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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
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黄泉の国

 徳寿もお花も神妙な面持ちで椅子に腰をおろした。それは黄泉の国の事である。黄泉の国は別名【無限空間】とも呼ばれ輪廻転生の出来ない魂が浮遊する場所と言われている。てんとも学舎でそう教わってきた。


 「違うのですか?」


 「黄泉の国はの、天道を脅かす者達の掃き溜められた世界なのじゃ。」


 六道が構成される数億年前の話になる。当時、創造神は存在しておらず旧支配者達と呼ばれる旧神がすべてを治めていた。殺戮と破壊を好む旧神からは創造といったものはなく荒れた時代が続いていた。だが創造神が天道の世界に現れると十六人の戦神と共に旧支配者達を黄泉の国へと追い出した。これが超古代戦争ル・ゲハ・ロドンである。


 「超古代戦争ル・ゲハ・ロドンは知っています。

  何故、無限空間と偽ったのですか?」


 「てんとが知っている超古代戦争ル・ゲハ・ロドンはピサロの手によりかなり歴史が編集されておるがまあ、それはいずれ話すとしよう。何故、偽ったのか?それは捨てられた実験体の存在を隠すためじゃよ。」


 「実験体?」


 インドラが天道の科学者で数多くの生命体を造ってきたことは皆が知っていた。天道には多くの科学施設がありそこでは日夜異形の姿をした生命体が造られていた。そこでの失敗作を廃棄する場所が黄泉の国というわけだ。


 「酷過ぎる。生きているのに・・・」


 「ミカの言う通りじゃ。やっていることは地獄の者達よりもえげつないものじゃ。じゃがそれを止められなかったワシも同罪じゃ。」


 「・・・言い訳かもしれないが徳寿を許してやってほしい。弟も・・・徳寿も必死で実験体には反対したんじゃがピサロの勢いと己の老いには勝てなかったんじゃよ。」


 徳寿を慰めるようにお花が言った。もちろん、てんと達に責めることなど出来はしない。それほど巨大な陰謀が働いているのは分かっていたからだ。徳寿が話を進めた。今、現在の黄泉の国は旧支配者達の子孫と廃棄された実験体、それにもともと黄泉の国に存在していた先住民から構成されている。


 「ソウルオブカラーも使えない上に、未確認の敵・・・・困難な旅になりそうね。」


 「いや・・・それだけではないのじゃ。」


 徳寿の言う今回の最も困難な事は戻る事が出来ないということだった。天道にとって黄泉の国とは実験体を廃棄するゴミ箱のような存在である。つまり黄泉の国から六道へ行くルートは存在していないのだ。


 「戻れる方法がひとつだけある。それはヨグ・ソトホートを見つける事じゃ。」


 ヨグ・ソトホートとは旧支配者達の創造物で時間や空間に干渉されず自由に移動が出来る生命体である。その生命体を発見すれば天道に戻ってくることも出来るようになる。


 「なるほどね・・・生きて戻ってこられる希望が少しは見えたわね。私からも教えてもらいたいことがあるわ。何故、そんなにタカヒトを気にするの?」


 「私も疑問に思っていた。とくべえさんってタカちゃんの事物凄く気にしてるんだよね?まさか、タカちゃんのお爺ちゃんって事はないわよね?」


 リナもミカもずっと胸にしまっていた疑問を徳寿に投げかけた。だが、その問い掛けに対して徳寿は眉間にシワをよせて黙りこんでしまった。皆の視線が徳寿に集まると思い詰めた表情をしながら椅子から立ちあがり口を開いた。


 「たしかに危険な思いをされて何も説明しないのは理に反するかの。姉ちゃん、話が長くなりそうじゃ。お茶をもらおうかの。」


 お花に用意されたお茶をすすると徳寿は話を始めた。それは天道にまつわる伝説の話である。



    創造神は永遠 四つの守護神が交わる時 創造神への扉は開かれよう



 「ピサロはの、創造神になろうとしておるのじゃ。それには四つの守護神・・・つまり四神が必要になる。」


 「・・・蒼龍のジェイド」


 「現在、覚醒はしておらんが玄武はアレスが所有しておる。」


 「朱雀のタカヒト。それに・・・破壊神の白虎もタカヒトが持っているわ。」


 ピサロの命令で蒼龍のジェイドと玄武のアレスは黄泉の国にいる。タカヒトも覚醒したばかりで黄泉の国にいるはずだ。しかも破壊神の白虎も所有している。


 「ピサロにとってまたとないチャンスが目の前に転がっているというわけじゃ。このチャンスにピサロはすべての力を使って計画を実行するじゃろう。」


 「計画って・・・・・?」


 「朱雀・・・タカヒト捕獲計画じゃ!」


 お茶を持つ手は震えてミカの顔色が蒼白した。ピサロは目的の為なら平気で殺しもできる天道のトップ。そのピサロの標的になったタカヒトはなんとしても自分達が先に見つけなければならない。思い詰めたミカの表情を見たリナが口を開いた。


 「ピサロはタカヒトを捕獲してその後はどうするつもりかしら?」


 「分からん・・・じゃが冷酷な男じゃ。必要なくなったら始末するかもしれん。しかもこの事は黄泉の国にも知れ渡っておるかもしれんのじゃ。そうなれば黄泉の国の者が四神を手にしてもピサロが手にしても結果は同じ事になろう。」


 「私達がタカヒトを救出しなければ六道が崩壊するってことかしら?ずいぶん成功率の低い命懸けの作戦を押し付けるのね!」


 「・・・すまないと思っておる。しかしほかに信頼できる者達がおらん。ワシやお花も年老いてもはやピサロや十六善神の行動を監視することくらいしか出来ん・・・許してくれ。」


 徳寿はテーブルにつくくらい頭を下げた。お花もまた頬を流れる涙をタオルで拭った。


 「徳寿様、頭をおあげください!」


 「そうよ、とくべえさん。どっちにしても私はタカちゃんを助けに行くんだから。」


 「フフ、いつものミカのゴリ押しって感じね。」


 「徳寿様、心構えはすでに出来ております。」


 「・・・ありがとう」


 「徳寿、あんた幸せ者じゃよね。」


 「・・・そうじゃの、ワシは恵まれておる。このような息子と娘に囲まれて。」


 「とくべえさん、それを言うなら孫でしょ。」


 「フォフォフォ、そうじゃの。ミカの言うとおりじゃわい。」


 お花の家には石で積まれた地下室があり石畳にはすでに魔方陣が描かれてあった。お花が呪文と共に薬草を粉末にした魔粉を振り掛けると魔方陣が光を放ち始めた。


 「魔方陣が繋がったようじゃよ・・・中央へお行き。」


 装備を整えた三人は魔方陣へ歩いていく。魔法陣からの淡い光りに動揺するもミカは気合を入れて深呼吸すると中央へと歩を進めた。続いてリナが魔法陣に入り最後にてんとが入ろうとすると徳寿がてんとを呼び止め手紙を手渡した。


 「これを黄泉の王ハデスに渡すのじゃ。

  ヤツは若輩者じゃが必ず力になってくれようぞ。」


 「徳寿様、必ずタカヒトを連れて戻ってまいります。」


 「とくべえさん、お花さん行ってくるね。」


 激しく光りを発した魔方陣の光が消えるとそこに三人の姿はなかった。お花は三人の武運を祈り両手を合わせた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「おっ、おお、すっかり寝てしまったようだ・・・ジェイドはどこだ?」


 大樹木の枝に寝そべっていたはずのジェイドの姿が見当たらなかった。ふと幹元に目を向けるとそこには数体のニーズヘッグとジェイドがいた。しかもジェイドは干し肉をニーズヘッグに与えていたのだ。枝を飛び降りたアレスはジェイドの隣に立った。


 「貴様、何をしている?」


 「見てのとおりニーズヘッグに餌を与えている。コイツら結構なつっこいんだ。おまえも餌を与えてみるか?」


 干し肉を手渡されるとアレスもジェイドと同じようにニーズヘッグに餌を与えた。餌の与え方が悪かったのか?ニーズヘッグの機嫌が悪かったのか?アレスは片腕を噛み付かれた。激痛に顔を歪めるアレスにたいしてジェイドがニーズヘッグをなだめると顎を開き、アレスは片腕を失わずにすんだ。ジェイドはニーズヘッグに跨るとアレスに言った。


 「まずはハデスに会いに行こう。この国の情報やおまえの装備もほしいからな。」


 「貴様、私に指図するなよ・・・うおっ?」


 いきなりアレスの背中をニーズヘッグは咥えるとその背中に落とした。ジェイドの合図と共にニーズヘッグは一斉にハデスの城へと進んでいく。ニーズヘッグ速い動きにアレスは落とされないようにしがみついていた。

 その頃、てんと達はハデスと面会をしていた。ハデスは黄泉の国を治める王であるがてんと達はその風貌にかなり驚いた。大きな玉座に座っているのは間違いなく子供だったからだ。幼いハデスは徳寿の手紙に目を通していた。


 「・・・ってことはお前等がじじいに派遣された奴らだら。全く変な事に俺を巻き込むんじゃあねえよな。」


 ハデスは手紙をクシャクシャに破ると執事に用意させたゴミ箱に投げ入れた。癇癪を起こすハデスの姿にミカは小声で言った。


 「ねぇ、あの子・・・本当にハデスなのかな?」


 「おい、聞こえてんだら!くそったれめ。子供だからってなめんじゃねえだら!

  俺はこの黄泉の国を治める王、ハデス二世だら!」


 実はハデス二世は五千年前に亡くなったハデスの跡を継いでこの国を治めている。子供の姿をしているのはハデス一族が長く国を治める為身体の成長速度を遅らせているからであった。ハデス二世の実年齢はこの時点で八千年経過していた。


 「まあ、いいだら。とりあえず俺は寝るから後はかってにやってろ。説明は明日してやるからよ。」


 欠伸をしながらハデス二世は部屋を後にした。黄泉の国は日の出ている時間が短く暗闇が支配する世界である。ハデス二世がいない以上話を進める事も出来ずてんと達は容易された部屋で休むことにした。


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