪・・・最強の矛計画完成の可能性はかなり高いな。奴らの持つ砲台最強の矛と地下都市の複層シェルターの最強の盾・・・どちらが最強なのだろうな?」
デオルトは技術者が裏切る事は想像出来なかったがてんとは弱みを掴まれている可能性もあると伝えた。理由はどうであれ最強の砲台が完成しているのは事実でありこの地下都市を狙っているのも現実であった。てんとはドミンゴに地下都市の構造体の図面を集めるように指示しすべての作業員に地下都市を囲む構造体の壁の補強を進めるように促した。慌ただしくドミンゴ達が補強作業に追われている時、砦では砲撃の準備がパピオン国の技術者達により行われていた。
「さて、砲撃を開始しようではないか。パピオン国の技術者諸君、準備はいいかね?」
「こっ、これが終われば我々の家族を返してくれるという約束は本当だろうな?」
「約束?・・・もちろんだとも。家族とお前達の安全は保障しよう。」
砦から地下都市付近を見渡せる場所に砲台は設置されて技術者による調整もすでに済んでいた。技術者の見守るなかデノガイドが自ら狙撃手となり標準を地下都市付近の森に定めた。セイフティーレバーを解除してトリガーを引くと砲台から轟音が鳴り響いた。次の瞬間、緑色一色だった森が一瞬にして炎上した。そして炎がおさまるとそこに茶色の大地のみが広がった。
「なんと恐ろしい、あの兵器をなんのためらいもなく使うとは・・・
私達は渡してはいけない相手に渡してしまったのかもしれん。」
デノガイドが笑みを浮かべながら次々と砲撃を繰り返している姿をパピオン国の技術者達は怯えながら見ていた。技術者達が持てる頭脳をすべて駆使して造り上げた悪魔の兵器なのだがその破壊力と恐ろしさは誰よりも彼ら自身が一番理解していた。それだけに何の躊躇もなくトリガーを引き続けてすべてを破壊していくデノガイドが悪魔のように技術者達には見えたのかもしれない。デノガイドの砲撃した場所は地下都市の頭上にあたる位置だった。森は焼き吹き飛ばされ地面はえぐれ陥没していた。それは地下都市が崩壊したことを表していた。デノガイドはパピオン国の地下都市壊滅を確信するとトリガーを引くのを止めて狙撃席から離れた。恐怖に身を屈めていた技術者の一人が意を決して立上がるとデノガイドを引き止めた。
「やっ、約束通りに家族と我々を解放してもらうぞ!」
「お前達は実によくやってくれた。約束とは何のことだ?お前等の家族はすでにイーターどもの腹の中。お前等ももはや用済み・・・おい、喰ってもいいぞ!」
「?なっ、何を言って・・・来るな!来るな!ぎゃぁぁ~~!」
イーター達が取り囲むと技術者はその鋭い牙の餌食となっていく。引き千切られる肉の音、そして恐怖が加速していく悲鳴・・・それを聞きながらデノガイドはこの世界の王として君臨する喜びを噛み締めていた。砦から見下ろすと地下都市のある地上の森はすべて焼き尽くされ地面は陥没していた。巨大なクレーターを創りだしたデノガイドは世界の王としての初めての仕事に満足している。
「デノガイドめ!やってくれる。
どうやら最強の矛の勝利のようだな。タカヒト、無事か?」
「うん・・・なんとかね。皆は?」
タカヒトは辺りを見渡すとデオルトやドミンゴは埃まみれにはなっていたが無事な姿を確認した。てんとの機転とドミンゴの統率力によりデノガイドの砲撃による衝撃を何とか食い止めることができた。 しかしそれも完全ではなくビル郡の一部崩壊は免れなかった。デノガイドによる次期砲撃に対する警戒と対応準備の為、てんととドミンゴを中心として復旧に取り掛かり始めた。
「急ぐが!イーターの襲撃があるが!」
「班別に復旧箇所を決めるだが。Aチームはビル郡の修復だが、Bチームは道路亀裂の復旧を急ぐだが、Cチームは・・・」
復旧は数日かかりタカヒトもてんともそれにグーモー達も疲労がかなり溜まっていた。そこへドゴル達イーター行動偵察隊が報告に来た。デノガイドはすでに地下都市が崩壊したと思い込んで追撃はないとの事だった。しかし不安は拭い切れない為、最低限の復旧だけは終わらせようとグーモー達は力を振り絞り復旧を急ぐ。
「タカヒト、コンクリートは温度管理と段取りが重要がね。」
タカヒトはドミンゴと共にコンクリートの打設作業に取り掛かっていた。デノガイドからの追撃に備えてシェルター層の復旧が最優先だった。ドミンゴの指導によりタカヒトはコンクリートポンプから圧送されてくるコンクリートを流し込む作業を手伝っていた。すでに鉄筋や型枠は組まれてコンクリートの配合もなされていた。ドミンゴの手際の良い段取りにタカヒトは多くを学ぶ事が出来た。タカヒトはコンクリート打設を行うのに内部振動機を使っていた。
「タカヒト、内部振動機を引き抜く時に穴が開いてるが。気をつけるが!」
「タカヒトは素人がよ。ドミンゴは少し厳しいがよ。」
「甘いが!基本が肝心だが。ビシビシ指導していくが。タカヒト、覚悟するが!」
ドミンゴの指導は厳しくタカヒトは叱咤された。ガミガミ小言を言い終えるとドミンゴが段取りの為にその場を離れた。
「タカヒト、気にすることないがよ。親方は口が悪いのが欠点だが。」
心配したグーモー達が声を掛けてきた。親方のドミンゴは普段は優しいが仕事に関してはかなり厳しいらしい。でもそれはタカヒトの成長を考えての事だから気を落とす事はないと慰めた。グーモー達の優しさとドミンゴの深い想いが伝わったタカヒトは懸命に仕事に打ち込んだ。打設作業も一段落して最後のコテを使っての仕上げをしているとドミンゴが近づいてきた。
「なかなか上手がよ。タカヒトは才能があるがね。」
「ホント?僕こういうの初めてなんだけど、なんか物作りって楽しいね。」
ドミンゴは笑顔を浮かべるとその場を去って別の段取りを行う準備に取り掛かった。一緒に作業をしていたグーモー達は笑みを浮かべている。嬉しくなったタカヒトは汗をかきながら懸命に作業を続けた。皆の努力のおかげで地下都市の復旧も八割方終了した為デオルトは休息を取ることを提案した。久しぶりの休みにグーモー達は皆で楽しく食事を取り風呂に浸かって身体を休めた。タカヒトもグーモー達と一緒に風呂に浸かり疲労を落として部屋に戻った。
「あれ?てんと、まだ仕事してるの?お風呂は?」
「まだだ・・・これを終わらせたら行くつもりだ。」
「大変だったけど楽しかったね。僕は皆で物事に取り組むの初めてだったし・・・」
疲労が溜まったせいかタカヒトはベッドに倒れ込むとそのまま深い眠りについた。てんとは眠っているタカヒトに近づいていくと布団を掛けてまた仕事に戻った。ぐっすりと眠りに入ったタカヒトは初めてミカの夢を見た。暗闇の中ミカの声だけが聞こえる夢を。
「タッ、タカちゃん?タカちゃん何処?私はここだよ!助けて、お願いタカちゃん!」
「ミカちゃん?どこにいるの? ミカちゃん?・・・ミカちゃ~~ん」