表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来のきみへ   作者: 安弘
畜生道編
10/253

地下都市計画

 朝食を終えてタカヒトとてんと、それにデオルトはグラモに連れられて下の階に続く階段を降っていた。グラモが言っていた見せたいモノを見に行くらしい。朝食をとった部屋とタカヒト達の眠った部屋は一本の通路でつながっていたがその間には下へ降りる階段があった。今その階段を降りているのだが タカヒトは奇妙なことに気がついた。ここは洞窟の中で本来、光など全く届かないはずだが常に周囲が明るく洞窟とは思えないくらい明るい。


 「ねぇ、グラモ。なんでこんなに明るいの?」


 「それはわてらグーモー族がパピオン国王に教わった技術だが。」


 グラモの先祖は地中に穴を掘っては餌を見つけそれを糧にして生きていた。ある時グラモの先祖の一匹が誤ってイーターのいる地上へ飛び出して喰われ掛けたらしい。偶然そこを通りかかった当時のパピオン国王オリザベス三世と騎兵団に助けられたのが出会いの始まりであった。  

 オリザベス三世とグラモの先祖は言葉こそ通じなかったが気持ちだけは互いに通じるものがあった。オリザベス三世はパピオン国の建設大臣と農務大臣にグーモー族の繁栄に力を入れるように命令した。グーモー族はそれまで小動物を狩るケモノのような暮らしをしていたがその日を境に少しずつ変わっていく。狩りをするだけの生活から田畑を耕し作物を得るようになった。穴を掘るだけの環境から構造物を造り出すことや光の届かない洞窟にこの地方の山岳地に咲いている光花を収穫してそれを土に混ぜて壁に塗りつける事により明かりを作り出せる光花壁という工法なども教わった。歳月が経ちパピオン国の建設大臣と農務大臣も国に帰り、その後は地上でグーモー族の独自の文化を築いていくようになったがそれでも歴代のパピオン国王との会話を欠かすことはなく常に敬意を示していた。


 「そうか・・・私も知らない事が国王とグラモ達との間にあったのだな。」


 「そうなんだ・・・でもなんでグラモがそんな事知ってるの?」

 

 「なんでって・・・ワシがグーモー族の長老だからが。」


 「えっ・・・長老!・・・そうだったんだ。」


 グラモとはグーモー族の言葉で偉大なという言葉らしくその名を名乗れるのは一族の中でただ一匹だけらしい。長老であるグラモはパピオン国王と常に会話を行っていたらしくこれから行くところはその集大成らしい。狭い洞窟の階段を話しながら降っていくとタカヒトの目の前に巨大な空間が広まった。洞窟とは思えないほど明るく、いやそれ以上に物凄く高いビル群が立ち並んでいた。タカヒトが暮らしていた隣の町にも高層マンションやショッピングモールなどあったがそれらよりもはるかに巨大な建設物だった。一部はまだ建設中らしく足場が組まれていてその上をグーモー達が行ったり来たりと仕事をしていた。


 「グラモ・・・これは一体・・・・」


 グーモー族のあまりの変貌ぶりに驚きを隠せないデオルトはグラモに変貌ぶりを問い掛けた。グラモは一時の沈黙の後に口を開いたのだが話は数十年前にさかのぼる。


 「国王様!何かあっただが?急に呼び出したりしてビックリするが!」

 

 国王オリザベス十八世に呼び出されたグラモはパピオン国の王の間に通されていた。国王はグラモとふたりっきりになると話を始めた。ここ近年、イーターの襲撃が一段と増していた。デノガイドの出現によりイーターも知恵をつけて騎兵団の作戦をことごとく潰している。このままではパピオン国の崩壊もそう遠くないと国王は嘆いていた。


 「そこでワシは地下都市計画を開始しようと考えておる。それにはグラモ!おまえの力が必要なのじゃ。頼む、手を貸してくれないか?」


 地下都市計画とはパピオン国王が立案・計画していたものでイーターやデノガイドの襲撃を免れる為の第二のパピオン国建設計画である。パピオン国の技術者によりグーモー族は陽のあたる地上に出て繁栄を遂げた。パピオン国王は自国の技術とグーモー族の力が合わされば地下都市も可能だと考えていた。


 「ええだが!先祖代々のグーモーは国王様にはたいそう世話になっただが。わてらで良かったら協力するだが!」


 「グラモよ・・・恩にきる。」


 こうして地下都市計画は始まったのである。パピオン国からは技術者が集まり測量と設計を行った。グーモー族は有り余る筋肉を使って労働に励むと開拓が始まった。タカヒト達が朝食を取った部屋は当初の地下都市開発工事の工事打合せ兼休憩場であった。

 開拓当初は岩盤などに当り作業に遅れが発生したがもっとも困難だったのは地下水であった。穴を掘るにつれて地下水が流れ込んできて溺れかかったグーモーもいた。技術者の測量とグーモー達の努力により地下水を生活水路に変換することが出来た。苦しい現場であったがパピオン国の技術者達とグーモー達は自分達の未来を守る為に一生懸命に働いた。開拓と水路の確保それに地下都市を覆う巨大なシェルターの建設などで十三年という歳月がかかった。

 巨大なシェルターが出来上がったその後に建物の建設に着工していったわけだがその頃のグーモー達はパピオン国の技術者達の指導により建築に対する技術力が著しく向上していた。安心したパピオンの技術者達はグーモー達に建設を任せて自国へと帰って行ったのだった。

 それから更に数年が経ち、今では当時では想像がつかないほどの大都市が出来上がりつつあるグーモー達が地下都市の建設竣工にあたりパピオン国民の受入れ準備をしていた矢先に今回のデノガイド襲撃が起こったというわけである。ところでタカヒト達が朝食を取った部屋だが当時の工事打合せ兼休憩場は今では唯一この地下都市への入口であり最近まではパピオン国への使者の待機場とイーターの行動偵察隊の作戦室となっていた。タカヒトが朝出逢ったグーモー達はイーター行動偵察隊のメンバーであったのだ。


 「わてら一族は地下から地上へ出てまた地下へと戻るだでがそれでもパピオン国の最先端技術をこの都市開発に費やしてくれた国王様や技術者の皆に感謝してるだが。もっと早くに建設が終わっていたら多くの命を失わなかった・・・・そのことが悔やまれるだがね。」


 「我が国王はそこまで考えられていたのか・・・。」



        デオルト、おまえが最後の希望。

       皆を連れて逃げよ。そしてこの国をまた一から築き直せ!



 デオルトは国王の最後の言葉を思い出しては涙を浮かべこの大地下都市を眺めていた。デオルトが国王を守る事だけを考えていたように国王もまたデオルトやパピオン国民、それにグーモー族の事を常に考えていた。デオルトは「この国をまた一から築き直せ!」と言った国王の真意がこの地下都市の事だと理解した。タカヒトが遠くの建設中のビル郡を見ていると一匹のグーモーがこちらに気がついたらしく走ってきた。グーモー族では割と体格がいいほうで腹がポテッと出ていた。


 「長老!久しぶりでねえか!元気にしてただか?」


 グラモと体格のいいグーモーは抱き合って喜んでいた。グラモはそのグーモーをドミンゴと紹介してこの地下都市建設の最高責任者であると説明した。ドミンゴは最高責任者として地下都市建設に全力を尽くしてグラモはパピオン国とのイーター防御戦線に力を入れていた。そんなふたりが会うのは久しぶりであった。元々幼馴染であったふたりは話が盛り上がりいつまでも話し続けた。


 「いんやぁ~楽しいだがねぇ~。

  仕事に行き詰っていたせいか、実に盛り上がったが!」

 

 「・・・行き詰っていただが?」


 ドミンゴは地下都市の進行状況を話してくれた。パピオン国の技術者達がいた頃は作業も順調でありこの地下都市を支える複層シェルターもすでに完成している。複層シェルターとは地下都市を覆っている構造体のことで土圧やデノガイドの脅威から守る為に作られたパピオン国最高技術の結晶でもある。


 「複層シェルターは最強の盾で破られることはないと技術者達が言ってたが!」


 「最強の盾か・・・」


 興奮気味に話をするドミンゴにてんとは冷静に地下都市を覆っているシェルターを眺めていた。この複層シェルターの完成には数十年の歳月がかかっている。技術者の苦悩とグーモー族の努力が実を結んだのだが複層シェルターの完成と同時に技術者達はパピオン国に戻っていった。図面や施工法はドミンゴ達にも理解出来ていたのですんなり作業が進むと思っていたがそれが過信だった。


 「構造計算にかなり手こずっているがね。」


 ドミンゴはグラモ達を工事現場事務所へ連れて行くとテーブルの上にいくつもの図面を並べて地下都市建設の困難さを語り始めた。建物の構造計算で数字がうまく合わない箇所がいくつかあり計算が嫌になるとドミンゴはぼやいていた。タカヒトも図面を眺めていたのだがさっぱり理解が出来なかった。もちろんグラモもデオルトもわかる訳もなく皆途方に暮れていた。


 「あれ?てんとは?」


 タカヒトはてんとがいなくなっている事に気がつくとデオルトに問い掛けた。デオルトもグラモもてんとがいなくなっていた事には全く気がついていなかった。

 

 「そこいらをぶらついているだがね。心配ないがね。」


 ドミンゴは工事現場事務所で鉛筆を額に押し付けて構造計算を考え込んでいるとてんとが部屋に入ってきた。


 「あっ、てんと。何処に行ってたの?心配したんだよ。」


 「周辺調査だ。それにタカヒトに心配されるほど私の能力は低くは無い・・・

何かあったのか?」


 「うん、実はね・・・」


 タカヒトはてんとに構造計算でドミンゴが苦労している事を話した。それを聞いたてんとはテーブルの上にひろがっている図面に次々と目を通すとタカヒトに指示をして紙と鉛筆を用意させた。タカヒトはてんとに言われた通りに紙に計算式を書き記していくとドミンゴに紙を渡した。


 「ドミンゴと言ったな。これならどうだ?」


 タカヒトから受け取った紙を見るやドミンゴはテーブルの図面とてんとの紙を何度も繰り返し見ていた。しばらく考え込んでは自らも計算を始めた。目を真ん丸くして納得したようにドミンゴはてんとを見つめた。


 「これなら出来るがね! ありがとうね、てんとどん。いっやぁ~~ この計算が出来なくて建設がストップしていだがよ!」


 「そうか・・・それは良かった。」


 ドミンゴは各担当監督員を集めると計算した図面を見せて工事に取り掛からせた。各担当監督員は作業員を集めると静まりかえっていた建設中のビル郡は一気に活気づいていった。デオルトもグラモもてんとに感謝していてその姿を見たタカヒトは自分が褒められているように誇らしかった。てんとはこの地下都市に到着すると独自に構造体の調査を行っていた。それはもちろん戦いになった場合の地形確認の為であったのだが今回は別の意味で役にたったのである。 

 てんとが構造計算という高度な学力を持っていたことにタカヒトは驚いた。しかしよくよく考えればてんとにはいままで数多くの困難から守ってもらった。てんとにはタカヒトの想像をはるかに超えるほどの学力と経験があるのだろうと改めて理解した。 

 てんとの頭脳とドミンゴの統率力により地下都市は更に安定と進化を遂げていった。

 一方、地下都市計画を知ったデノガイドは自ら築いた砦の最上部の部屋で笑みを浮かべながら次なる作戦を遂行しようしていた。


 「そう、うまくいくかな。成長から成熟・・・そして衰退・・・

 それがすべての理だとは思わんか?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ