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未来のきみへ   作者: 安弘
黄泉の国編
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先住民

 「ジェイド、何故それを先に言わん!」


 「無知な者にはついていけないな。」


 「くっ!」


 ジェイドとアレスはニーズヘッグの大群に追われていた。飛竜の一種であるニーズヘッグは翼が退化してもはや飛ぶことはかなわない。だがそれを補うかのように強靭な四本足が獲物を追いその鋭い爪ですべてを切り裂く。顔はやはり龍族の影響を受けているが炎等は一切吐かない。ジェイドは前方に一本の大樹木を発見するとそれに飛び乗った。アレスも同様に飛び乗ると押し寄せてくるニーズヘッグは勢い余り大樹木に激突した。数匹は気絶したもののニーズヘッグは獲物を捕獲する為に大樹木の周りをうろうろとしていた。


 「くそっ!ソウルオブカラーが使えればあんな奴ら一掃できるのだが・・・」


 「それが出来ないからここにいるんだろ。」


 「くっ、何か手立てはないのか?」


 「・・・あるわけがない。」


 悔しがるアレスを無視するとジェイドは大樹木の枝に休めそうな場所を見つけた。そして干し肉をくわえながら身体を横にして休んだ。


 「のん気なヤツめ!」


 アレスはふて腐れながらその場に座り込むと黄泉の国に来ていきなり足止めを喰らった二人であった。同じ頃、天道にあるピサロの屋敷ではインドラの悲鳴が鳴り響いていた。


 「ぎょわああ・・・ぐえっ!たっ、助け・・・ぎゃあぁぁぁ~~」


 「ピサロ様への裏切りは万死に値しますわ!」


 屋敷の地下には四方を白石で積まれた部屋がある。その部屋には何もなくただ広く冷たい空間がやけに寒々しい。この部屋には十六善神のインドラと四天王のルルドとアリシア、それにピサロがいた。アリシアの奏でるハープ音にインドラは頭を抱えて訴えた。


 「やめてくれ!頭が割れそうじゃ!」


 「いいえ、やめませんわ。

  あなたには死よりも恐ろしい苦しみを味わっていただきます。」


 ハープの弦を激しく弾き鳴らすと同調するようにインドラは床に這いずり回り舌をだらしなく出しながら悶えている。ルルドは嫌悪感を示すとその部屋を出て行こうとした。


 「ルルドさんは退室なさるのかしら?」


 「こういうのは性に合わないわ。」


 「自らに降り掛かるかもしれない恐怖から逃れたいのではないですか?」


 「・・・・」


 ルルドは何も言わずに部屋を出ていった。ピサロは椅子から立ちあがるとアリシアにハープを弾かせるのを止めさせた。激痛に手を震えさせながら立ちあがろうとするがそれも出来ないほどインドラは弱っていた。苦痛に歪む表情をしながらインドラは顔だけをピサロに向けた。


 「ワッ、ワシは裏切ってなどおらん・・・信じてくれ・・・。」


 「ベテルギウスを手にした位で私に勝てるとでもお思いかしら?」


 「めっそうもない・・・

  そっ、そんなデタラメを信じるピサロ様ではないはず・・・」


 「まあ、いいでしょう。レイの事も大目に見ましょう。」


 「信じてもらえるのかの。ありがたい。」


 「私はね。でも・・・俺は違うぞ!」


 「なっ!・・・・ぐ・・ぎゃ・・・ごえっ・・・やめ・・・助けてくれえ~~」


 インドラの身体が絞った雑巾のようによじれると顔を背中に向け足も腕も左右が違う方向を向いていた。もちろん息などしているわけもなく絞った雑巾は床に落とされた。ピサロが何をしたのかは分からないが念力の類であろう。しかし雷神のインドラには念力や直接攻撃といった類は一切受け付けないはず・・・ピサロの恐ろしさが垣間見えた瞬間であった。


 「雑巾掃除には当分困らないな。」


 「素敵ですわ、ピサロ様。私のすべてをあなた様に捧げますわ。」


 絞った雑巾を目の前に両膝をついたアリシアはいつまでも椅子に座るピサロの膝に触れてウットリしていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「とくべえさん、どうやって黄泉の国に行くの?」


 「まず、このまま天道へ向かう。黄泉への道は天道からしか入れんのじゃ。

  じゃが黄泉への行き方に問題があるのじゃがの・・・」


 「問題とはピサロ達との遭遇ですか?」


 「まあ、それもそうじゃがそれ以上にのぉ~~・・・・。」


 ハンドルを握る徳寿の表情は天道に近づくにつれて酷く曇っていった。てんとは近づいてくる危険に身の締まる思いだった。そんなてんとの気持ちとは裏腹にミカとリナは初めて体験する天道を楽しみにしていた。


 「ねえ、リナ。天道ってどんな所かな?」


 「そうねぇ・・・やはり雲と花・・・あとは鳥ってかんじかしらね。」


 「雲と花に鳥・・・・楽しみだね。」


 神妙な面持ちの徳寿に早く天道に行きたいとウキウキしているミカとリナ。そしてその環境でなんとも複雑なてんと。思いそれぞれに天道は次第に近づいていく。


 「ミカ、リナ、起きるのじゃ。」 


 「・・・着いたの?」


 「ようこそ ここが天道じゃぞ。」


 ミカは飛び起きるとリナを連れて車から飛び降りた。そこは芝生が生い茂る広い敷地に平屋の家が建っている。徳寿の車のまわりには数匹の羊らしき生物が群れをなしていた。


 「・・・ここなの?」


 「そうじゃよ・・・ガッカリしたかの?」


 「ううん・・・。」


 ミカは正直ガッカリしていた。想像していた天道はそこにはなくミカが幼かった頃、田舎のお祖母ちゃんの家に近い建物と風景であったからだ。


 「誰だい!」


 白い白衣を着た老女が大声で怒鳴りだした。あまりもの声にビクッとしたミカは恐る恐る振り向くと険しい表情で老女が竹ほうきを持って仁王立ちしていた。


 「姉ちゃん・・・・久しぶりじゃの。」


 「何が久しぶりだい、このボケナスが!何の用だい。また、金の催促かい!」


 「今日はお願いがあってきたんじゃ。」


 「お願い?・・・・金の催促以外おまえにお願い事なんかあるのかね!んっ?

  なんだい、お供なんぞ連れて・・・おまえも出世したもんだね。」


 「供ではない。実はのぉ~・・・。」


 「まあ、立ち話もなんだ。お譲ちゃん達も疲れているようだし中に入って茶でも入れようかね。ささっ、お入り。」


 徳寿の姉であるお花は皆を招き入れた。中に入ると切断された大木の幹がテーブルとなり存在感を漂よわせてた。用意された椅子に腰を下ろすとお花は奥の部屋にお茶の支度に歩いていった。お花の住む家は築年数がかなり経っているようで梁は黒く煤けていた。お花が戻ってくると薬草の香りがする黒い色をしたお茶を用意してくれた。


 「さあ、おあがり。見た目は悪いが元気が出ることは間違いない。」


 ミカ達はお茶を飲んだ。甘すぎずかといって苦いこともなく、抵抗なく飲み干してしまった。


 「お花さん、おいしかったよ。」


 「そうじゃろ、そうじゃろ。」


 「うん・・・・アレ?・・・」


 ミカが急に睡魔に襲われるとテーブルに顔を埋めた。同様にリナもてんとも深い眠りに落ちていった。徳寿はお茶を飲み干した。


 「すまないのぉ~・・・」


 「おまえが来ることはおおよそ見当がついていたからね

  ・・・・いよいよ、ピサロが動き出すのかい?」


 「そのようじゃ・・・じゃが、ワシ達にはピサロを止める力はもはや残っておらん。

  次の時代を生きるこの者達に任せるしかないのが辛いよの。」


 「仕方があるまいよ。誰しも老いには勝てんのじゃよ・・・

  ジークフリードがいた頃が懐かしいわいな。」


 「ジークフリード・・・懐かしい名じゃ。」


 しばらく二人は昔話に花を咲かせていた。ミカが起きた時、リナとてんとはまだ眠っていたがお花と徳寿は作業に追われていた。


 「お花さん、何か手伝いことある?」


 「起こしてしまったかい。大丈夫だよ。」


 笑みを浮かべたお花は額の汗を拭うと再び作業を行っていく。ミカはしばらくふたりの様子を伺っているとリナとてんとが目を覚ました三人はただ黙って作業を眺めている。数時間ほど経った後、徳寿は皆を集めた。


 「さて、準備も完了したわい。これで何時でも黄泉の国へ行ける事ができた。」


 「徳寿様、いつでも出発できる心がまえは出来ております。」


 「コレコレ、てんと。はやるでない。確認しておかねばならん事がある。」


 「確認・・・ですか?」


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