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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編 Ⅱ
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覇王の目覚め

 「タカちゃん!」


 ベテルギウスの足が振りあがると死を覚悟したミカは目を閉じてタカヒトにしがみ付いた。タカヒトもそんなミカを力いっぱい抱きしめた。誰もが死を覚悟して諦めたその時、諦めていない人物がひとりベテルギウスの背後に立っていた。


 「今日の俺は最高に幸運な星の下にいるらしいな。

  いくぞ!ロイヤルストレートフラッシュ」


 アスラのカードが金色に輝くと空から流星が落ちベテルギウスの背中に激突した。強烈な衝撃に背骨が砕けたベテルギウスは這い蹲るとインドラ王もバランスを崩して地面に叩き付けられた。泥だらけの顔をあげたインドラ王がベテルギウスを見上げると緑色の眼が赤色に変わっていた。蒼白の表情をしたインドラ王は上空へ浮上するとベテルギウスから距離を取り罵声をあげた。


 「このたわけが!もはやベテルギウスの制御は不能じゃ。六道の王は諦めよう。命のほうが大事じゃからの! 」


 そう言い残すとインドラは飛び去っていった。インドラはベテルギウスの恐ろしさを知っていたのだ。ベテルギウスは通常は制御できる機械生命体であるがその身体が瀕死の状態に置かれると生命維持の為に暴走に近い行動を起こす。背骨が砕かれて歩行が困難になったベテルギウスは四つん這いの姿になり眼に映るすべての生き物を消滅させる行動に出た。反撃するアスラに素早く近づくと張り手を喰らわせた。木に叩き付けられたアスラはアバラを折る重傷を負い意識を失った。次に標的になったのは逃げ惑うタカヒト達だった。四つん這いのベテルギウスは二足歩行よりも素早い動きが可能で簡単にタカヒト達の前に回りこむことが出来た。ベテルギウスによって次々とタカヒトの大切な仲間が傷つけられていく。リディーネが、デュポンが宙を舞うように飛ばされていく。


 「ぐっ!」


 「きゃはっ!」


 てんとが木に叩きつけられた。リナが地面に叩きつけられる。絶望の中、タカヒトは涙を浮かべていた。


 「・・・もう止めてよ!お願い・・・もうこれ以上誰も傷つけないでよ!」


 (・・・守りたいか?)


 「誰?・・・紫玉なの?」


 涙声のタカヒトが辺りを見渡すと見覚えのある空間が広がっていた。目の前には紫色の炎だけが存在していた。紫玉に似ているが呼びかけに何の反応も示さない。


 (真の力を得たければ願うがよい。)


 「真の力?僕は・・・あんな思いはしたくない。ポンマンみたいに失いたくない。

  もう誰も失いたくないんだ!」


 その直後、タカヒトの身体が紫色に輝きだした。ミカが見たその紫色の輝きはいままで見たものとはまた異質な輝きを放っていたらしい。紫タカヒトでもなくタカヒトでもない全く違う。真紫タカヒトは軽くジャンプすると四つん這いのベテルギウスの顔まで瞬時に移動した。そして拳に力を込めると殴りつけた。


 「グオオォォォ~!」


 ベテルギウスの顔が横にズレると膝がガクッと崩れ辺りの木々を押し倒しながら倒れこんだ。立ちあがろうにも脳が揺れたベテルギウスは立ちあがる事ができない。


 「ピンポイントで脳を揺さぶった。数分は立ちあがれないだろう。」


 冷静に真紫タカヒトは状況を判断していた。だがこの真紫タカヒトには欠点と呼べることがひとつだけあった。それは冷静に状況を判断するあまりに突発的な出来事に反応できないことだ。真紫タカヒトにはインドラは逃走を図ったと確信していた為にその姿は視界に入っていなかったのだ。倒れこんだベテルギウスの様子を伺っていたインドラは上空から真紫タカヒトを睨みつけている。


 「ワシですら息子に手をあげとらんのに・・・おのれぇ~、これでもくらえ!」


 インドラの腕に溜められた雷のエネルギーは真紫タカヒトに向けられていた。真紫タカヒトはベテルギウスを倒した段階ですでに勝利を確信していてインドラの攻撃には全く気づいてはいなかった。


 「タカちゃん、危ない!!」


 雷撃が襲い掛かる瞬間、真紫タカヒトの前に人影が現れて雷撃が直撃した。真紫タカヒトの目前でミカがゆっくりと倒れていく。倒れたミカは意識もなくまったく動かない。


 「ミ・・・カ・・・ちゃん?」


 その光景を目の当りにした真紫タカヒトは姿そのままだがタカヒトの意識が戻ったようだった。


 「ミカちゃん・・・ミカちゃん、しっかりして!」


 ミカの傍に座り込むとミカの名を何回も何回も叫んだが反応はまったく無かった。


 「そんな・・・こんな事って・・・・・」


 声がでないほどショックを受けたタカヒトはミカの顔に触れると冷え切った感触がした。


 「ミカちゃん・・・・ミカ・・・・うわぁぁあああああ~~~~」


 発狂したタカヒトは頭を押さえると地面に膝をつき屈み込んだ。ミカと共に人道の世界へ戻ることだけを考えていたタカヒトはミカの死を受け入れることなど出来ようもない。しかも自分を守る為に身を犠牲にしたとなれば尚更である。ミカを守れなかった・・・ミカを殺された怒り・・・自分への怒り・・・さまざまな感情がタカヒトの中に流れ込むと白玉により制御されていたものが制御出来なくなっていく。


 (怒れ!怒りこそが我が力の源!

  怒れ、さすればお前に最強の力を授けよう)(極限赤玉)


 (守りたいか?・・・ならば私を開放するがいい!)(極限紫玉)


 (タカヒト、駄目だよ!これ以上の感情は制御出来ないんだ。ああ~、駄目だ。赤玉、紫玉!僕の話を聞いてよ!うわぁ~もう、駄目だ!!)(白玉)


 胸のペンダントの暗黒色の共鳴石が輝くとタカヒトの中で制御されていたものが完全に解除された。すると炎の姿をした巨大な火鳥がタカヒトの頭上に現れた。巨大な火鳥の出現にベテルギウスはその動きを止めた。上空のインドラは言葉を失い恐怖に歪んだ表情をしている。


 「有り得ん・・・何故あの小僧が朱雀を・・・

  何故、四神の朱雀を操れるのじゃ・・・。」


 意識のないタカヒトは両腕を高くあげると朱雀は巨大な翼を広げた。顎を開き球体の炎を溜めると一気にそれをベテルギウスに放出した。球体の炎をベテルギウスは両手で受け止めたが恐ろしいほどのエネルギーに両腕が次第に溶けていく。

 両腕を失ったベテルギウスの頭上に巨大な翼の影が映ると朱雀は鋭い爪をベテルギウスの両肩に食い込ませた。顎を開くとベテルギウスの目をくり貫いた。眼球を飲み込んだ朱雀はもう一方の眼球を突くと旨そうに飲み込んだ。悲鳴らしき叫び声をあげたベテルギウスは脚をふらつかせながら逃げようとするが両肩に食い込んだ朱雀の爪が離れない。朱雀はベテルギウスの頭部をクチバシで突き刺すと何かを吸い取っていく。ベテルギウスは両膝をつき、悲鳴をあげているがそれは逃げることを諦めたようにも見えた。朱雀がクチバシを抜き取ると巨大な翼を広げ、大空へと飛び立っていく。眼下には身動きの取れないベテルギウスが悲鳴をあげている。顎を開き球体の炎を溜めるとベテルギウスに放った。球体の炎はベテルギウスの頭部に直撃すると両肩から胸部、腹部へと燃えていく。

 燃えるものがなくなり灰となったベテルギウスの身体は次第に崩れその姿がなくなっていく。それはあまりにも恐ろしい光景だった。いかなる攻撃も受け付けなかったベテルギウスが小さな球体の炎ひとつで消滅してしまったのだ。恐怖のあまり一時立ち竦んだインドラだったが四神の朱雀の鋭い眼光に気づくと一目散に飛んで逃げ去った。


 「なんということじゃ・・・ワシは四神でもっとも恐ろしい朱雀・・・

  覇王を目覚めさしてしまった!」


 朱雀は地上に降り立つと冷たくなったミカの身体にクチバシを軽くつけた。するとミカに生気が少しずつ取り戻されていく。ゆっくりと瞳を開けたミカは辺りを見渡すとタカヒトとその頭上の巨大な鳥が視界に入った。


 「・・・・・タカちゃん?」


 意識のないタカヒトはミカの姿を確認するとニッコリと微笑みを浮かべた。朱雀は羽を広げ神々しい光を放つとてんとやリナ達の顔にも生気が戻っていく。タカヒトは朱雀の背に乗ると上空へ羽ばたいて消えていった・・・。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「ミカの様子はどうだ?」


 「ずっと黙り込んだまま・・・てんと、この先はどうするの?」


 「・・・今はただ、徳寿様の指令を待っている段階だ。」


 崩壊したデスサイド内の一室でてんと達は徳寿を待っていた。タカヒトを失ったミカは独り部屋で食事も取らずにこもったままだった。インドラの敗走により勝利を拾ったものの、デスサイドや地獄の猛者はほぼ壊滅状態で数少ない生き残りをまとめてアスラは復興に力を入れていた。リディーネやデュポンも協力して復興を手伝っているがミカが心配なリナとてんとは付きっ切りで見守っている。壮絶な死闘を繰り広げられたデスサイドの復興は思いのほか時間が掛かった。数ヶ月ほど掛かり復興がほぼ完了した頃、徳寿はデスサイドに姿を現した。 


 「そうか・・・朱雀がのぉ~~」


 てんとから話を聞いた徳寿はしばらく考え込むとミカの部屋へと足を進めた。


 「入るぞい。」


 部屋の中にはミカとリナがいたがミカの表情は以前徳寿が見たものとは全く違っていた。哀しみにくれた表情からは生気すら見つけることが困難であった。タカヒトと同様にミカもタカヒトがかけがえの無い存在へとなっていたのだろう。窓際に椅子に座って哀しみに暮れているミカの前に徳寿は座ると一緒に窓の外を眺めている。


 「ミカ、どうじゃ・・・タカヒトを捜す旅に出たいと思わんか?」


 「・・・旅?」


 徳寿の突然の言葉にミカは椅子から立ちあがった。しかしミカは諦めたかのように再び椅子に腰を下ろしていく。それも当然であった。何故ならタカヒトは四神の朱雀と共に消えてしまったからだ。何処にいるのか?六道の何処か・・・それともまた別の何処かに行ってしまったのかもしれない。捜す当てもないのにどうやってタカヒトを捜すと言うのかとミカは懐疑心を募らせていった。徳寿は六道の何処にもタカヒトはいないと断言した。


 「タカヒトは黄泉の国にいるはずじゃ。」


 「黄泉の国?」


 「そうじゃ、黄泉の国のどこかに必ずタカヒトは居るはずじゃ。」


 「なんでそう思うのかしら?」


 「いわゆる、とくべえの勘ってやつじゃ。」


 「勘・・・当てにならないわね!」


 「リナ、徳寿様に失礼だぞ!」


 「まあ、確かに勘と言うのは説得力に欠けるのぉ~。致し方ない・・・」


 徳寿は皆を集めると神妙な面持ちで話を始めた。それは四神に関することだった。誕生したばかりの四神は必ず黄泉の国へと向かうという伝説があった。何故、黄泉の国へ向かうのかは未だに解らないらしい。


 「すると今まで誕生した四神はすべて黄泉の国へと向かったって事?」


 「そうじゃ。ジェイドの操る蒼龍も誕生時には黄泉の国へと向かっておる。これは天道での偵察部隊が確認しておる。」


 「・・・ジェイド。」


 徳寿は話を続けた。天道で古代書を紐解くと歴代の四神もすべて黄泉の国へと向かっていると書かれていたらしい。もちろん今まで誕生した四神はタカヒトの朱雀とジェイドの蒼龍を入れても数体だけらしく根拠に乏しいものがある。だがその根拠を裏付ける決定的な事があった。


 「アレスとジェイドが?」


 「そうじゃ、ピサロが本気になって動き出したんじゃ。」


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